どぶさらいと天竜人と海賊   作:マイナーチョコ

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第52話:別れ?

 

 

鬼ヶ島を揺るがした激しい衝突は、マヤたちの圧倒的な実力によって呆気ないほど急速に幕を閉じた。

 

二発の『月歩おとし』によってクレーターの底へ沈んだ将軍・黒炭オロチと、戦意を喪失したお庭番衆や見廻組の幹部たちは、百獣海賊団とマヤ陣営の手によって残らず捕縛された。

そして、CP10の六式によって瓦礫の山へと叩き伏せられたルフィや、たしぎとの次元の差を突きつけられたゾロ、レイジュに軽くあしらわれたサンジたち麦わらの一味は、もはやこの国に留まる大義名分も戦力も完全に失っていた。

 

「……行くぞ、野郎ども。これ以上ここにいても、俺たちの出る幕はねェ」

 

重苦しい沈黙の中、ゾロが気絶したルフィを肩に担ぎ上げ、一味はボロボロの足取りで九里の海岸に停泊させていたサウザンド・サニー号へと引き揚げていった。

スパイとして彼らに同行するトラファルガー・ローもまた、一味の後ろを歩きながら鬼ヶ島を後にしたが、その足取りは来た時とは見違えるほど軽やかだった。束の間とはいえマヤ聖の尊顔を拝み、あの無茶苦茶な戦場を鮮やかに収めてもらったことで、悲鳴を上げていたローの胃はすっかり平穏を取り戻していたのである。

 

一方、鬼ヶ島の広間では、マヤに襟首を引きずり出された光月モモの助が、カイドウとマヤの前に正座させられていた。

 

「いいか、モモの助。オロチっていう一番の膿は俺たちが取り除いてやったし、カイドウもこれからはむやみに民を苦しめるような真似はしない。……だがな、これからこのワノ国の治安を維持して、荒れた土地を立て直すのは、ここのお偉いさんであるお前らの仕事だ。いつまでも誰かの後ろに隠れてないで、自分の足でしっかり立てよ?」

 

「は、はいっ……! かしこまりました、マヤ殿……!」

 

モモの助が冷や汗を流しながら深々と頭を下げる。

こうしてワノ国は、事実上マヤの半分管下――保護下のような形に置かれ、長きにわたる混乱に終止符が打たれたのだった。

 

それから数日後。

花の都の城の奥深く、薄暗い石造りの長い地下階段を、松明の灯りを頼りに降りていく四つの人影があった。

先頭で案内を務めるのは、長年天狗の面を被って身を潜めていたモモの助の祖父――元ワノ国将軍・光月スキヤキ。その後ろに、マヤとロビン、そして護衛のCP10が続いていた。

 

きっかけは、城での事後処理が落ち着いた折、ロビンがマヤにそっと切り出した一言だった。

 

『ねえマヤ、実はこのワノ国の地下に、古代兵器プルトンが眠っているはずなの。少し調べてみたいのだけれど』

『アラバスタの石に書いてあった話ね。へえ、本当にそんなのがあるのか』

『ええ。マヤ、ちょっと見てみたいのだけれど』

『いいよ。スキヤキさん、案内してもらえる?』

 

国を救ってくれた大恩人であるマヤからの頼みに、スキヤキは二つ返事で頷き、一族の最高機密である地下の隠し通路へと招き入れたのである。

 

コツ、コツ、と石段を降りる足音が反響する中、やがて通路の壁面が分厚い硝子張りの回廊へと変わった。

その硝子の向こう側に広がっていたのは、青暗く澱んだ広大な「海底」の光景だった。水底には、かつての城下町や神社仏閣の屋根が、そのままの形で静かに沈んでいる。

 

「……凄いわ。水没したかつてのワノ国が、こんな形で残っているなんて」

 

ロビンが硝子に手を添えて感嘆の息を漏らすと、スキヤキは白髭を撫でながら静かに説明した。

 

「いかにも。太古の昔、もともとのワノ国は今の国土よりもずっと低い海面近くの場所にあったのじゃ。しかし、いつの時代にか国の外周を巨大な岩壁がぐるりと取り囲み、その内側に雨水などが溜まり続けたことで、かつての都は丸ごと水底へと沈んだ。そして溜まった淡水の上、山の高い部分に新しく作られたのが現在のワノ国なのじゃよ」

 

スキヤキはさらに奥へと歩き、厳重な扉を開けて一行を一つの広い石室へと導いた。

その部屋の中央には、禍々しいほどに深い紅色の光を放つ巨大な石碑――『ロードポーネグリフ』が鎮座していた。

 

