新世界にそびえ立つ巨人の島『エルバフ』。
天をも貫く巨大な宝樹アダムの根元にある冥界の広場で、麦わらのルフィは、大樹に幽閉されていたエルバフの王子・ロキと意気投合し、彼の巨体を縛り付ける海楼石の鎖をまさに今、解き放とうとしていた。
「へへっ、お前面白いな! よし、今その鎖を外してやるぞ!」
「ガハハハ! 待ってたぞニカ! さぁ俺を自由にして、この世界をひっくり返そうじゃねェか!」
少し離れた岩場からそれを見つめるシャンクスたち赤髪海賊団の面々もまた、ついに時代を動かす『神のコマ』が揃うロマンの奇跡に酔いしれていた。
――だが、その歓喜の空気を真っ二つに切り裂くように、地鳴りのような無数の鉄の足音が島全体を揺るがした。
ルフィがロキの海楼石の鎖に手をかけた、まさにその瞬間だった。
ハチノスとクロスギルドを更地にした新海軍の全戦力が、エルバフの全海域から冥界の広場に至るまでを、蟻一匹逃がさぬ完璧な陣形で包囲したのである。
「……おいおい、今まさに解放寸前ってところか。ずいぶんとロマンの奇跡に酔いしれてるじゃねェか、お前ら」
氷のように冷徹な声が広場に響き渡った。
軍勢の最前列に立つのは、白い元帥コートを羽織った新海軍元帥シンキ・マヤ。その後ろにはサブ元帥のサカズキ、三大将のボルサリーノ、イッショウ、アラマキ、さらにガープ、センゴク、つる、クザン、そして世界最強の剣士ミホークと海賊女帝ハンコックまでがずらりと並び立っていた。
「な、なんだお前ら!? ロキ、待ってろ、今助けてやるからな!」
ルフィが身構えて叫ぶと、鎖に繋がれたロキは不敵に牙を剥いて笑った。
「ガハハハ! 泣く子も黙る海軍の大艦隊が揃ってお出ましか! だが遅かったな、俺はもうすぐ自由になる! 世界をひっくり返してやるぞ!」
「世界をひっくり返す、ねぇ」
マヤは鼻で笑い、ロキを冷酷に見下ろした。
「そこのロキ、お前は伝説の悪魔の実を食って暴走し、世界をめちゃくちゃにしかねないからって、そこにいる赤髪に六年も海楼石で縛り付けられてた『バケモノ』だぞ。それを、麦わら。お前はちょっと話が合ったからって、お前のオモチャ感覚で解き放とうとした。民の命をなんだと思ってる?」
マヤの言葉に、周囲にいたエルバフの巨人族の兵たちも「……そうだ、ロキ王子を無闇に解放すれば、エルバフごと世界は……」と顔を見合わせて動揺し始める。
「おいおい……。ずいぶんと楽しそうじゃねェか、お前ら」
マヤがゆっくりと歩み出ると、ロキの背の上にいたルフィがマヤを指さして叫んだ。
「お前、マヤ元帥か! ロビンをどこへやった!!」
その問いに、マヤの背後で世界中継用の映像電伝虫を構えていた部隊の横から、一人の女性の澄んだ声が響いた。
「ルフィ……もういいのよ」
「ロ、ロビン!?」
麦わらの一味が全員目を見開いた。
マヤのすぐ傍らには、海楼石の手錠もハメられず、清潔な白い研究着に身を包んだニコ・ロビンが穏やかな顔で立っていた。
「私は新政府から、オハラの虐殺に対する公式な謝罪を受け、正式な『歴史学者』としての立場をもらったわ。もう、政府に追われて海賊をする必要はなくなったの……。だから、もう戦わないで」
「な、なんだよそれ……! お前、俺たちの仲間じゃねェのかよ……!」
ルフィが激しく動揺し、言葉を詰まらせたその時だった。
ロビンはマヤの横顔を優しく見つめると、世界中の映像電伝虫が回っている前で、ふっと妖艶な微笑みを浮かべて言葉を続けた。
「それにね、ルフィ。私、この人の事、愛してるの」
そう言った次の瞬間、ロビンはおもむろに一歩踏み出してマヤの襟元に白い手を添え、背伸びをしてマヤの唇へと自らの唇を深く重ねた。
戦場のど真ん中で交わされた、息が詰まるほど濃厚で情熱的なキス。
海軍の将兵たちも、巨人族も、そして海賊たちも、その場にいた全員が目を丸くして凍りついた。
そして麦わらの一味の中でその光景を見ていたナミの胸の奥に、なぜか理由は分からないまま、チクリと針で刺されたような激しい痛みが走った。
