桜宮佑香(さくらのみや ゆうか):ですわ系お嬢様
私は、悍ましい化け物だ。
何の知識もないこの子を騙して自分の欲望を満たしている。
私の部屋のベッドに寝転びながら無防備に足を投げ出して漫画を読んでいる彼女に馬乗りになると、何かを察したのかピクリと体を震わせた。
そして僅かに呆れたような目を私に向け、漫画を枕の横に置く。
普段は無表情で感情を表に出さないこの子も、私が欲望のままに口内を蹂躙すれば、頬が上気しとろんとした目に変わっていった。
あぷあぷと空気を求めて突き出した舌を容赦なく絡め取り、私を刻み込むように唾液を送り込む。
飲み込むようにと私が蕩けた目をじっと見つめると、苦しそうにこくりと喉が鳴らした。
「んぅ、ぷ……、ゆ、佑香、苦しいよ、一回休憩……」
「これはし、親友としての大事な儀式なんですわ……!だから、ほら、もっと舌突き出せっ……!」
「ん、はぁ、ぁっ、別にさ、そんな必死にならなくても親友じゃなくなったりしないんだからさ、別によくない?」
「だ、黙りなさいっ!これは大切なことなのですわ、だから、ね、お願いだから、言うことを聞きなさいっ……!」
「あっ、や、やだ、まって!それっ、お腹トントン、お"っ、ゃっ、いっ……!」
大事なところへは一切触れずに外からの刺激だけで開発されきった怜は、下腹部を撫でまわされトントンとリズムよく刺激を与えられると腰を浮かせながら大きく身体を震わせた。
それが何なのか分かっていない彼女は助けてくれと両手をこちらに伸ばし、脱力して半開きの口からは誘うようにチラチラと舌を覗かせている。その誘うような仕草に私は欲望の赴くまま貪りついた。
なぜ、こんな関係になってしまったのだろう。
私たちの関係は尊く、美しく、健全であったはずだ。
こんな事をしなくても、一生側に居ることができれば良いはずだった。
毎度彼女は何一つ疑う事なく私に身を預けてくれている。
その姿に微かに残った後悔と罪悪感、そして度し難いまでの興奮が私の中で渦巻いていた。
少しの健全だったあの頃に戻りたい気持ちと、大きく膨れ上がったこのまま関係を進めたい気持ち。
実はこの行為の意味が全部分かっているのではないか、この子は分かっていて無知な振りをしているだけなのではないか。
そんな期待が少しづつ私をエスカレートさせていった。
色白で滑らかな肌に触れるたび身じろぎしビクビクと腰を前後に震わせる。
もう殆ど残っていない理性の糸が跡形も無く消えていくのを感じながら、ごく僅かに残った罪悪感の中で私は彼女と出会った時の事を思い出していた。
中学1年生の夏、私は彼女に出会った。
別に劇的な出会いだったわけではない。
夏なのに珍しく20度を下回った夜のこと、外に出たいとキュンキュン鳴く愛犬のラテと散歩に出かけた時のことだ。
うちの子はダブルコートのもふもふ犬であるマラミュートで、暑さに極端に弱い。冬場以外はガンガンクーラーの効いた部屋でダラダラしている子だが、珍しく涼しい夜だったため、少しだけ散歩に行くことになった。
いつもの散歩コースをぽてぽてと機嫌よく歩いているラテに先導されて歩いていると、コンビニの袋を下げた女の子に声をかけられた。
「ねぇ、ちょっといい?」
「……はい?なんですの?」
「もしその子が大丈夫ならで良いんだけどさ、ちょっとだけ触らせてくれない?」
暗いしキャップをかぶっていてよく顔が見えなかったが、ハスキーボイスのスタイルのいい女の子だった。
問答無用で触りにくるような子じゃなくてよかった、そう安堵していると彼女はかぶっていたキャップを取り一歩私に近づく。
「私蒼凪怜、怜って呼んで」
「あ、はい。桜宮佑香と申しますわ」
綺麗な子だった。
ちょうど街灯に照らされている彼女は、絵画から抜け出してきたかのような神々しさがあった。切れ長の瞳、肩口で切り揃えられた艶々の髪。ストリート系の格好をした女の子の絵画があるかと言われたら、芸術に詳しくない私には何も言えない。この時ばかりは語彙力のない自分を恨んだ。
この子は人見知りで臆病だから、触るのは無理かな。そう思って断ろうとした矢先、ラテは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねながら彼女の元に駆けていった。
「あ、ちょ、ちょっとラテ!す、すみません、いつもは臆病な子なのだけれど。よかったら撫でてあげてくださる?」
「ありがとう、ラテって言うんだ。ご主人様に似て可愛い子だね。よーしよしよしよしよし。おおぉ、もっこもこ」
声のトーンも表情も、一才変わらずひたすら無表情でラテを撫で回している彼女の姿はあまりにもシュールだった。
舌を出し、尻尾をブンブン振りながら彼女に戯れ付くラテ。大型犬であるうちの子に構い倒され尻餅をついたもののそんな事は知るかと言わんばかりにわしゃわしゃとラテを撫で回す怜さん。
顔が綻んだり、声のトーンが上擦ったりすれば多少見ていられる光景なはずだったが、なんの感情も見せない彼女の姿があまりにも見ていられなくてつい笑ってしまった。
「んふ、うふふ、ふふ、少しは表情を変えたらいかがかしら、ふふ」
「ん、昔から表情に出ないタイプでね。ありがと、佑香さん。癒されたよ」
何となく満足気な雰囲気の彼女と会話を交わす。聞けばこの辺りに最近引っ越してきたばかりなのだとか。
同い年で家も近く、ラテも彼女を気に入った様子だったので、連絡先を交換した。
そう、なんて事はない。良くある出会いだった。
月日は少し流れ、私たちは良く遊ぶ関係になった。
ついでにラテに会いに行きたいから、そう言って彼女は良く私の家に来る。
私の両親にも彼女は気に入られていた。
最初こそ、私の友達だくらいの認識だったはずだが、気が付けば少し席を外すと母親は怜に笑顔で話しかけるようになっていた。
