夕方の自由時間になり、シャワーを済ませた後。
食堂に向かうとそこには沢渡さんと蓮見さん、佐伯さんの姿があった。
既に食事を終えて話しているようだが沢渡さんの声が大きい為会話の内容も耳に入ってくる。
「コラボしてくんない?レイアっちが映ってくれたら同接爆上がり確定なんだからさー」
「お誘いは嬉しいが、今日は初配信、とやらでね。どういった配信をどのような目的でやるのかを皆に知らせる為、初めは私一人でやらせてほしい。」
「そ、そうだよココちゃん、急に言っても困るだろうし……」
「うっさい雑用。レイアっちも配信のコツとかさー?知りたいでしょー?初心者なんだから、あてぃしを頼れし。」
「うーむ……困ったね……」
蓮見さんが周囲を見渡しこちらを見る。
目線で呼ばれたのを確認し食事をトレーに載せてから合流する。
「蓮見さん。」
「!ハヤトくん、ちょうどいいところに。無視して食事を始められるかと思っていたよ。キミからも今日の配信について話してくれると嬉しい。ココくんからコラボの打診をされていてね……」
「うわ、出た。神出鬼没のキモ魔法使いじゃん、あんたもレイアっちがあてぃしの配信に映るの反対する気?マネージャーかよ。」
「コ、ココちゃん、言い過ぎなんじゃないかな……」
「いや、蓮見さんと沢渡さんがコラボするのは良いと思うが……」
「うえっ?ハヤト君、ココちゃんの配信見てないの?」
「おいどーいう意味だザコ」
「ただ、今日は蓮見さんが歌を歌う予定なんだ。」
「ああっ。サプライズにしようと思っていたのに……。」
「え?ああ、だから説得できなかったのか。……とにかく、今日は一旦置いといて、また明日以降に話し合って決めてくれないか?」
「マジにマネージャーみたいなこと言い出したじゃん……」
「うむ、ココくん、コラボの話はまた後で……いや。」
「?蓮見さん?」
「ココくん、配信で曲を流す方法を知っているかい?」
「あ~?んなの適当にミュージックつけときゃいんじゃねーの?」
「それはどうすれば……」
沢渡さんと蓮見さんが配信について話し始めたのを見ていると。
「め、迷惑かけちゃってごめんね。ココちゃん、悪い子じゃないんだ」
「ああ、今見ているだけでも分かる。」
「よかった……ココちゃん、話し方で損するタイプっぽいから他の子達と言い合いになりやすくて……」
「ああ……それも想像がつくな……」
「皆仲良くできるのがいいんだけどね。」
「そうだな、皆……魔女化しない為にも。」
「……」
会話が途切れた頃。
「ハヤトくん!撮影の準備をしようじゃないか!」
「ああ。」
「あっ……おじさんも手伝うよ。」
「ああ!ありがとうミリアくん!さあ、皆で配信を成功させようじゃあないか!」
「?えっ、あてぃしも入れられてる?」
「勿論だとも!ココくんのおかげで録音した音を流すことで私の声を伴奏にできることに気づけたのだから!」
「ふーん、あっそ。じゃあ明日はコラボ配信してくれるってことでいーい?」
「勿論!いいとも!」
「よっしゃ、言ったな?取り消しナシだから。」
「じゃあ、まずは私の伴奏を録音して……」
「その前にぃ~まずは踊るための場所確保っしょ」
「蓮見さん、移動しながらカメラの設定をしたい。蓮見さんのスマホを貸してもらえるか?」
「あーん?マネージャーじゃなくてカメラマンだったのかよ。変なトコ撮んじゃねーぞヘンタイ」
「そんなことはしな「大丈夫!私に変な所なんて無いからね!思う存分様々な角度から撮ってくれたまえ!」
「ハ、ハヤト君はそんなことしないよね……?」
「……ここに来てから初めてこの牢屋敷が女の子だらけの空間という事を強く意識したよ……」
(居心地の悪さを感じる……)
「なんかヘンタイがヘンタイなこと言い出した!キモぉ!」
「……もうそういうことでいい」
◆
その後は協力して撮影の準備をし、カメラの角度、キメのポーズのタイミング、魔法による瞬間移動先などを指導される。
そうして始まった蓮見レイア初配信は……なかなかの盛況だった。
配信後に数人の少女達から話しかけられる蓮見さんは、誇らしげだった。
それを離れた所で見ていると、スマホにメッセージが届く。
『ア、アンアンさんが!』
配信を見終わった氷上さんが、シャワールームに向かう途中、監房から漂うキツイ匂いに驚き覗き込むと中で夏目さんが倒れていたと言う。監房からは出せたものの意識がないため、医務室まで運ぶのを手伝って欲しいと。
『分かった』
連絡を入れ監房に向かう。
だが部屋を出ようとしたところ、蓮見さんに声を掛けられる。
「どうしたんだい、そんなに慌てて。何かあったのかい?よかったら、私も手伝わせてくれ。」
渡りに船だった。ついてきてもらいながら話す。