不意打ちを受けたマヤ自身も一瞬目を見開いて驚いたが、拒むことなくロビンの肩をそっと支えてその想いを受け止めた。
やがてゆっくりと唇を離したマヤは、少し照れくさそうに頬を掻いて言った。
「……その、なんだ。ありがとうよ、ロビン」
「ふふ、こういうことなのね?」
ロビンが幸せそうににっこりと笑う。
その笑顔を見た瞬間、ナミは自分の胸のざわめきを抑えきれず、思わず一歩前に出て叫んでいた。
「ちょっとロビン、こんな場所で何をやってるの!?」
「ふざけるな!! お前、あいつに騙されてるだけだ!!」
ルフィが血管を浮き上がらせて怒鳴るが、ロビンは涼しい顔で首を横に振った。
「ふざけてないわよ、本当のことよ。私はこの人の孤独と優しさに触れて、本当の愛を知ったから一味を抜けただけよ」
「そんなのってない! 何故なの、ロビン!? 私だって……え……?」
感情のままに叫びかけたナミは、自分が口にした『私だって』という言葉にハッとして口元を押さえた。会ったこともないはずの目の前の天竜人に対して、なぜ自分がそんな言葉をこぼしたのか、ナミ自身にも分からなかった。
「……ナミ?」
ルフィが不思議そうにナミを振り返る。
「…………」
マヤは無言のまま、戸惑うナミの瞳をじっと見つめた。そしてすぐに冷徹な元帥の表情へと戻ると、ルフィへと視線を移した。
「まぁ〜麦わら、そういうわけだ。ロビンのことはあきらめろよな?」
マヤは一歩前へ踏み出すと、周囲を取り囲むエルバフの巨人たち、そしてカメラの向こうの全世界へと向けて、凛とした声を放った。
「エルバフの巨人民よ、よく聞け。お前たちは世界政府の被害者面をしているが、かつて九歳のシャーロット・リンリンを、『断食の儀式の違い』という自分たち巨人族の尺度で迫害し、飢え死に寸前の化け物として世界へ放り出したのはどこのどいつだ? 寿命が長いくせに、人間の子供に何をやってんだ? 負けたから迫害か? カタクリから全部聞いたぞ、リンリンの癇癪の理由をな。そんなの悲惨すぎだろうが。彼女を歪めたのはお前たちだ。……だがな、お前たちはまだいい。自国の民をないがしろにはしていなかったからな、過去の行いには目をつむる」
巨人族の戦士たちが、自国の暗い過去を突かれてぐうの音も出ずにうなだれる。
マヤは腰の『妖刀神鬼』の柄に静かに手をかけた。
「だが、そこのシャンクスたち赤髪海賊団、そして麦わら……お前らは違う。よって、ここで全員処断する」
マヤが映像電伝虫のレンズを、岩場に立つシャンクスへと真っ直ぐに向けさせた。
「全王国、そして全世界の民に告ぐ。この男のメッキを今ここで剥ぎ取ってやる。こいつの正体は、聖地マリージョアの最高位・フィガーランド家の血を引く『天竜人』だ。安全な血筋の保険を持ったまま世界を旅する、お仲間ごっこの『ファッション海賊』だよ!」
電波を通じて世界中の広場がどよめき、ルフィたち麦わらの一味も「シャンクスが、天竜人……!?」と驚愕に目を見開いた。
「赤髪、お前が六年間ロキを抑えて世界を守ってた風を装ってたのは、自分たちが政府から奪ったニカの果実――ルフィが覚醒してここに辿り着くのを『待ってた』だけの政治ゲームだろ。ルフィが来たら一瞬でロキを解放させるように仕向けて、世界を滅ぼしかねない狂人を少年の玩具感覚で解き放とうとした。民の命をゲームの駒としか思ってねェ、最悪の天竜人の血筋そのものだ!」
世界中が、そしてシャンクスやルフィさえもが息を呑んだ、その一瞬の隙。
マヤの身体が最速の六式『剃』で掻き消えた。
「お前らのような張り子の四皇は、この世界にいらん」
ザンッ!!!
蒼い閃光が空間を裂き、大樹に縛られていたロキ、そして海兵たちが運んできた海楼石の檻の中でがんじがらめにされていた千両道化のバギーの首が、弁解の余地すら与えられず同時に宙を舞った。
四皇の一角とエルバフの狂王子が、わずか一太刀で同時に処刑されたのだ。
「てめェ……マヤァァァ!!! 『天竜人』の落ちこぼれがァ!!」
目の前でバギーとロキを斬られたシャンクスが激昂し、愛刀『グリフォン』を抜いて覇王色の覇気を纏い、マヤへと斬りかかった。
ガキィィンッ!!
