この話は、マやがもし、介入時期がずれたら?という話です。。本編はじめのほうに、ナミとロビンの軽く話してた。
マヤのもし?を描いてます。
色々注意本編見てからのほうが楽しめます。
独自解釈で進みます。ダメな方はとばしてください
四皇カイドウが倒れ、ビッグ・マムことシャーロット・リンリンもまたワノ国の地で陥落した。
長きにわたり新世界の均衡を保っていた二大巨頭の崩壊は、世界中の海をかつてない混沌の渦へと叩き込んでいた。
時を同じくして、紅土大陸(レッドライン)の頂上に位置する聖地マリージョア。
世界各国の王たちが集う『世界会議(レヴェリー)』の三日目を迎えていたパンゲア城の内部では、王下七武海制度の完全撤廃が可決されようとしており、海軍本部はただの海賊へと戻る七武海たちを一斉に捕縛すべく全戦力を各地へ分散させていた。
パンゲア城の一角に設けられた海軍本部・臨時最高作戦室。
紫煙が立ち込める重苦しい室内には、現海軍元帥サカズキをはじめ、お目付け役として同行していた前元帥センゴク、そして大将のボルサリーノ、イッショウ、アラマキの五人が顔を揃えていた。
その緊迫した作戦室の重厚な双開きの扉が、突如として外側から蝶番ごと蹴り破られた。
ドゴォォォォンッ!!
凄まじい轟音と共に木の破片が室内へと飛び散り、砂煙の向こうから一人の青年が悠然と足を踏み入れた。
天竜人特有の宇宙服のような気泡緩衝材もつけず、白いシャツの袖を無造作にまくった赤髪と真紅の両目を持つ青年――シンキ・マヤ聖である。
「な、なんだと……!?」
センゴクが目を見開く中、マヤは室内の惨状など気にも留めず、デスクの奥に座るサカズキを真っ直ぐに見据えて怒声を叩きつけた。
「この世は腐った奴に汚染されたな、サカズキよ!! お前、今まで何をしてたんだよ?」
いきなり乗り込んできた若造の暴言に、サカズキの額に太い青筋が浮かび上がり、拳から灼熱のマグマがドロリと滴り落ちた。
「うるさいわ、天竜人ごときが!! こっちとら世界の正義の為にやっとるんじゃ!」
「ふざけるなよ? こっちは二十年間、毎日欠かさず民を守り、血のどぶを綺麗にしてきただろうが! お前こそ、誰にむかって偉そうにしてる?」
一歩も引かずに睨み返すマヤの迫力に、サカズキがわずかに言葉に詰まる。
「……マヤ聖が、シャボンディ諸島で長年どぶさらいをやっとることは知っとるやすよ……。ですが、もう止まらんのです! 時代のうねりが!!」
「お前らのやり方がぬるいんだよ。海賊どもの主張をまともに相手にしすぎてるんだ。思い出せや、頂上戦争でポートガス・D・エースが死んだときの、あの『赤髪』の行動をよ? お前はあそこで取り返しのつかない大きなミスを犯した」
「何をですかい?」
「今の新しい『四皇』の顔ぶれをみてみろ……よ」
マヤは懐から取り出した四枚の最新の手配書を、作戦室の巨大な円卓の上へとバサリと投げ出した。
そこに並んだのは、『赤髪のシャンクス』『千両道化のバギー』『黒ひげマーシャル・D・ティーチ』、そして『麦わらのルフィ』の四人。
マヤ、センゴク、サカズキ、アラマキ、イッショウ、ボルサリーノの視線が、その四枚の紙の上へと集まる。
「これを見て、何か見えないか? お前達」
世界徴兵で後から海軍に入ったアラマキとイッショウには、その裏にある古い因縁まではすぐに見えてこない。
「ただの新しい四皇ですが……」
サカズキが低く唸ったその横で、古い時代を知るセンゴクの瞳がハッと見開かれた。
「……まさか……」
サングラスの奥で手配書を眺めていたボルサリーノも、間の抜けた声で小さく息を吐き、天井を仰いだ。
(おやおやぁ……そういうことですかい……)
マヤは円卓に両手をつき、静かな、しかし氷のように冷徹な声で語り始めた。
「あのな……俺は二十年間、海賊どもの動きや、あの赤髪の動向をずっと下から見てきた。毎日どぶさらいをしてれば、世界中の船乗りから嫌でも情報が集まってくるのがヤルキマン・マングローブだ。世間の一部では『失敗の島』および『再出発の島』なんて呼ばれてるが、俺にとってはあそこに住むやつらは大事な家族だ! 駐屯してる海軍も、天竜人も含めてな。……そしてお前達はな、一番大事なことを見失っているんだよ。この四人の『共通点』をよ」
マヤの赤い瞳が、サカズキを射抜いた。
「サカズキ、お前はあの頂上戦争の時、エースを倒し、白ひげを倒した。なのになぜ、その場でインペルダウンの凶悪な脱獄囚どもを連れた黒ひげを即座に、確実に仕留めにいかず、赤髪の顔を立てて泳がせ、結果として世界中の民をないがしろにしたんだ? お前が中途半端な正義で妥協したせいで、クザンは海軍に愛想を尽かしていなくなったんだろうが!」
「ぐっ……!」
最も痛い失策を真正面から突かれ、サカズキは何も言い返せなくなる。
マヤは四枚の手配書を指先で弾いた。
「あのな、赤髪の野郎はよ、とうとう海の頂点を全部『自分の身内』で固めやがったんだよ」
その言葉に、センゴクが震える声で点と線を繋いだ。
「ゴッドバレー事件……黒ひげはその生き残りに関わる男。シャンクスと黒ひげは昔から戦い合っている因縁の仲だというのに、当時のシャンクスの実力からすればまだ三下だったはずの黒ひげは、なぜか今日まで生かされ続けている……。そして、同じロジャー海賊団の元見習い仲間であるバギーに、シャンクスを崇拝する麦わら……」
「そういうことですかい……」
サカズキが低く呻く。
シャンクスとバギーは同じ船で育った兄弟弟子のような関係であり、ルフィは言わずもがなのシャンクス崇拝者だ。そして黒ひげに至っては、シャンクスの左目に傷をつけた宿敵でありながら、頂上戦争で白ひげの『グラグラの実』を奪った直後、タイミングよく現れたシャンクスによって、海軍に討たれることなく無傷で戦場から逃がされている。
裏でカイドウを止めていたという名目があったとはいえ、本気で世界の均衡を守る気があるなら、その場でインペルダウンの脱獄囚ごと黒ひげを潰せばよかったはずなのだ。それをせず、「そのうち強い奴(ルフィ)が来る」というかのようにカイドウの動きを抑え、絶妙なタイミングで戦争を終わらせたシャンクスの動きを、マヤはずっときな臭いと睨んでいた。
「シャンクスがあの時、マリンフォードへ止めに来たのは偶然にしては出来すぎている。白ひげの能力を奪ったばかりの黒ひげをその場で倒すこともできたはずの男が、なぜ何もしなかった!? カイドウを止めていたと聞いたが……」
センゴクの疑念に、マヤは冷酷に頷いた。
「それは奴の身勝手な海賊びいきもあるが、要は黒ひげやバギーたちに戦力を補強させ、海賊の時代を長引かせたかったんだろ? そして、その盤面で一番いいように神輿として使われたのが麦わらだろうよ。カイドウが今までワノ国で止まっていたのも、今回の件に繋がる裏取引があったからだろうな」
マヤは背筋を伸ばすと、海軍の最高首脳陣を見渡して言い放った。
「お前ら海軍も、結局は海賊王ロジャーの作った舞台の上で踊らされてたんだよ、バカどもが! ……いいか、今日この瞬間より、天竜人の全権限を行使する『新・海軍元帥』は俺とする。異論は?」
室内が凍りついた次の瞬間、誰よりも早く反応したのは緑牛ことアラマキだった。
もともと天竜人を頂点とする絶対的な秩序を信奉していたアラマキは、自ら泥にまみれて民を守りながら海賊を根絶すると宣言した「本物の神」の降臨に、全身を震わせて歓喜の雄叫びを上げた。
「うおおおお!!! 一生ついていきますぜ!!!! マヤ元帥!!!」
「ま、待てアラマキ! マヤ聖、そんなことをすれば……世間からは天竜人に海軍が乗っ取られたと――」
「その点を考慮して、まず俺が世界に向けて過去の『オハラ』を公式に謝罪する。海軍が自分でやっても身内のマッチポンプにしかならねェ。だが、世界の最高権力者である天竜人が、海軍の過去の行いを直接謝罪する意味はデカいだろ? それで俺に向かう敵意も凄いだろうがよ、すべては民のためだ。そこから始めるぞ? これは決定だ、嫌なら今ここで俺がお前ら全員を叩きのめす」
ゴォォォォォッ!!