なんでも素直で純粋で、幼い子供みたいだと。それを聞いて少し拗ねた雰囲気を出していたが、構われるのは好きなようで、すぐ機嫌をなおしていた。
私と一緒にベッドに寝転びながら同じ漫画を読んだり、時にはお泊りの日があったり。
そんな何気ない日常を2人で過ごす。
その頃には私も彼女のことが大好きになっていた。
無表情で声のトーンも変わらない、ただそれだけで内心は感情豊かで真っ直ぐな子なんだと。
口数も別に多くない、特別盛り上がるようなこともない。
けれどそんな彼女と一緒にいるのが心地よくて、学校でも自宅でも、彼女の家でも常に怜と一緒に過ごすことが常となっていた。
「ねえ佑香、手貸して」
「もうっ、またですの?ほんと寒がりですわねあなた」
「ラテにはちょうど良くても私には寒いの」
彼女はスキンシップが好きなようだった。
私相手にはパーソナルスペースなんて言葉が存在しないんじゃないかってくらい、その、近かった。
同じ布団で横になりながら、私はweb小説、彼女は漫画をよく読んでいた。
私の手を抱き枕のように抱えるのが彼女の1番しっくりくる態勢のようで、トクントクンと刻む彼女の鼓動が、何とも言えない気持ちにしてくれる。
「……、怜。少しはしたなくてよ」
私はそんな気持ちになる度に、誤魔化しながら姿勢を正すよう彼女を嗜める。
「やだ、これが好きなの」
ただ返事はいつもこうだった。
揶揄うように私の目を見つめながら手のひらに頬を寄せる。
そんな彼女を見ているのが、何故だかいけない事のように感じて思わず目を逸らす。
私はもう彼女を拒む事はできなかった。
「もう……、他の子にはしちゃ駄目ですわよ」
「しないよ、佑香だけ」
いつだったか、私の言葉にそんな返事が返ってきたことがある。
多分この時だっただろう。彼女を明確に意識し始めたのは。
彼女が私に触れる度にドキっとするようになった。
彼女が帰ると心がどこか欠けたような気分になった。
彼女が誰かと話していると心臓がキュッと苦しくなった。
怜が、怜が、怜が、怜が。
私の思考回路の全てに彼女が入り込んでくる。
それが苦しくもあったし、幸せでもあった。
当時の私はこの気持ちが恋愛感情だとは気が付かず、頭がおかしくなってしまったのかと怖くなって泣きながら親に思いを吐き出してしまった。
今でもはっきり覚えている。
中学3年生の冬。
お互い同じ女子高に合格し、両家で集まりパーティーをした次の日の夜。
新しい学校で、新しい人間関係があって、私も彼女も環境が大きく変わる。
ふと頭によぎったのは、別のクラスになって彼女を別の人間に取られる事。
離したくない、私の側にいてほしい、私だけに語りかけてほしい。
その顔を他人に向けないでほしい、その声を聴かせないでほしい。
大切な彼女を束縛するような考えが浮かんでは消え、浮かんでは消え、どんどん重く罪深い思考に寄っていく。
涙が止まらない、苦しい、怖い。
居ても立っても居られなくなった私は母親に泣きついてこの感情を全て吐き出した。
彼女に触れられるとドキドキすること、でも嫌な訳じゃなくてそれが幸せに感じること。
彼女の声がいつまでも頭から離れないこと。
彼女からする甘い柔軟剤の香りに、いけない考えが及んでしまうこと。
彼女を誰にも取られたくないということ。
彼女を誰にも触れさせたくないということ。
彼女を閉じ込めて自分だけ見ていてほしいと思ってしまったこと。
そして彼女を束縛するような考えをしてしまう自分が嫌なこと。
最後の方は自分でも何を言ってるのか分からなかった。
ただ、この汚い感情を吐き出してしまいたかった。
何時間母親に泣きついていたかはわからない。
けれどもうこれ以上何の言葉も出てこない、そうなってようやく母は口を開いた。
「それが、恋をするということよ」
私が抱えていた気持ちの全てに名前がついた瞬間だった。
そうか、これが、苦しさと幸せが混ざったドス黒い感情が、これこそが私の恋だ。
恋を自覚しても、私の行動は特に変わらなかった。
それもそうだろう、私も彼女も女であり普通の男女のように告白できるような関係ではない。
母は私の恋を応援してくれるそうだが、彼女の両親や父がどう思うかは分からない。私が彼女に告白して関係が壊れてしまう方がよほど嫌だった。
この想いには気づかれてはいけない。
苦しいけれど、この感情には蓋をして閉じ込めておかなければならない。彼女の側に居られるだけで幸せなのだから。
だから彼女の優しさに付け入り、心地よいぬるま湯に浸る事だけは許してほしい。
そんな邪な感情から目を逸らしながら私はいつものように彼女を家に呼び込み、同じ空間に居られる幸せを噛み締めていた。
「ん、これ美味しいよ。佑香も食べる?」
「あら、新作のお菓子ですの?いただきますわ、……あ、あーん」
「はい、あーん。……どう、美味しいでしょこれ。私の慧眼」
自慢気な彼女はこちらにもたれかかりながら、テーブルに広げたお菓子を摘んでいる。
頭が私の肩に乗る。ふわりと広がる甘い香り、腕から伝わる柔らかな感触。一気に上がりそうになる心拍を抑えようと深呼吸をするために深く息を吸い込んだ。
すると彼女はこちらをチラリと見て恥ずかしいと言うように身じろぎした。
「佑香ってさ、私の匂い好きだよね」
「……は?!い、いきなり何ですの!」
「いやだってさ、何かある度に私の匂い嗅いでるじゃん」
一気に顔が熱くなる。確かに私は彼女の匂いが好きで、近くに来るたびに抱きしめて匂いを嗅いでいた。
ただそんな露骨に匂いを嗅ぐような事はしていなかったはずだ。
ちょっと深呼吸しようとしただけ、またまた呼吸のタイミングが、いい匂いだから大丈夫。
言い訳をしようと様々な言葉を頭に浮かべるが、そのどれもが否定しきれるものではなく、つい黙り込んでしまう。
嫌われる?