だが、二十年間シャボンディの死線で怪物の間合いを見極め続けてきたマヤの『妖刀神鬼』は、グリフォンの軌道をいとも容易く冷徹に受け流した。
「赤髪、お前は世界の天秤を動かしすぎたんだよ。四皇もお友達で固めてな? ロキとお前を合わせて何をしようとしたか知らねぇが、お前もロジャーの言葉に踊らされたんだ。ルフィとエースが死にかけた頂上戦争の時、インペルダウンのレベル5.5にいながらエースを救おうとしなかった奴らがいたのを忘れたのか? そこを突いたら、革命軍は内部から解体したよ。イワンコフもコアラも革命思想を辞め、カマバッカはすでに海軍の保護下だ。いずれお前の仲間だったドラゴンも、サボも思想を辞める」
激しい剣撃の応酬の中、マヤの言葉がシャンクスの心を刃のようにへし折っていく。
「海賊がこの海にいる理由が、もうねぇんだよ。そして、お前たちの帰る場所ももうない。マキノ、カヤ、イーストブルーは完全に海軍の直轄にした。お前たちのような害獣が多く輩出されたと分かれば他国が黙ってねェからな。すべての村へ行って話をつけて、マキノとカヤについてはすでに本部で保護してある」
鍔迫り合いの至近距離で、マヤはシャンクスの耳元へ冷酷に囁いた。
「……わかるだろ? 赤髪。何故俺がマキノを保護したかをよ。――あの子は『俺の子』にしておいてやったぞ。どうせ遊びだったんだろ、お前の親父(ガーリング)のようによ。よくもまァ、頂上決戦の後に立ち寄って子供なんかこさえたな。世界中が死者を弔い、喪に服すときだろ……」
ピタリ、と。
シャンクスの動きが完全に止まった。何も言い返せない。
その一瞬の硬直を、マヤの蒼い一閃が容赦なく捉えた。
ザンッ!!!
鮮血が噴き上がり、シャンクスに残されていた唯一の腕――右腕が肩の根元から断ち落とされた。刀ごと地面へと落ちた右腕を前に、四皇・赤髪のシャンクスはその場に崩れ落ち、即座に海兵たちの海楼石の鎖によって拘束された。
「なんでマキノが出てくるんだよ!!」
ルフィが目を血走らせて叫び、後ろのウソップも涙を流して激昂した。
「カヤに何をしたんだよ!!! カヤは関係ねェだろうが!!」
だがマヤは、血を払った刀を下げ、彼らに向かって地獄の底から響くような怒声を叩きつけた。
「お前らこそ、今まで何をしてきたんだよ!!! カヤはそんなつもりでお前らに船(メリー号とサニー号)を渡したんじゃねェだろうが! 各地域に行って悪者を殴って終わり、その後の統治は誰がするんだよ!? お前たちがかき乱した秩序と正義のツケを、全部海軍に押し付けてきただけだろうが!」
マヤの言葉は止まらない。
「麦わら、お前もだぞ! 自分の力をつけると言って『3D2Y』? お前らが二年間修業だと言って遊んでたその間、世界中の民はインペルダウンから逃げた凶悪囚人どもに略奪され、苦しめられ、海軍は疲弊し、海兵と民間人を合わせて『数万人』が死んだんだぞ、わかるか!? お前のやった行為は海軍を動けなくして、海賊がのさばる『大怨念時代』を作っただけなんだよ!」
マヤは自分の胸をドンと叩いた。
「だから俺が、評議会に世界中の王が集まる前で元帥になったわけだよ。何より俺は、民に人気がある天竜人なんでな? ――『血のドブ』って知ってるか? 昔のシャボンディ諸島のドブの色さ。お前たちが見たのは、俺が二十年かけて掃除した後の綺麗な景色だけだろ? だがな、昔はそうじゃない。天竜人はそれを直視せずに引きこもった時代がある。それは今、俺が改革をして天上金を引き下げさせた。海賊ども、お前たちの横暴はもう絶対に許さんよ」
「――話は終わりだ。赤髪、お前らのロマンのメッキは剥がれた。全軍、速攻で片付けろ。抵抗の余地を与えるな」
マヤの冷徹な号令が下された瞬間、海軍の最高戦力が一斉に動いた。
「野郎ども、お頭を守れェ!!」
赤髪海賊団の副船長ベン・ベックマンやラッキー・ルウ、ヤソップたちが武器を構えて飛び出す。
だが、その前に立ち塞がったのは、かつてパンクハザードで十日間殺し合い、今マヤの下で完全な連携を見せる二人の怪物だった。
「『犬噛紅蓮(いぬがみぐれん)』!! ――おどれら、神聖な地を汚した罪、その身で償えい!」
サカズキの苛烈なマグマの犬がベックマンたちの逃げ道を塞ぎ、一瞬で周囲を灼熱の地獄へと変える。
「……悪いねェ、俺の新しい利害はここにあるんだ。――『氷河時代(アイス・エイジ)』!!」
クザンの絶対零度の冷気が、ラッキー・ルウやヤソップの足元から全身を一瞬で凍りつかせ、動きを完全に奪う。