マヤが軽く一歩を踏みしめた瞬間、その全身から黒き稲妻を伴う『覇王色纏い』の覇気が爆発し、室内にいるサカズキ、センゴク、そして三人の大将全員へと寸分の狂いもなく的確に叩きつけられた。
パンゲア城の石壁がミシミシと悲鳴を上げ、サカズキが咥えていた葉巻の火が一瞬で吹き消える。
「こ、これほどの覇気を……! わっしの目がつぶれてるのが、これほど悲しい事だなんてありやせん……マヤ聖のお顔を、この目で直接拝見させてほしかったでやす……!」
イッショウが杖を握りしめて感嘆の声を漏らし、サカズキも「それほどのものを……」と額に汗を浮かべて息を呑む。
センゴクは、目の前に立つ青年の底知れない器に呆然と呟いた。
「まさか……あの少年が、ここまで育っているとは……。いや、それもそのはずだ、最も狂っていた大海賊時代の暗黒期をたった一人で生き抜いていたんだ。コング元帥の時代にシャボンディで見かけたあの小さな少年を、わしはずっと見てきましたからな、マヤ聖……」
「ふん……こんな覇気、どぶの中で死にかけた時にいつのまにか使えたさ。あの血のどぶが、二十年かけて今は綺麗などぶになった。……今度は、世界のどぶさらいをするぞ」
そこでマヤは、ふと思い出したようにアラマキの方へと視線を向けた。
「おい、それにアラマキ。お前ついこないだ、ワノ国で赤髪に覇気で威嚇されて、すごすご帰ってきたんだってな?」
「うっ……! いや、面目ねェです、マヤ元帥……! あいつの覇気は尋常じゃなくて、今はまだ赤髪一味と戦う時期じゃねェって引き下がっちまいました……」
小さくなるアラマキに、マヤは鼻を鳴らした。
「別にお前を責めてんじゃねェよ。俺が言いたいのは、『なぜ赤髪があのタイミングでワノ国の近海にいたか』ってことだ。世間のバカどもは『赤髪が新世代のルフィ達を海軍から守ってくれた! カッコいい!』なんて脳天気に騒いでるだろうが……あいつのやってることは完全に『悪役』のそれだぞ」
「悪役……? どういう意味ですかい、マヤ聖」
サカズキが眉をひそめて尋ねると、マヤは吐き捨てるように言った。
「あいつはルフィを可愛い部下か何かに仕立て上げて、自分の都合のいい神輿にしたいだけだ。本当にルフィの実力を信じて『新時代』を託す気なら、満身創痍だろうが何だろうが、海軍の大将ひとりくらい自力で超えさせりゃいい。それをわざわざ遠くから過保護に覇気で手助けして、カイドウ討伐の手柄を全部ルフィの身内……海賊側に持っていかせた。そのくせ、カイドウという最大の抑止力を失って防衛力がすっからかんになったワノ国の『民』のこれからは、あいつは一ミリも考えてねェ。海軍を追い払ってドヤ顔で去っていったが、残されたワノ国をどう守るかのシステムは何一つ作ってねェだろ」
「……つまり、海賊のメンツと身内の利益のためだけに、一国の安全保障をひっかき回して放置した、と……」
センゴクが呻くように頷く。
「そうだ。やってることが独善的でブレブレなんだよ、赤髪の野郎は。海軍を悪者に仕立て上げて、自分たちは『自由な正義の味方』のツラをする。その美化されたお芝居のせいで、世界中の無知な民が『海賊ってかっこいい!』って騙されて、余計に海へ飛び出して略奪や暴動を起こす。いいか、お前達。これ以上、あの赤髪のきな臭いマッチポンプに踊らされるな。あいつらが自由ごっこでこれ以上民を泣かせる前に、イーストブルーから各地の出目をすべて新海軍で包囲し、海賊のうねりごと根こそぎ圧殺するぞ」
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「謝罪会見の前に、まず抑えるべき場所を教える。海賊どもを精神的にも物理的にも動けなくするぞ。奴らの出身地と通過ルート――『出目』を洗え、そこをすべて海軍が保護・掌握する。四皇の資料を全部出せ」
マヤの号令で、テーブルの上に膨大な調査ファイルが広げられた。
書類をめくっていたセンゴクが、改めて驚いたように声を上げる。
「こうして見ると、麦わらの一味の主要メンバーは、ほとんどが東の海(イーストブルー)に固まってますな。しかもシャンクスも長らく東の海に滞在していた時期がある……なぜあやつほどの四皇が最弱の海に……? おまけにバギーまでもが東の海で活動していたとは!?」
「お前達は今まで、こんな基本的なことにも気づいてなかったのかよ……。資料の杜撰さを見てこっちがびっくりだぞ。そして、東の海のローグタウンからずっとこいつらに関わってる海軍……スモーカーに、たしぎか……」
マヤが二人の海兵のファイルを抜き出すと、サカズキが険しい顔で言った。
「ただちに呼び出しますか? まさか、奴らも裏で海賊と何か内通を?」
「バカか? お前。裏で内通も何も、こいつらは海賊に負け続けて、躍起になって追いかけ回すことで結果的に麦わらどもの手助け(踏み台)になってるのに自分たちで気づいてないだけだろ。ちっぽけな正義を掲げて、海賊を英雄に育て上げてどうすんだ。今すぐG-14支部に電伝虫をつなげ。それと、ガープはすぐここへ来れるか? 呼び出せ、主要メンバーは一度全員招集だ」
すぐさま通信兵がエッグヘッド近海のG-14支部へと回線を繋いだ。
『――はい、こちらG-14支部、海軍大佐たしぎです。本部からとは、何か緊急の用ですか?』
受話器を取ったマヤは、一切の前置きなしに告げた。
「はじめましてだな、俺は天竜人のマヤ聖だ。たしぎ、お前を今から海軍本部へ呼ぶ。その後、スモーカーも含めてお前らの査問会を開く。以上だ」
『えっ……!? な、なぜですか!? 私たちは海賊を追って――』
「いいから本部にこい、それで話が済む。これは天竜人であり新元帥である俺の命令だ、いいな?」
ガチャン、と一方的に受話器を置いたマヤは、センゴクとサカズキを振り返った。
「それと、今この世界会議に来ているアラバスタのコブラ王とビビ王女を緊急に保護する。あいつらは過去に麦わらの一味と深く関わってるからだ。……『上』の連中には、今から俺が自ら話をつけにいく。いいな? お前達は少し焦らずに動け。コブラとビビは『保護』という名目で俺が直接査問する、誰にも触れさせるな、すぐに身柄を押さえろ」
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世界会議三日目の午後。
