四皇ビッグ・マムの治める巨大な海遊国家『万国(トットランド)』。
その中心であるホールケーキアイランドにそびえ立つ、甘く豪奢な城の客室。
先程までの、サンジが悲劇の騎士を気取って紡いでいた静かな時間は、外側からぶち破られた分厚い壁の崩落音と共に、物理的に粉砕されていた。
「モグモグ……! サンジィ〜! 迎えに来たぞ〜! むぐむぐ……ここのお菓子、美味ェな!」
舞い散る瓦礫と土煙の中から現れたのは、麦わら帽子を被った船長、ルフィだった。
四皇の本拠地だというのに、彼の両手には街で買い込んだ大量の肉やスイーツが抱えられており、口の周りをクリームだらけにして無邪気に笑っている。
その後ろからは、同じく菓子を頬張るウソップやチョッパー。そして、呆れ果てたような、あるいは絶望しきったような目で彼らの背中を見つめる、ナミとロビンの姿があった。
「…………は?」
サンジは、開いた口が塞がらなかった。
自分が恩人ゼフの命と引き換えに全てを捨てて「生贄」になったというのに、助けたはずの仲間は、海軍の絶対的な包囲網をあっさりと抜け、四皇の領土で緊張感ゼロで飯を食いながら乱入してきたのだ。
「お前ら……なんでここに……!! 海軍に追われてたんじゃねェのかよ!!」
サンジは慌ててプリンを背に庇い、ルフィに向かって怒鳴りつけた。
「お前たちなんか俺の仲間じゃねェ!! 俺はジェルマの王子だ!! 帰れ!!」
表向きは、ルフィたちを冷たく突き放す悲劇の男。
自分がここで泥を被らなければ、ルフィもゼフも、そして背後にいる婚約者のプリンも不幸になる。だから心を鬼にして追い返すのだと、サンジは悲痛な表情を作っていた。
――しかし。
そんな彼の「心の内」は、背後に立つ三つ目族の少女によって、文字通り丸裸にされていた。
(……何この男)
プリンは、前髪で隠された『第三の目』を密かに開眼し、サンジの背中を冷たく見つめていた。
彼女の特異な目は、対象の深層心理や真実の感情を読み取ることができる。プリンの脳裏に、サンジの心の声が直接流れ込んできた。
『ルフィの奴……俺のためにわざわざ四皇の縄張りまで来やがって……! しかも、ナミさんもロビンちゃんも一緒だ! あぁ、俺のために危険を冒して……やっぱり二人は俺の事を心配して……! いや、ダメだ! 俺がここで泥を被ってプリンちゃんを守り、皆を逃がすんだ! それが俺の騎士道だ……!』
サンジの内心は、「自分のために来てくれた」という身勝手な歓喜と、ナミたちへの下心、そして「俺が犠牲になる」という安いヒロイズムで満ち溢れていた。
(……はぁ!? 『君を守る』とか甘い言葉を吐いてたくせに、頭の中は別の女の事と、自分の悲劇に酔ってるだけで一杯じゃない!!)
プリンは、怒りよりも深い呆れに襲われた。
優しい言葉を並べ立てていたが、この男はプリンという一人の人間を微塵も見ていない。ただ、自分のヒロイズムを完成させるための『可哀想なヒロインA』という舞台装置としてしか扱っていないのだ。
(私の内面も、心の弱さも、全部ありのままに見て肯定してくれたマヤ聖様とは大違いね! バカみたい!)