世界最高峰の自然系(ロギア)二人の容赦ない挟み撃ちの前に、赤髪海賊団の幹部たちはまともな戦闘体制を組むことすらできず、包囲網にすり潰されていった。マヤの『殺すな』という命の通り、彼らの銃を持つ両手、狙撃を支える両腕は、覇気とマグマと凍結の力によって完全に粉砕されて再起不能にされ、地面へと転がされた。
一方、麦わらの一味の前には、黒刀を抜いたミホークとイッショウ、そしてたしぎが迫っていた。
「ルフィ!! 下がれ、ここは俺が――」
ゾロが三本の刀を抜き、三千世界を構えようとした瞬間、その目の前に世界最強の黒刀が立ちはだかった。
「若き剣士よ、井の中の蛙、大海を知れと言ったはずだ。……それ以上の無駄な足掻きは、己の首を絞めるぞ」
ミホークの鷹の目がゾロを射抜くと同時に、イッショウが杖刀を抜いた。
「『重力刀・猛虎』!!」
ズズズンッ!! とゾロの身体に数万トンもの超重力がのしかかり、ゾロはドスッと地面に両膝をついて刀を構えることすらできなくなった。
「う、ぐっ……なんだ、この重さは……!?」
「身動きの取れない相手を斬るのは本意ではありませんが……これも正義執行です!」
たしぎが神速の六式『剃』で踏み込み、重力に押し潰されているゾロの三本の刀の柄を的確に叩き落とすと、間髪入れずにその両手首へ海楼石の錠をガチッとハメ込んだ。
「しまっ――」
ゾロが地面に伏す。
さらに周囲では、サンジやフランキー、ブルック、チョッパー、ジンベエ、そして同行していたジュエリー・ボニーまでもが、ハンコックの『芳香脚(パフューム・フェムル)』による部分石化と、スモーカー、ヒナ、アラマキ、つる中将らの完璧な海楼石の包囲網の前に、必殺技を出す暇すら与えられず、わずか数秒で全員が海楼石にがんじがらめにされて一掃された。
(なお、ボニーについては父バーソロミュー・くまの悲劇を汲み、戦後にハンコックと共にアマゾン・リリーで保護される手筈となっており、北の海のヴィンスモーク家もすでに新海軍によって解体され、姉のレイジュも保護下に置かれていた)。
「……バ、バカな……みんなが、一瞬で……!?」
仲間たちが誰一人として戦えないまま転がされた光景に、ルフィが絶望に顔を歪める。
「これが現実だ、麦わら。お前たちがこれまでやってきたのは、海軍が手薄な場所で、手負いの悪党を殴ってきただけの『おままごと』だ。世界を本気で維持してきた海軍の総力を前に、お前たちの独りよがりの自由なんて、一瞬で消える幻なんだよ。……いくぞ、ニカ」
マヤが静かに刀を構えた瞬間、激昂と絶望の極限に達したルフィの全身から白い湯気が噴き出し、髪も衣服も真っ白に染まった太陽の神『ニカ(ギア5)』の姿へと変貌した。
「アハハハハ!! ぶっ飛ばしてやるぞ、マヤァァ!!」
心臓のドラム音を響かせ、目を飛び出させて笑いながら、ニカとなったルフィが常識外れのゴムの拳を乱打してマヤへと襲いかかった。
しかしマヤは、ニカが笑いながら放つコミカルな打撃を、あえてギャグにはさせなかった。
ドゴォン!! バキィッ!!
マヤは防げるはずの覇気の防御をギリギリで緩め、ニカの拳をわざと生身の肉体で受け止めなたさいに毛細血管と筋肉を内側から弾けさせた。
「ぐあっ……!? ごほっ、げほぉっ……!!」
(それでいい、麦わら、お前は自ら全て失う道を歩むんだな。)
マヤの口から大量の鮮血が噴き出し、白い元帥コートが赤く染まる。
映像電伝虫を通じてその光景を見守っていた世界中の何億もの民衆の目には、それが『自分たちを守ってくれた高潔なマヤ元帥が、ケタケタと狂ったように笑いながら暴力を振るう白い悪魔(ニカ)に、血みどろになりながら必死に立ち向かっている凄惨な悲劇』として映し出された。
血を吐きながら剣を振るい、マヤはルフィに問いかけた。
「ハァ、ハァ……お前は、なんのために海賊をやってんだ? 麦わら……? 結局、シャンクスに帽子を託されたから、それだけだろうが?」
「そんなことはない! 俺は自分の意志で、海賊王になるんだ!!」
「だがあいつは天竜人だったぞ!? お前を都合のいいダシに使って、世界の支配構造を自分のいいようにしようとしただけだぞ!?」
「だまれ!! うそだ!! シャンクスはそんな奴じゃねェ!!」
ルフィの息が荒くなり、ニカの変身のタイムリミットが秒単位で迫ってくるのを、マヤの見聞色は完璧に捉えていた。
(……よし、あと三秒でこいつの息が切れる。ここだ)
マヤはわざと足元をよろめかせ、ルフィの大振りの一撃を受けて手元の『妖刀神鬼』を宙へと弾き飛ばさせた。
丸腰になり、胸元を無防備に晒したマヤの姿に、限界寸前だったルフィが全ての力を振り絞った最後の巨大な拳――『白い星銃(ドーン・スターガン)』を放った。
ドゴォォォォンッ!!!