そんな考えが頭をよぎった瞬間、それを否定する言葉が彼女から溢れた。
「まぁ、恥ずかしいだけだからいいけど」
「……、その、怜の匂いが好きなのは否定しませんわ」
「そんなに匂いする?自分じゃ全然分からないんだけど、妹もいい匂いするって言ってくれるんだよね」
「しますわ。安心するというか、なんというか。包まれていたい気持ちになるんですの」
自分でも何を口走っているのか分からなかったが、致命的な言い方はしなかったはずだ。
彼女を性的に見ている私にとって安心する匂いであることも間違いではなかったが、それ以上に下腹部にきゅっとくるというか、彼女の匂いは理性が溶けていく麻薬のような匂いだった。
匂いを嗅ぐという行為を正当化しようと言い訳を重ねていると、私に寄りかかっていた彼女は急にこちらを向いて胸の中にわたしの頭を抱え込んだ。
「どう?包まれてる?」
控えめな彼女の胸、けれどしっかり存在感のある柔らかさに思考が停止する。
体は一切の抵抗を辞め、脳が溶けていく。
顔を少し動かすとむにっとした感覚が直接伝わってくる。
しばらく彼女の甘い香りと胸の柔らかさを堪能していると赤子をあやすかの様にトントンと背中を叩かれ始めた。
顔を上げるといつもと同じ冷たい無感情な表情でこちらを見下ろしている。
「眠たくなっちゃった?ベッド行く?」
「………………大丈夫ですわ」
私はこんなにも感情を振り回されているというのに、どんな時も彼女の表情は変わることはない。
感情自体は豊かな彼女のことだ、思うところは色々あるのだろうが、必死に表情を崩さない様にしている私からすると少しズルく感じてしまう。
そんな中、悍ましい考えが頭に浮かんだ。
この変わらぬ表情を、ぐちゃぐちゃに歪めてやりたい。
快楽に蕩け、余裕のない声で私を呼ぶ怜の姿が見たい。
抵抗できない様縛り付け、強引に快感を叩き込み涙目で私に縋る彼女の姿が見れればどれだけ気持ちがいいだろうか。
「佑香?」
彼女に伸びそうになっていた手が止まる。
私を呼ぶ声に先程までの歪んだ汚い想像から意識が戻ると、今度は自己嫌悪に沈む。
私は何を考えていた?
私を信じ身を預けてくれている彼女に何をしようとした?
悍ましい想像に身を委ね欲望のまま振る舞うお前は化け物だ。
自覚しろ、お前は人の姿をした怪物であると。
彼女の側に居たいのなら必死に人間の皮を被り未来永劫隠すのだ、その本性を。
表情を取り繕え、彼女を不安にさせるな。
「……大丈夫、大丈夫ですわ。ええ、私は大丈夫ですわ」
「?そう、なんだ。よかったね?」
大丈夫だ、まだ私の本性はバレていない。
心の内で暴れる怪物を檻に入れ何重にも鍵をかける。
まだ大丈夫、まだそんなにこの怪物は育っていない。
本当の私という化け物が檻を食い破った時、それは関係が壊れることを意味する。
だからそれまでは閉じ込めておかなければならない、この清く健全な関係を続けたいのであれば。
しかし月日を重ねる度、着実にこの怪物は檻の中でスクスクと育っていくことをこの時の私はまだ自覚していなかった。
それは高校1年生の冬のこと、私の行動を歪める大きな出来事があった。
放課後一緒に図書室で勉強をしていた時のことだ。
「いい時間だし、そろそろ帰る?」
「そうですわね。……その、今日も私の家でいいですわよね」
「いいよ、今日は夜になったら帰るけど」
「かしこまりましたわ、ならさっさと帰りますわよ」
「あ、まって、教室に忘れ物だけ取りにいく」
そう言って鞄を持って早歩きで教室に向かう彼女を追むた。
他愛もない話をしながら静かになった廊下を歩く。
16時24分、傾いた太陽の光が校舎を橙に染める。
運動系の部活で残っている子たちが元気よく掛け声を出しながら活動しているのを横目に教室にたどり着いた。
僅かに開いている教室のドアに手をかける、すると中から声が押し殺したような声がした。
「ま、まだ人いるからっ、ちょっと、まっ、んぅ…っ!」
「んっ、大丈夫さ。こんな時間に戻ってくる子なんて居ないよ。ほら、舌出して……」
明らかにこれから行為が始まるという瞬間、ドアを開けようとする手が止まる。
ここに入っていく勇気は私には無い、思わず隣の彼女を見ると不思議そうな目でこちらを見ていた。
「入んないの?」
「え、あ、いや、ちょっとタイミングが悪いですわね、そのー、忘れ物なんて後日で良いのではなくって?」
「ん?よくないから取りに来たんだけど……?」
今中で同級生がキスしてるから待とう、なんて言えるはずも無く言葉に詰まる。
誰がくるかも分からない教室で致すなんて、しかもちょうど私たちの用事があるというのに。
勢いのまま行為が始まってもおかしくない淫靡な空気が漂っていた。
「いいい今はまずいですわ、2人が、こう、近くに寄り添って、ね?分かりますわよね」
「えーっと、私達も結構近いけど……?」
そう言って私たちが結んだ手を目の前まで持ち上げる。
これ以上の言葉で説明することができなくなってしまった私は、隙間を覗き見る様に指差すと訝し気に僅かに開いた隙間から彼女が中を覗き見た。
するともう一度こちらを見て、何がおかしいのかと言わんばかりの様子でこう言った。
「なんだキスしてるだけじゃん、仲良いんだねあの2人」
背筋が凍る。
キスしてるだけ?何を言っている、そんな大したことがないみたいな言い方で。
