(アンアンくんが、倒れた……ここに連れてこられてから毎日だ……ここの環境はアンアンくんにとって良くない……早くこの牢屋敷から皆を救い出さなければ……皆も、まだ希望を捨ててはいないが)
(皆を笑顔にしないと……)
(皆にとっての希望として、もっともっと輝かないと……)
(皆を救い出す、救世主にならないと……)
(皆を笑顔にする、一番の存在にならないと……)
(
(アンアンくんを、救わないと。)
【皆を救えないと、一番になれない。】
【一番になれない私に、価値は無い】
「ノアくんに、会いにいかないと。」
◇
「失敗したわ。」
(……え?)
シャワーを浴びに行く前に宝生さんと話そうと部屋を覗き、
中にいた黒部さんからの開口一番のセリフに思考が止まる。
中には黒部さんしかおらず、宝生さんは既に食堂に向かった後のようだった。
「……失敗したわ。ごめんなさい。」
「えっと……宝生さんの説得について……であってるか?」
「ええ。私の説明は、宝生マーゴの信用に値しなかったみたい。」
「えっと……それはどっちだ?俺の魔法か、それとも黒幕の件か。」
「あなたの魔法……いえ、あなたと私が信用できない……ということらしいわ。」
「黒幕については?」
「牢屋敷の少女達に紛れ込んでいる可能性は理解を示してくれたけれども、それが私とあなたではない証拠が出せなかった。」
「黒幕に予想がついてるって話は?」
「私を信用していない以上、信じてはもらえなかったわ。」
「……そうか。ありがとう、黒部さん。宝生さんについては、これからの行動で信じてもらえるようにするよ。」
「……そう。」
「それと……今なら聞けるか?黒幕が誰なのか。」
「ええ……佐伯ミリア。彼女は……」
佐伯さんの秘密を聞く。
「なるほど……じゃあ、佐伯さんを確保することが目標か?」
「いいえ。この牢屋敷に閉じ込め、少女達を魔女にし、殺し合わせた。それは謝って償えるものじゃない。」
「?牢屋敷の運営を止めるのが目的じゃ……」
「それは前提。牢屋敷が今までにしてきた行いの報いを受けてもらう。」
「……」
「絶対に許さない。」
「……そこまでの恨みを持つ理由は聞いてもいいか?」
「……」
「……」
沈黙。それすなわち、答えるつもりはないという意思表示。
「……佐伯さんについて、もう少し調べて……どうしてこんな事をさせているのか、理由を探るのは……」
「どんな理由があろうと、許すつもりはない。」
「……」
「……納得がいかないなら、ここに来た理由を話す。あなたの過去を一方的に知っているのは不公平だもの。」
「……」
「ただし、聞いたのなら私の復讐を邪魔しないで。」
「……復讐」
ここに来てからの行動、それが人の為ではなく、取られたものを取り返しにいく為だった。
牢屋敷の少女達を救い出すのではなく、牢屋敷の黒幕を倒すことだけが目的。
それだけの思いを持って、ここに来た。
黒部さんを手伝うのが正しいことなのか。
佐伯さんを、倒す。
沢渡さんを気遣い、夏目さんと笑いあい、一緒に蓮見さんの配信を手伝った、佐伯さんを。
中身がおじさんだから。
(……?)
中身がおじさん……
さっきから黒部さんは、黒幕の疑いを向けているのが佐伯さんと言っている。
なぜなら中身がおじさんだから。
(まだ、佐伯さんが黒幕と決まったわけじゃない。)
(本当にそうだとしても、今までの佐伯さんは、悪意を持ってこちらに接していなかった。)
(何か、見落としているはずだ。そう信じたい。)
「黒幕が、もしも佐伯さんだと確定して。」
「?」
「それでも、理由を聞くのは、大事なはずだ。」
「……」
「どんな目的、どんな理由だとしても。それをどうにかしないと、ここの運営自体は変わらないんじゃないか?」
「……」
「ゴクチョーは、国が検査して、ここで過ごすことが決定したと言っていた。」
「そうね。」
「だから、今後、魔女候補が送られてこないよう、何か……魔女化を抑えることができる方法を探すのも、大事なんじゃないか?」
「……それは、私には関係ない。」
「……」
「私は、ここに連れて行かれ……なれはてになって看守として操られたお姉ちゃんを解放して、魔女裁判を引き起こした黒幕を倒す。その為に来た。」
「だが……」
「私は、お姉ちゃんを苦しめた牢屋敷を、絶対に許さない。」
強い意志を持った彼女に、言葉は届かない。
「あなたも、
「……」
「なら、その原因に抱くこの思いが、あなたも分かるはず。」
「……ああ。」
「なら、黒幕を許すことなんてない。私は復讐を必ず成し遂げる。」
少しでも、可能性を信じたい。
佐伯さんが、黒幕じゃないことを。
「……佐伯さんが、黒幕だと確定する情報が集まるまでは……手を出さないでくれないか?」
「……ええ。黒幕だと確定するまでは、手を出さない。」
「……ありがとう。なら、佐伯さんについて……俺も、観察しておく。」
「……でも、早く行動しないと、手遅れになる。誰かが殺されてからじゃ遅い。」
(魔女化の殺人衝動……だが、サンプルは二階堂さんのケースと……俺自身。誰かを殺したいという思いが、どれだけ強いのか……わからない。それ次第では、耐えれるものの可能性がある。皆を信じるしかない。)
調査の約束を最後に離れる。
◆
シャワーを急いで浴び、食堂に向かう。道中シャワールームをこれから使用する少女達とすれ違う。
