8話
裁判から一夜明けた朝、朝食に向かう。
(……)
遠巻きに見られながらも食事を終え、桜羽さんの招集に応じるためラウンジへ向かう。
「あっ……」
その途中、同じように向かっている途中の佐伯さんと並ぶ。
「ハ、ハヤトくん……」
昨日のことでこちらを警戒している佐伯さんに顔を向けないまま話す。
「実は俺は、佐伯さんが黒幕ではないんじゃないか……そう思っている。だが、黒部さんはそう思っていない。皆に証明してくれ、佐伯さんが黒幕でないことを。そのために、佐伯さん自身の魔法についても話してくれ。」
「……でも……」
「黒幕と疑われ、黒部さんに狙われる……そんな生活を送りたいわけではないんだろう?」
「それは……そうだけど……。」
「……佐伯さんが黒幕でないと証明する方法は……俺の考えている方法で良いなら、ある。」
「……」
「俺を、信じてくれないか?」
◆
ラウンジには、殆どの少女達が集まっていた。
「俺たちが最後か。」
「おめえら……」
「紫藤さん、言いたいことは想像がつく。だが昨日の件については、今からの説明を聞いてから判断してくれ。」
「えっと……」
「ごめん、桜羽さん。先に少し昨日黒部さんが言ったことの、補足説明をさせてくれ。」
「うん、わかった。ボクもナノカちゃんがどうしてミリアちゃんを黒幕だって思うのか、理解しきれてないんだ。」
「ありがとう。皆昨日黒部さんの魔法が『幻視』であることは理解してくれたと思う。」
「……黒部が噓ついてる可能性だってあんだろ……」
「確かに、魔法の銃を持っていたのは黒幕だったから、という可能性もありますね!」
「……俺は、黒部さんの魔法が本当だと……そうでないと説明がつかない事を確認している。だから、俺は黒部さんの魔法で見た事象が正しく行われたと思っている。」
「うーん、そこはもう水掛け論になっちゃいますね!続きをどうぞ!」
橘さんの援護に心の中で感謝しておく。
「だから、黒部さんの言う、黒幕が囚人に紛れ込んでいるというのを前提として。」
「うう……」
「黒部さんが佐伯さんを疑わしいと思ったのは、体に大人の精神が入っているから……でないと、この牢屋敷に今まで連れてこられた魔女候補達を殺し合わせたのも黒幕という推理が破綻してしまうからだ。」
「……そうか、本当に黒幕がボク達の中にいるのなら、少女の姿をしているのは魔法によるもの……そうナノカちゃんは判断したんだ!」
桜羽さんの発想の早さに舌を巻く。
だがそのおかげで、他の少女達も理解を示し始めたようだ。
「……じゃあ、やっぱりおっさんが黒幕ってことなんじゃねーのかよ。」
「……それは、俺は違うと思ってる。」
「……は?じゃあなんで、昨日は黒部と一緒におっさんを攻撃しようとしたんだよ。」
「焦っていたのもあるが、黒部さんの説得材料が無かったからだ。」
「なんか意見コロコロ変えすぎじゃね~?こいつが一番怪しんじゃね?」
沢渡さんの意見も尤もだ。だが……昨日の黒部さんの脅しと情報。あれのお陰で今できる行動がある。
「佐伯さん。」
「うぇっ?な、何かな?」
佐伯さんには酷だが、ここで疑いを晴らさないと黒部さんは本気でやるつもりだ。
「『入れ替わり』の魔法。皆の前で使ってくれないか?」
「え?えっと……」
「俺と入れ替わるのが嫌なら、他に許してくれる少女でもいい。」
「げぇ~。おっさんと入れ替わるなんてヤダね!」
「ハイハーイ!私、やってみたいです~!」
「……佐伯さん、頼む。黒幕じゃないかどうかを証明する為に必要なんだ。」
「……わかった。でも、期待しないでね?」
そういって、佐伯さんは俺と手を握る。
「おじさんの魔法は、手を握って、お互いに同意がある相手とだけ入れ替われるんだ。」
「……」
「いくよ。えいっ!」
自身の顔が目の前にある。
「ど、どうかな?」
「ああ。確かにこの魔法は『入れ替わり』だ。」
「ミリアちゃんが、絶対しない表情してる……」
「台詞もミリアさんにしては絶対おかしいですわ……」
