正式にクロリンデと結ばれて数日後の朝、海辺の家の扉が叩かれた。
ソルが扉を開けると、そこには見慣れない二人組が立っていた。
一人は、金色の髪の旅人だった。背中に剣を負い、どこか遠くの国の匂いのする服を着ている。そしてもう一人――いや、もう一匹と言うべきか――は、旅人の肩の上あたりを、ふわふわと浮かんでいた。白い髪に、星のような冠。
「おまえがソルだな!」
浮かんでいる方が、ソルの鼻先まで飛んできて、指を突きつけた。
「ナヴィアから、ぜーんぶ聞いたぞ!」
「……え、あ、はい。ソルです」
「オイラはパイモン! こっちは旅人だ! 結婚おめでとうだぞ!」
背後から、足音が近づいてきた。
「旅人。それに、パイモンか」
クロリンデだった。いつもの真顔で、けれどほんの少しだけ、目元が和らいでいた。
「よく来たな」
旅人が、小さく笑って頭を下げた。おめでとう、と、まっすぐな声で言った。
ソルは、その顔に見覚えがあった。新聞で見たのだ。フォンテーヌの予言の騒ぎのとき、水神の秘密を暴いた異邦の旅人。この国を救った英雄の一人。
その英雄が、今、自分の家の玄関で、祝いの包みを抱えて立っている。
「お祝いを持ってきたんだぞ!」パイモンが胸を張った。「モンドの蒲公英酒と、璃月のお茶と……それから、オイラが選んだスメールのお菓子だ!」
旅人が差し出した箱の蓋を開けると、焼き菓子が並んでいた。半分ほど、なくなっていた。
「……来る途中で、ちょっとだけ味見したんだぞ」
ソルは、吹き出した。
◇
居間で、四人――三人と一匹――で茶を囲んだ。
パイモンは、ソルの顔の前を行ったり来たりしながら、まじまじと彼の目を覗き込んでいた。
「うわあ……ほんとに、お日さまみたいな目だぞ! ナヴィアの言ってたとおりだ!」
「ナヴィアさん、どこまで話したの?」
「全部だぞ!」
パイモンは、指を折って数え始めた。
「港で待ち伏せしてキスしたとか、決闘で目隠ししたとか、プロポーズが『予定に組み込む』だったとか、結婚式で最高審判官が泣いて天気雨が降ったとか――」
かちゃん、と小さな音がした。
クロリンデが、カップを受け皿に置いた音だった。表情は、いつもどおり動いていない。けれど、帽子の鍔の下で、耳の先がじわじわと赤くなっていくのが、ソルの位置からはよく見えた。
「……ナヴィアとは、一度、話をする必要がある」
低い声だった。旅人が、気の毒そうにナヴィアのいる方角を見た。
「なあなあ、クロリンデ」パイモンは、まったく気にせず続けた。「『予定に組み込む』って、それ本当にプロポーズなのか?」
「そう聞こえなかったなら、言い直すと言った」
「言い直してくれたよ」ソルが横から口を挟んだ。「『結婚してくれ』って」
「ちょ、直球だぞ!」
パイモンが、空中でくるりと一回転した。旅人が、楽しそうに笑っている。
「じゃあさ、新婚生活って、どんな感じなんだ?」
クロリンデは、少し考えてから答えた。
「毎朝、コーヒーに角砂糖が入る」
「毎朝、花に話しかけてる人がいる」とソル。
「検証は、まだ続いている」
「何の検証だ!?」
旅人が、とうとう声を上げて笑い出した。
◇
茶が二杯目になった頃、パイモンが、ふと思いついたように言った。
「ところでソルって、すっごく強いんだろ? ナヴィアが、クロリンデとほとんど互角だって言ってたぞ」
「まあ、それなりに」
「じゃあさ、旅人とどっちが強いんだ?」
ソルと旅人は、思わず顔を見合わせた。
旅人の目が、少しだけ輝いていた。剣士の目だった。ソルは、自分の口の端が勝手に持ち上がるのを感じた。
◇
家の前の砂浜で、二人は向かい合った。
ソルは槍を、旅人は剣を。神の目は使わない、元素の力も使わない、という約束で。クロリンデが、少し離れた流木に腰掛けて、審判役を引き受けた。
「始め」