プリンは、サンジの底の浅さに完全に愛想を尽かし、小さく鼻で笑った。
そして、ふと視線をずらし、崩れた壁の向こうに立つ二人の女――ナミとロビンへと第三の目を向けた。
(この女たちも、どうせこのコックと同じように身勝手な海賊の……)
そう思って内面を覗き見た瞬間。プリンは雷に打たれたように目を見開いた。
『あぁ……マヤ聖が来てくださる……! 私たちを迎えに……!』
『でも……私たちがルフィたちと一緒にここへ来てしまったことで、またあの人の手を汚させてしまう……!』
『マヤ聖の手を汚させないためなら、私はどうなってもいいのに……!』
プリンは、激しく動揺した。
ナミとロビンの心の中には、サンジへの想いなど1ミリも存在しなかった。ただひたすらに、神鬼マヤへの深く、狂おしいほどの愛情と、彼を守るための痛切な自己犠牲の念だけで満たされていたのだ。
(この人たちが、マヤ聖様の愛する人たち……。なんて深くて、悲しい想いなの……)
プリンの胸に去来したのは、嫉妬ではなかった。
自分と同じか、あるいはそれ以上にマヤを愛し、マヤのために泥を被ろうとしている彼女たちの覚悟に対する、強烈な共感だった。
「……情けないわね、サンジ」
不意に、瓦礫の陰から艶やかな声が響いた。
毒の羽を思わせるマントを羽織ったジェルマの長女、レイジュだった。彼女は弟の悲惨な運命を案じ、密かに助け船を出せないかと様子を窺いに来ていたのだが、あまりにも間の抜けたルフィの乱入劇に、すっかり毒気を抜かれていた。
「レイジュ……! お前、なんでここに」
「お前の悲壮な覚悟、完全に宙に浮いてるじゃない」
レイジュが皮肉げに溜息をつく。
「一緒に帰ろうぜサンジ!」
ルフィが無神経に叫ぶ。
「帰る場所なんてねェ!! 俺はここでお前らを――」
サンジが声を荒げた、その瞬間だった。
ズズズンッ……!!
突如として、巨大なホールケーキ城全体が、ミシミシと物理的な悲鳴を上げて軋み始めた。
地震ではない。足元からではなく、空間そのものが不可視の『巨大な重圧』によって押し潰されているかのような、未知の揺れ。
「な、何だ!?」
「お城が……揺れてる!?」
ルフィもサンジも、レイジュも目を見開いた。
一触即発だった客室の空気が、得体の知れない恐怖によって完全に凍りついた。
---
――数十分ほど前。
ホールケーキアイランドの中心、城の広間。
「……久しぶりだな、リンリン。少し痩せたのではないか? 見違えたな。元気そうで、会えて嬉しく思うぞ」
マヤは、黒服のCP10(エース)を一人だけ従え、広間の中央に歩み出た。
威厳たっぷりに待ち構えていたビッグ・マムの前に、いつものように巨大なウェディングケーキではなく、色とりどりの特製サラダや果物が山盛りに置かれていることに気づき、マヤは対等な友人のように微笑みかけた。
「しかし、このような形ですまないな。急に来てしまって、手土産も用意できずだ。……食事のバランスも改善したようで何よりだ。健康は一番の資本だからな。長生きしてくれよ、リンリン」
「マァマァマァマァ!! 嬉しいねェ、久々に会えて!」
四皇ビッグ・マムは、顔をくしゃくしゃにして少女のように喜んだ。
「マヤ聖も色々と大変だったようじゃないか。食事も、マヤ聖特製のドレッシングやアドバイスのおかげで、美味しく食べられてるよ! セムラはご褒美として、食後に少しだけ食べるようにしてるんだ!」
「それは素晴らしい心がけだ。無理な我慢は毒だからな」
マヤが優しく頷くと、マムはさらに得意げに傍らの娘たちを示した。
「それに、アマンドも禁煙してがんばっておるぞ? ガレットも仕事に精を出している。……その、なんだ。わかっておろう? 娘たちの『乙女のがんばり』を……」
名指しされたナッツ大臣のアマンドは、鍔広の帽子の下で頬を赤らめた。
(ママがあんなに、私の事を認めてる……! マヤ聖の言う通り、禁煙してよかった……!)
バター大臣のガレットも、両手で頬を押さえて身悶えしている。
(ママが『乙女のがんばり』って……!! きゃあぁっ!! マヤ聖、私を見て……!!)