したことがあるのか、私以外の誰かと、キスを。
許せない。許せない。許せない。
視界が真っ赤に染まる、絶望と、怒りと、虚無感が頭から足先まで駆け抜ける。
衝撃で体が固まっていると、さっきの事などなにもなかったかの様に、いつも教室に入る時と同じ様にガラガラとドアを開けて入っていった。
「きゃあ!と、透さま!ひ、人っ!」
「んっ、おや。人の逢瀬を邪魔するなんて悪い子だね、蒼凪さん」
もう何がなんだ分からなかった。一気に色々なことが起こりすぎている。
先程から私の頭は許容範囲を優に超え、体が言うことを聞かない。
「ごめんね、ちょっと忘れ物しちゃってさ。でも意外、2人とも仲良いんだね。普段一緒にいないから気づかなかったよ」
「仲良い、まぁ、そうだね、そう言う表現でもあってるかな」
「まぁ、いいんじゃない?私もキスくらいよくするし。じゃ、また来週」
「は?」
背中からかけられる声も無視し忘れ物を回収してそそくさと教室を出てくる怜。
私に彼女は何か声をかけてくるも、情報として頭に入ってこない。
キスくらいよくする?少なくとも私ではない。では男か、いや、彼女の周囲に男の影は一切ない。なら学校の人間か?それも考えられない、彼女とはほぼ全ての時間を共に過ごしている。
ならば嘘か、そうだ、嘘に決まっている。この場をさっさとやり過ごすための嘘だ。
なら教室に入る前に言っていたキスしてるだけという言葉は?
頭が痛い、心臓がうるさい、私の中の怪物がガンガンと檻を叩く。
ほら言ったことか、お前が何も行動に移さないから大切な彼女はお前の知らない間に奪われているぞ。
今すぐ奪い返せ、閉じ込めてお前しか視界に入らないよう調教してしまえ。でなければお前からどんどん離れていくぞ。
欲望のまま喰らえ、彼女の全てを暴力的なまでに、理不尽に犯し尽くせ。お前の今すぐやるべきことはそれだ。
黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。悍ましい化け物め、この清廉な花を穢す資格はお前にはない。
彼女の幸せこそ友人たるお前が願うべき祈りだろうが。
汚らしい獣物め、忌々しい。
「佑香、佑香?ついたよ、大丈夫?顔真っ青だよ」
気がつくと彼女に手を引かれて私の家の前にいた。
冷や汗が凄い、胸元まで気持ち悪い汗でぐっしょりだ。
俯いた私を下から覗き込み、心配してくれている。
貴女のせいだと、ついそう言ってしまいそうになる。
彼女は何も悪くない、私が勝手に傷つき、勝手に失恋したような気持ちになっているだけだ。真実も知らないくせに。
「怜……、やっぱり今日は、その、一緒にいてくださる?お願いですわ……」
「いいよ、先家入ってて」
彼女は母親に電話をかけると今日は泊まっていく旨を伝えてくれた。
私の我儘に付き合わさせている申し訳なさに潰れそうになる。
ただ、今日彼女を家に帰すわけにはいかなかった。彼女の口から真実を聞き出すまでは。
彼女に促され家に上がり、母親に体調を崩したこと、怜が泊まっていく旨を伝える。
風邪が感染るんじゃと心配する母をなんとなく気分が悪いだけと宥め、ベッドに横になる。
全身が汗で汚れてようが、今は着替える気すら湧かなかった。
しばらくすると心配そうに一口大に切った果物を持った母と、飲み物を両手に抱えた怜が入ってきた。
「佑ちゃん、大丈夫?苦しいとか無い?」
「ええ、大丈夫ですわお母様。何となく気分が悪いだけですの」
「……麗華さん、後は私に任せてください。」
「娘が迷惑をかけるわね、ありがとう怜ちゃん」
母が心配そうに部屋を出ていく。騙しているようで少し心苦しかったが、今は2人っきりにして欲しかった。
横になった私に彼女が近づいてくる。腕を伸ばすと何も言わずに優しく手を包み込んでくれる。
暖かい。
手を引っ張り、彼女をベッドに誘導するとシャワーを浴びていないことを渋りながらもベッドに入ってくれた。
向かい合って抱き合うような姿勢。
少し汗ばんだ彼女の濃い匂いが鼻腔を撫でる。
変態ちっくだが、私はこの匂いが大好きだった。
「ちょ、ちょっと、シャワー浴びてないから」
「我慢してくださいまし、これが1番キクんですわ」
恥ずかしそうにもぞもぞと身を捩る彼女を逃さないようにグッと抱き寄せ、首元に顔を埋める。
諦めたのか抵抗をやめ、あやす様にわたしの背中をトントンと叩く。
私のことをなんだと思っているのか、彼女に甘える様に抱きつくといつもこうしてくれる。
簡単には逃げれない状態。
聞くなら、今しかない。そう思った。
「ねぇ、怜。その、1つ聞きたいことがあるんですの」
「どうしたの、そんな改まって」
「さっき学校で、キスしたことあるって言ってましたわよね。……それ、本当ですの」
否定してほしい。
私だけの怜、誰のものにもさせたくない、私から奪うなんて許せない。
抱きしめる腕に力が入る。
心臓がうるさい。密着している彼女には私の異様に早い鼓動が聞こえてしまっているだろう。
それでも、今は彼女の答えだけが欲しかった。
一拍の沈黙。
そしてすぐ何でもないことのように彼女は言った。
「あるよ、よく妹がせがんでくるんだ。甘えん坊だよね」
やっぱり、経験があった。
しかも言い方からすると結構な頻度でしているようで、妹。
妹、妹、妹?
