ほんと書くかどうかもわかりませんが、今書いている月姫の小説の息抜きとして、一応書いて欲しいキャラのアンケートを載せました。よければ気軽に投票お願いします。
予言しましょう。きっとレミエールが一位だと思います。
収穫
夜明け前のエリニュス島の北の湿地は、白い靄に包まれていた。
背の高い葦の茂みに、二人で並んで身を伏せる。水面までは、およそ二十歩。靄の向こうで、ときおり水鳥の羽音が聞こえた。
「確認しておく」
クロリンデが、囁くような声で言った。
「狩りには、元素の力は使わない」
「神の目も?」
「使わない。公平を期すためだ」
ソルは、横目で彼女を見た。
「獲物に対しても、公平なんだ」
「当然だ。向こうは雷も氷も使えない」
真顔だった。ソルは、声を出さずに笑った。肩が震えて、葦がかさりと鳴った。クロリンデに、肘で小突かれた。
クロリンデの手には、愛用の銃があった。ソルの手には、彼女が貸してくれた予備の猟銃。槍は、背中に括りつけてある。鴨を槍で突くわけにはいかないから。
靄が、少しずつ薄れていく。
二人は、黙って待った。
風の音。水の匂い。湿った土の冷たさ。隣で、クロリンデが静かに呼吸している。長く、細く、乱れのない呼吸。何年も、こうして獲物を待ってきた人の呼吸だった。
「……昔さ」
しばらくして、ソルが囁いた。
「待つのが、嫌いだった」
クロリンデが、視線だけをこちらに向けた。
「決闘場でも、ファデュイでも。待ってるあいだに、何が来るか分からなかったから。次の試合の相手か。次の命令か。……待つのは、いつも怖いことだった」
「今は」
「今は」ソルは、靄の向こうの水面を見た。「隣に君がいるから、何が来てもいいかなって思う」
クロリンデは、何も言わなかった。けれど、葦の陰で、彼女の手がそっと伸びてきて、ソルの手の甲に一瞬だけ重なった。
水面に、影が落ちた。
鴨の群れだった。五羽、六羽。羽音を立てて、靄の中から舞い降りてくる。
クロリンデの手が離れた。銃を構える。呼吸が、止まる。
乾いた銃声が、湿地に響いた。
一羽が、水面に落ちた。残りが一斉に飛び立つ。
「今だ」
ソルは、慌てて猟銃を構え、引き金を引いた。
銃声。
群れは、何事もなかったかのように、悠々と空の彼方へ飛び去っていった。
「……」
「……」
「……もう一回、来るかな」
来た。十分ほどして、別の小さな群れが舞い降りてきた。ソルは、今度こそ慎重に狙いを定めて、引き金を引いた。
弾は、群れのはるか上を通り過ぎていった。鴨たちは、驚いた様子すら見せなかった。
「……撃てば必ず外す銃使いだな」
クロリンデが、真顔で言った。
「ひどくない?」
「事実だ。……ナヴィアの成人の誕生日に、卓で、私が同じ役を演じたことがある。撃てば必ず外す銃使いの、専属医だ」
「それ、最後どうなったの」
「最後の一発だけは、当てた」
「じゃあ俺も、最後の一発に賭けるよ」
三つ目の群れが来た。ソルは、全神経を集中させて、引き金を引いた。
外れた。
クロリンデの肩が、小さく震えていた。笑っているのだ。声は出していないが、間違いなく、笑っている。
「……今、笑ったでしょ」
「笑っていない」
「肩震えてるよ」
「……少しだけだ」
◇
日が昇りきった頃、クロリンデは鴨を三羽、仕留めていた。ソルは、ゼロだった。
獲物を回収して、引き上げようとしたときだった。
背後の茂みが、大きく揺れた。
ソルは、反射的に振り返った。クロリンデは、弾を込め直している途中だった。
茂みを突き破って現れたのは、大きな猪だった。牙を剥き、鼻息を荒げ、一直線にクロリンデへ向かって突進してくる。
ソルの体が、先に動いた。
猟銃を投げ捨て、背中の槍を抜く。元素の力は使わない。約束だから。クロリンデの前に一歩踏み出し、突進してくる猪の正面に立つ。
牙が届く直前、半歩、横にずれた。
猪の勢いが空を切る。そのすれ違いざまに、槍の穂先を、肩口から心臓へ、一息に突き入れた。
猪は、数歩よろめいて、静かに倒れた。
湿地に、静けさが戻った。
ソルは、ゆっくりと槍を引き抜いた。手は、震えていなかった。
「……銃は外すのに、槍は外さないのか」
背後で、クロリンデが言った。
「槍は、二十年握ってたからね」
言ってから、少しだけ胸が冷えた。二十年。誰かに握らされて、握ってきた槍だ。その二十年で、何を突いてきたのか。
クロリンデが、隣に並んだ。倒れた猪を見下ろして、それから、ソルの顔を見上げた。
「その二十年が、今日の夕飯になった」
ソルは、目を瞬いた。
「……え?」
「あなたの二十年が、今日、私を猪から守って、夕飯を一品増やした。それだけのことだ」
真顔だった。いつもの、何でもないことを言うときの顔だった。
ソルは、しばらく何も言えなかった。
それから、小さく笑った。笑いながら、目の奥が少しだけ熱くなった。
「……そっか。それだけのこと、か」
「そうだ」
◇
獲物を捌くのは、クロリンデが教えてくれた。
師匠から習ったという手順で、手際よく血を抜き、皮を剥ぎ、肉を切り分けていく。ソルは、言われたとおりに手を動かした。不器用だと笑われた。何度か、指を切りそうになった。
小川で手を洗っていると、冷たい水が、ぱしゃりと顔にかかった。
顔を上げると、クロリンデが、濡れた手を振りながら、明後日の方を向いていた。
「……今の」
「事故だ」
「絶対わざとだよね」
「事故だ。」
耳の先が、赤かった。
ソルは、両手で水をすくって、思いきり彼女に浴びせた。
夕暮れの帰り道、二人は猪を括りつけた丸太の両端を担いで、並んで歩いた。鴨の入った袋は、クロリンデの腰に揺れている。
「猪は、ナヴィアさんのところで鍋にしてもらおうか」
「そうしよう。鴨は、明日の昼に焼く。」
「予定に組み込んだ?」
「組み込んだ」
西の空が、橙色に染まっていた。ようやく知った、手放し難い、穏やかな日常というものを改めて実感した日だ。
書くかわからない息抜き作品。誰が見たいですか?自分の癖全開です。
-
夜蘭(原神)
-
八重神子(原神)
-
ネフェル(原神)
-
ジン(原神)
-
レミエール(ゼンゼロ)
-
シグリッド(ゼンゼロ)
-
エレン(ゼンゼロ)
-
イヴリン(ゼンゼロ)
-
飛霄(スタレ)
-
姫子(スタレ)
-
アグライア(スタレ)
-
ガルブレーナ(鳴潮)
-
長離(鳴潮)
-
リンネー(鳴潮)