どぶさらいと天竜人と海賊   作:マイナーチョコ

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第26話『万国のおもてなしと、すれ違う夜』

 

 

新世界、万国(トットランド)。

お菓子で作られたメルヘンチックでありながら、どこか狂気を孕んだ巨大な城――ホールケーキ城。

その最上階の玉座の間で、四皇ビッグ・マム(シャーロット・リンリン)と、天竜人である神鬼マヤの会談は、誰もが予想だにしなかった奇妙な着地点へと向かっていた。

 

「……今日は、泊まっていってもいいかな?」

マヤが、空になったティーカップをソーサーに置き、ふと思いついたように言った。

「少し、この街の行政とか仕組みを見てみたくてね」

 

「え?」

リンリンの顔が、ニヤリと歪む。

「泊まる……? つまり、アタシの娘と、かい?」

 

「え? 娘? ……ああ、そうだな。それもいいな。街の案内をしてほしいね」

マヤは、純粋に「視察の案内役が欲しい」という意味で頷いた。

 

しかし。

(泊まる!? 娘と!? それってつまり……そういうこと!?)

玉座の脇に控えていたプリン、ガレット、アマンドの三人の顔が、一気に沸騰したように真っ赤に染まった。

政略結婚の道具として育てられてきた彼女たちにとって、「四皇の合意の元で、権力者である男と一夜を共にする」ということは、すなわちそういうこと(初夜)を意味する。

 

(いや、微妙にズレてないか!? この天竜人!?)

カタクリやペロスペローたち兄弟は、この得体の知れない天竜人の「天然のタラシっぷり」と、勘違いから生み出された恐るべきピンク色の空気に、ただただ冷や汗を流して立ち尽くすことしかできなかった。

 

マヤの後ろに控える黒服の男――CP10として素顔を隠し、変装しているエースだけは、マヤの真意(ただの視察)を完全に理解していたが、職務に忠実な護衛として微動だにせず、サングラスの奥で淡々とそのやり取りを聞き流していた。

 

「マ〜マハハハ! いいだろう! プリン、ガレット、アマンド! お前たち、マヤ聖を街へご案内しな!」

リンリンが上機嫌で命じる。

「さて、アタシは少し休むとするよ。……マヤ聖、良い夜を過ごしな!」

 

「ああ、色々とありがとうな。リンリン」

 

---

 

ホールケーキアイランドの街並みは、夕暮れ時を迎えても色鮮やかだった。

ビスケットの壁にチョコレートの屋根、綿あめの雲。しかし、そのメルヘンな景色の中で、等間隔に配置されたチェス戎兵や、住人たちから徴収される「寿命(ソウル)」の存在が、この国が巨大な海賊の支配下にあることを無言で物語っていた。

 

「いやはや、トットランドね。なかなか面白い国だ」

マヤは、甘い匂いの漂う街路を歩きながら、興味深そうに周囲を見渡した。

「しかも、こんなに綺麗な女性三人に案内してもらえるなんて。嬉しい限りだ」

 

「そ、そんな……私たちなんて……」

プリンが、フリルのついたエプロンドレスの裾をギュッと握りしめ、顔を真っ赤にしてうつむいた。彼女の前髪の下にある「第三の目」は、今はしっかりと隠されている。

(マヤ聖の言葉に嘘はないか……ママに命じられた通り、私の『メモメモの実』の能力で隙を見て記憶を探らないと……でも、こんなに優しい人に、そんなこと……!)

プリンは、マヤの真っ直ぐな言葉に胸を痛めながら、隠された使命との間で激しく葛藤していた。

 

「とりあえず、自己紹介といこうか。俺はマヤ聖だ」

マヤが足を止め、三人の娘たちに向き直った。

「一応、建前上リンリンは呼び捨てで許したが、お前達はそうはいかない。マヤ聖と名乗ってくれ。すまんな」

 

(天竜人なのに、わざわざ私たちに謝るの!? この人……)

ガレットとアマンドが顔を見合わせ、目を丸くした。

 

「それと、プリン」

マヤが、不意にプリンの目を見つめた。

「先程から俺に何か(能力)しようとしているが……本来なら天竜人への不敬で死罪だが、許すぞ。それは、お前自身を守るための『何か』なんだろ? 好きにしろ」

 

「ビクッ……!?」

プリンの肩が大きく跳ねた。

(気付かれてた……!? なのに、許すって……!)