世界で最も危険な四皇の城の広間が、まるで平和な『健康指導の成果発表会』のような、和やかで甘い空気に包まれていた。
だが、その空間の隅で、その空気に全くついていけず、どす黒い苛立ちを募らせている者たちがいた。
ジェルマ66総帥、ヴィンスモーク・ジャッジ。そして、その後ろに控える最高戦力の兄弟たち――長男イチジ、次男ニジ、四男ヨンジ。
(……なんだあの貧弱そうな男は。たかが天竜人ごときに、四皇が媚を売っているだと?)
イチジが、サングラスの奥で不快げに目を細める。
(フン。俺たちジェルマの科学力こそが最強だというのに、くだらねェ茶番だぜ。あんな優男、俺の電撃で一瞬で黒焦げにしてやる)
ニジも、ポケットに手を突っ込んだまま舌打ちをした。
(気に入らねェな。あの野郎、俺の怪力で少しシメてやろうか)
ヨンジに至っては、露骨に殺気を放っていた。
感情を消された改造人間である彼らは、マヤの真の恐ろしさ、そして「武力を行使せずに四皇を従える」という異常な政治力を理解できず、ただ見下した態度で不遜な空気を放っていた。
その殺気に、マヤが初めて冷たい視線を向けた。
「……そいつらには、興味がないがな。まァよい。名を名乗れ」
マヤの静かな声が、広間の和やかな空気を一変させた。
「お前たちは、俺から名乗るほど価値のある相手ではないと見受ける。お前たちの浅はかな行いで、こっちの予定が色々と狂ったからな」
「なんだ、この小僧は……!!」
ジャッジが、屈辱に顔を歪めた。
「天竜人というだけで、四皇の前でそこまで偉そうに――」
「ふざけた口を利くな、ヒョロガリが。俺たちの力(科学)を見せてやろうか?」
ヨンジが、力自慢に一歩前に出ようとした。
その瞬間。
――スッ。
マヤの背後に控えていた黒服(エース)が、無言のまま半歩前に出た。
ただ、それだけで。
広間の空気が、一瞬にして爆発的な『熱』と『圧倒的な死の気配』に包み込まれた。サングラスの奥から放たれる、歴戦の海賊であり四皇の右腕としての、すさまじい覇気と殺気。
「……控えろ。マヤ聖の御前だぞ、下級兵士(クローン)共」
「……ッ!?」
感情を消されたはずのヨンジたちの本能が、けたたましい警鐘を鳴らした。
目の前の黒服一人にすら、自分たち全員がかりでも絶対に勝てないという圧倒的な実力差。イチジもニジも、冷や汗を流してその場に硬直した。
(バ、バカな……!?)
ジャッジは息を呑んだ。
(ただの護衛の一人が、この覇気……!? 四皇の最高幹部クラス、いやそれ以上だと!? これが……天竜人の真の力だというのか……!!)
「……エース。威嚇はよせ。リンリンの城を汚す気か」
マヤが、静かに窘める。
「……失礼いたしました、マヤ聖。貴方が出られれば、俺の仕事がなくなりますゆえ」
エースがスッと殺気を引っ込め、再び静かな従者に戻る。
「そうだったな。お前がせっかく引っ込んだのに、俺が出ては意味がないな。……うまく諫められるようになったな。本当によくできた護衛だよ」
マヤはエースに最高の笑顔を向けた。
(この人は……親父と同等にデカすぎる)と、エースは内心で深く心酔した。
「シャーロット殿! 何故このような天竜人に……!」
ジャッジが、冷や汗を拭いながらマムに助けを求めた。
「あァ? アタシが許すと言ってるんだよ! お前にマヤ聖をどうこう言われる筋合いはないねェ! 名乗れない理由でもあるのかい!?」
マムが一喝すると、ジャッジはビクッと怯んだ。
「リンリン、ありがとう。そこまでにしてやってくれ。俺はそういう無礼には慣れてるからな。リンリンがそこまで相手する奴ではないさ。せっかくの再会が台無しだろ?」
マヤが優しく宥めると、マムはパァッと満面の笑みを浮かべた。ガレットとアマンドも、その手綱さばきにますます目を輝かせている。
