昼前の時間帯。
春のせいか普段より多い人通りの道を抜けて、俺は商業ギルドへと足を運んでいた。
今日は他の副業予定もない。
昼からやる
問題はどちらにせよ客が少ないということだが、刺青にしても淫紋にしても需要が多くないことは理解している。
少ない需要に少ない供給。
こういう商売は単価を高くするという手段を意外と取りやすいとも思うのだが、それはまだもう少し先延ばしにしていたかった。
なので今日も今日とて商売に勤しむ。
どんな商売もそうだが、店を開き続けるということは何よりも大切だ。
商業ギルドは街の中心部の少し東側。
裏手には普段俺も利用する露店街でその奥は酒場や風俗店が立ち並ぶ歓楽街。
商業ギルドは冒険者ギルドと並んで二大ギルドと呼ばれている。
当然、冒険者ギルドからの仕入れやほかの街への卸売りをする仕事が中心なのだが、それらは別の専用の建物があるらしいとお客さんから話を聞いたことがあった。
儲かっているだけあって
磨かれた石と
といっても俺もほぼ半年間通い続けている。
勝手はよく知っており、軽いドアを開けて空いている窓口へ並ぶだけ。
この時間は朝や昼明けの込み合う時間から少しずれいているため、いつも待ち時間なく受付できる。
別に決めているわけではないのだが、普段使う窓口は大体ミアさんという女性が担当してくれる。二十代半ばで、おそらく倍率が凄まじいであろう商業ギルドの受付嬢をやっている女性。
すらりとした物静かながらクールな佇まい。
服装は白のシャツに深いグリーンとブラウンの制服姿。
名前を知っているのは当然名札をしているからだ。
ほの暗い露店商の一人である俺にとってはいささか眩しい。
事務会話以外したこともないのだが、その日は珍しく……というより初めて勝手が違っていた。
「あっ、シグナ様」
いつも通りギルドの中に入って受付窓口へと歩いていくと、その日は初めてと言っていいかもしれない。
パチリと目が合うと彼女は俺の名前を呼んで受付横の通路からこちら側へ歩いてきた。
「お待ちしておりました」
そんなことを急に言われるものだから俺はすぐに返事もできず、頭にハテナマークを浮かべてしまう。
「えっと……何か、ありましたか?」
まさか
やはり露店で淫紋商売は問題だった?
それとも、最近時々くるようになった
思い当たることが多すぎる……!
内心冷や汗をかきながらそれだけ尋ねるとミアさんは一つ頷いた。
「はい、少し事情を説明させていただきたいのでこちらに」
そういって彼女はこちらへと前を先導して待合室の端にある二人掛けのテーブルの前。
どうぞ、と俺に座るように促した。
なんとなく別室に案内とかじゃないだけ少し安心する。
雰囲気からいきなり出禁と告げられる感じでもなさそうだった。
俺が座ると向かいにミアさんも腰を掛ける。
「すみません。急にこんな形で」
「あ、いえ……なんでしたか?」
尋ねると、ミアさんは少しどこから話そうかと
「シグナ様はAランク冒険者の『
「いえ、知らないです」
知らなかったので素直にそう答える。
冒険者の街にいるのだから、意外と冒険者事情……特に高ランクの冒険者やそのパーティのことは街で話題になったりすることも多いのだが、あくまでそれは冒険者稼業を営む人々の話。
もしかしたら話くらいは聞いたことがあったのかもしれないが、具体的なパーティ名はさすがに覚えていない。
それは彼女も想定内だったのか話を続ける。
「アルバ・ルーチェはここ一年でEランクからAランクに瞬く間に駆け上がった、かなり若い冒険者4人組のパーティなのですが、最近解散するかもしれないという話があがっているそうです」
「……ほぅ」
と俺は未だに何の話をされているのかよく分からず生返事を返すしかない。
「私も伝え聞きなのですが……パーティの一人である剣士のメルク様という女性にほかのメンバーの方が付いていけなくなった、というのが原因のようで、その原因が胸に刻まれた
そういってミアさんは一度言葉を止めてこちらを見た。
「いえ、専門じゃないです」
専門じゃなかったのでそう答える。
聖紋に関してはこの街にきて言葉だけは知っていた。
この街は冒険者の街。
夢を追う若者であふれる街だが、当然戦いによって命を落とす者も少なくない。
独り身ならいざ知らず、親を亡くして行き場をなくす子供たちを保護する施設として、『カヴナント教会』というものが存在する。
それを信仰する者が幼いころに啓示される神からの贈り物。
それを聖紋と呼ぶらしい。
「あの……私の商売知っていますか?」
うる若き女性に尋ねることではないが、念のため聞いておく。