王下七武海制度の撤廃が決まった直後、マヤはただ一人でパンゲア城の最奥――五老星が居座る『権力の間』へと足を踏み入れた。
この時点ではまだ、部屋には五人の老人――科学防衛武神サターン聖、法務武神ウォーキュリー聖、財務武神ナス寿郎聖、環境武神マーズ聖、農務武神ピーター聖の五老星しかいなかった。
「よう老いぼれども、はじめましてだな! まあ、俺の事を知ってるやつもいるだろ? シャボンディの変わった天竜人で、周りからバカにされてるからな」
ポケットに手を突っ込んだまま笑うマヤに、杖をついたサターン聖が怒りを露わにして立ち上がった。
「貴様、シンキ家のマヤ聖か……! ただの天竜人のくせに、なぜこの権力の間へ無断で入った! なにようだ!!」
「ああ、そうだったそうだった。話をするのはここじゃないな。『虚の玉座』に挨拶しないとなんだったな。お前らも全員ついてこいよ?」
ウォーキュリー聖とナス寿郎聖の顔色が変わる。
「貴様、トチ狂ったのか!? あそこがどういう場所か分かって言っておるのか!」
「誰も座らない空っぽの椅子に挨拶しないとなんだろ? それくらいは俺でも知ってるさ。そこでお前達に話すことがあるんだ、一緒にいこうや? ……それとも、ここで俺をやるかい? 天竜人同士で殺し合いをして、下の民がなんていうかね?」
「「ぐぬぬぬっ……!!」」
マヤの不敵な笑みと、底知れない気配に押され、五老星たちは苦虫を噛み潰したような顔でマヤの後ろについて歩き出した。
やがて一行は、無数の武器が突き立てられた巨大な階段の先にそびえる『虚の玉座』の間へと到着した。
「そうカッカするなよ、じじいども。この椅子に挨拶をしないといけない『ルール』なんだろ? それをお前らに見届けてくれといってるだけだ」
そう言いながら、マヤは五老星の目の前で二十本の剣が並ぶ階段を無造作に駆け上がると――世界で誰一人として座ってはならないはずの『虚の玉座』のど真ん中に、ドカッと平然と腰を下ろし、足を組んだ。
「なかなかいい眺めじゃないか。ま、くそみたいな座り心地だけどな」
五老星が「き、貴様ァァーーッ!!」と絶叫した、まさにその瞬間だった。
玉座の奥の暗がりから、長い冠を被った黒い影――世界の真の支配者である『イム』がすっと姿を現し、空間そのものを凍りつかせるような濃密な殺気が部屋中に漏れ出した。
五老星が一斉に床へとひれ伏す中、玉座に座ったままのマヤは、現れた影をチラリと見て言った。
「おい、お前誰だよ? 殺気がだだ漏れだぞ?」
『……話すことはない。その椅子に座っていいのは、私だけだ!!』
イムの声と共に、床から巨大な黒い矢印のような触手が猛烈な速度で出現し、玉座のマヤを串刺しにせんと襲いかかった。
だが――バチバチバチィッ!!
マヤが座ったまま片手を払った瞬間、空間の水素原子核を共鳴させる固有能力『NMER』と極限の『覇王色纏い』が黒い雷となって炸裂し、イムの触手を空間ごと粉々に弾き飛ばした。
「なっ……!?」
イムが息を呑んで目を見開き、床に伏していた五老星たちも信じられないものを見るように顔を上げた。
「いきなり攻撃かよ、座っただけだろ? 何がいけないんだ、今『私の椅子』っていったな? 表向きのルールじゃ、この世界にひとりの王はいないんじゃないのか?」
『…………』
「今ので、俺とお前らの『力の差』はわかったね? 俺は今日、このバカな世を終わらせるために来た。お前たちも含めてな? 下の民が毎日嘆いてるのを見て、俺は心底うんざりしてるんだよ」
すると、サターン聖が震えながらも立ち上がり、世界政府の正当性を盾にマヤを睨みつけた。
「き、貴様、何も知らん無知な若造が……! 我々がこの八百年、どれほどの歴史の闇……『ジョイボーイ』の残滓を葬り、世界の均衡を保ってきたと思っている!」
「歴史の闇? ジョイボーイ? ――ハッ、知るかよそんな死人の名前」
マヤは玉座の上から、ゴミでも見るような冷たい目でサターンを見下ろした。
「八百年前に誰が勝って誰が負けたかなんて、いまシャボンディのどぶ底で海賊に攫われ、奴隷にされて泣いてるガキには一ミリも関係ねェんだよ。お前らが過去の因縁ごっこで数百年も胡坐をかいてる間に、今生きてる民がどれだけ血を流したと思ってる? 過去の秘密が暴かれる前に、権力者が悪さをできねェ『制度』を俺が今ここで作るんだよ。イム、お前らの言う『秩序』ってのは、過去の隠蔽と海賊のケツを追いかけることか? 違うだろ。『民なくして人はなし』だ。俺は過去のオハラを謝罪し、海軍を民を守る絶対的な防壁にするっていってんだよ」
マヤは指を立てて、決定事項を突きつけた。
「まず、オハラを公式に謝罪して、コブラとビビ、そしてイーストブルーを完全に掌握する。コブラは俺が査問会にかける、あいつらは麦わら一味との繋がりがあるからな。異論は? どうせお前ら、『D』の名前にもビビりすぎてるってことだろ? 雑魚どもがよ。そんなに怖いならとっとと神の騎士団でも何でも使って処理すりゃいいじゃねーか、やってることが意味不明なんだよ、お前らはよ」
『……Dに怯えるのは当然だろう? 奴らは我々の秩序を乱す神の天敵なのだぞ?』
「なら、いいことを教えてやるよ、イム。俺の表向きの名前は、シンキ・マヤだ。だがな、本当の読みは『カミキ・マヤ』――英語で綴れば『ONI of go D Maya』だ」
ピタリ、と。
イムと五老星の全員が、雷に打たれたように絶句した。
五老星たちが殺気を放って飛びかかろうとしたが、イムが片手を上げてそれを強く制止したため、老人たちは歯ぎしりをして立ち止まるしかなかった。
『まさか……八百年前のネフェルタリ・D・リリィのような存在……? いや、その赤い髪と真紅の両目……まさか! 君は、二十数年前にマンマイヤー家とシンキ家の二人が悲恋で死んだと言われている、あの時の落とし子か!?』
「さぁ〜な? 俺は詳しいことは知らないさ。俺の目が両方赤目で、赤髪なのは事実だがな? 両親はなんぞ、あの海賊王気取りのロジャーの言葉のせいで混乱の中で死んだと聞いてるさ。何が『財宝を置いて隠した、探せ』だ。大航海時代? 違うだろうが! ただの『大怨念時代』の到来だっただけだろうが! あの言葉のせいで、罪のない民がどれだけ死んだ? お前もそれと同じなんだろ? イム。自分の都合だけで民を無視してる!」
ズゥゥゥゥンッ!!