「カイドウとオロチがこの部屋を見つけられたのは、百獣海賊団の大看板であるジャックが魚人族であったため、この水中の遺跡を泳いで調べることができたからなのじゃ。……さあ、ロビン殿。存分に調べるがよい」

 

「ありがとうございます、スキヤキ様」

 

ロビンは目を輝かせると、さっそく『ハナハナの実』の力で複数の腕を咲かせ、巨大な画紙と墨を使って手際よく赤い石碑の拓本(写し)を取り始めた。

その作業を穏やかに見守りながら、スキヤキはさらに床の下――水没した旧ワノ国のさらに深い地底を指さした。

 

「そしてマヤ殿。ロビン殿が言っておられた古代兵器『プルトン』は、この旧ワノ国のさらに地下深くの岩盤の下に眠っておる。……じゃが、あれを地上へ取り出すためには、ワノ国を囲むあの巨大な外壁を破壊し、溜まった水を海へと流し出さねばならん。すなわち『開国』とは、古代兵器を世に解き放つことと同義なのじゃ」

 

世界を滅ぼしうる兵器の重々しい説明に、CP10もわずかに表情を引き締める。

しかし、当のマヤは硝子の向こうの暗い水底をチラリと覗き込んだだけで、あっけらかんと首を横に振った。

 

「ふーん、壁を壊したら上にある街や港まで水浸しになって、せっかく落ち着いた民がまた迷惑するじゃねーか。そんな物騒なもんは、今は取り出さないでそのまま放置しとこうぜ」

 

「……ほ、放置、ですか。世界政府も海賊も血眼になって探しておる古代兵器じゃというのに、実にマヤ殿らしいのう……」

 

スキヤキが拍子抜けしたように苦笑すると、拓本を取り終えたロビンも、愛おしそうに微笑んでマヤの隣へと戻ってきた。

 

一方、マヤたちが出航するまでの数日間、鬼ヶ島の城内にはこれまでにない奇妙で穏やかな日常が流れていた。

 

大広間の縁側では、マヤとカイドウが並んで座り、酒ではなく大きな湯呑みに入った緑茶を啜りながら、他愛もない世間話を交わしていた。かつて死に場所を探して暴れ回っていた四皇は、今やマヤと肩を並べて笑い合う時間を何よりも楽しむようになっていた。

 

そして城の奥の部屋では、さらに微笑ましい光景が繰り広げられていた。

 

「いいですか、ヤマト様。せっかくそんなに綺麗な白髪と整ったお顔をされているんですから、いつまでも男言葉で金棒ばかり振り回していてはいけませんわ。ほら、少しじっとしていてくださいね」

 

「う、うわあ、くすぐったいぞマリア! うるティも、なんだそのヒラヒラした帯は!?」

 

「黙って任せるでありんす!! マヤ聖から直々に『ヤマトに女性としての魅力を磨かせてやってくれ』と頼まれたからには、私たちが徹底的に仕上げるでありんすよ!!」

 

ブラックマリアが大きな櫛でヤマトの長い髪を丁寧に梳かし、うるティが華やかな帯を選んでヤマトの腰へと巻いていく。

そこへナミやロビン、たしぎたちも加わり、化粧の仕方や女性らしい所作について楽しそうに言葉を交わす。

二十年間「光月おでん」という鎧を着続けてきたヤマトは、最初は気恥ずかしさに顔を真っ赤にしていたものの、女性たちに囲まれて笑い合ううちに、「おでん」ではなく「ヤマトという一人の女性」としての柔らかな表情を自然と覗かせるようになっていた。

 

そして、ついにマヤたちがワノ国を離れる二度目の出航の朝がやってきた。

 

晴れ渡った青空の下、鬼ヶ島の波止場には白銀の超高速船が横付けされ、岸壁にはカイドウをはじめ、キング、クイーン、ジャック、そしてブラックマリアやうるティたち百獣海賊団の面々が勢揃いしていた。

その最前列に立つヤマトは、先日までの涙脆い姿とは違い、自分の足でしっかりと大地を踏みしめていた。

 

ナミやロビンたちが船へと乗り込み、最後にマヤがタラップの前で振り返る。

 

「じゃあな、カイドウ、ヤマト。みんなも元気でやれよ」

 

ヤマトは胸の奥にあるマヤへの確かな想いをギュッと抱きしめ、精一杯の笑顔を作って大きく手を振った。

 