「妹、え、妹さん?え、そ、それは頬にするみたいなやつですの?」
「んん、唇にちゅって。なんか仲良い人同士でする親愛の証なんだって。あんまり人に言っちゃダメって言ってたけど」
頭が痛い、理解できない。実の姉にキス?それを親愛の証、唇に?
親愛のキスは確か頬か額だ。彼女の言っていることが本当なのだとすればそれは、妹に騙されて唇を奪われ続けているということだ。
許せない、そんな、私がこんなにも耐えているのに実の妹が毎晩彼女を騙し、性欲の赴くまま唇を貪っているとするならこんな屈辱的なことはない。私が我慢してきたのが馬鹿みたいだ。
すぐにでもそれは嘘だ、家族でそんな事をするのは異常だと自分のことを棚に上げて伝えようとした瞬間、とんでもない考えが頭に浮かんだ。
なら、私も親愛のキスとやらをしてもいいじゃないかと。
彼女は唇同士のキスを親愛だと思っている、だとすれば私にだってその権利はあるばすだと。
冷静になって考えてみればそんなことはあり得ない。何が権利だ、私も一緒になって彼女を騙しているだけじゃないか。
しかしこの時の私は、彼女の妹に怜を取られまいとそれにしか思考が行っていなかった。
いつもは自分の中からごちゃごちゃ言ってくる怪物も、それを抑えつける理性も沈黙を保っている。
そうなった私はもう止まらなかった。
熱に浮かされたように思わず呟く。
「……なら、私にも親愛の証が欲しいですわ」
言った、ついに、踏み出してはいけない一歩を。
後悔とか、不安とか、そんなものは無かった。あったのは彼女は私を拒むことはないという確信。
事実、そうだった。
「別にいいよ、んっ」
夢にまで見た彼女の口付け。
それがこんなにもあっさりともたらされた。
ベッドの中に充満する濃い彼女の香り。お互い密着して抱き合い口付けを交わす。
もう止まらない。私は触れるだけの優しいキスを何度も何度もせがみ、自分からもキスをした。
「やっぱり甘えん坊だね、ちゅっ、ね?佑香」
「んっ、そうですわ、私実は甘えん坊なんですの。だから、もっと、もっとくださいな……」
何度目かのキス、視界が白く弾け快感の波が私を貫く。
ただのキスだ、唇が触れ合っただけの子供のようなキス。しかしあまりの幸福感に焼き切れた脳が私を高みまで連れていく。
びくりと震える体、下腹部は布一枚で抑えられるような状態ではなかった。
彼女により強く抱きつき、首元に顔を埋める。甘い波に揺らされていた身体は、彼女の匂いで再度上り詰めていった。
「だ、大丈夫?佑香、佑香?」
彼女の声が心地よい。このまま浸っていたい。
でも、もっと先へ行きたい。私はもう我慢なんてできなかった。
「い、いい、良いですわよね、もう、止まりませんわっ」
「ふぇ、あっ、佑香?」
横向きに抱き合っていた状態から、彼女に被さるような姿勢に移る。
私がこんな状態になっていても、まだ彼女の表情は一切変わっていなかった。
いつもの無感情な表情で、その瞳だけが困惑を私に伝えてくる。
もう、十分だろう。
理性を全て手放し、彼女の全てを喰らいつくそうと顔の横に手を置いた瞬間、ノックの音が響いた。
「佑ちゃん、大丈夫?お風呂準備できたから入れそうなら入ったほうがいいわよ」
そう言葉が投げかけられながらガチャリとドアノブが回る、私は慌てて彼女の上から飛び降り、ベッドに腰掛けた。
何通りもの言い訳が瞬時に頭の中を駆け巡る。乱れた服装、上気した頬、彼女からうつった淡い色のリップ。
体調不良などと言い訳できる状態ではなかった。
様々な言葉が頭を通り過ぎていき、当然のように間に合わず扉が開く。
「……あら、まぁまぁ、その、お邪魔だったかしら」
「いえ、危ないところでしたわ!お先お風呂いただいてきますわ!」
私は全ての言い訳を放棄して逃亡を選んだ。
私は愚か者だ、いや、人間と呼べる存在ですら無かった。
あれから数週間が過ぎた。
私は大義名分を手に入れたかのように、毎日毎時彼女と2人きりになれるタイミングがあるたびにキスをしていた。
彼女もまんざらでは無かったように見える。お互いの腰に手を伸ばし、抱き合いながらキスをする。
何度もキスをせがむと、また背中をトントンと叩かれあやされる。
甘えん坊な幼子と同じ扱いをされている気がしたが、別に不満など一欠片もなかったので何一つ問題なかった。寧ろ役得ですらあった。私は怜の子供だが?そんな開き直りに近い何かすらあった。
しかし人間とは罪深いもので、1つ満たされれば更に更にと欲望を募らせていくものだ。
私も然り、毎日怜から貰うキスに満たされていることは事実だ。しかしされればされるほど、より深く繋がりたくなってしまう。
正気を保てなくなりそうだった。あと少しで彼女を押し倒してしまうという時が何度もあった。
今日だってそうだ。
キスを何度強請っても嫌な顔をせず、寧ろ優しい目でこちらを見つめながらしてくれるのだ。
お互いの腰に手をまわして抱き合うのが私の好きな姿勢。彼女のもっちりすべすべの太ももが私に触れる。
もうどうにかなりそうだった。
その後何事もなかったかのように私のベッドを占領して漫画を読んでいる姿にお預けをくらった犬のようになってしまう。
