牢屋敷に連れられてきて2日目。
食堂で蓮見さんと撮影に向けて話し合う。
「やはり暗くなり皆の気分が落ちやすく、外にも出にくい夕方こそ皆が見てくれやすい時間なんじゃないだろうか!」
「夕方ならシャワーの件で俺は食堂に行くのが遅いし、そこから撮影を開始しても皆もシャワーを別々に浴びるだろうから全員ではないだろうが……」
「そこは心配いらないよ!シャワールームの広さを覚えているかい?配信の時間を決めておけば、見てもらった後に複数人で入っても大丈夫だからね!」
「……服を考えたら激しい運動の後すぐ着替えれる方がいいか……」
(……俺も動き回ることになるんだがそれを知らないからな……)
「撮影の時間は夕方で決まりだね!次は本題、どの歌とどんなダンスを踊るかだ!」
「……それなんだが……」
「!いい案があるのかい?それともリクエスト?知っている歌なら何でも踊れるとも!」
「……歌に合わせる曲を流す方法をしらないんだが……」
「?……曲を流すのならスマホからでも……ああ!」
「ああ。ネットにつながってもいない、ピアノアプリすら入ってない。娯楽室には古い映画はあるがスピーカーがなかった……」
「心配無用!大丈夫だとも!」
「?」
「私が伴奏も!やってみせようじゃあないか!」
「……何か音を鳴らせる物を探しておくよ。」
夕方の自由時間に撮影する事を約束し、蓮見さんと別れる。
(朝の自由時間は4時間……娯楽室か、図書室か……)
(宝生さんからの警戒を解いておきたい……)
少し考えた後図書室へ向かう。
◆
(…今日は宝生さんは居ないのか)
(娯楽室に……いや、昨日探せなかった棚を見ておこう……)
しばらく調べていると、誰かが何度も読んでいそうな本を見つけ棚から取り出す。
(赤い文字…書いてある事…これはこの牢屋敷に以前捕らえられていた人が書いたもののようだ…)
内容に軽く目を通して閉じる。
(黒部さんなら書いた子についてまで分かるはず…)
(他にもないか?俺達以前の魔女候補達が残した物)
しばらくいくつかの本を見ていた所に声が近づいてきたかと思えば、話しかけられる。
「ハヤトさーん!何か見つけたんですかー!?」
「シ、シェリーちゃん、図書室では静かに…。ごめんねハヤトくん、読書中に…。」
「?橘さんと桜羽さんか…いや、以前ここに魔女候補がいて、その子達が残してくれた本もあったんだが……」
「おお!手がかり!やっぱり図書室には、何かあると睨んでいました!」
「……あまり良いことは書かれていなかった。今の俺達のように誘拐され、ストレスによる魔女化によって殺し合いが発生した……といった内容だった」
「ふーむ、それだけですか?」
「?いや、それ以降はまだ読んでいないが……」
「ふむ、まあいいでしょう、それよりも!」
(勢いの強い子だな……)
「ハヤトさん、あなたの魔法について!教えてくださーい!」
「ああ……それなら……」
答えようとした所。
「おそらくは!
「そ、その魔法があれば、ここの外を囲っている塀を越えられるんじゃないかって……」
……俺の魔法は二人の期待に答えられない……
やっぱりこの魔法は欠陥だらけだ。
移動して間に合っても俺の力で解決出来なければ意味が無い魔法
二人の希望を壊してしまう。
「……初日のあれだけだとそう思うのが普通だよな……」
「おや?何やら違うご様子……」
「俺のは細かく言うと高速移動よりの『瞬間移動』なんだ」
二人共何が違うの?という顔をしている…
「……まず俺と一緒に人は運べない。小さな手荷物サイズが限界だ。そして……壁越しに移動できない。」
「あっ……」
「なるほどー、分かりました!それなら塀は越えられないですね!」
「……期待に答えられずすまない。」
「いえいえ!魔法が知れただけでも十分です!」
「そうだね。それにハンナちゃんの浮く魔法と合わせれば、もしかしたら越えられるかも!」
「……すまない、上方向にはあまり跳べないんだ。」
「うっ……」
「あらら、残念。でもでも、脱走には協力してくれるってことでしょうか!」
「ああ、手伝わせてもらう。」
「でも、レイアちゃんにあまりいい顔されないんじゃ……」
「?いや、蓮見さんは脱走については規則を破って罰を与えられない限り推奨していると思うが……」
「えっ…そうなの?」
「ここにいるのが良いことだとは思っていないはずだ。ただ二階堂さんと紫藤さんの件で看守に逆らわないほうがいいと判断したんだろう。」
「ヒロちゃん……」
「今日も皆を元気づける為に色々やっていて夕方の自由時間に配信をする予定だ。ぜひ見て元気をもらってほしい。」
「分かりました!さあエマさん、次行きましょう!」
「えっあっま、待って……ハヤト君、教えてくれてありがとう。じゃあ行くね。」
「ああ。」
(……時間もいいし、俺も監房に戻ろう)
黒部さんに渡す本を運びながら戻る。
(連絡を入れて返ってきたのは『渡すのは外で』だったな……次の自由時間でどこに渡しに行くか考えないと)
考えながら思い出す。
(いや、魔法で隠れながら看守に見つからないようにすれば外に出ていても大丈夫か……一応氷上さんには監房に戻らないことを伝えておこう……)
……氷上さんからのメッセージがくる。
『監房に戻らないってどういうことですか?規則を破ると懲罰房に入れられちゃうんですよ?危ない真似はしないでくださいね』
(口頭と違ってメッセージだと強気に見えるな……本気で心配してくれているんだろうが……)
『すまない。心配してくれている人に頼むのは心苦しいが部屋にいるように布団を広げて偽装しておいてくれないか?』