「うん! いろいろ教えてくれてありがとう! また絶対に来てよ、マヤ!」

 

それは、立派に成長した彼女なりの、前向きな別れの挨拶のはずだった。

この言葉を口にした時点では、ヤマト自身も、マヤが去ったあとの自分がどうなるかまでは深く整理できていなかったのだ。

 

ゴォォォン……と重低音を響かせて錨が巻き上げられ、マヤを乗せた白銀の巨艦が、ゆっくりと波止場の岸壁から離れ始める。

白い水しぶきを上げて、船体と岸壁の間の海面が、一メートル、二メートルと広がっていく。

 

その光景を目の当たりにした瞬間、ヤマトの中で初めて「マヤがいなくなる」という別れが冷たい現実となった。

ずっと「おでんになる」という目標だけを人生の中心に置いてきた自分に、初めて「お前はお前だ」と教えてくれた人。自分の生き方を否定せず、かといって自分の人生を勝手に決めつけることもせず、ただ隣で笑ってくれた人。

その人が、今、自分の世界から遠ざかっていく。

 

(――いやだ。見送るだけなんて、やっぱりいやだ!!)

 

かつてヤマトが海へ出たがったのは、おでんの日誌をなぞるためだった。

だが今、ヤマトの心を突き動かしたのは、過去の英雄の模倣ではない。「マヤが海に出るから、自分もマヤのそばに行きたい」という、紛れもないヤマト自身の激しい感情だった。

 

頭で考えるよりも先に、ヤマトの身体が動いていた。

ヤマトは波止場の石畳を力強く蹴り飛ばすと、離れていく巨艦の甲板へ向かって、大空を舞うように大跳躍を見せた。

 

ダンッ!! と軽やかな音を立てて、後部甲板の真ん中にヤマトが着地する。

見送っていたはずの人物がいきなり空から降ってきたことに、甲板にいたマヤは目を丸くして声を上げた。

 

「……え? ヤマト?」

 

ヤマトは荒い息を整えることもせず、真っ直ぐにマヤの赤い瞳を見つめて叫んだ。

 

「マヤ! 僕も……私も、連れていってくれ!」

 

「いや、でもお前、ワノ国や親父さんのことは……」

 

彼女の人生を自分の都合で縛りたくないマヤが、一瞬だけ困ったように眉を下げる。

するとヤマトは、一切の迷いがない澄み切った声で言い切った。

 

「誰かに言われたんじゃない、私が自分で決めたんだ!」

 

その言葉と、ヤマトの瞳に宿る強い光を見たマヤは、ふっと口元を緩めて微笑んだ。

そして、まだ岸壁にいるカイドウの耳にもはっきりと聞こえる距離で、マヤは優しく答えた。

 

「そうか、お前が自分で選んできたのか。……なら、俺たちと一緒に暮らすか?」

 

ヤマトの顔がパッと歓喜に輝く。

その瞬間、波止場の岸壁に仁王立ちしていたカイドウが、大きく息を吸い込み、海原を震わせるような腹の底からの大声で叫んだ。

 

「マヤァァーーーッ!!! お前との戦い、楽しみにしてるからよ!! ヤマトを泣かすんじゃねーぞ!! 俺にはできなかったからよ! 絶対いつか俺と戦えよ!!」

 

不器用な父親が、強さゆえに自分で縛り付けることしかできなかった愛娘を、信頼する友へと託した最大のエールだった。

それを聞いたヤマトは、船の手すりから身を乗り出し、これまで見せたことがないほど晴れやかな、心からの笑顔で岸壁の父へと叫び返した。

 

「ありがとう! 親父!!!」

 

――ピタリ、と。

岸壁に並んでいた百獣海賊団の幹部たちが、一斉に息を呑んで目を見開いた。

ブラックマリアが口元を手で覆い、キングとクイーンが信じられないものを見るように顔を見合わせ、うるティが目をパチパチと瞬かせる。

二十年間、カイドウを憎み、反発し、刃を向け続けてきたあのヤマトが、自分の意志で海へ旅立つこの瞬間に、初めてカイドウを「父親」として認め、笑顔で感謝の言葉を口にしたのだ。

 

船の上のナミやロビン、そして岸壁のうるティたちが笑顔で手を振り合う中、仁王立ちしていたカイドウの巨大な目から、ボロボロと滝のような大粒の涙が溢れ出した。

 

「おろろろぉおぉーんっ!! あの、あのヤマトがよぅ……!! 俺に礼を言いやがったぞぉぉーーっ!!」

 