彼女が夕食をとりに家に帰ってしまった後は、いつも放置されて火照った身体を慰めるのがルーティーンと化していた。
玄関まで彼女を見送ると一目散にベッドへ潜り込む。
彼女が抱きかかえていた枕に顔を埋めると、彼女の濃い匂いで脳と下腹部に重い一撃を入れられたような衝撃が走った。
もう、理性なんて残っていなかった。
水分を吸ってすっかり重たくなってしまったショーツをベッドの脇に脱ぎ捨て、彼女の匂いを全身で味わいながら下半身に手を伸ばす。
一心不乱に快感を追い求め、想像の中で彼女を犯す。
目を瞑った裏に映るのは四肢を縛られ身じろぎすることしかできなくなった怜。その表情は現実と違い快楽に歪み、涙を流しながら嬌声と共に必死に私の名前を呼んでいる。
そんな彼女を優しく撫でつつも責めたてる手は一切緩めない。頂きから戻ってこれなくなった彼女はガクガクと腰を震わせだらしなく口を開く。そこへ容赦なく舌を捩じ込み、心ゆくまで貪り尽すのだ。
そんな気色悪い妄想の中、三度も上り詰めたあと私は震える足にムチを打ち、身支度を整える。
身体は満足したはずだがどこか物足りない。
「……怜が欲しいですわ」
実際に言葉にしてしまうとその思いはとどまるところを知らず溢れ出してきた。
もっと深く繋がりたい、ただのキスだけではもう満足出来ない。もう1歩、もう1歩だけ、それだけでいいから踏み込みたい。
そして私は最低な計画を思いつく。
彼女の妹が怜の純粋さに付け入り唇を奪うことが出来たのならそれに似たことが私にもできるはずだ。
ただのキスが親愛の証という言い訳に使えるなら、その先の行為も親友同士のより深い絆を確かめる儀式とでも言えば彼女は何の疑いもなく受け入れてくれるのではないか?
彼女を騙しているとか、裏切りとか、そのようなことは何も考えられなかった。
どのように彼女を騙して自分の思うがままにしてやるか、それで頭はいっぱいだった。
別に大層な儀式は必要ない。いつものように彼女を自分の部屋へ呼び込み、更に絆を深めたいと告げ、行為に移ればいいだけだ。
邪魔だけはされたくないので、両親が出かけるタイミングを狙う。幸い母の誕生日が直ぐそこまで迫っているのでそこがいいだろう。
毎年父は母の誕生日は必ず仕事を休む、そしていつもは家族で過ごすところを旅館でも料亭でも押さえて送り出すのだ。たまには2人でゆっくりしてきなとでも言って。
完璧だ、私の中では何一つ綻びのない完全な計画がそこにあった。
早速近郊で高級料亭を営んでいる友人に連絡を取る。幸い遅い時間ならなんとか空けられそうとのことだったので予約をおさえてもらう。
送迎も準備しておいた方がいいだろう、そして時間は融通が効いた方がいい。気分が上がり何処かへ寄るようなこともあるかもしれない、後ろの時間は他の客に予約を入れさせず全て私の為に使ってもらおう。
あと2ヶ月の辛抱だ、それまで待つだけで関係を進めることができる。純潔を奪うわけではない、今より1歩進むだけだ。
私の中で必死に怪物と戦っていたはずの良心は既に喰われていたのだろう。
邪な考えを止めるような声は、もう聞こえなかった。
そして2月26日、計画を実行する日がやってきた。時刻は20時38分、両親は送迎の車に乗って私が予約した料亭に向かった。
玄関のドアが閉まると同時にスマホを取り出し、怜に電話をかける。
じわりと手汗が浮かぶ。興奮と緊張、そしてごく僅かな恐怖が私を包む。
電話の繋がる音。
「佑香、どうしたの?」
「その、今時間大丈夫かしら、あの、は、話したいことがありますの」
声が上擦る、まるで今から告白でもしようとしているかのように。相手のことを一切考慮せず自分の性欲を押し付ける汚らしい行為のくせに。
「どうしたの改まって、電話でいいやつ?それとも佑香んち行こうか?」
「よければ会って話したいんですの、悪いですわねこんな時間に」
「別にいいよ、大事なことなんでしょ。……その、ちょっと準備したら行くから待ってて」
「ええ、お待ちしておりますわ」
直ぐに通話が切れた。
ドクドクと心臓がはち切れるほどのペースで脈打つ、顔がにやけて戻らない。
怜が来たらなんて声をかけよう、どうやって部屋に誘おう。普段から何も意識せず出来ていたことが何も出来そうになかった。
玄関扉の前でソワソワと落ち着きなく歩き回る。彼女の家と私の家は徒歩5分程度の近所だ、もう来るはず、もう来るはずと思いながら20分ほどそうしていた。
チャイムが鳴る。
にやけて歪みそうになる顔を必死に抑え込み平静を装い扉を開ける。
「佑香、えっと、き、来たよ」
玄関の光に照らされて佇む彼女はいつもより数倍綺麗に見えた。
これからの事を考えてか視線が唇に釘付けになる。ぷるんとした淡い桜色、私はそれに吸い込まれるように口付けをした後彼女の手を取った。
「あぁ、よく来てくださいましたわ。さぁ上がって、私の部屋に行きますわよ」
何故かいつもより動きの硬い怜の手を引き部屋に連れ込む。些細なことでも彼女のことなら何でも分かる私だが、何も気づかなかった。今の私はそれだけ頭が茹だりきった屑だった。
彼女をベッドの中程に座らせ、私はその前に座る。女の子座りのままこちらを見つめる彼女の顔に手を添えると、再度キスを落とした。