ルフィの渾身の拳が、マヤの胸の真ん中を深く貫いた。
マヤは自らの心臓と致命傷のラインだけをミリ単位でずらしながら、背中から派手な血飛沫を噴き出させ、糸が切れたようにゆっくりと仰向けに倒れ込んでいった。
視界がかすれていく中、倒れるマヤは、目の前のルフィではなく、少し離れた地面で海楼石に縛られて涙を流しているナミの姿をじっと見つめた。
そして、世界放送の電伝虫には決して拾われないほどの小さな、声にならない口パクで、ナミだけに向かってこう呟いた。
『(――すまんな)』
その刹那、マヤの流した血から放たれた『NMER』の共鳴波長が、ナミの胸の奥へと飛び込んだ。
ナミの脳裏に、出会わなかったはずの別の世界線――ココヤシ村のベルメールの墓の前で、この優しい赤い瞳の青年から『俺と結婚してくれ』とプロポーズされ、温かく抱きしめられた記憶の幻視が、稲妻のように鮮烈に駆け巡った。
「え……っ!? あ、あなた、まさか……!?」
ナミが愕然と目を見開いた時には、マヤの身体は地面へと倒れ伏していた。
だが、血だまりの中に横たわるマヤの顔には、どこかすべてをやり遂げたような穏やかな笑みが浮かんでいた。
「……お前たち、よく聞け……。俺は、ここまでだ。……麦わらは、解き放て。シャンクスは聖地へ連れ帰れ、いいな? ……すまんな。みんなの笑顔を……守りたかったんだけどな。……これまで、みたいだ……」
マヤは静かに目を閉じ、動かなくなった。
「マ、マヤ元帥ィィィーーーッ!!!」
サカズキの怒号が響き渡り、海兵たちが泣き叫びながらマヤの身体を抱え上げる。
元帥の最期の命令に従い、海軍は麦わらの一味の海楼石の錠だけを外してその場に置き去りにすると、両腕を失ったシャンクスと赤髪海賊団を拘束して、嵐のようにエルバフから撤退していった。
海軍の艦隊が去り、静まり返った宝樹アダムの根元。
変身が解けて地面にへたり込んでいたルフィの元へ、拘束を解かれたナミが駆け寄り、涙をボロボロとこぼしながらルフィの胸ぐらを掴んで激しく揺さぶった。
「なんで……っ、なんで、あの人を殺したのよ、ルフィ!! あの人は、私たちの故郷も、ロビンも、世界中の人たちを本気で守ろうとしてくれてたのに!! シャンクスがすべての原因だったんじゃない……! 全部、全部シャンクスの嘘だったのに、なんであの人を殴り殺したのよォォッ!!」
「な、ナミ……俺は、だってあいつが……」
ナミの悲痛な慟哭に、ルフィは自分の血のついた拳を見つめて震えるしかなく、ウソップも地面に膝をついて「うわあああんっ、もうシロップ村に帰れない……カヤに、一生会えない……!」と顔を覆って泣き崩れた。ゾロもサンジも、ただ無言で唇を噛み締め、一味の絆は音を立てて崩壊していった。
そして沈黙をやぶったのは、世界中のすべての電伝虫とラジオから、かつてマヤによってイムの精神支配から救い出された軍子宮こと、エスペリアの王女・シュリ姫の、涙ながらの全世界緊急放送が鳴り響いた。
『全王国に告ぐ。緊急事態である。新海軍元帥シンキ・マヤ聖は、四皇・麦わらの一味との戦闘により、先ほど死亡した。最期に、彼は次の言葉を残した――』
『「みんな笑顔でいてくれよな? 俺はここまでみたいだ。みんなの笑顔を守りたかった」』
世界中の街角で、人々が息を呑み、画面の前で泣き崩れる。
『マヤ聖は五歳の時より二十年にわたり、シャボンディの泥をさらい、世界各地で民衆の保護と復興に尽力してきた。その死に伴い、海軍は麦わらの一味を史上最悪の重大犯罪者として扱う。各王国に対し、同一味の入国および国内への侵入を永久に禁止するよう要請する。これは、マヤ聖が最期まで守ろうとした民衆と、その暮らしを守るための防波堤である! ……そして最後に、彼はこうも言い残していました。「何が大航海時代だよ、大怨念時代だろ」と。彼の両親は、海賊王ロジャーのあの言葉が引き起こした混乱により、死を選んでしまいました。天竜人でありながら民を守り抜いた彼の姿を、どうか忘れないでください。海賊を恐れない、強い正義を!』
シュリ姫は一度涙を拭い、マヤの真の出自を世界へと公表した。
『――マヤ聖の、真の家名は「マンマイヤー」と「シンキ」家。天竜人の中にありながら、マンマイヤーはオッドアイしか生まれない、その両目が同じ色の場合は、世界の創生より「民を弔い優しさを願う」ことが強くでる、彼はまさに、マンマイヤーとシンキ血が混ざり両目赤目の完成系……マンマイヤー家とカミキ家の末裔です』