ずっと自分を偽り、「良い子」を演じることでしか生きられなかったプリンにとって、自分の防衛本能(能力)を見透かされた上で、それを全肯定されるというのは、雷に打たれたような衝撃だった。

 

「俺の前では、無理に仮面をつけなくていいぞ。真っ直ぐ接してくれ」

マヤはふっと優しく微笑んだ。

「俺も、こんなだらしねェ天竜人だしな。気楽に行こうぜ」

 

「マヤ聖……っ」

プリンの目から、ポロリと大粒の涙がこぼれ落ちそうになる。彼女は慌てて目をこすり、「……はいっ!」と、作られたものではない、心からの笑顔を向けた。

 

「さすがマヤ聖ね。本当に、底が知れない方……」

ガレットが、ふわりと甘いバターの香りを漂わせながら、マヤの腕にすり寄ってきた。セクシーな赤いミニスカートから伸びる白い脚が、夕闇の中で妖しく誘っている。

「今夜の相手……どうかしら?」

大人の色気たっぷりの誘惑。しかし、マヤの反応は斜め上だった。

 

「美女の誘いか、悪くないな」

マヤは頷き、街の遠くを眺めた。

「夜の街並みを見て、酒でも飲むのもいいかもな。そして、色々この街の税収システムや、リンリンの病気(癇癪)の対策についてじっくり話すのもいいな。……癇癪で街で暴れられると修理も大変だろうが、それはそれで建設業の経済が回るから、ある意味ではいいのか……?」

 

「……マヤ聖」

ガレットが、ガックリと肩を落とした。

「……そういうことでは、ないのだけれど……」

(この人、本気で私と『行政と経済の話』をして夜を明かすつもりだわ……!)

 

ぷはぁ〜っ。

マヤの背後で、アマンドが長尺の刀『白魚』を腰に帯びたまま、ゆっくりと紫煙をくゆらせた。

彼女の鋭い目は、この得体の知れない天竜人の内心を正確に測ろうとしていた。

 

「アマンドだっけか?」

マヤが振り返り、少しだけ眉をひそめた。

「すまないが、その紫煙(タバコ)、俺は苦手なんだ。俺といる時だけでもいいから、やめてくれないか?」

 

「……天竜人は、タバコの匂いがお嫌いかしら?」

アマンドが、挑発するように細い目を向けた。

 

「嫌な思い出しかないんだよ。それは、人を苦しめる道具の匂いだからな」

マヤの脳裏に、かつて奴隷たちをタバコの火で虐げていた同族(天竜人)たちの姿がよぎる。

「お前にも、本来ならやめろと言いたいところだがな。身体を蝕むものだから」

 

「私に、健康を気遣えと?」

「いっそ、やめてみたらどうだ? 身内からそういうものをやめる(体質改善する)ことを見せることで、リンリンの癇癪も治そうっていう気になるかもしれないだろ? 頻度が減るかもしれない。まずは、外堀を埋める感じだな」

 

マヤの言葉に、アマンドがタバコを持つ手をピタリと止めた。

「それに、な」

マヤは真剣な顔でアマンドの目を見た。

「長期戦闘になったら、肺への負担で、紫煙を好きな奴とそうじゃない奴の差は歴然と出るぞ。お前は凄腕の剣士なんだから、そこも少し考えたほうがいい。実際、それを吸わない方が刀のキレも良くなるし、肺活量も上がるぞ?……って、初対面で少しお節介だったかもな」

マヤは最後に、少しはにかんで笑った。

 

(そこまで……そこまで私たちの健康のことと、戦闘能力、そしてママのことまで考えてくれているの……!? この天竜人……深すぎる……!!)

