アリバイが無い。それは今この状況において、犯人の可能性を示す最たるもの。
それが当てはまるのは、城ケ崎さんを桜羽さん達が見てから、配信開始までの間一人でいた人物に限られる。
一人で図書室にいた自分と……どこにいたのか言わない蓮見さんだけ。
自分が意識を失い、知らぬ間に殺していたわけでもない限り、犯人は蓮見さんということになる。
だがそれも、自身の事だからわかっただけ。他の少女達にとってはそうではない。
(噓だ。前提がまた入れ替わる可能性だって……蓮見さんが城ケ崎さんを殺すはず……)
「あてぃし~わかっちゃったかも~?」
「おめえの分かったは信用なんねえだろ……」
「うっさいヤンキー!ふっふっふ……あてぃしの推理では……瞬間移動の魔法持ってるそいつが一番怪しい!」
「そ、それは推理って言わないと思うよ、ココちゃん……」
(……そうだ、まず俺の潔白を証明しないと……)
「ちょっと待って!ココちゃん。ハヤト君の魔法は、自分を運ぶ事しかできないって……だから、塗料を踏まずに部屋の中のノアちゃんを刺すことはできないんじゃないかな!」
「それは誰から聞いたの?エマちゃん。」
「えっと……」
「ハヤトさん本人から聞きました!」
「……本人の自己申告だけじゃ駄目に決まってんだろ……」
「あう……」
この牢屋敷では、無理なことは魔法でどうにもできる。その場合、本人の魔法がどんな性能なのか。信じられるのは自分の魔法だけ。他人が自分の魔法を都合よく言っていても気づけないし、また逆に相手の魔法が本当に不便だとしても疑念を払拭することはできない。
魔法で解決できないことを証明するために、俺自身は何もできない。
「そいつが矢だけを瞬間移動させて突き刺した。うわ、名推理じゃね?これ。」
「……沢渡さん、俺たちは配信の後、城ケ崎さんの部屋の前を通っている。中を見ていないのは不自然なんじゃないか?それを俺の魔法じゃ解決できないんじゃ……」
唯一の突破口に見えたものも、俺の魔法の解釈次第で塞がれる。
「見られないよう、城ケ崎をどこか他の場所に隠したんじゃねえか?触れずに使えたんなら、いけるはずだ。」
魔法をどう説明したところで、物体を移動させれる魔法を持っているように見える以上、意味がない。
時止めだと説明して、それを証明してくれるのはこれまた自身の魔法で真実を知る黒部さんのみ。
他の少女達に魔法を説明しても信じてもらえ無いのなら、他の視点、殺害方法を考えるしかない。
自分以外に犯行可能だったと証明するしか、この状況は打開できない。
「桜羽さん、さっき言ってたな、矢のリーチを伸ばして刺した、と。」
「えっ。う、うん。でももう少し長さがないと届かないかもって……」
「それについて、気になったんだ。伸ばすのに使ったという箒には、部屋に撒かれていた塗料がついていない。なのに部屋には、塗料が削れた跡がある。」
「うん。だから、塗料がついちゃった何かを、犯人は持ち去ったはず……だよね、マーゴちゃん。」
「ええ。だから自殺じゃないかもって納得したの。」
「ありがとう、マーゴちゃん。だから、塗料がついたはずの物を探したんだけど、探しても無かった。犯人がまだ持ってるかも……って……」
(……本当にそうなのか、蓮見さん……)
皆の視線が向かう。もう一人のアリバイの無い少女に。
腰に携えたレイピアに。
「……蓮見さん、すまない。俺の潔白の為に疑わせてくれ。そのレイピアに、塗料がついていないかを。」
「……ああ!勿論だとも!見てくれたまえ。私が犯人でないとね。」
自信ありげに掲げたレイピアには……何もついていなかった。
「……ほら!やっぱりこいつじゃん!時間稼ぎしようとしてんじゃね~よ!」
「……蓮見レイアがやっていないのだとしたら、本当に……?」
「蓮見も関藤も、お前らどっちも怪しーんだよ……」
「み、皆落ち着いて……まだハヤト君だって、決まったわけじゃないんだから……」
(……お手上げ、か……証拠が無い以上、処刑されるのは俺。)
全てを諦めかけたその時。
「ちょっと待って!」
希望とともに、最悪の可能性が露わになる。
「昨日、ボク達、レイアちゃんと監房の廊下で会ってアンアンちゃんにスマホを渡してってボク預けられたんだ。」
「ええ。見てましたよ。その前にアリサさんともすれ違いました。」
「?ああ、あの時か……」
「そこでボク達、ノアちゃんの監房を誰も見てないんだ。その後、ボクはアンアンちゃんと医務室でレイアちゃんたちの配信を見たんだけど……」
「……」『間違いはない。』
「その配信で、リンゴをレイピアで刺す芸を披露してたんだ。だから……もしレイアちゃんが犯人なら、リンゴにその塗料がついてるかも……」
「……佐伯さん、昨日のリンゴ……」
「う、うん。たしか昨日の配信の後、食べようと思って……」
(食べようと思って……どこに置いたんだろう。今から取りには行けないか?)