その名が世界に響き渡った瞬間。
エルバフの海岸で放送を聞いていた白骨の音楽家・ブルックが、ガタガタと顎を鳴らして驚愕した。
「ま、マ……マンマイヤー家ですって……!ワタシが仕えていた。シュリ姫の子孫?…まさか、二十年間もどぶさらいをしていたなんて、ヨホホ……なんということですか……!」
世界中がその真実に息を呑む中、シュリ姫は凛とした声で宣言した。
『海賊王の時代は、もうおしまいです。これからは、彼が命を賭して護ろうとした、平和な世に向かいましょう』
放送は終わった。だが、世界中へ伝わったその言葉は、もう誰にも回収することはできなかった。
麦わら一味は、絶望するしかなかった。
数日後、聖地マリージョア。
両腕を失い、鎖に繋がれて連行されたシャンクスは、処罰を受ける前にパンゲア城の一室へと引き出された。
そこには、海軍本部で手厚く保護されていたマキノが、腕に赤ん坊を抱いて立っていた。
「……マキノ……! お前、無事だったのか……」
シャンクスが顔を上げた瞬間、マキノは歩み寄ると、乾いた音を立ててシャンクスの頬を力いっぱい平手打ちした。
パァンッ!!
「……貴方、本当に最低の海賊だったのね」
マキノの瞳には、かつての慕情は一欠片もなく、絶対零度の軽蔑だけが宿っていた。
「世界が頂上戦争の悲しみで喪に服している時に私のところへ来て、二年半も放置して、裏ではずっと自分の血筋を隠してルフィたちを駒にしていたなんて……。そして、私たちを本気で守ってくれたマヤ様を死に追いやった。……いいこと、シャンクス。この子は、あなたの子じゃないわ。私たちを守って死んだ、あの人の子よ! 二度と私たちの前に現れないで!」
「ま、マキノ……待ってくれ、俺は……っ!」
マキノが一度も振り返らずに部屋を出ていった直後、絶望に打ちひしがれるシャンクスは、兄シャムロックと父であるフィガーランド・ガーリング聖と共に、最奥の『虚の玉座』の間へと引きずり出された。
玉座の上には、黒い瘴気を狂ったように噴き上げる世界の王・イムが立っていた。
『――シャンクス、シャムロック、そしてガーリング。よくもやってくれたね。お前たちのくだらないお遊びのせいで、私は八百年で初めて出会えた、唯一無二の友(マヤ)を失ったんだぞ!!』
「ひっ……!? い、イム様、お待ちを――」
『死んで楽になれると思うなよ。お前たち親子は、自我を奪い、死ぬまで私の足元で泥を舐め続ける操り人形にしてやる!!』
イムの放った黒き触手がガーリング一家の脳天を貫き、三人は悲鳴を上げる間もなく、かつての軍子宮以上の『怒りの完全精神支配』によって心を破壊され、虚ろな目をした傀儡へと堕とされた。
三人を地下へと放り出させた後、誰もいなくなった虚の玉座の前で、イムは誰にも見せることのなかった涙をその目に浮かべ、ぽつりと呟いた。
『……マヤ。お前の遺志を、汲もう。……もう、海面を上昇させて世界を沈めるのはやめだ。……ただ、お前がいない世界は、少し寂しいね……』
エルバフの戦いから数ヶ月後。
新海軍本部、元帥のいなくなった奥の最高会議室には、サカズキ、クザン、ボルサリーノ、イッショウ、アラマキ、そしてセンゴクとガープが集まっていた。
世間では「悪党・麦わらの一味に暗殺されたマヤ元帥」が聖者として崇められ、海賊の時代は完全に終わりを告げていた。
静まり返った室内で、ボルサリーノがいつも通り飄々と、だが呆れたように口を開いた。
「いや〜〜、それにしても……。マヤ元帥のあの『死んだふり』、本当に肝が冷えたねェ〜〜〜。映像電伝虫の向こうの世界中の民はみんな大号泣してたけど、目の前で見てたこっちとしては、笑いを堪えるのが本当に大変だったよォ〜」
「フン……笑い事ではなかろうが」
サカズキが腕を組み、不機嫌そうに、だが口元を微かに緩めて葉巻の煙を吐き出す。
「あの方の『覇王色』の防御を、あの程度のゴム坊主の拳が貫通できるわけがなかろう。わざわざ自分の胸の肉を自分で弾けさせて血を噴き出すなんぞ……どれだけ迫真の自作自演じゃ。わしも『マヤ元帥ィィ!!』と叫ぶタイミングを合わせるのに骨が折れたわい」
「がはははは! サカズキ、お前のあの時の大根役者っぷりは酷かったぞ! 泣き真似が下手すぎて、つるちゃんに後ろから足蹴りされてただろうが!」