「まァ、そこのお前達はどうでもいい国だというのが分かったよ」
マヤは、ジャッジに向き直った。
「お前達が連れてきた『麦わらのコック』のせいでな。麦わらの一味を追いかけていた奴らが、全員トットランド周辺まで来る羽目になったんだわ」
マヤは、淡々と事実を告げる。
「その前に海軍の網で捕まえる予定だったのがよ。その船の中には、俺の大事な人達もいるんだわ。……言ってる意味、分かるかな? 名乗れないほどの頭の奴らだ、難しいかな?」
「何を言っているんだ? サンジは俺の息子だぞ?」
ジャッジは、眉をひそめて反論した。
「俺が息子を連れ戻すことと、貴様の大事な人間とやらは関係ないではないか」
その言葉に、マヤは深く肩をすくめた。
マムも、ガレットたちも、絶句した。感情を消し、科学の合理性だけを追求しすぎた結果、この男は他者の感情の動きや、政治的な文脈(ドミノ倒し)というものを全く読めなくなってしまっているのだ。
「はぁ〜……」
マヤは、特大の溜息をついた。
「めんどくせェな、こういう頭の筋肉になった奴は。強化しすぎて頭イカれてるだろ。……俺の説明が上手くないのかな? どう思う、CP10」
「いえ。十分に。本来なら、政治的に見て伝わらないとおかしいかと」
「バカにしているのか!?」
ジャッジが顔を真っ赤にして怒鳴る。
「マママママ!! あはははは!!」
突如、ビッグ・マムが腹を抱えて大爆笑し始めた。
「さすがだよ、マヤ聖……! もうおかしい……見事な筋肉バカだねェ!!」
マムは笑いながら、サラダをバリバリと貪り食った。四皇に面と向かって嘲笑され、ジャッジは屈辱に顔を歪めて押し黙るしかなかった。
「……お前の中では、四皇の力の方が偉いという頭になってるんだな? わかった、簡単に説明してやる。よく聞け?」
マヤの目から、温もりが消え去った。
平熱の神の瞳。絶対零度の論理が、ジャッジを射抜く。
「お前が息子を攫う。その息子を追いかける船がいる。その中には、俺の大事な誘拐された人もいる。……俺達はそれを海上で捕まえようとして、いくつも包囲網を張って、トットランドに被害が出ないように動いていた」
マヤは、一歩前に出た。
「そして、その船は、トットランドに逃げ込んだ。……つまり、お前らはよ!!」
マヤの声に、微かな、だが決定的な『怒り』が混じる。
「間接的に、このトットランドに『俺と海軍の大艦隊』を送り込んだことになるんだよ!!! 海軍は今、トットランドの境界ギリギリで待機してるんだよ、バカ共が!!」
言葉と共に。
マヤの内に眠る『怒り』が、形を成して広間に溢れ出した。
彼にとっては、幼い頃から当たり前のように存在していた『ただの変なビリビリ』。静電気のような遊び。
だがそれは、修羅の殺気と混ざり合い、純度を極めた、本物の『覇王色の覇気』だった。
ズズズンッ……!!!
巨大なホールケーキ城の空間が、物理的に歪んだ。
空気が軋む音。壁に亀裂が走り、テーブルの上のティーカップが次々とひび割れ、窓ガラスが耐えきれずに砕け散る。
その威圧は、的確なコントロールによってマムや娘たちを避け、ジャッジたちジェルマの面々へと集中的に叩きつけられた。
「ガハッ……!?」
「な……にっ……!!」
イチジ、ニジ、ヨンジの三人が、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。科学で強化された外骨格など、この純粋な精神の暴力の前では何の意味も持たなかった。
ジャッジも、両膝をつき、呼吸すらできずに床に手をついた。
「マヤ聖、抑えてください……!」
エースが、焦って制止の声を上げる。
(なんて重い覇気だ……!!)
ビッグ・マムは、椅子に座ったまま戦慄した。
(こいつ……政治力だけじゃなく、純粋な『個の暴力』でもアタシたちと同等……いや、それ以上だっていうのかい……!?)