「夏目さんが部屋で倒れていたらしい。医務室に運ぶのを手伝ってくれ。」
「……またかい?ノアくんは部屋にいたのかい?」
「詳しいことはまだ聞けていない。とにかく急ごう。」
「……ああ、そうだね。」
到着すると、氷上さんが一人で夏目さんを運ぼうとしていた。
こちらに気付くと、悲しみと安堵の混じった笑顔を向けられる。
「ハ、ハヤトさん…助かりました。レイアさんも連れてきてくださったんですね……ありがとうございます。」
「氷上さん、そこに夏目さんを寝かせてあげて、ベッドのシーツをいくつか持って来てくれないか?簡易担架を作ろう。」
「わ、分かりました……」
「大丈夫かい、アンアンくん……部屋にノアくんは、いないのかい?」
「ああ、いない。そこの壁に昨日はなかったそのアートを描いて、去ったんだろう」
「……」
「シャワーか、食事か……どちらにせよ、誰も見ていなかった状態で倒れたんだ、夏目さんは。氷上さんが見つけてくれて良かった……」
「も、持ってきました……」
「ありがとう。蓮見さん、そっちを持って乗せてくれるか?」
「……ああ、せーの!」
「よし、このまま運ぼう。」
「アンアンさん、心配です……何度も倒れるなんて……」
「城ケ崎さんのスプレーアートと相性が悪いんだろう。二人の部屋の変更は申請できるんだろうか」
「どうでしょう……ゴクチョーさんに聞いてみないとですね……」
「アンアンくんの為にも、ノアくんと一度話し合うべきだろうね」
話しているうちに医務室に着く。
ベッドに寝かせた夏目さんを氷上さんが軽く診断する。
大きな問題はなく、体を休ませれば意識も回復するとのことだった。
今回も看病の為に氷上さんがついておくらしい。
「アンアンさんが目を覚ますまで、私がついています。お二人も、お体に気をつけてください。」
「ありがとうメルルくん。アンアンくんのことも、キミが見つけてくれて本当に良かった。」
「じゃあ、俺たちは監房に戻るよ。氷上さんも、しっかり休んでくれ。」
「はい…!お二人共、おやすみなさい……。」
部屋の外に出る。
「……」
先程から蓮見さんが何度か考え込んでいる。
おそらく夏目さんを心配しているであろうその姿をみて、心が傷む。
(皆を守ると宣言していたのに既に二度も同じ人が倒れている……気に病むのも仕方がない。それに…夏目さんのスマホ……)
(氷上さんが言うには蓮見さんの
(皆を元気づけようとして……その結果もし夏目さんの発見が遅れていたら……蓮見さんは今自責の念に駆られているんだろう……)
(少しでも気を紛らわせるべきだ)
「蓮見さん、夏目さんのことが気になるのは分かるが、そろそろ就寝時間が近い。シャワーを浴びてきた方がいいと思う。」
「え?ああ、そうだね。気遣いありがとう。それじゃ、私はシャワーを浴びてくるよ。……今日は楽しかった。また明日。」
「ああ、また明日」
◆
部屋に戻り、今日聞いた情報を思い出す。
・牢屋敷には以前いた魔女候補の少女達の魔法が残されている
・ラウンジのボウガンが無くなっていた
(……皆が魔法を人に向けなくても、牢屋敷そのものが危険な場所なのは事実。)
(ここを出た方がいいのはそうだが、黒幕が見つからないと脱走の準備は牢屋敷に筒抜け……)
(黒部さんを手伝い続け黒幕を探し出すのが一番良い……か)
考え込んでいると、監房の鍵が閉まる音で就寝時間に気付く。
(……氷上さんが戻って来なかった……夏目さんのことも心配だ。明日は夏目さんの様子も見ておこう)
◆
牢屋敷に囚われて三日目。
起きて食堂に向かう途中医務室に寄るが、中には誰もいなかった。
既に食堂に向かった後のようだ。
(動けるようになったのか……良かった)
そうして医務室を離れ、食堂に入ろうとした時、何やら中から言い争う声が聞こえ、向こう側からドアが開かれる。
「……ちっ」
ドアの前で固まる自分を見て舌打ちし去っていく紫藤さんに困惑しながら中を見ると、何やら不穏な空気が漂っているのを感じる。
「……どうかしたのか?」
立っていた蓮見さんに話を聞く。
どうやら『バルーン』の話をしていたら突然怒って離れていったらしく、私達も分かっていないとのことだった。
「魔女化の進行が進んでいるのかもしれない。アリサくんとは私が話してみよう。」
「……そうか、何か手伝えることがあったら言ってくれ。」
「大丈夫!私が皆の不安を何とかして見せるとも!ハヤトくんは食事をまだ摂っていないんだろう?私に任せてくれたまえ!この牢屋敷にいる皆を、私が守ってみせる!」
そう宣言し、紫藤さんを探しに行く蓮見さん。
(
(そんなに紫藤さんが危険そうだったのか?いや、蓮見さんは紫藤さんだけじゃない、皆を……危惧している)
(……やはり昨日の夏目さんの件を気に病んでいるのか?)