ガープが机を叩いて大爆笑し、センゴクもため息をつきながら笑った。
「しかし、あれしか道はなかった。ニカの能力は時間制限がある上に、あの場では仲間が全員海楼石で転がされていたからな。島をゴム化して暴れることもできん。普通に戦えば、マヤ元帥が数秒でルフィの首を刎ねて終わっていた戦いだ。……それを、あえて『ニカに殺される悲劇の聖者』を演じきるか、ルフィの良心にかけたのだがな、その結果世界中の民を海賊への憎悪で一つにまとめた。……やはり、あの男には政治でも武力でも、誰も敵わんよ」
クザンは静かに、新調された氷の義足を見つめながら微笑んだ。
「……本当だねェ。麦わらの一味からすれば、戦いには勝って、最強の神の力を証明したはずなのに、気づけば世界中から『聖者を殺した大悪党』として指名手配され、どこの国にも入れない地獄の逃亡生活だ。……勝たせて、全てを奪う。マヤ聖のチェス盤は、最初から最後まで完璧だったってわけだ」
「あっしにはあの方の『死相』が最初から見えておりやせんでしたからねェ」
イッショウが静かに目を細める。
「最初から生き生きとした、楽しそうな『旅立ちの気配』しかせんかった。今頃は、名前を変えて、どこかの海でようやく肩の荷を下ろして笑っていらっしゃるでしょうなァ」
「うおおおん!! マヤ元帥ぃぃ!! どこにいても一生ついていきやすからねェー!!」
一人だけ今もガチで号泣しているアラマキの声を背に、海軍の怪物たちは、世界を平和へと導いて去っていった修羅の元帥を思い出し、静かに天を仰いだ。
――数カ月後。
世界から「海賊」という幻想が薄れ始め、人々が本当の平穏を取り戻した時代。
世界の新たな指導者として平和維持の舵を取るシュリ姫の傍らには、常に影のように寄り添う『一人の謎の男』の姿があった。船を降りてシュリ姫の元を訪れたブルックだけが、シュリ姫から『実は生きていますよ、彼。世界には内緒よ?』と教えられ、首がぽーんっと飛びそうなギャグをやって笑うその男の正体を知っていた。
ある日、聖地マリージョアの『虚の玉座』の間。
静まり返ったその部屋に、気配もなくその男――『カミキ』と名乗る青年が姿を現した。
玉座に座るイムが、静かに視線を落とす。
『……マヤ。プルトンもポセイドンも、ジョイボーイの力さえも、もうどうでもいい。お前がいない世界は、やはり寂しいね……』
その言葉に、カミキはかつてと変わらない不敵で悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「よう、前に話したろ? シンキ・マヤ。俺の本名カミキマヤ『ONI of god maya』ってな? 忘れたか? 俺だよ、イム。マヤだよ」
イムの瞳が、驚きと、それ以上の深い歓喜に微かに揺れる。
『……わかってるさ。その口調は、忘れるわけがない』
カミキは、何百年もこの暗い部屋に縛り付けられてきた世界の王に歩み寄って肩をすくめた。
「イム、お前外にあんまり出てないだろ? 寿命の問題もあるんだろ? まー、たまには変装して、一緒に外に出ような?」
『それも悪くないね。私は性別を超越してるから、デートでも洒落込もうか?』
「お前、何言ってんの?」
突飛な返しにカミキは思わず面食らったが、すぐにイムの意図を察して、ぽりぽりと頬を掻いた。
「あ〜、そういうことね。そういう普通の暮らしにも、ちょっと憧れてるのね……」
『そうだね』と短く返したイムの顔には、ただ一人の人間としての穏やかな微笑みが浮かんでいた。
一方、マヤを倒して「海賊王」の名を手に入れたはずの麦わらの一味を待っていたのは、帰る場所すらどこにもない生き地獄だった。
ワノ国へ戻ろうとしてもヤマトから「カイドウから救われたことと、マヤを殺したことは別だ!」と追い返され、一味は疑心暗鬼の果てに解散へと追い込まれた。
一人になったルフィは、どこの島へ行っても厄介者として扱われ、住民たちから石や生ゴミを投げつけられていた。
「よくも俺たちのマヤ元帥をやりやがったな! テレビで見たぞ、にやにや笑いながら人を殴り殺す外道が!」
「そうだ! 俺たちの街に入ってくるな、疫病神!」
「うぅ……め、めしだけでもくれよ……」
泥だらけになって這いつくばるルフィに、食堂の店主が冷たくバケツの水を浴びせかけた。
「その飯だって、誰が汗水垂らして作ってると思ってるんだ! お前、『海賊王様』なんだろ? なら飯くらい、人の街に頼らず自力で調達しろ!」