マヤの全身から放たれた圧倒的な覇気の奔流が玉座の間を揺るがし、イムは一歩後ろへとたじろいだ。
『……そういうことか……。まさか、君があの時の子供だったなんて……』
「まずは、何だっけか? ネフェルタリ家も『D』だと? だが、コブラたちに絶対に手を出すなよ? ここで王を殺せば世界のうねりが余計にひどくなる。すでに俺のほうで二人の身柄は押さえてある。わかったな?」
『……わかった、君の言う通りにするよ……。まさか、Dの血を引く君がこちらの味方になってくれるとはね……』
「それと、加盟国から徴収してる天上金(上納金)、あれは上げすぎだ。今すぐ平均以下に抑えろ、いいな? 『金が足りない』と文句を言う天竜人がいたら、俺が直々に粛清する。それも頭に入れろ。少しは節約しろってことだ、今まで民をないがしろにしたんだから当たり前だろ?」
マヤは言いたいことだけを言い終えると、虚の玉座からひょいと立ち上がって階段を降りた。
「これから俺は忙しくなる。また来るぞ。俺は民を守るからな」
五老星たちが「ぐぬぬ……」と屈辱に震える中、見送るイムの黒い瞳の奥にだけは、(……あやつとなら、八百年の孤独を越えてわかりあえるかもしれない……)という奇妙な光が宿っていた。
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その直後、世界中に向けて緊急の映像電伝虫とラジオ回線が繋がれ、歴史を覆す会見が始まった。
白い海軍元帥のコートを肩に羽織ったマヤの背後には、前元帥センゴク、サブ元帥となったサカズキ、そしてボルサリーノ、イッショウ、アラマキの三大将が一列に並んでいた。
『――世界中の民のみなさん。まず初めに、これまでの海軍および世界政府の不祥事を深く謝罪いたします。世界政府代表として、天竜人であるこの私、シンキ・マヤが本日より新たな海軍元帥へと就任いたします。これまでの大将はそのまま留任し、サカズキもサブ元帥・お目付け役として、センゴクと共に私を支えていく所存です』
天竜人が自ら海軍元帥となり、しかも柔和ではなく鋼のように真剣な表情で語り始めたことに、世界中の人々が画面に釘付けになった。
『二十二年前のオハラの件も、ただの過去の過ちでは済まされません。政府が学者たちに行った過剰な粛清の非を公式に認め、ここにオハラの被害を心より謝罪いたします。そして現在、凶悪な麦わらの一味に捕まっているオハラの生き残り、ニコ・ロビンさんを、海軍が全力をもって保護すべく動きます!』
そしてマヤは、カメラの向こうで海賊の暴力に怯えて暮らす何億もの市民たちを見据えた。
『そして、海賊に怯える民たちへ! これからの新海軍は、徹底して海賊を潰しに行くと宣言します! 今までの海軍は、圧倒的強者でもある海賊に対して「拿捕・捕縛」に努めてまいりました。ですが、その中途半端な行為が脱獄や再犯を招き、結果として民を苦しめることになったことを、深くお詫び申し上げます!!』
マヤが深々と九十度に頭を下げると同時に、後ろに並ぶセンゴク、サカズキ、そして三人の海軍大将までもが一斉に頭を下げた。
『今回の件はすべて、号外新聞にて各王国へ回させていただきます!』
神であるはずの天竜人と海軍の最高戦力が、民衆のために揃って頭を下げた衝撃のニュースは、瞬く間に世界中へと駆け巡った。
会見を終えたマヤは、そのままパンゲア城の特別保護室へと向かった。
サカズキが外の警備指揮を執り、三大将がすでに出撃準備に入る中、部屋の中ではセンゴクの立ち会いのもと、アラバスタ王国のコブラ王と王女ビビが緊張した面持ちで待っていた。
「はじめましてだな、コブラ王に、ビビ王女」
「……何の用ですかな? 新しい海軍元帥殿……」
車椅子のコブラが警戒し、隣に立つビビがマヤを鋭く睨みつける。
「単刀直入に言う。世間では、お前達アラバスタは『海賊に救われた国』という見方をしている……」
そこまで言いかけて、マヤはふと天井近くの通気口の奥へと視線を走らせた。
通気口の暗いダクトの奥では、コブラ王を救出しようと潜入していた革命軍参謀総長・サボが息を殺して部屋の中を覗き込んでいた。
「……誰か見ているが気にせず……時代のうねりが止まらないからな。世界政府を潰したいんだろう、それは大いに結構。だが俺は、その巻き添えで『民』を潰すのは絶対に認めない。民なくして国は成り立たないし、権威もないからだ」
「……貴方は、そこまで民のことをお考えで?」
コブラが驚いたように目を見張る。マヤは隣で睨んでいるビビの方を向いて、ふっと口元を緩めた。
「俺はずっと民と共にあったからな。……そっちはビビだろ? この評議会が始まる前、シャボンディの港で俺と会ったろ?」
「え? ……どこで、ですか?」
「俺だよ、港の水路でどぶさらいをしてた男だよ」
その一言に、ビビの瞳が愕然と見開かれた。
数日前、世界会議に出席するためシャボンディ諸島の港へ船を着けた際、泥だらけになって水路のゴミを一人でさらっていた若者がいた。『大変な仕事ですね』と声をかけたビビに、『ここを綺麗にしとかないと、みんなが気持ちよく歩けないからな』と爽やかに笑っていたあの青年――。
「ま、まさか……あの時、どぶに入っていた方が……!? な、なぜそんな方が急に海軍元帥などに!?」
「俺の名前は、シンキ・マヤ聖。生まれつきの天竜人だよ」
「天竜人の権力で強引に元帥に……? でも、なぜ! それならさっきの謝罪会見の説明が――」
混乱するビビの言葉を遮り、マヤはすっとコブラの車椅子の前へと歩み寄った。
そして、天井の通気口に潜むサボには絶対に声が届かないように、コブラとビビの耳元にだけ届く極小の声で静かに囁いた。
「(……またの名を、カミキ・マヤ。『ONI of go D Maya』だ。お前たちの先祖、ネフェルタリ・D・リリィと同じだよ、コブラ……。今、何か言いたいようだが、それは君が口にしてはダメだ、いいね?)」
ダクトの奥で耳を澄ませていたサボは、マヤが急に口元を隠して何かを囁き、音の波長そのものがフッと消えたことに眉をひそめた。
(くそっ、急に声が聞こえにくくなったぞ……!? 今、コブラ王に何を言ったんだ……!?)