三人の娘たちが、再び絶句した。

海賊の世界で、「健康のためにタバコをやめろ」などと説教する男はいなかった。しかもそれが、理詰めの気遣いなのだ。

 

「そ、そう……そうね。マヤ聖の考えも、一理あるわね……なんかその、失礼したわ」

アマンドは慌ててタバコの火を揉み消し、赤くなった頬をツバの広い帽子で隠した。

 

「謝ることはないさ。それが習慣になってるんだろ。無くなると手が震え出したり、思考がまとまらなくなったり、味覚の障害が起きたりする。鼻が利かなくもなるからな。せっかくの美人が台無しだ」

 

マヤはそう言うと、再び街の視察へと歩き出した。

「さて、この街は変わってるな……。リンリンの過去の辛さが凝縮されすぎている。視覚的にも、これはリンリンの精神衛生によくないのだが……。難しい問題だな。俺は介入したくても、リンリンは四皇だからな。他国の内政干渉になる」

 

「あの……」

プリンが、小走りでマヤの隣に並んだ。

「マヤ聖は、ママのこと、本当に気にかけてくださっているのね……」

 

「そうだな。色々と辛いこともあって、人に虐げられたから、それをやり返す。……そういう悪循環なんだよ、海賊ってやつはよ。天竜人もそうさ」

マヤの赤い瞳が、夕闇の中で静かに沈んだ色を見せた。

「みんな、無知なんだよ。自分が正しいという一点しか見えていない。俺にも言えることさ。俺は正しいと思ったら、どんどん言ってしまう。これは相手によっては失礼になるだろう。……けど、それが俺だしな」

 

(自覚……あったんだ……)

三人の娘たちが、心の中でひっそりとツッコミを入れた。

だが、その「自覚がありながらも、相手のために正論をぶつける」というマヤの不器用な誠実さが、彼女たちの心をどうしようもなく惹きつけていく。

 

その後、マヤと三人の娘たちは、夜の街を歩きながら様々な話をした。

トットランドの流通経路、バターの保存コスト、治安維持のための兵力配置……。色恋沙汰など微塵もない、徹底的な行政視察。

だが、その会話の中で、マヤは常に彼女たちの意見を尊重し、「お前ならどうする?」「その考えは素晴らしいな」と、彼女たちの能力(実務家としての才覚)を真っ直ぐに評価し続けた。

 

政略結婚の道具、あるいは戦力としてしか見られてこなかった彼女たちにとって、自分の『知性』と『存在』そのものを肯定されるこの時間は、どんな甘い言葉よりも深く、心に甘く溶け込んでいった。

 

---

 

その日の夜、ホールケーキ城で開かれた晩餐会は、和やかな空気に包まれていた。

食事が終わり、リンリンが上機嫌で巨大なグラスを干した。

 

「マ〜マハハハ! プリン、ガレット、アマンド! お前たち、マヤ聖と随分慣れたようじゃないか。色々とアドバイスももらったようじゃないかい」

リンリンがニヤリと笑い、マヤを見た。

「そしてマヤ聖、最上階の客室を用意してあるよ。色々と……『準備万端』さ」

 

三人の娘たちが、ビクッと肩を震わせ、顔を真っ赤にしてうつむく。

しかし。

「あ、リンリン。部屋を用意してくれたのはありがたいが」

マヤが、口元を拭いながらあっさりと答えた。

「そこはさ、俺は一応客だけど、天竜人だからな。自分の船で寝るよ。色々とありがとうな」

 

「……は?」

リンリンの動きが止まった。

 

「政治的配慮ってやつさ。四皇の城の奥深くに俺が泊まったとなれば、海軍や上の連中がうるさいからな」

「あんた……本当にブレないね。頭のてっぺんから爪先まで、天竜人(権力者)だねェ」

リンリンが呆れたようにため息をつく。

 

(えっ……お泊まり、なし……?)

三人の娘たちが、心底しょんぼりとした顔で肩を落とした。

 

マヤとエースが港の船へ戻った後、玉座の間に残されたリンリンは、静かに娘たちを見た。

「……で? お前たち、どうしたいんだい?」

リンリンが、娘の『意見』を聞いた。それは、ビッグ・マム海賊団の歴史において、極めて異例のことだった。

家族一同が驚愕する中、プリンが顔を赤らめながら、しっかりと顔を上げて答えた。

 

「とても……とても、良い方だと思いました。刻印の件(代償)も、私たちを守るためだと分かりましたし……」

ガレットとアマンドも、静かに頷く。

完全に、乗り気だった。

 

---

 

翌朝。

マヤは、厨房のチェス兵たちを退け、自らの手で朝食を作ってホールケーキ城の玉座の間へと現れた。

 