旅人の剣は、速かった。いくつもの国を渡り、いくつもの戦いをくぐり抜けてきた剣だ。型がない。その場で、相手に合わせて形を変える。
ソルは、槍の柄でそれを受け、払い、退いた。
一合、二合、三合。
砂が舞い上がる。潮風が、刃のあいだを抜けていく。
五合目を受けたとき、ソルは、自分の胸の奥で何かが弾むのを感じた。
――あれ、と思った。
決闘場では、戦いは生き延びるためのものだった。ファデュイでは、命令を果たすためのものだった。勝たなければ死ぬ。負ければ、誰かが死ぬ。それ以外の戦いを、ソルは知らなかった。
けれど今、旅人の剣を受けるたびに、胸の奥が躍っていた。
次はどう来る。こう返したら、どう出る。息が上がる。汗が額を伝う。それなのに、ちっとも苦しくなかった。
楽しい。
生まれて初めて、戦うことが、楽しかった。
「そこまで」
クロリンデの声が、二人の刃のあいだに割って入った。
二人とも、ぴたりと動きを止めた。槍の穂先と剣の切っ先が、互いの喉元の指一本手前で止まっていた。
「引き分けだ」
「えー! いいところだったのに!」
パイモンが、空中で地団駄を踏んだ。
「昼食の時間だ」クロリンデは、流木から立ち上がった。「勝負の続きは、次の予定に組み込んでおく」
ソルは、肩で息をしながら、旅人と顔を見合わせた。それから、どちらからともなく笑い出した。
「……楽しいね、これ」
ぽつりと、そう言った。
旅人が、うなずいた。うん、楽しかった、と。
クロリンデは、何も言わなかった。けれど、砂浜を家の方へ歩いていく途中で、一度だけ振り返った。ソルを見る彼女の目は、ひどく柔らかかった。
◇
昼食の支度をしながら、クロリンデが言った。
「本当は、鴨を出したかった。あいにく、切らしている」
「オイラ、それ食べたいぞ! ナヴィアが、クロリンデの鴨料理は絶品だって言ってた!」
「次に来たときに食べさせる」
クロリンデは、手帳を取り出して、何かを書き込んだ。
「明日、狩りに行く。……あなたも来るか、ソル」
「行く」
ソルは、即答した。
夕方、旅人とパイモンは帰っていった。夕日の中、浮かんだパイモンが、何度も振り返って手を振っていた。
「ずっと、ずーっと仲良くなー!」
遠ざかっていく声に、クロリンデは小さく片手を上げて応えた。
その隣で、ソルも手を振った。誰かを見送るのも、誰かに見送られるのも、悪くないものだと思いながら。
アンケート結果トップ3
一位 ネフェル(20)
二位 アグライア (17)
三位 レミエール (14)
以上の結果から、次回はネフェルを書こうと思います。
正直かなり意外でした。レミエールがダントツだと思ってたので。
やっぱみなさん大人の余裕を持ったお姉さん好きなんですね。自分もです。
実はネフェルが一位になったのかなり嬉しいです。ネフェル大好きなんですけど、あまり二次創作を見かけないので、そこまで人気ないのかなーとか勝手に思ってました。
推しの大穴馬が1着来た気分です。
最近でいうジャスティンシカゴですね。ええ。伝わってないと思います。
本編はこっちと同じ10話構成で書こうと思ってます。
更新頻度についてですが、一気読みが好きな人なので、全部書き終わったらどかっと投稿しようと思ってますが、大分後になると思います。
随時あげてとの要望が多ければ随時更新する形にしようと思います。その旨のコメントが5個以上とかですかね。
どんな話にするかのアンケートをアンケートを載せますので、よければ投票お願いします。
アンケートの結果、次回はネフェル(原神)を書くことになりました。どんなストーリーが読みたいですか?ギャグ系は、書いたことないのでクオリティ低くなるかもしれません。
-
シリアス目、曇らせハッピーエンド
-
ほのぼの日常系
-
ラブコメ。ギャグ寄り()