一方、目の前で最大の禁忌を封じられたコブラは、震える息を呑んでマヤを見上げた。
「貴方は、なんということだ……。世界から、海賊を消すというのか?」
マヤは一歩下がり、再び通気口の奥にも聞こえる通常の声量へと戻して言った。
「そうだ……。ビビも、コブラも、よく考えろ。ロジャーのあの言葉は、俺達にとっては呪いになったんだよ」
「どういうこと? ルフィさんは、私たちの国を救って――」
「ロジャーがあんなことを言わなければ、七武海制度もない。つまり、これほど多くの海賊が海に溢れること自体がなかったんだよ……。それに、二年前のインペルダウンの悲劇を知ってるか? 海賊たちの間では仲間を助けた美談だが、あの脱獄囚どものせいで、裏では何人死んだと思う? 罪のない民と海兵が、万単位で死んでるんだぞ? それを引き起こしたのは麦わらのルフィだ。わかるか? あいつは結果として、万人の命を奪ったのと同じなんだよ」
「……つまり、なんということなの……」
「そこまでの考えで……」
絶句するビビとコブラを前に、マヤは淡々と続けた。
「俺もあの呪いの言葉のせいで、幼い頃に両親が死んだらしい。まあ、俺にはその辺は覚えてない、なんせ俺は五歳からずっとシャボンディでどぶさらいをしてるからな。死者を弔い、民を救い、奴隷を逃がしてきた。天竜人がすべて悪いという見方もおかしいだろ? イーストブルーでそんな思想はあったか? 四皇の支配なんてものがあったか?」
「そんなの、あまり聞いたことがないわ……一部に腐敗した場所はあったのでしょうけれど」
「そうだ、歴史は色々歪められてる。そのうねりを海賊に任せたバカがいる、それだけだよ。なので、アラバスタには今日から俺の保護下に入ってもらう。決定事項だ」
「……わかりました。かつてアラバスタを救ったのは、海軍です」
「お父様、でも……」
「ビビ、麦わら一味は四皇になった。いや、ならされたんだよ……。ワノ国にはこれから俺たち海軍が入って平和維持をするが、カイドウがやられた直後にうちの大将が介入したらな、なんと赤髪が邪魔をして海軍を寄せつけなかったんだよ。ルフィ一人の功績にしたんだ。この意味がわかるか?」
「まさか……アラバスタも?」
「見方によっては、あいつらの踏み台にされただけさ……。あいつが本当に友達をすべて救う気なら、敵を倒した『その後』も考えないとじゃないか? 今あいつは四皇くらいの強さにまでなってる。なのに、なぜ今危機にあるアラバスタをどうこうしようとしない? 保護しようとしない? 何故だ?」
「…………」
「それが答えだ。ビビ王女、どうかこの現実をわかってください」
マヤが深々と頭を下げると、コブラは慌てて手を振った。
「マヤ聖、そのように頭を下げては!」
「いや、これが俺のけじめだ」
「……わかりました」
その直後だった。
マヤが通気口へ向けて鋭い覇気を飛ばした瞬間、潜んでいたサボが「ちぃっ、バレてたか!」と格子を蹴り破って回廊へと飛び出し、逃走を図った。
だが、回廊の先にはマヤの指示で待機していたサブ元帥のサカズキが立ち塞がっていた。
「逃がさんぞ、革命軍の参謀総長ォ!!」
「くそっ、赤犬か……! 『火拳』!!」
ドゴォォォンッ!!
パンゲア城の回廊で、サボの炎とサカズキのマグマが激しく衝突し、柱や壁が吹き飛ぶ。
その物陰では、マヤが事前に配置していた情報部の写真家が、炎を振り回して平和会議の会場を破壊し、サカズキと戦うサボの姿を連続でカメラに収めていた。サボはその撮影の閃光に気づかぬまま、サカズキの一撃で肩口に火傷を負いながらも窓を突き破り、出港間際のルルシア王国の船へと命からがら逃げ延びていった。
翌朝、世界会議四日目。
夜明け前に東の海(イーストブルー)のフーシャ村、シロップ村、ココヤシ村への見分と直轄保護の手配をすべて完了させたマヤは、世界五十カ国の王たちが集うパンゲア城の円卓評議会場へと直接乗り込んだ。
バンッ!! と扉を開けて入ってきたマヤ元帥の姿に、円卓を囲む王たちが一斉にざわめく。
その席の一角では、ゴア王国の若き国王ステリーと、悪政で知られるブラックドラム王国の国王ワポルが、ふんぞり返って不満げに声を上げた。
「な、なんだ貴様は! 新しい海軍元帥だか天竜人だか知らんが、ここは王族たちの神聖な会議場だぞ! いきなり天上金を下げるとか、ゴア王国の内政を調べるとはどういうつもりだ!」
「そうだそうだバクバク! 俺様の国にも海軍の監査を入れるだと!? ふざけるな、王権の侵害だぞ!」
喚き散らす二人の愚王を、マヤは氷のように冷たい瞳で見下ろした。
「王権? 民の血税を吸い上げて私腹を肥やし、ゴミ山に人を捨てて焼き殺そうとしたゴア王国の腐敗貴族どもと、かつてドラム王国で医者を独占し、国が海賊に襲われた途端に民を見捨てて逃げ出したワポル。お前らに王を名乗る資格がどこにある?」
「なっ……!? なぜ昔のドラム王国のことを……!」
「全部徹底的に洗い直したんだよ。ワポル、お前が過去に犯した国家遺棄と横領、ならびに市民への暴行の余罪はすべて証拠が揃ってる。天竜人であり海軍元帥である俺の権限で、お前の王位を今この場で剥奪し、インペルダウンへ永久収監する。衛兵、こいつを引きずり出せ!」
「ひぃぃっ!? ま、待て、俺は世界政府加盟国の王だぞ! 離せェェッ!!」
衛兵たちに両脇を抱えられて引きずり出されていくワポルを見て、ステリー王の顔からサッと血の気が引いた。
「そしてゴア王国。ステリー、お前を含めた現在の腐敗した王族と貴族のトップは今日付で全員解任し、海軍本部が直接行政を刷新・管理する。文句があるならワポルと同じ牢に入れてやるが、どうする?」
「ひ、ひいいいっ……! し、従います、すべてマヤ元帥の仰せの通りにぃっ……!」
ステリーが涙目で床に頭を擦りつけ、会場の王たちがゴクリと唾を呑む。
マヤは円卓を見渡し、堂々と宣言した。
「これにて、王下七武海制度は完全に取り潰した。あいつらは所詮、海賊だからな。ただし、九蛇の女帝ボア・ハンコックに関しては、俺自らが直接赴いて対処する。あの石化の能力は普通の海兵では厄介だ、いいな? ……そして本日より、アラバスタ王国を俺の直轄保護国として正式に認定する。以上をもって、今回の世界会議は閉会とする!」
評議会を圧倒的な速度で終わらせたマヤは、その足でマリンフォードの海軍本部へと移動し、G-14支部から緊急招集していたたしぎ大佐とスモーカー中将の査問会を開いた。