「ポケットに入れたまま寝ちゃって……」
(え?)
「ここに……」
佐伯さんがリンゴを取り出す。そこにはレイピアによってできた穴と、その周りに付着している白い塗料。
「「「「「「……」」」」」」
皆の視線が、蓮見さんに向かう。
(どうして……)
「いや!配信は一緒にこいつもいたんだから、こいつがレイアっちに犯人押し付けるためにやったんじゃない?」
「それに、優等生が犯人だとしたら、結局殺した後皆が部屋を見ないようにする魔法が使えないと……不可能なんじゃねえか?」
「ええ。レイアさんの魔法が、本当に相手に恋心を抱いてもらう魔法なのだとしたら、ですけど。」
(蓮見さんの魔法……いったいどんな魔法なら……)
疑念は止まらない。魔法によっての工作は、無限の可能性が出てくる。物的証拠があっても、それが作られた場所に二人共がいた。
(蓮見さんの魔法ではできそうにない以上、どうやっても自身が疑われる……)
蓮見さんの魔法について考えようとしていたところ。
「待ちたまえ!」
それに引き寄せられるように、全員が蓮見さんの方を向く。
「……私の魔法は、本当はこうやって視線を誘導し、固定する魔法さ。これを使って、皆が部屋の中を見ないようにしたのさ。」
(……え?何で……)
「ノアくんの視線も固定し、心臓を突いた。今回の事件、犯人は私さ。」
(何で……自白しだした?)
「レイピアの先に塗料がついてしまっていたのは後から気付いて拭いたが、まさかリンゴについてしまっていたとは!」
(どうして?城ケ崎さんを殺したことを明かしても処刑されてしまうだけなのに……)
「証拠が出てしまった以上、裁判は終わり。これで謎解きもおしまい。皆、私に投票したまえ」
◆
皆、懐疑的だった。だが、本人が言い出し、事件の真相も分かった。それでも、蓮見さんに投票するのに躊躇する。
言い切った蓮見さんは軽く笑顔すらしているのに、皆の表情は暗かった。
聞かなければならなかった。
「蓮見さん。」
「おや、ハヤト君。私のせいで疑われてすまない。ハンナくんも、すまなかった!」
「……」
「うん、ハヤト君の言いたいことは分かる。どうしてこんな事をしたのか、どうして自白したのか、だろう?」
「……ああ。言い逃れは、まだできたはずだ。」
「だが、もう時間がない。投票しなければ、全員が処刑されてしまう。」
「それでも、俺の疑いは晴れていなかった。どちらに投票するか、普段の行動や、皆を取り纏めるリーダーとしての行いを鑑みても、二択なら生き残ったのは蓮見さんのほうだ。」
「うん、そうだ。それでも、あのリンゴ。あれだけの証拠が出てしまったんだ。潔く負けを認めた方が良いだろう」
「……魔法を明かしたのも、それが理由か?」」
「ああ。これ以上の議論は皆を苦しませるだけだと思ってね。私は、皆を救いたいんだ。皆も、私に投票してくれたまえ。全員が処刑されてほしくない。」
皆も、その言葉で投票を蓮見さんに入れ始める。
「動機は……聞かせてくれるのか?」
「ああ。だが、時間が無い。投票を先にしてくれるかい?」
おかしい。焦っているような、誰かを庇ってそうなわけでもない。
本当に皆を救いたいと思いながら城ケ崎さんを殺したと言っている。
何を考えているのか、分からない。
(本当に魔女化しているのか……?)