「怜、今日呼んだのは、その、お願いがあるからなんですの」
「……お願い?」
彼女は何度か瞬いた後、力が入っていた肩からふっと緊張が抜けるような動きをした。その目は少し非難的だったが、彼女を見ているようで見ていない私はそれにも気づかない。
「もう、何でも言って。佑香のお願い聞かなかったことないでしょ」
「えぇ、えぇ、そうですわね。ですから今回ぜひ聞いてくださると信じていましたわ」
怜の肩に手をかけ、押し倒す。力が抜けていた彼女は抵抗の一つすらせずパタンとベッドに倒れた。
そのまま彼女の両手を掴み、頭の上で押さえつける。
「私たちがよくするキスがあるでしょう?それには親友同士しか出来ない、より深い絆の繋がりを示す儀式があるんですの」
「へぇ、そうなんだ。どうやるの?」
ごくりと喉が鳴る。彼女を上から見下ろしながらゆっくりと耳元に口を近づけ、囁く。
「キスの、その先ですわ」
私の気分は最高潮だった。
この様子じゃあ絶対に拒まれない。据え膳食わぬは女の恥、今こそ踏み込む時だ。
「お互いの舌を絡め、口と口でより深く繋がるのですわ」
「何それ、どういうこと?」
怜は舌を絡めるという意味がよくわかっていないようだった。狙いどおり、彼女にそういった知識は殆どない。
彼女は口少し開けて舌を突き出し、どう言った行為なのか想像している。私にはそれが誘っているようにしか見えなかった。
「こ、こういうことですわっ!」
手持ち無沙汰になった右手を彼女の頬に添え、突き出された舌にしゃぶりつく。
驚いて閉じようとする口の中に強引に舌を捩じ込み、口内で逃げ回る彼女の舌を私の舌が追いかけ絡みつかせる。
圧倒的な征服感。理解できず暴れる怜を強引に抑え込み、口内を蹂躙する。呼吸も忘れ、彼女を味わい尽くす。
しばらく抵抗していた彼女は、気がつけば全身からだらりと力を抜き、全てをベッドに投げ出していた。
「んぁっ、ぷはぁ、はぁ、こ、これが本当の親友の儀式ですわっ」
ゆっくりと怜の口内から舌を抜くと、唾液が舌と舌の間に橋を作った。彼女を神経全てで味わう為閉じていた目を開くと、想像の中でしか見たことのない怜の姿があった。
息を忘れて酸欠で苦しかったのか目の端には涙が溜まり、瞼が少し下がって焦点の合わない瞳で私をぽやーっと見つめている。半開きになった口からは名残惜しいと言わんばかりに舌が私を追いかけようと伸ばされていた。
「これで……おわり……?」
「あ、あなたっ、なんていやらしい表情をしているんですのっ……!終わりなわけありませんわっ」
誘うような怜の言葉に僅かに残っていた理性の欠片が跡形もなく蒸発していく。何か喋ろうとしていた彼女の口を強引に塞ぎ、舌を絡ませ合いながら自分色に染めようと唾液を送り込む。何も分からぬままこくこくと喉を鳴らし飲み込んでいく様子に私は彼女の主になったような気分だった。
目を瞑り、彼女の舌で性行為をするかのようにじゅぶじゅぶと淫らな音を奏でながら吸い付く。歯を磨いてすぐだったのだろう、ほのかに香るミントの奥に何となく彼女の唾液の甘さを感じていた。
何分そうしていただろうか。2つに溶け合っていた私たちの意識はゆっくりと分たれぼやけていた視界が元に戻る。
覆い被さっていた体を起こすと、怜は息も絶え絶えで太ももをもどかしそうに擦り合わせながら上気した顔で私を見つめていた。
なんて美しいのだろうか。
自分がどうなっているのかも分からないまま快楽を求めようとしているその姿は。無垢な精神が少しずつ堕ちていく様は。
「佑香ぁ、なんか、変だよこれ……」
「変じゃないですわ、それが私たちの関係がより深くなったことの証なのですから」
怜を撫でながらそれが当たり前だというように振舞う。そう、これが正しいのだと、親友同士では常識なのだと。蕩けた表情を浮かべた彼女は気持ちよさそうに目を細めた。
お腹の奥に溜まった快楽を発散したいのだろう、先程から太ももを擦り合わせ、力を入れたり抜いたりしてどうにかしようと悶えている。しかし彼女はそれを解放する術を知らない。
可哀想で本当に可愛い。これこそが私が見たかった光景だ。今すぐどうにかしてあげたい。
「いけませんわ怜、そんなに太ももに力を入れてしまうと攣ってしまいますわよ」
そう慈しむようなトーンで彼女の両膝に手をかけ、左右に開く。スカートがはらりとお腹側に落ち、シミを作ったショーツが露わになった。
M字に足は開かれ彼女の秘所に刺激を与えられるものは何もない。切なそうに眉を顰め、無意識に腰を前後に動かそうとする怜を落ち着かせるように優しく抱きしめ、撫でる。
発情しきった身体をあえてこのまま放置させ、直接的な快楽を与えないことで彼女の身体は少しの刺激で満足しようとどんどん弱くなっていくだろう。
全身のありとあらゆる場所が性感帯となった彼女はどのように乱れ、どのような声を上げるのだろうか。
段々落ち着いてきた彼女を見つめる。
あァ、楽しみだ。
それから私はこんな行為を何度も繰り返した。
それは私の部屋で、怜の部屋で、誰いなくなった教室で、風呂で。
回数を重ねるにつれ、彼女は少しずつ自分から深いキスを求めてくるようになった。