厳重な査問室のデスクの向かいに、緊張した面持ちのたしぎと、葉巻を消したスモーカーが直立している。
マヤは二人のこれまでの活動報告書をパラパラとめくり、冷徹な声で口を開いた。
「来たな、スモーカー、たしぎ。お前らの東の海からの報告書、全部読ませてもらったぞ。ローグタウン、アラバスタ、マリンフォード、そしてパンクハザード……。お前らは『正義』を掲げて麦わらの一味をずっと追いかけ回しながら、結果としてどうなった?」
たしぎがハッと息を呑み、眼鏡の奥の瞳を揺らす。
「お前らは毎回あいつらに負け続け、あるいは一時的に手を組み、あいつらが四皇にのし上がるための都合のいい『踏み台』と『手助け』になってきた。自分たちが海賊を英雄に育て上げていたという自覚はあるか?」
「くっ……! 俺たちの力不足は認める。だが、アラバスタやパンクハザードでは、現場の市民や子供たちを守るためにやむを得ず――」
「その『やむを得ず海賊に頼った』という海軍の弱さが、今の狂った時代を作ったんだよ、スモーカー」
マヤの言葉が、刃のように二人の胸を抉る。
たしぎは両拳をスカートの上で強く握りしめ、悔し涙を滲ませながら声を絞り出した。
「……わ、私も、自分が弱いことがずっと悔しかったです……っ! 海賊を目の前にして、いつも力が足りなくて……! でも、私はただ、海賊の暴力から泣いている人たちを守りたくて……!」
マヤは俯くたしぎの顔をじっと見つめた。
その瞳に宿る「民を守りたい」という思いに一切の嘘や私欲がないことを見抜いたマヤは、デスクから立ち上がった。
「泣き言で民は守れねェよ、たしぎ。海賊に負ける正義は、民からすれば無能と同じだ。……だが、お前が本気で民を守りたいと願うその目だけは悪くない。たしぎ、今日からお前は俺の直轄配下に入れ。二度と海賊ごときに遅れを取らない本物の強さと、覇気の使い方を俺が直接叩き込んでやる」
「えっ……!? わ、私が、マヤ元帥の直轄に……!?」
「嫌か? 相当厳しいぞ」
「い、いいえっ! 命に代えても、マヤ元帥の元で強くなります! よろしくお願いしますっ!」
たしぎが深々と頭を下げるのを見届け、マヤは休む間もなく次なる目的地――凪の帯(カームベルト)の女ヶ島『アマゾン・リリー』へと超高速軍艦を出航させた。
アマゾン・リリーの沿岸。
七武海撤廃を受けて島を包囲していた海軍の艦隊の前に、マヤの乗る元帥専用艦が到着した。すでに現場にいたコビー大佐たちに「お前らでは全員石にされて被害が出る、全員船に下がってろ」と命じたマヤは、ただ一人で島の岸壁へと降り立った。
待ち構えていた九蛇の戦士たちをかき分け、巨大な蛇(サロメ)を従えた絶世の美女――『海賊女帝』ボア・ハンコックが、激しい憎悪の目を向けて歩み出てきた。その後ろには、妹のサンダーソニアとマリーゴールドも武器を構えて控えている。
「わらわの島に足を踏み入れるとは、いい度胸じゃ……! 海軍の新元帥と言ったか、しかも貴様、わ らわたちがこの世で最も憎む『天竜人』の血族じゃな!?」
ハンコックが両手でハート型を作り、周囲の海兵ごとマヤを石化させんと『メロメロ甘風(メロウ)』の光線を放った、
「それは、俺には効かないさ。お前に魅力は感じるが、その魅力の見方が違うからよ?」
続くハンコックの覇気纏いの蹴り『芳香脚(パフューム・フェムル)』をも、マヤは片手のひら一つで軽々と受け止めてみせた。
「なっ……!? わらわの技が、まったく効かぬじゃと……!?」
驚愕に目を見開くハンコックの手首を静かに離し、マヤは攻撃する素振りすら見せずに、ハンコックと二人の妹たちの目を真っ直ぐに見つめた。
「俺は今日、お前らと戦いに来たんじゃねェよ、ハンコック。……お前たちの背中にある、その忌まわしい『天翔る竜の蹄』の烙印。十六年前、お前たちがマリージョアから逃げ出したあの夜のことを思い出せ」
「き、貴様……! その話を口にするな! 貴様ら天竜人に何がわかる!!」
「わかるさ。十六年前、フィッシャー・タイガーが聖地に火を放ったあの日、シャボンディ諸島の暗い水路の底で、追手の目をごまかして鎖を砕き、お前たち三姉妹を船へ逃がすための道を作っていた『10歳のガキ』がいたのを、お前ら覚えてないか?」
ピタリ、と。
ハンコック、サンダーソニア、マリーゴールドの三人の動きが凍りついた。
「お前たちも覇気の使い手なら、俺のこの気配……あの夜、泥だらけになりながら『早く逃げろ、もう泣くなよ』って背中を押したガキの波長を、見聞色で感じてみろ」
マヤが殺気を完全に消し、二十年間シャボンディで奴隷たちを救い続けてきたあの温かく澄み切った覇気をそっと広げた。
その波長に触れた瞬間、ハンコックの脳裏に、十六年前の地獄の夜、震える自分たちの手を泥まみれの小さな手で引いて逃がしてくれた赤髪の少年の記憶が鮮烈に蘇った。
「あ……っ、まさか……あの時の、シャボンディの少年が……そなたじゃったというのか……!?」
「姉様……! この人の気配、本当にあの時の恩人の方のものです……!」
サンダーソニアが涙ぐみ、ハンコックの瞳から敵意が完全に抜け落ちていく。
「タイガーは、誰も恨まずに笑って生きろと願ってた。俺は今、天竜人の権力を使って、お前たちを苦しめた腐った制度も、民を脅かす海賊も全部掃除してる。ハンコック、お前たちが国を守るために『海賊』の看板を掲げる必要はもうない。今日からアマゾン・リリーは、俺の直轄保護国として手出し無用の聖域にする。……それで手を打たないか?」
自分たちを救ってくれた命の恩人が、今や世界の頂点に立って再び自分たちを守ろうとしてくれている。
ハンコックは震える手で胸元を押さえ、生まれて初めて男性の前で膝を折り、潤んだ瞳で深く頷いた。
「……そなたが、あの時の恩人であったとは……。わらわとしたことが、なんと愚かなことを……。わかり申した、マヤ様。この九蛇の島とわらわのすべて、今日よりそなたの保護下へと委ねまする……!」
こうして九蛇との和解をも成し遂げた直後、さらに世界を揺るがす作戦が決行された。
ワノ国を出航したばかりの麦わらの一味に対し、シャンクスがエルバフ方面へと向かって離れた隙と、ルフィがカイドウ戦の消耗からまだ完全に力を取り戻していないタイミングを正確に突き、マヤの命を受けた大将アラマキが強襲を仕掛けたのである。
アラマキは一味を森の能力で圧倒し、標的であった歴史学者『ニコ・ロビン』の身柄だけを鮮やかに捕縛して海軍本部へと連行した。
本部の特別室。海楼石の手錠を外された状態で椅子に座らされたロビンの前に、マヤが一人で現れた。