(まさか、覇王色!? マヤ聖が……こんなに強いなんて……!! かっこいい……!!)
ガレットとアマンドは、恐怖よりも深い陶酔に瞳を潤ませていた。
ジャッジは、床に這いつくばりながら、全身の震えが止まらなかった。
彼はここで初めて理解したのだ。
自分がサンジを拉致したせいで、四皇の領土に『覇王色を纏う規格外のバケモノ(天竜人)と、海軍の全戦力』を引きずり込むという、戦争レベルの最悪の外交ミスを犯したという事実を。
「……ふぅ」
マヤは、短く息を吐き、瞬時にその凄まじい威圧感を消し去った。
嘘のように重圧が消え去り、静けさが戻る。
「……悪い、リンリン。少し気が急いた。城を傷つける気はなかったんだ」
マヤは、何事もなかったかのような声で謝罪した。
「俺は、こういう『力(暴力)』で相手をねじ伏せるやり方は嫌いでね。できるだけ対話で解決したい主義なんだが……どうしても、頭の筋肉にだけは伝わらない時があるらしい」
圧倒的な力を持っているのに、それを使わずに世界を回すことを是としている。
その器の大きさと、無自覚な底知れなさを前に、ビッグ・マムの頬は少女のように赤く染まっていた。
「マママママ……!」
ビッグ・マムは、顔を覆わんばかりに大笑いした。
「マヤ聖は、凄いねェ……! アタシがもう少し若ければなァ〜。ちょっと、ダイエットがんばってみようかねェ〜!」
(……ママ、何言ってんの!?)
傍らに控えていたガレットとアマンドが、心の中で同時にツッコミを入れた。
(ダイエットの目的、それなの!? 私たちの政略結婚のためとか、健康のためじゃなかったの!?)
娘たちが内心で青ざめる中、マヤは四皇の『特大の乙女心』に全く気づいていなかった。
「リンリンは冗談がうまいな」
マヤは、ふっと優しく微笑んだ。
「たくさんの子供を抱える立派な母が、そんなことを言うなんて。……お眼鏡にかなった男として、嬉しく思うよ。だが、ダイエットは無理なくするといいぞ」
「…………」
マヤの背後に立つエース(CP10)が、サングラスの奥でそっと天を仰いだ。
(……こういうとこなんだよな。この人、スケールがデカすぎるくせに、変なところで致命的にズレてるんだよ……)
「マママママ!」
ビッグ・マムは、嬉しそうに腹を揺らした。
「ダイエットはゆっくりやるさ。……マヤ聖は、意外と『鈍い』んだねェ?」
「そうか? 俺はそういうのに疎くてな、よく言われるんだ」
マヤは苦笑し、傍らの娘たちへと視線を向けた。
「ガレットもアマンドも、友人としてその辺の機微を教えてくれると嬉しく思うぞ」
「「はい……!! 是非に……!!」」
名前を呼ばれ、友人と言われた二人は、目を潤ませて深く首を縦に振った。
和やかで、甘く、どこかズレたティータイムのような空気。
その床には、覇王色の威圧に当てられ、泡を吹いて失神しているヴィンスモーク・ジャッジとジェルマの最高戦力たちが転がっているのだが、マヤもマムも、もはや路傍の石ころのように彼らを完全に無視していた。
「さて……」
マヤは、倒れたジャッジを一瞥し、用済みのゴミを見るような目で言った。
「お前の息子には興味がないが、……で、そのコックの居場所はどこかな?」
「プリンの部屋じゃないかねェ」
マムが、機嫌よく答える。
「顔見せ程度の見合いをさせていたからね。……しかし、北の海を制すると息巻いていたヴィンスモークも、こうなると形無しだねェ」
「見合いか。じゃあ、顔を出しに行くとするか」
マヤは踵を返し、プリンの客室へと歩き出した。
彼が向かう先で、ルフィの乱入によって泥沼と化している客室の惨状など、まだ知る由もなかった。