「おはよう、リンリン。良い朝だ」

マヤがテーブルに置いたのは、色鮮やかな野菜がたっぷりと盛られた特大のサラダボウルだった。

「特製のサラダボウルだ。これを食べた後に、リンリンが好きな甘いものを少し用意させてもらった。これを食べながら話でもしようか」

 

「……あんた、いきなり用意してくるのかい!?」

リンリンが、サラダを見て露骨に顔をしかめた。

「アタシはサラダなんて草は苦手なんだよ……」

 

「そういうな。色々とリンリンに合いそうな、特製のドレッシングを考えたからな。これを食べれば、その後のごちそうが格別になるだろ?」

(この人……マジで四皇にダイエット食みたいなのを食わせてやがる……! 頭天竜人すぎだろ!?)

ペロスペローたちが白目を剥きそうになる。

 

「そうかい……本来なら嫌なんだがねェ……」

リンリンは渋々といった様子で、巨大なフォークでサラダを口に運んだ。

咀嚼する。

「……ん?」

リンリンの目が丸くなった。

「……まァ、食べられないサラダではないから、いただくとしようか。……って、美味いじゃないか、これ!」

 

「サラダはな、意外と嫌がる人が多いが、酸味や甘味、果物を添えたりすると、口の中が色々な味のハーモニーになって美味く食べられるんだよ」

マヤが満足げに頷いた。

「うまいね、これ。美味しいねェ!」

「リンリン、いい笑顔だな。用意した甲斐があるよ。一応、俺がメインで作ったやつだ」

 

「お前、料理もするのかい!?」

リンリンがフォークを止めて驚愕した。

「どんな天竜人なんだよ、お前は……」

「男しかいない職場だしな。たまにやる程度だ。基本的には専属のシェフがいるが、自分で作るのも嫌いじゃない」

 

「ますます、おかしい奴だねェ」

リンリンは笑い、そして真剣な目つきに変わった。

「で? 娘達の件はどうするんだい? こっちは良い感じのようだがね」

 

マヤは、手元のコーヒーカップを置き、リンリンの目を真っ直ぐに見返した。

「そうか、気に入ってもらえて何よりだ。刻印の件も、受け入れる覚悟っていうのは昨日聞いたよ」

マヤは少し間を置いた。

 

「ただな。3人全員ってのもアリなんだけどな……。今、俺の家に何名か、愛する女性たちがいてな」

 

マヤは、ここにいない愛する者たちの名前(ナミ、ロビン、ハンコック)は決して出さなかった。四皇に名前を知られれば、何をされるか分からないからだ。

 

「その子らのことも、考えてやらないといけなくてな」

マヤの声には、強い愛情と責任感が込められていた。

「政治的にもな、四皇の娘だけを特別扱い(正妻扱い)にするとなると、今の身内とのバランスが難しくてな。だから、いったん『お友達』って感じからかな? 俺はこれでも純情なんだ」

 

「……お前、すでに女がいて、その上で3人全員って……凄すぎだろ」

リンリンが呆れたように笑った。

「まァ、それがお前の言う頭天竜人(権力者)の常識なのかもしれないがね。落とし所としては、いずれってことかい?」

 

「リンリンが頑張ればだな。色々と、な。今、3人をこの国から出すのも、情勢的にダメだなという判断もあるからな」

「かァ〜、そこまで言われちゃ仕方ないね。確かに、3人の戦力の抜けはでかいからな……。でも、諦めちゃいないからね?」

「お手柔らかにね。あんまりグイグイやられると、センゴクに俺が怒られちゃうしさ」

 

「お前……そうか」

リンリンは、マヤの言葉の端々に隠された巨大なネットワークに気づき、口角を上げた。

「お前のバックは、海軍のセンゴクと、白ひげ……。ハ〜ッハッハ! どんだけだよ、お前は。アタシもそこに入ってやるよ」

 

「入るとかじゃないだろ。もう知り合いだ。それくらいがちょうどいいさ」

マヤは席を立ち、白のスーツの埃を払った。

「リンリン、何かあれば、また呼べ。それか、遊びに来るのも歓迎だが、マリージョアに来るのは難しいだろうからな。娘達が来たい時にでも、海軍か、また今回みたいに使者を送ってくれな」

 

「はいっ!」

プリン、ガレット、アマンドの三人が、乙女のような声で即答した。

 

「おいおい……この娘達は……」

リンリンが頭を抱える。

「かァ〜、惜しいな〜。アタシがもっと若ければな〜!」

(本気なんだ……ママまで……!)