「まずはニコ・ロビン、君に謝罪をする。すまない、ああいう形で君の身柄を押さえてしまってな。仲間から引き離したんだ、罵倒も受けよう。俺は忙しい身で、こうすることでしか会えなかったんだ」
ロビンは警戒に身を固くし、厳しい声で問い詰めた。
「何が望みなの!? 今さら謝ったところで、私のオハラは戻らない!!」
「そうだな、戻らない。だから謝って済む問題でもない。だから、君の手配書をまずなくさせてもらった。そして、海賊である意味をやめさせる。君を保護する、ここで好きに歴史を調べてくれていい」
「貴方、正気なの? 何を言ってるの? 私に海賊をやめろですって!?」
「君は海賊である必要があるのかい? これから海軍は動く、すべての海賊を徹底して潰すつもりだ。俺にも過去はある。だからこそ、明日を海賊に脅かされない世界を、そして世界政府の隠蔽にも屈しない世界にするしかないんだよ。その手助けをしてくれないか?」
「貴方は……何を……私の何を……」
「つらさの共有はできる。そして、未来を生きることもな?」
マヤはロビンの目を真っ直ぐに見つめて言った。
「俺は、海賊のままオハラの生き証人を終わらせたくない。誇り高い『学者』として生きてほしいんだ。わかるだろ? オハラは世界的に謝罪された島になった。なのに、その生き残りは海賊でしたじゃ、お前のお母さんたちに顔向けできない……。だから、ゆっくりでいい、今すぐわかってくれとも言わない。今は受け入れてほしい」
母オルビアたちの誇りを守るという言葉に、ロビンはハッと息を呑み、瞳を潤ませた。
「……貴方も、何か抱えてるのよね……海軍元帥なのに……」
「俺はな、海軍元帥の前に、天竜人だよ.そして、お前も海賊である理由はないはずだ、手配書もなくなったオハラの名誉も回復した、あとは麦わらとの責任なく自由の楽しさだけだろ?」
「なんですって!?責任無き自由・・・そう・・・そういう見え方もできるわね」
「厳しい言い方だがな、海賊ルフィは、インペルダウンで囚人を逃がしてるそしてたくさんの民を殺した動機を作ってしまったら。だから、俺と共に行く末を見てほしい」
「そう・・・そうよね、行く先々で倒して次にいってそこの内政は海軍まかせ。とうとう
海軍も本気になってあなたがそういう世界を見せてくれるのね?」
「そういうことだ、俺の過去はいずれ話す。今は共にいて見届けて欲しい」
「わかったわ、そこまで言われたらね。私はそういう生きた方をしてきたもの、バロックワークスからただ、麦わらの一味にいたほうが都合が良かった。もう少しで先が見える楽しみはあったけど、貴方が保護してくれるならそれも見せてくれるのでしょ?」
「約束しよう。」
「交渉成立ね。貴方なかなかいいわね。誠実なのは好きよ」
「ちゃかすな・・・・」
「あら?その辺は鈍いのかしらね?」
そして、マヤが圧倒的な速度で世界を再編していくその裏で、焦燥に駆られた五老星のサターン聖が、イムの意志をも無視して最悪の暴走を引き起こした。
エッグヘッドのヨークから届いたばかりの『マザーフレイム』を使用し、世界政府の威信を示すため、サボが逃げ込んでいた『ルルシア王国』へと古代兵器を撃ち込んだのである。
ルルシア王国は一瞬にして消滅し、世界中で大地震が起きた。
その直後、辛うじて脱出していたサボが『炎帝』として世界中の通信網を電波ジャックし、民衆への扇動を開始した。
『――世界中の人々よ、聞こえるか! 俺は革命軍参謀総長、サボだ! 世界政府の恐ろしい暴挙を見たか! 我々は聖地マリージョアにて天竜人たちに宣戦布告を果たした! 今こそ自らの手で武器を取り、支配者たちに反逆の狼煙を上げるんだ!!』
サボの扇動に、世界中の人々が色めき立った。
しかしその同日、わずか数分後。マヤが事前に用意させていた『一枚の写真つきの号外記事』が、ニュース・クーによって世界中へ一気にばら撒かれた。
そこに写っていたのは、先日マヤがコブラ王と平和会議をしていたパンゲア城をサボが襲撃し、炎を振り回してサカズキと戦闘している決定的な写真だった。
「おい、この写真を見ろよ……! サボの野郎、マヤ元帥たちの平和会議を自分から襲ってんじゃねェか!」
「俺たちに武器を取れって言いながら、どういうことだ……?」
世界中の民衆が激しい疑心暗鬼に陥ったその瞬間、ビラが撒かれた同日のうちに、マヤのカウンター演説が全世界の通信網で炸裂した。
『――我々は、世界平和の為に評議会をしていました。ですが、革命軍はそれをすでに邪魔をしにきていました。そしてあのように無益な民を扇動し、民を自分たちの戦争の「無駄な玉避け」にしようとしております。惑わされないでください!』
画面の中のマヤが、力強い声で世界中の市民へと訴えかける。
『民のみなさん、私は確約し、すでに動いております。海賊どもを根絶やしにし、平和にすると! 海賊にとっては楽しいお祭りのロジャーの言葉……騙されないでください。民にとっては、それは日常を奪う「呪いの言葉」であったことを! 海賊に統治される? そんなおかしい事はない。「力があれば、より強い力を」――そんな世界を作った呪いの言葉です!』
『力なき民よ、守るべき民よ。ですが、「民なくして国は成り立ちません」。ですが、「海賊がいなくなっても、国家は存続します」! 存続させなければいけません! 革命軍もまた同じです、都合のよい事を棚に上げて民を扇動し、血の戦場に向かわせようとしてるのです! あなたの知り合いが、大切な家族が、そんなのに立ち向かってよいのでしょうか!?』
世界中の広場で、武器を持とうとしていた人々がハッと手を止める。
『――答えは、「否」です! 否なんです!! 革命軍にも反旗を翻す勇気をもってください。明日を信じる気持ちを絶やさないでください。私は、扇動されない民の「強き心」を信じてます!』
さらにマヤは、間髪入れずにルルシア消滅への対応を宣言した。
『そして、ルルシア王国近海での被害については、世界政府の一部暴走によるものであり、新海軍元帥として全面的に補償し、これ以上の天災および人災は、海軍が総力を挙げて阻止・迎撃します! 国家規模の救済・避難システムはすでに稼働しております! 旧体制の膿は、今から私が直接処断してまいります!!』
演説を終えたマヤは、そのまま聖地の『虚の玉座』の間へと乗り込んだ。
「――どういうことだ、おい?」
マヤの怒気に、五老星が真っ青になる。玉座のイムが言った。
『……すまない、暴走を止められなかったんだ……』