周りの少女達も納得しているのを確認して、体の動きを確認する。
少し動きづらいが、問題はない。
「佐伯さん、すまない。」
「え?」
手を振りほどき、一人の少女の元へ向かう。
「あれ?どうしました?ミリアさん……じゃないですね、ハヤトさん。」
「橘さん、俺と入れ替わることに同意してくれ。」
手を差し出す。
「は?何して……」
「ハ、ハヤトくん?」
「うわやっぱヘンタイだったんじゃん!」
周りから非難を受けながら待つ。
橘さんはしばらく考えた後。
「なるほど、そういうことですか!はい、どうぞ!」
「ありがとう、橘さん。」
手を握り、念じる。
「シ、シェリーちゃん!?」
「あなた達、何をやっていますの!?」
「……そういうこと、かしら。」
周りに見守られながら、しばらくして。
「あ、あの……おじさんの魔法、おじさんしか使えないんだ……」
「やっぱりか……協力ありがとう、橘さん。」
「いえいえ!これでミリアさんの疑惑が晴れましたね~!」
「お前らだけで納得してんじゃねえ!説明しろ!」
「今ので何が分かったんだっての!」
「そ、そうだよシェリーちゃん!ボクたちにも今何をしたのか教えて!」
「あなた達何をやったんですのー!」
説明の為に、集中する。そして、
「……!?い、今のって……」
「……ほほー、やっぱりそういうこと!なんですね!」
「……ミリアちゃんが、
佐伯さんに元に戻してもらい、皆に説明する。
「今ので分かったのは、佐伯さんの肉体に魔法が宿っているわけではないこと。俺が佐伯さんの肉体で自分の魔法が使えたように、魔法は精神に宿るもののようだ。」
「……?」
「だから、それがどうしておっさんが黒幕じゃないってなるんだよ……」
「そうか!皆、昨日のナノカちゃんの説明を思い出して!」
「?おっさんが、ミリアの肉体乗っ取ったーって話?」
「そこだよ!ナノカちゃんは、入れ替わりの魔法を持っているのは、ミリアちゃんの方だって言ってたんだ。」
「だからそれを知って、おっさんがじょしこ~せ~の体を奪った~って……あ!」
気づいてくれたようだ。
「そう、その場合奪われた佐伯さんの肉体の中には、おじさんがいたはずだ。そして、佐伯さんの肉体に魔法が宿っていない以上、中身がおじさんのままなら、入れ替わりの魔法自体使えないはずなんだ。」
「……てことはよ……今、そこにいるのは……」
「本物の佐伯さんだ。」
◆
佐伯さんの中身はおじさんではなかった。その話を聞いた紫藤さんや沢渡さんが謝っているのを横目に、桜羽さんたちと話を続ける。
「……中身が本物のミリアちゃんなら、牢屋敷を運営することはできない……でいいんだよね?」
「ええそうよ、エマちゃん。少なくとも、ミリアちゃんが産まれる前からここは
「……」『ミリアが黒幕なわけないだろう。気付くのが遅い。』
「うっ……」
「いやいや、ナノカさんが言ったのは昨日ですし、エマさん達はすぐ気づけた方だと思います!」
「……今回の件、俺から黒部さんに伝えておくよ。佐伯さんのおかげで一歩進めた。」
「ええ、そうね。『魔法は精神に宿る』……だから魔女化が進むと、殺人衝動が起こる……」
「……桜羽さん、長く時間をとってしまってすまない。俺たちを呼び集めた、桜羽さんの話したかったことについて、聞かせてくれ。」
皆の視線が集まる。
急に話を振られた桜羽さんは酷く狼狽していたが、皆の顔を見渡し、顔を引き締め話し出す。
「うん。皆、ボクは、ここを脱出するために、皆で協力する必要があると思うんだ。」
その言葉に対しての反応は、反発、消極的反対、様々だった。しかし、宝生さんによって宥め、諭される。
桜羽さんの強い意志を持った瞳を前に宝生さんが皆のリーダーを桜羽さんに決めたいと言い出す。
「えっ?えっ?」
困惑している桜羽さんをよそに、宝生さんが採決をとる。
賛成多数でリーダーにされる桜羽さん。
それを見ながら考える。