家族一同が、この男の底知れない魅力に、ただただ平伏するしかなかった。

 

---

 

数日後。

新世界を弾丸のように駆け抜けた天竜人の専用船は、無事にシャボンディ諸島の秘密港へと帰還した。

 

マヤが宮殿の扉を開けるなり、凄まじい勢いで二つの影が飛びついてきた。

「マヤ聖っ!! 心配したんだからね!!」

「無事でよかったわ……! どこか怪我はしてない!?」

ナミとロビンが、涙目でマヤの胸元や腕にすがりついてくる。その背後では、ビビが少し離れた場所から安堵の表情で見守っていた(しらほしは、一旦リュウグウ王国へと帰還している)。

 

「おう、ただいま。なんのことはない。四皇の縄張りでお茶飲んできただけだ」

マヤは二人の頭を撫でながら、あっさりと爆弾を投下した。

「あと、嫁を3人ほど紹介された。なんか、好きなだけ持っていけみたいになった」

 

「…………え?」

ナミとロビンの動きが、完全にフリーズした。

ビビも目を丸くして絶句する。

 

「ちょっと待ってよ!? よ、嫁って……四皇の娘を!?」

ナミが血相を変える。

「あらあら……。マヤ聖はモテるから、たくさんいてもいいと思うけれど……?」

ロビンの笑顔から、全く笑っていない黒いオーラが立ち上る。

 

「いや、断った。とりあえず『友達ってことにしてくれ』って言ってある」

マヤが肩をすくめた。

「どうなるって、お前らはお前らだろ? 俺の愛する身内だ。だから、あっちの娘だけを特別扱いして家に入れるわけにはいかないって、リンリンにも説明してきた」

 

(天竜人なのに……強引に奪わないんだ……。今いる人たちを、何よりも大切にして……)

ビビが、マヤの誠実さに胸を打たれる。

ナミとロビンも、マヤの『愛する身内』という言葉に顔を赤らめ、怒りのオーラを少しだけ引っ込めた。

「も、もう……。マヤ聖ったら……」

「本当に、心臓に悪い人ね……」

 

だが、その和やかな空気を、背後に立っていたエースの低く冷静な声が引き裂いた。

 

「……マヤ聖。俺から見て、向こうの女性陣(プリン達)、『お友達』とは全く思っていない……完全にマヤ聖に本気だったように見えましたが」

 

「あ?」

マヤが間抜けな声を漏らす。

 

「……なによそれええええええ!!!」

ナミとロビンの絶叫が、シャボンディの宮殿に響き渡る。

「ちょっと四皇の所に行ったくらいで、どんだけ女たらし込んで帰ってきてるのよバカマヤ聖!!」

「少しお説教が必要みたいね……!!」

 

「理不尽すぎねェか!?」

ギャーギャーと騒がしくも温かい、愛する者たちとの日常の空気。

マヤはそれを苦笑して受け流しながら、ふとビビの方へ歩み寄った。

 

「ビビ」

「……はい」

「元気には……なかなかなれないだろうが、しばらくここにいろ。国に帰っても、感情の整理がついてないと塞ぎ込んでしまうからな」

マヤは、大きな手でビビの頭をポンと叩いた。

「ナミ、ロビン、頼むよ。……それで、なんか良い感じに心が落ち着いたら、俺ともまた少し話そうな」

 

「……はい。ありがとうございます、マヤ聖」

ビビは、まだ心の奥底に残る痛みを抱えながらも、この優しく騒がしい『愛の形』を見つめながら、静かに微笑んだ。

 

この数日後。

ルフィたちと完全に決別し、一味をジェルマの脅威から守るために、ただ一人絶望のどん底でトットランドの『政略結婚』へと向かう男、サンジ。

彼が向かう地獄の果てで、かつて仲間を奪った憎き天竜人の「深い愛の余波」に巻き込まれ、さらに精神を崩壊させることになる未来を、今はまだ誰も知らない。

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