「せ、世界政府の権威を見せつけねばならないだろうが! ジョイボーイや、ニカが現れたら……」
言い訳を始めるサターン聖を無視し、マヤはイムを睨みつけた。
「おい、イム。お前さっきから聞いてりゃ、やってることが支離滅裂なんだよ。ジョイボーイが怖い、ニカが怖いって怯えてる割には、ルフィの野郎を何年も海で野放しにしてただろ。本気で消したいなら、五老星のあのジジイどもや神の騎士団を最初から総動員して、東の海(イーストブルー)の時点で更地にすりゃよかったじゃねェか」
『……それは、運命の悪戯というか、悪魔の実には意志が宿り、我々から常に逃げ続けて……』
「言い訳すんな。お前らが本気を出してなかっただけだろ。それに、なんだよあの『マザーフレイム』って大砲は。世界を海に沈める兵器? バカじゃねェのか。世界が沈んだら、お前らに天上金を払う民も国も全部消えるんだぞ。自分たちの生活の土台を自分で沈めてどうすんだよ。全員ぶっ殺して自分たちだけで生きる度胸もないくせに、兵器の威力にハシャいでんじゃねェよ、引きこもりが」
『……マヤ。お前は、何も分かっていない。私だって、こんな不自由な世界を望んで作ったわけではないのだ……。外に出られる時間には制限があり、五老星たちも長生きしすぎて頭が硬直化している。私たちは、八百年前に作ってしまった「歪んだシステム(世界政府)」の維持に、もうずっと振り回されているだけなんだ……。私だって、本当は……』
「――あー、もういい。お前らの『事情(言い訳)』なんて興味ねェよ。時間制限があるなら、俺が外へ連れ出してやる。ジジイどもの頭が硬いなら、俺が全員ぶっ叩いて従わせる。お前らの作ったクソみたいな矛盾だらけのシステムなのに、この前上納金上げるか言ってたのバカ丸出しだろ? 権威も何もないだろうが、処断しろ」
『……わかった……。サターン、君の身勝手で、友人を怒らせてしまったようだ。君の不老不死を解く』
「なっ……!? い、イム様……ぐあああああっ!?」
その場で不老不死を解かれ、サターン聖は黒い煙を上げて白骨化し、床へと崩れ落ちた。
「それでいい、イム、いい子だ。だんだんわかってきたな? 秩序を保つには民が必要なんだよ。何度でも言う、民なくして権威はない。いいな? 人を育てろ」
そこへ、扉を開けて神の騎士団のガーリング聖が入ってきた。後ろには仮面の女性騎士・軍子宮も連れている。
ガーリングは床のサターンの骨を見て、少しニヤリと笑った。
『ガーリングか。此度の事で枠が空いたな、お前が――』
「イム、待て!」
『どうした?』
初めてイムの姿を直接見て喜んでいる軍子宮の横で、マヤは鋭くガーリングを指さした。
「お前今、この男を五老星にでも加える気だったか? 答えは言うな、この男はダメだ、相応しくない。……それにそこの、軍子宮にお前何かしてるだろ? 何か……」
軍子宮もマヤを見る。そのオッドアイとマヤの両目の間で、何かが微かに共鳴した。
『……ガーリング、まず下がれ。お前はこの部屋にふさわしくない』
ガーリングは顔を歪め、しぶしぶ部屋から下がっていった。
残された軍子宮を見て、イムが静かに言う。
『この子は、精神支配をしている……。すまない、君の親族になるかもしれない』
「マンマイヤーってことか……。精神支配を解け」
『精神が崩壊するかもしれないよ? まー、いい』
イムが精神支配を解いた瞬間、軍子宮の仮面が落ち、彼女は過去の記憶に襲われて叫び出した。
「あ、あああっ!! 私はお父様を〜っ! ブルックたちを……っ!!」
過去の罪を懺悔して錯乱する彼女を、マヤは歩み寄って強く抱きしめた。
「――俺を見ろ……」
マヤの真紅の瞳と彼女の瞳が重なり、『NMER』の波長が深く共鳴する。
「なんなの……凄く、おちつく……」
彼女は涙をこぼし、そのまま安心したように意識を手放した。
『それが、君の本当の力か……。君とは本当にうまくやっていきたいと思うよ』
「こいつの名は?」
イムが、彼女がかつての王女『シュリ姫』であることを語る。
「なら、俺が預かる。いいな? ……それと、さっきのガーリングが、赤髪と通じてる」
『そういうことか、反旗を翻してるわけだね。……君を全面支持するよ、この世界を君に預けるよ』
同じ日の夜。
カマバッカ王国にある革命軍の総本部では、重苦しい沈黙が作戦室を支配していた。
テーブルの上には、世界中から集められた「サボが評議会を襲ってサカズキと戦っている号外ビラ」と、先ほどまでマヤ元帥の演説を流していた電伝虫が置かれている。
「…………」
総司令官ドラゴンが無言で腕を組む中、イワンコフが冷や汗を拭って口を開いた。
「……やられたわね……。あの演説で、私たちも海賊と同じ討伐対象にされたわ」
包帯を巻いたサボが、自分の写った写真を睨んで拳を握りしめる。
「まさか、脱出の時の戦闘で写真を撮られていたとは……」
コアラが青ざめた顔で周囲を見回した。
「ねえ、これどうなるの?」
「どうもこうもないわよ、政府だけじゃなく『民』からも私たちが狙われる可能性が出てきたわね。あの新元帥……徹底してるわ。すべての腐敗を自分の手で取り除く気よ? 思想は私たちと合ってるのに……なんで急にあんな化け物が出てきたのよ!」
イワンコフの悲鳴のような言葉に、サボは深く俯いた。
「……あの時、パンゲア城で逃げずに、あいつと話せばよかったのかもしれない……」
「…………」
なおも黙り込むドラゴンを見て、コアラが身を乗り出した。
「今から話にいけばいいんじゃないの?」
「ちょっとコアラ、あんな冷血な男に今さら話が通じると思ってるの? 演説で『選民意識を革命に向けた行為を許さない』と言われたのよ? そして私たちは、サボの通信でそれをしてしまったのよ?」
「でも、絶対話したほうがいい!! このまま戦うなんておかしいわ、私は革命軍を抜けてもいいくらい――」
「貴方、一人で行ったらその場で捕まるわよ?」
「そうかもしれない……でも、今のままじゃ、私たちもっとダメな気がするのよ!」
コアラの悲痛な叫びに、サボが「俺は……」と口を開きかけた、その時だった。
――プルルルル……プルルルル……!
作戦室の中央にある極秘回線の電伝虫が、突如として鳴り響いた。
室内の全員に、凍りつくような緊張が走る。
イワンコフがゴクリと唾を呑み、震える手で受話器を――ガチャリ、と取った。
「……誰なの?」
スピーカーの向こうから、謎の新元帥の静かな声が響いてきた。
『よう、名乗るほどのもんじゃないさ。……話しようや?』