すでに殆どのメンバーが食事を終えているのか、食堂に残っている少女達は二人だけだった。
「あ~も~ほんっとざこ!」
「ゴ、ゴメンねココちゃん。おじさん、こーいうの慣れてないから……」
「いや昨日もレイアっちのでやったじゃん!一回で慣れろよ!」
「う、うぇ~……そんなこと言われても……」
「手伝えることはあるか?」
「あ、ハヤト君。だ、大丈夫だよ。おじさん、まだまだ元気だからね~」
「口じゃなくて、手ぇ動かせっての!」
配信を準備している二人の内、件の人物をよく見る。
突然話しかけても、こちらを気遣い、気丈に振る舞う。
蓮見さんのように、人を助けようと動いている優しい人にしか見えない。
何度見ても、悪意を持って接しているようには感じられず、中身がおじさんなだけの、いい人に見える。
「ずっとこっち見てんの何?用がないならあっちいってよ。」
「……いや、まだ食事を取っていないんだ。」
「わわ、ゴメンね。トレー、持ってって。」
「ああ、ありがとう。」
食事をとり、食堂を出る。佐伯さんについて、宝生さんとも話をしたい。
◆
図書室に着くも、目的の人物はおらず、踵を返そうとしたところ。
(あれは……)
机の上に置かれたままの宝生さんが解読中の、魔法について書かれている本。
(……魔女化についても、調べないと。俺の魔法を基に文字を解読……)
開く。中を捲り、探す。
(……どこだ?……いや、もしかして……)
しばらく探す。だが、ない。
(やっぱり……時止めは、挿絵が書けない、もしくは挿絵での表現が難しいんだ。)
(魔法について全て載ってるわけじゃないかもしれないが……)
(それに、なれはても写っていない。)
(この本は、魔女がなれはてになるまでを描いていない。)
(なれはてについてを研究していない……?いや、ここには無い……と考えるべきだ。国によって、魔女化については研究されているはず。)
(なんだろう……ここにある本は、国が管理していないような……もっと昔からあるような気がする。そもそもこの建物は……いつからあるんだ?)
そうして考え込み、結論を出す。
(ゴクチョーを探して、聞こう。国が研究の為にここを建造したのでは無いとしたら……この魔法について書いている本は、何処から来たのかを。)
(そして、俺たちの魔法について、何時から現れ、何処から来たものなのかを。)
◆
ゴクチョーを探すのを明日の予定に入れ、まずは配信について観に行く。
「あ~ん?レイアっちじゃないじゃん、あんたはお呼びじゃないんですけど~。」
「あはは……気にしないで、ハヤト君。ちょっとまだレイアちゃんが来てなくてソワソワしてるだけだから。」
「……まだ蓮見さんが来てないのか?」
「うん。多分もうすぐだと思うんだけど……」
食堂のドアが開かれる。
「やあ諸君!待たせてしまってすまない!」
「お、やっときた~。んじゃあ配信開始~、あ。そこ、入ってるからどいて。」
「ああ、すまない。」
隅に移動し、特等席で見させてもらう。
「やっほぉ~ココたんだよ~」
その後も楽しげな配信が続く。
配信が終わる頃には、収監時間も近くなっているのだった。
「やば!おいそこのボケ~っと見てたやつ!見物料にあたしら魔法で運べよな!」
「?俺か。すまん、人は運べないんだ。」
「は~~?使えな!」
「まあまあココくん。彼は大事な観客だ。感想を直に聞いて監房に戻ろうじゃないか!」
「レイアっちこいつに甘くな~い?まいいや、間に合わなくなったらやばいし。」
「皆元気だね……おじさん喋り疲れちゃった……」
求められるまま感想を答え続け、そのまま各々の監房に戻る。
(……佐伯さんを見ておくつもりだったのに、蓮見さんの方ばかり向いていた。浮かれている場合じゃ無い……)
(なれはてになるまでを遅らせる方法を探す、佐伯さんが黒幕かを見定める……)
(黒部さんの言う通り、魔女化が進行して、誰かが人を殺す前にこれらをやらないと……)
「ハヤトさん?また、悩み事ですか……?」
「……すまない氷上さん。何でもない。心配してくれてありがとう。」
「いえ……ハヤトさんも、早く休んでくださいね。」
「ああ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
◆
牢屋敷3日目。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
朝の挨拶をし、今日の予定を組む。
部屋の鍵が開いたのを確認し、廊下に出る。
通路の先に人影が二人ほど見える。
(あれは……桜羽さんと夏目さ「あああああああああああ~っ!!!」
(!?)
監房の中を見ながら絶叫する夏目さん。
(まさか……)
悲鳴を聞きつけた少女達が集まる、その視線の先。
赤い蝶。白く染め上げられた部屋。その中心で倒れる、一人の少女。
(城ケ崎さん……?)
その姿は幻想的で、一つの作品として至高の領域だった。
だがそれも、匂いと周りに転がる物品、中心の少女がすでに手遅れである事の前には意味をなさなかった。
少女達が悲鳴を上げる。
蓮見さんが皆を落ち着かせるべく声を上げ、城ケ崎さんの息を確かめる。
息は……なかった。
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