最強の生物と恐れられる四皇の豪快な男泣きの声が、遠ざかっていく白銀の船の後ろで、いつまでも青空へと響き渡っていた。

 

船内での航海中、新しく仲間に加わったヤマトは、ナミやロビン、たしぎ、レイジュ、コアラ、そして昔からの知り合いであるCP10たちから大歓迎を受け、賑やかで楽しい船旅を満喫した。

 

ところが数日後――船がシャボンディ諸島へと帰還し、マヤの本拠地である広大な宮殿へと足を踏み入れた瞬間、ヤマトは予想外の光景に直面することになった。

 

「お帰りなさい、マヤ聖! 皆様もご無事で何よりです!」

 

玄関ホールへと出迎えに現れたのは、清楚な白衣姿のカヤに、赤ん坊を抱いた優しい笑顔のマキノ、艶やかなドレスを着たステューシー、気品あふれるアラバスタ王女のビビ、そして双極の瞳を持つ美しい王女・シュリ姫。

さらに宮殿の奥に広がる巨大プールからは、海面から十二メートルもある人魚姫・しらほしが「マヤ様、お帰りなさいませ〜!」と顔を出し、ちょうど遊びに来ていたシャルリア宮までが「お兄様、遅かったじゃないですかエ!」と駆け寄ってきたのだ。

おまけにナミたちの話では、九蛇海賊団のハンコックや、トットランドにはプリン、ガレット、アマンドという女性たちまでいるという。

 

玄関ホールの真ん中で、美女たちの圧倒的な大所帯にぐるりと囲まれたヤマトは、目を白黒させながら隣のマヤを振り返った。

 

「マヤ! 僕も、ここで一緒に暮らすんだよな!」

 

「うん? そうだな」

 

ヤマトはもう一度、周囲の華やかな女性陣を端から端まで見渡し、ぽつりと呟いた。

 

「…………女の人、多くないか!?」

 

その素直すぎるツッコミに、ナミとロビンが顔を見合わせてクスクスと笑った。

 

「今ごろ気づいたの?」

「ふふ、歓迎するわ、ヤマト」

 

当のマヤ本人は、何の違和感も持っていない様子で「みんな、今日からヤマトも一緒だから仲良くしてくれよな!」と笑顔で手を振っている。

ヤマトは数秒間だけ固まったあと、すぐにポンと手を打って豪快に笑った。

 

「まーいいか! みんな、マヤの大事な家族ってことだろ! おでん……じゃなくて、私はそれを選んだマヤを信じてるからな!」

 

宮殿での生活が落ち着くと、そこにはマヤの屋敷特有の、自由で不思議な空気が流れていた。

 

別棟の医療区画では、ビビ、カヤ、ステューシー、マキノたちの医療・ケアチームが、順調に回復しているシュリ姫の周りに集まり、穏やかに談笑しながら彼女の心に寄り添っている。

一方、本館の明るく開放的な大サロンでは、メンバーたちが同じひとつの空間にいながら、それぞれがまったく別の作業に没頭していた。

 

窓際の大きなテーブルでは、ナミがコンパスと羽根ペンを動かし、今回のワノ国への航海で得た海流や気候のデータを緻密な海図へと描き込んでいる。

その向かいのデスクでは、レイジュが眼鏡をかけて書類の束と向き合い、ワノ国を保護下に置くにあたっての外交的な整理や、カイドウ側との連絡経路の構築を実務としてまとめ上げていた。

そしてキッチンカウンターからは、コアラが人数分の紅茶と焼き菓子を盆に乗せて運び、それぞれの手元へと自然に配って回る。

 

まだこの家での自分の役割が定まっていないヤマトは、一人そわそわとサロンの中を歩き回りながら、(すごいな……みんなただマヤに守られてるだけじゃなくて、自分の仕事をちゃんと持ってるんだな……)と感心していた。

 

すると、サロンの柱の近くで、護衛のCP10とたしぎの二人が、腕を組んで真剣な顔でワノ国での戦闘の「反省会」をしているのが耳に入ってきた。

 

「……CP10さん。あの場面でマヤ聖の制止を振り切って飛び出したお気持ち、私にはすごくわかります! 正直に言えば、私も同じことをしたかったのに、CP10さんに先を越されて悔しいくらいです! ……それに戦闘面でも、私たちが事前にもう少し立ち位置を詰められていれば、マヤ聖が麦わらに殴られる前に防げたかもしれません……」

 