スキンシップもどんどん過激になっていく。共に風呂に入った際には、唐突に後ろから彼女の胸を揉みしだき、驚いて振り向いた彼女にはキスをする。そうするとそういった行為も儀式の延長線上なのだと勘違いして私の愛撫を受け入れてくれるのだ。
全身の色々な場所を開発されていった怜が軽いスキンシップをするだけで発情するようになるにはそう時間はかからなかった。
そして彼女は今でも私にしかそれを発散させることが出来ないと勘違いしている。
そして高校2年生の冬、珍しく怜に行為を迫らなかった日のこと。
「佑香、もう、帰っちゃうの」
「ええ、流石に持久走があった日は疲れますわね」
帰ろうとする私の袖を不安げに捕まえてくるので、どうしたものかと安心させるよう頭を撫でながら軽くキスをすると、俯きながら細く消えるような声で呟いた。
「あれ、してよ……」
強引に私の手を引いてベッドの端に座り込んだ怜は、スカートをたくし上げると下腹部に手を当て、好きにしてくれと言うようにベッドへ倒れ込んだ。
「なんか、今日ずっと変なの……、早くいつものやつ、してよ、お願い……」
はしたなく足を開き、強請るような言い方で誘われた私の理性は跡形もなく吹き飛んだ。
もう止まらない、怜がその気ならもう我慢なんて出来ない。
持っていた鞄を投げ捨て彼女に飛びつく。乱暴に彼女のブラウスを脱がせて小ぶりな胸を愛撫しながら彼女の口に舌を捩じ込んだ。この頃には既に怜も積極的に舌を絡めてくれるようになっていた。
完全にブレーキは壊れている。昔は私の暴走を止めてくれていた良心は怪物に淘汰され、暴走した欲望だけが私の中で渦巻いていた。
数度彼女の双丘に実る淫靡な果実の周りをくるくるとなぞると、カクカクと腰を前後に動かしながらショーツに擦れる快感だけで更に快楽を味わおうとする。
それをグッと抑えつけ動きを封じると、やだやだと頭を振りながら何度も私の名前を呼んだ。
もう、どうだっていい。彼女の全てを喰らい尽くす。
「もどかしいですわよね、苦しいですわよね……、くふ、くふふ、もっと、気持ちよくなりたいですわよね?」
涙で潤んだ瞳をこちらへ向けると、余裕のない表情でコクコクと頷いた。
「あハ、あはは!えぇ、えぇ、大丈夫ですわ。今から何度でも何度でもイかせてさしあげますわ!快楽の中で溺れ死になさいな!」
あァ、ようこそ私に巣食う化け物よ。お前に今全てを委ねよう。彼女を貪り喰らい、己が欲望のままにどこまでも忠実であれ。
もうお前を縛るものは何も無い。私な精神はお前と同調し、どこまでも混ざり合おう。
彼女はもうお前のモノだ、存分に味わうといい。
私は悍ましい化け物だ。
親友を騙し、自分のことしか考えず、ただ性欲をぶつける為の道具のように彼女を使っている。
無垢で美しい私の華よ、どうか許さないでほしい。
この愚かで自制の効かない色欲の獣を。
これって無知シチュって言うんですかね?わかんねぇけどえっちだからいいか!
R-15ってここまでやっていいって聞いたんですけど本当ですか?
蒼凪怜:ネグレクトで死亡の後転生(死に設定)。その影響なのか表情を作るのが苦手で、大きく感情が動いても表情が変わることは一切無い。でもその内心感情豊かで無邪気な女児17歳。小さい頃に契約したスマホにセーフ設定が入っており、一切不便していなかったため今だにセーブ設定がオンになっている。そのため性的な知識に触れる機会がガチ皆無だった。保健の授業?興味なくて寝てた。愛してくれる人を本当に大切にする。今の家族が大好き、佑香も大好き、佑香の家族も大好き。実は夜呼び出された時、告白されるかもとドキドキしていたので気合い入れて風呂上がりにも関わらず薄くメイクをして、お気に入りのリップを塗っていった。告白なんてなかった、しょっと凹んだ。告白されていたら一生添い遂げる覚悟がある。でも、そんな未来は訪れないんだよねww
桜宮佑香:愚か者、馬鹿、性欲の化身。普通に告白していれば全部上手くいったのに。あーあ、お前が変にひよって道を踏み外したから化け物になってしまいました。こんなはずじゃなかった、もっと清く正しい関係のまま、一生側に入れればそれで満足だったのに。だけど一度この快楽を知ってしまったらもう戻れない。行為がエスカレートしていくにつれ、なくなっていく罪悪感。残ったのは怪物の心だけ。こんなことはしたく無い、でももっと深く繋がりたい、助けてよ神様……!
蒼凪妹:もう1人の怪物。私の方が先に好きだったのに!略奪もなければ出番もない。お前、ただの妹決定!w
桜宮麗華:佑香のママ。ふわふわあらあら系お母様。怜のことをもう1人の娘のように可愛がっている。佑香から怜への想いを相談された時には、やっぱりそういう好きなのねとどこか納得していた。2人は麗華達がいてもこそこそしながらキスしまくっているため普通にバレている。問題は麗華が2人は付き合っていると勘違いしていること。あらあら結ばれて良かったわねニコニコじゃないのよ?
アラスカン・マラミュート:佑香のペット。もこもこふわふわのガチかわ犬。北国の子なので暑さに弱く、日本で買うことは難しい。しかし桜宮家のマネーパワーで解決。全館空調が常に効いている桜宮家で快適な生活を送っている。そのため桜宮家はどこにいってもほんのり寒い。
神:「うおw」