だがそうしている内に、自分以外の投票が終わる。
「さあ、ハヤト君。」
こちらを促す蓮見さんは、なぜか晴れやかな表情をしていた。
◆
全員の投票が終わる。
結果は……蓮見さんだった。
「何でこんな事をしたの?レイアちゃん。」
質問の答えは……蓮見さんの勘違いだった。
夏目さんの為にした行い。
それを夏目さん本人から否定された蓮見さんの表情は、全てを失った者の顔だった。
「あ。お話、終わりました?なら、処刑ボタンがスマホに表示されてると思いますので、皆さんが押したら、処刑を開始しますので……」
ゴクチョーに促される。
(勘違い……話し合いで解決できたはずのことを、一人で抱え込んで殺人を犯してしまう……魔女化を抑えるのは、蓮見さんでも無理……いや、蓮見さんのような責任感の強い人こそ、そうなってしまいやすいのか……)
絶望している蓮見さんの顔を見ないようにしながら、ボタンを押す。
「はい!ではこれより、魔女の処刑を行います!処刑台は……これでいいでしょう。」
中央の台が地下に沈み、現れたのは天使を模した像だった。
蓮見さんが看守に連れて行かれる。
(……皆を救おうと、動いて。魔女化による殺人衝動に飲み込まれてしまった。その最期が、この悪趣味な処刑……)
蓮見さんの悲鳴が聞こえる。
(……最期まで、見届けないと……)
「これじゃあ、皆に見えないじゃないか!」
(……)
他の少女達が言う。見てもらえないから殺した。一番目立つために殺した。
蓮見さんの声が変わる。なれはてとなる。
(……違う。目立つ為に、殺すのが蓮見さんの手段なわけない。目立つ為に、沢渡さんや俺を頼り、自身が輝ける舞台を作る。それが蓮見さんのはずだ。だからこれは……)
◆
銃声が響く。
「この茶番劇を、いつまで続けるつもり?」
黒部さんに続く。
「蓮見さんを唆し、目立つ為に殺さないといけないと吹き込んだ黒幕がいるはずだ。」
「「
「私達を魔女化させ、近くで見て楽しんでいる。私は決してあなたを許さない。」
「黒幕の目的を、正体を。必ず暴いて見せる。蓮見さんと殺された城ケ崎さんの為にも。」
突然の事に驚き、遠野さんから向けられた疑問に黒部さんが答える。
そして……黒幕の疑いを持つ、佐伯さんに銃口を向ける。
(……確証がない、だが……蓮見さんのように殺す以外の手段が取れなくなるほど追い詰められる少女がこれ以上出ないように……)
小声で話しかける。
「黒部さん。真相のため、生け捕りが前提だ。そうでないなら、俺はどれだけ傷ついたとしても、魔法で佐伯さんを庇う。」
「……」
返事が無いことから、殺す可能性を元に指の動きを注視しながら魔法を構える。
他の少女達も、佐伯さんを庇う。ある少女はその身を前に。ある少女は言葉で。
黒部さんが迷い、膠着した状況に、羽ばたく音が聞こえる。
「ひどいことしますねぇ……代わりはいくらでもいますが、本来囚人の反抗なんて即処刑ですからね?見逃してあげますので、さっさと監房に戻ってください。」
ゴクチョーの言葉に合わせて看守が動き始める。
「邪魔が入った。でも、あなたを必ず始末するから。」
一足早く黒部さんが去っていく。
(……まあ、そりゃそうか)
残された俺に視線が集まる。
「……とりあえず監房に戻ろう。俺は黒幕だとしても殺すべきだと思ってはいない。佐伯さんについても、黒部さんからしか事情を聞けていないからな。」
その言葉を聞いて、警戒しながらも監房に戻っていく皆を後ろからついていく。
(?……黒部さんからのメッセージ……)
『佐伯ミリアが黒幕でない証拠が出ない限り、私は彼女を狙い続ける。これを変えるつもりはないわ。』
『分かった。』
監房に戻り、鍵が閉まる。
「あ、あのう……」
「……氷上さん。すまない、今日の件は明日皆と話させてもらう。それまで信じられないかもしれないが……」
「い、いえ!エマさん達にも心配されましたけど、私はハヤトさんを信じます!」
「……ありがとう。」
「い、いえ!でも……黒幕さんに、何か目的があったとして、その為に皆さんを魔女にしている場合、どうするおつもりなんですか?」
氷上さんの質問は、当たり前の疑問だった。目的の内容がどうであれ、蓮見さんと城ケ崎さんの命は戻ってこない。これまでも魔女候補達を殺してきたのが黒幕なのだから、許されることはない。
「……話し合う。」
「……はい?」
「本当にそれしか手段はないのか、魔女候補達を魔女化させないと意味が無いのか。政府は俺たち魔女候補をどの様にみているのか。魔女化による殺人衝動は黒幕のせいで、唆されなければ実は無害なのか。」
「それは……」
「俺たちは何も知らない。情報を与えられず飼い殺しにされているだけ。」
黒部さんの情報は魔法による穴だらけ。図書室には読めない本がびっしり。
ゴクチョーは裁判の時以外見当たらず、看守は話せない。
「情報を持たないと。」
「……」
考えこんでいると、氷上さんの声がしない。
既に寝てしまったのかもしれない。
「……おやすみ、氷上さん。」
◇
「大魔女様についての情報を……偽の魔女の皆さんに……」
感想、評価をしていただけると嬉しいです。