「ああ。結果として場は収まったが、俺たちの連携と判断の速度をもう一段階詰める必要があるな。次からは、あのお方に拳が触れる前に処理するぞ」

 

真剣に課題を語り合う二人を見て、脇で聞いていたヤマトは思わず声をかけた。

 

「……おいおい、これ以上詰めるって、あれでよくないのか? 二人とも、僕の目から見てもものすごく強かったぞ?」

 

ギア5のルフィを体術だけで圧倒したCP10と、ゾロの斬撃を抜刀すらぜずにあしらったたしぎ。これ以上強くなる必要があるのかと首を傾げるヤマトに、CP10は静かに視線を向け、サロンの奥のソファでくつろいでいるマヤの背中を見つめた。

 

「ヤマト。マヤ聖を守るには、今のままじゃまだ足りないんだ」

 

CP10の声には、深い敬愛と揺るぎない覚悟が込められていた。

 

「あの人はな、誰よりも強いが、自分の傷には無頓着すぎる。だから、あの人は戦ってはいけないんだよ。……ヤマトも、もうわかるさ。あの人は、いつも笑顔でなきゃいけないんだ」

 

「……っ」

 

ヤマトはハッとして、ソファにいるマヤを見た。

百獣海賊団にいた頃、「強さ」とは他人をねじ伏せて支配するための力だった。だがこの場所では、誰もが「マヤが自分を犠牲にせず、ずっと笑っていられるようにするため」に自らの強さを磨いている。

ヤマトは自分の胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、小さく、しかし力強く頷いた。

 

そんな周囲の真剣な思いも知らず、サロンのソファでは、マヤとロビンがワノ国の地下から持ち帰った『ロードポーネグリフ』の拓本をテーブルに広げて向かい合っていた。

 

「いい、マヤ。この赤い石『ロードポーネグリフ』は世界に四つ存在していて、それぞれが海上の別々の地点を示しているの。その四つの地点を海図の上で結んだ時、浮かび上がる交点の中心に、最後の島『ラフテル』があるという仕組みなのよ」

 

歴史学者として目を輝かせながら解説するロビンに、マヤは紅茶を一口飲んで、実に軽い調子で言った。

 

「なるほどね。まあ、ワノ国のプルトンはしばし放置でいいな? ロードのほうは他の国にもあるらしいけど、行くか? そういやリンリンのとこにも赤い石があったっぽいから、あいつから写しを貰えばいいだろうしな」

 

「ええ、一緒に旅をしながらいきましょう。……まあ、今のあなたなら、そんな簡単に貰える……わね。今回もこうして写しはとってきたし」

 

「リンリンとは仲がよいからな。今から電伝虫で連絡してさ、俺たちが写しをとりにいく予定をたてるか、それともあっちから持ってきてもらうの、ロビンはどっちがいい?」

 

まるで近所の友人から本でも借りるかのようなマヤの提案に、ロビンは頬に手を当てて、少しだけ困ったように目を細めた。

 

「あの……マヤ、いくらなんでも軽すぎない? 最初からわかってはいたけれど……いくらあなたが世界の裏側を知っているからって、私の気持ち……歴史学者の探求心というものをね?」

 

ロビンにたしなめられたマヤは、「おおお、そうだな」と真面目な顔で頷くと、急に両手を広げてわざとらしく目を丸くしてみせた。

 

「じゃー、『わ!! びっくりだ! リンリンのとこに赤い石があるなんて!!』……ってやればいいか?」

 

「……違うわね……」

 

「……むずかしいね……」

 

しょんぼりと肩を落とすマヤを見て、ロビンは堪えきれずに口元を押さえて、鈴が鳴るように優しく笑った。

 

「ふふふ、いいわよ、そのままで。それが貴方だもの」

 

ロビンが拓本を丁寧に巻き直すと、マヤは近くにいたヤマトやナミたちの方を見渡して言った。

 

「あとの石は、ミンク族のいる『ゾウ』って場所にあるんだっけか。ロビンも知りたいだろうし、ヤマトも一緒に海を見たいだろ? 落ち着いたら、みんなでそっちへ行ってみるか」

 

「ほんとかマヤ!? やったあ、またあのすごい船で旅ができるんだな!!」

 

ヤマトが子供のようにはしゃいで歓声を上げ、ナミが海図を広げながら「じゃあ、新しい航路の準備をしておかないとね」と微笑む。

コアラが淹れた新しい紅茶の香りがふわりと漂う中、シャボンディの宮殿には、今日も穏やかで賑やかな笑い声が満ちていた。

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