『分かりました。でも見つからないでくださいね?看守はとても怖いですから』
『ありがとう』
合流場所、時間を黒部さんに伝える。
『わかった』
簡潔ながらも返事がきたので本を持ちながら魔法で移動できるかを確認しておく。
「よし、行くか。」
◆
(……特に何も起きなかった……)
(綺麗な湖だな……)
合流して渡した本をひとつずつ確認している黒部さんの周囲を警戒することしばらく、
確認が終わった黒部さんが声を掛けてくる。
「ありがとう。この本は燃やしておいて。書いた子の魔法が残ってる。」
「?どんな魔法が?」
「最後まで読んだ者を殺す魔法よ。」
「えっ」
朝の自分がかなり危険だったと知り戦慄する。
「牢屋敷には他にも危険な魔法はあるのか?」
「ええ、いくつか。……共有していなかったわね、ごめんなさい。」
「いや、全部を把握してるわけでもないだろうし、これから気を付けて探せばいい。危険な魔法が残っている可能性を教えてくれただけで十分だ。」
「そう」
「あ、そうだ。黒部さん、楽器のような音の鳴るものを見てないか?」
「楽器?」
「ああ。蓮見さんが牢屋敷の皆を元気づける為に配信をしようとしてるんだが、歌う時に曲を流せるものがなくてね」
「……ごめんなさい、見ていないわ。」
「そうか……ありがとう。」
その後も少し情報を交換して別れ、昼の自由時間の為に牢屋敷へと戻る。
◆
食堂で未だ慣れない味の料理に苦戦していた所
テーブルに近づいてくる者の姿を見て会釈する。
「ここ、座らせてもらうわね。」
「……ああ。……昨日ぶりの会話だな。」
「ええ。とーっても気になるところができちゃって♥どうしても聞きたいの♥」
「?何か……あったか?」
「ええ。メルルちゃんから聞いたわ♥さっきの時間、監房に帰って来なかったんでしょ?」
「……用事があってな。」
「それは……同じく帰って来なかったナノカちゃんと関係があるの?」
(そうか…宝生さんと同室だったな……)
「……ああ。外で会っていた。」
(噓はついても無駄か……確信を持って聞かれている)
「あらあら♥抜け出して二人秘密の密会♥どんな話をしていたのかしら?」
(からかわれているのかと思ってしまう話し方……だが)
こちらも確信を持って言える。
宝生さんはこちらを得体の知れない者として測りにきたのだと。
(警戒を解いてもらう為にも噓は言うべきじゃない)
(だけど黒部さんの魔法を勝手に明かすのもナシだ。彼女は俺の魔法を誰にも言わないでいてくれている……それを仇で返すわけにはいかない)
「……この牢屋敷について調べたことを共有していただけだ。」
「わざわざ自由時間外に?」
「ああ。」
「私達には話さず?」
「……いや、共有はする。だが……」
(黒幕探しを他の少女達に共有はできない。黒部さんが言う通り本当に少女達に紛れているのなら、この情報は疑心暗鬼をばら撒くだけになる……どう納得してもらえば……)
「……牢屋敷内部だと監視カメラがあるかもしれなかったからな。そうでなくても看守に話しているのを見られたらまずいと考えたんだ」
「……」
「気になるなら黒部さんにも聞いてくれ。」
「……いいわ。こっそり口裏合わせしてるかもだし、今はその言葉を信じてあげるわ。」
「……」
「でも、ナノカちゃんにも聞かないとね。一人の言葉だけじゃ不安だもの♥」
そういって離れていく宝生さんを見ながら椅子にずり落ちる。
(昨日もそうだったけど……頭を使う会話が多すぎる……ここの人全員頭良いのか?)
魔女因子=脳細胞説を真剣に考えたくなった。
◆
食後に結局娯楽室で楽器になりそうな物を探していると。
「おや!ハヤト君も娯楽室に用事かい?」
「ああ、楽器になりそうな物を探してる。」
「心配しなくていいと言ったのに……」
「実力を疑っているわけじゃなく、皆を楽しませるのに使える物を探しているだけだよ。」
「そうだね!皆で楽しみながら、ここを出る方法を探す!それが私たちの目指す所だからね!」
「ああ。ストレスを溜めないよう少しでも笑おう。」
「ああ!」
未来への明るい話をしていると。
「ハヤトさ~ん」
入口から氷上さんが呼びかけてくる。
「ノアさんが、『バルーン』だったって……」
「ああ、知ってる。」
「あれ?そうなんですか?でしたら!さっき、すごいアートを見せてくれたんです!ハヤトさんも見にきませんか?」
(城ケ崎さんも皆を楽しませようと色々してくれているのか)
「そうなのか。なら見に行こうかな。」
「はい!あ、レイアさんもいかがですか?」
「……そうだね、私も一緒させてもらおうかな」
(?何だか一瞬浮かない顔をしていたような……)
その後は城ケ崎さんのスプレーアートを見て楽しそうにしていたため、気のせいだったと片付ける。
「ではまた夕方!」
「ああ。」
「必ずきてくれたまえ!」
「?ああ。」
妙な念押しを受けつつ監房に戻る。
「あ、ハヤトさん……」
「ああ、氷上さん、さっきはありがとう。氷上さんのおかげで看守には追われなかったよ。」
「お、お役に立てたなら良かったです……でも、今後は控えてください……捕まってしまったら……」
「……優しいんだな、やっぱり。わかった、今後は控える事にするよ」
「よ、良かったです……」
その後も少し会話して、氷上さんにメッセージが届いたのを見て話を切り上げる。
(……あ。まだ蓮見さんとの連絡手段がないままだった……)
後悔しながらひとりごちるのだった。
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