(優しい人ほど一番に心が壊れると言うし、皆の前では気丈に振る舞っているだけなのかもしれない。)
(蓮見さんの為にも、皆が不安がらないように手伝うべきだ)
(……やっぱり夏目さんの件を城ケ崎さんと話し合った方がいいか)
「あ、佐伯さん。それもしかして城ケ崎さんに持っていく分なのか?」
「うぇ!?う、うん。ハヤトくん、城ケ崎さんに用事があるの?」
「ああ。良かったら一緒させてもらえないか?」
「いいよ。あっでも、アンアンちゃんも一緒なんだよね……ちょっと聞いてくるね。」
「ああ。」
すぐに戻ってきたかと思うと、夏目さんに促され、佐伯さんからトレーを渡される。
「?」
そのまま見ていると、夏目さんを佐伯さんがおんぶし始めた。
「……」『よし、早く進め。』
「よーし、じゃあしゅっぱーつ!」
「……いつもこうなのか?」
「あはは……あんまり動きたがらなくて。おじさんは頼ってもらえて嬉しいから、気にしないで。」
「……まあ、お互いが納得しているなら気にしないでおく。」
「……」『早く進めと書いてるのが見えてないのか?』
「あああ~ゴメン!よし、行こう!」
◆
城ケ崎さんは部屋の中でまたスプレーアートを描こうとしていたのか、大量のスプレー缶が転がっている。
だがそのほとんどが白い色なため、何を描こうとしているのかは全く予想がつかなかった。
「おーいノアちゃーん、ご飯持ってきたよー」
「?あー、ミリアちゃんだー、ありがとお。あれぇ?アンアンちゃんの隣にいるのは……」
「すまない、食事の前に。少し話したいことがあってな。」
「えーと、ハヤトくん……だったよねー?のあにお話~?」
「ああ。……言い方が悪いのは百も承知なんだが……夏目さんの為に部屋以外でスプレーアートをできないか?」
「え~~。」
「いやまあ、人の趣味にケチをつけたいわけじゃなくてだな……夏目さんが倒れなくてもいいように控えて欲しいってだけで……。」
そこまで話したところで、後ろから肩をはたかれる。
振り向くと、夏目さんがスケッチブックを指差していた。
『余計なお世話だ。ノアを吾輩は嫌だと思っていない。被害者が訴えていないのに勝手に判断するな。』
「……そうなのか。それは……すまなかった。夏目さん、城ケ崎さんどちらにも失礼だった。」
「のあはいいよ~。これからものあが皆が幸せになる絵を描いてあげるんだぁ~。」
『反省しろ』
「ああ……許してくれてありがとう。」
「?落ち込んでるなら、のあの絵を見てね~。今日はこれから描くから、また後で~。」
そう言うと部屋中に白いスプレーをまき散らし始める。
「!?けほっ」
「ああ!アンアンちゃんがまた倒れちゃったよ!」
「ふんふふーん♪」
「……夏目さんが納得しているなら……いいか。」
「言ってる場合じゃないよ!早く運んであげないと!」
「ああ、佐伯さんはそっちを持って……」
そうして通算3度目の夏目さん運びに精を出すのだった。
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