「……そんな……」
(俺は、海賊王になったのに……こんなの、あんまりだ……)
路地裏で腹を押さえてうずくまるルフィの前に、コツコツと足音を立ててガープとクザンが現れた。
「ルフィ、あの方をやったというのは、あまりにも重いんじゃよ。それが『人を殺す』ということじゃよ。ではな」
「まってくれ! じいちゃん!! 俺、海軍に投降する、だから助けてくれよ! 腹が減ってるんだ!」
すがりつくルフィを、クザンが氷のような目で見下ろした。
「投降? なんのだよ? あの人はもう帰ってこないし、『麦わらは解き放て』って遺言でもあるから、外で好きにしろ? ただし、お前は一生俺たちに監視されてるけどな? お前に暴れられて民に何かあったら、あの人に申し訳がないってことさ」
同じ頃、他の元仲間たちもまた、取り返しのつかない現実の前に立ち尽くしていた。
ウソップは海軍の監視のもと、一度だけ許されてカヤと面会することができた。
だが、白衣を着たカヤはウソップを見るなり、その頬を力いっぱいビンタした。
「貴方、本当にうそつきだったのね。海賊の冒険が素晴らしいなんて、はじめからずっと私をだましてたのね! 最低!」
海軍の護衛と共に去っていくカヤの背中を見送りながら、ウソップは「俺は……今まで何をしてたんだ……」とその場に崩れ落ちた。
ゾロは誰にも相手にされない荒野を一人で彷徨いながら、「世界一の剣豪が、なんで海賊のそばだと思ったんだ……?」と答えのない自問自答を続けていた。
サンジは保護された姉レイジュの居場所を探して彷徨った末、東の海の海上レストラン『バラティエ』へと辿り着いたが、入り口に立った赫足のゼフから「帰れ……お前は、料理人として越えちゃいけねーもんを越えたんだよ」と背を向けられ、その場に深くうなだれた。
チョッパーはワポルのいなくなった故郷ドラム王国へ帰ったものの、城の前に立つDr.くれはから「ハッピーかい? でも、人を殺めて笑うような風に育てた覚えはないんだけどね……。この国に入ることはできないよ……バカものが」と扉を閉ざされ、雪の中で声を上げて泣きまくった。フランキーもまた、帰るべきウォーターセブンから拒絶され、海を宛てなく彷徨う日々を送っていた。
そして――東の海、ココヤシ村。
夕暮れの、崖の上のベルメールの墓前。
命懸けで守ったはずの故郷の民からも、義姉のノジコからも「私たちの恩人であるマヤ元帥を殺した大悪党、出ていって!」と冷たく追い返され、全てを失って激しい雨の中で大粒の涙を流しているナミがいた。
自分のしてきた冒険は、信じていた自由は一体なんだったのかと、絶望のどん底で墓石の前に泣き崩れる彼女の頭上で、ふいに雨音が止んだ。
そこにふらりと一人の男の影が立った。
「……よう」
ナミがハッと息を呑んで顔を上げると、そこには、あのエルバフで死んだはずの元帥――いや、かつて幻視の中でベルメールの墓前で婚約を交わしたあの最愛の男と同じ、優しい真紅の瞳をした『カミキ』という名の青年が立っていた。そしてその少し後ろには、優しく微笑むロビンとたしぎの姿もあった。
マヤの真の家名『MANMAYER(マンマイヤー)』から『MAYA(マヤ)』の四文字を引くと、残る文字は固有物理法則である【NMER】。
ベルメールの墓の前で、マヤの魂が発するその愛が、ナミの心と激しく共振していた。
出会わなかったはずの歴史のズレさえも飛び越えて、マヤは、雨の中で泣いているナミの前に立っていた。どんなに冷徹な修羅の元帥として世界を裁こうとも、彼の魂の根底にある「泣いているナミを絶対に放っておけない」という本能が、この残酷な世界の果てで証明された瞬間だった。
カミキはぽりぽりと頭を掻きながら、不器用で、世界一優しい声で微笑んだ。
「お前はなんかほっとけなかった……。すまんな」
ナミの目から、今度は絶望ではなく、溢れんばかりの歓喜の涙がボロボロと溢れ出した。
彼女は立ち上がると、激しく肩を震わせながらカミキの胸へと飛び込んでいった。
「私も……私もあの時から、ずっと会いたかった……!!!」
カミキは、震えるナミの華奢な身体を力強く抱きしめ返すと、光が差し込む墓前で、彼女の唇へと優しく深いキスを落とした。
固く抱きしめ合う二人の姿を、傍らに立つロビンとたしぎが、どこまでも温かく幸せそうな微笑みで見守っていた。