(……皆のストレスを溜めない為に、希望の象徴がいる……蓮見さんがいなくなってしまった分、桜羽さんに負担がかかるかもしれない。脱出については、手伝いを表明しておいた方がいいだろう。)
そう考え、口を開こうとした時。
「ア、アンアンさん!」
夏目さんが倒れ、医務室に連れて行かれる。その際、佐伯さんも一緒に連れて行かれる顛末があったものの、残った者達で脱出について話す。
「ちょうど話したいことがあったの。図書室に来てくれる?」
宝生さんに言われるがままついていく。
◆
宝生さんによって、魔法について書かれた本に描かれている『大魔女』、『サバト』について解読していることや皆の魔法についてが共有される。
その結果。
「気球を作ろう!」
「おー!」
「お、おー?」
「……」『五月蠅い。』
皆の魔法について確認した桜羽さんの発想で、紫藤さんの魔法で燃料を賄い、気球でこの島(ここは孤島らしい)からの脱出を目指すことになった。
「気球はどこから手をつけるんだ?」
「設計はマーゴちゃんがやってくれてるから、材料集めから!」
「布を持ってきてくださいまし?ませ?……とにかく布を集めればいいのですわ!」
「使われていない布か……」
「カーテンをひっぺがしに行きましょう!」
「や、野蛮ですわ……」
「あと、アリサちゃんを見つけたら教えてほしいんだ。気球について、前は断られちゃったけど……話せば分かってくれるはず!」
「ああ。……そうだ、桜羽さん。」
「?どうかしたの?」
「魔女化について。ストレスを溜めないように、息抜きに皆で遊ぶ場を定期的に開催して欲しい。」
「……ボクが呼び掛けて集まってくれるかは分からないけど……」
「なぁ~にを不安がってるんですの!あなたは皆に選ばれてリーダーになったのですから、もっと自信を持ちなさいな!」
「……あと、それも。」
「え?」
「蓮見さんは、皆の期待に押しつぶされてああなってしまった。黒幕がどうこうじゃなく、自分で全てを解決しようと抱えないで、皆を頼って欲しい。」
「レイアちゃん……」
空気が少し暗くなってしまった。あまり言うべきじゃなかったかと反省していると。
「心配しないで下さい!ハヤトさん!私達が、エマさんを支えますので!」
「そ~ですわ!心配しなくとも、エマさんはわたくし達がみてますのよ!」
「ハンナちゃん、シェリーちゃん……」
……いらぬ気遣いだったらしい。
「そうみたいだ。友達に恵まれてるから桜羽さんも抱え込まないだろうし、余計な口出しだったな。」
◆
三人と別れ、布を探しに牢屋敷を歩く。
(医務室にシーツの余りがないか、あったら貰ってくる……って言ってたな……)
(なら他に布がありそうな場所……)
スマホのマップを確認する。
(……倉庫が開いてれば中を探索できるのに……)
そこで黒部さんの食糧事情を思い出す。
(黒部さんはもしかして……倉庫の食糧で食いつないでいる?)
(聞いてみよう)
黒部さんからの返事の内容によると、倉庫は収監時間にのみ開いているらしい。
(……次の時間、抜け出すか……いや、氷上さんが今日は夏目さんの様子を見ていたはず……偽装できない場合懲罰対象になる恐れがある……)
少し迷った後、黒部さんに倉庫に厚めの布がないか探してもらうようお願いする。
『……黒幕の情報を探すのに集中したい。また後で倉庫に寄る時でいいかしら。』
『それで大丈夫だ。ありがとう。』
『いえ、佐伯ミリアが黒幕でないと報告してくれたのだから。危うく冤罪で殺すところだった。』
物騒な文面に苦笑する。
『こっちも皆が魔女化しないよう注視しながら魔女化をどうにかする方法を探す。その途中黒幕について分かったことがあったら報告させてもらう。』
『ええ。それでいいわ。』
その連絡を最後にスマホをしまう。
(……結局布は見つかってないな……)
少し考えた後、近くの窓からカーテンを外し始めるのだった。
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