「はい。その……淫紋師さんですよね?」
「あ、はい。淫紋師さんです。初めて呼ばれましたけど」
ちょっと笑って答えると少しばつの悪そうに咳ばらいをして一つ頷いた。
「それは承知しています。ただ、人体への刻印魔法を専門とする方はほとんど……いえ、他に一人もこの街におらず、冒険者ギルドからも流石に未来あるパーティを解散させたくないらしくどうしてもと探しているようです」
「……なるほど」
話の内容は理解した。
メルクという女性によってAランクパーティが解散しようとしている。
その原因が聖紋にある。
淫紋屋さんの俺が大
なんだろう。
水回りの問題に
と、思わなくもないが、自分でいうのもなんだが全く忙しい身ではない。
「見るくらいなら大丈夫です。力になれるかは分かりませんけど」
「ありがとうございます。実はすでに別室で待機していただいていまして……ご案内させていただきますね」
なんともう近くにいるらしい。
なかなかの急展開だ。
席を立ちあがり、案内してくれるミアさんに続いて、俺は初めて訪れる奥の廊下を歩いて行った。
**
「あの……シグナ様には凄く失礼な話なのですが、中にいるのはお二人とも未成年でして……シグナ様のことは刻印師と説明させていただいています」
突き当りの一室の前。
ミアさんは少し申し訳なさそうにそう言った。
よくわらわからないが、淫紋師ではなく刻印師として振舞ってくださいということだろう。
いや、逆に淫紋師として振舞うってなんだよと聞きたいが、向こうにとってもこちらにとっても気を使っていることだけはすごく伝わってくる。
はいと頷くと向こうももう一度だけペコリと頭を下げた。
こんこん、とミアさんが部屋のドアをノックする。
少し間を置いて、ドアを開ける。
室内はかなり
「メルク様、アンブラ様。お待たせいたしました。シグナ様をお呼びいたしました」
ミアさんの後に続いて中に入ると、ソファには二人の女性が座っていた。
まず思ったのが、どちらも若い。
若いというか、幼いといった表現のほうが適切かもしれない。
黒髪の女の子は十四か、十五そこそこだと思うがもう一人。
それは美しい調度品を
ちょこんとソファに座り、入ってきた俺たちを一瞥することもなく虚空に視点を固定している。青のワンピースドレスに綺麗な刺繍が入った白いマントを羽織っている。
「シグナ様、こちらへどうぞ」
促されるまま、二人の少女の向かいに座る。
白い少女は相変わらず微動だにしないが、横に座る長い黒髪の少女はかなり疲れた雰囲気だった。見習い魔術師のような格好でプリーツスカートと白シャツで黒の短めのローブを身に着けていた。
ミアは同席しないようで、部屋の隅でお茶を入れると三人分トレイに乗せて持ってきてくれた。
「それでは、私は一度失礼いたします。何かありましたらお呼びください」
段取りがあったのかそういってミアさんは一礼して部屋から出ていった。
残された三人。
俺はずずっとお茶を一口飲んだ。ストレートの紅茶。おいしい。
「あの、すみません。お忙しい中お呼びしてしまって。あっ、私はアンブラっていいます」
黒髪の少女が口火を切ってくれた。
思ったよりハキハキと喋る女の子だった。
俺としてもそちらの方がありがたい。
「どうも、俺はシグナだ」
「ありがとうございます。あの、どこまで聞いてるか分かりませんが、メル……いえ、最近メルクの様子が本当におかしくて……昔っからあんまり喋るわけじゃないし、ちょっと浮世離れしてましたけど最近は、起きたら魔物討伐に行って……パーティは組んでるんですけど一人でどんどん先にいっちゃって……すごい返り血浴びても平然として……それでアルクスくんとオランくんはもう付いていけないって……」
話しているうちに悲しくなってしまったのか、アンブラはぽたぽたと涙を流していた。
アルクスとオランというのは、おそらくパーティメンバーなのだろう。
俺は黙って話の続きを聞く。
「私、絶対何か原因あるって調べてたんです。わかんないんですけど、もしかしたら聖紋が原因なんじゃないかって思って……ただ、刻印魔法って、武器とかに施すのはそれなりに資料もあるんですけど、人体への刻印ってほんとに見つからなくて。冒険者ギルドの人に聞いたら、調べてくれるって話になって……」
それで、俺に話が回ってきたらしい。
資料がないのは、需要がないのとほぼイコールな気がする。
仮に紋章によって多少身体能力の向上が期待できても、自らの体に模様を刻もうとする人はそこまで多くないだろう。
ただ、気持ちは分からなくはない。
俺自身、実家が代々続く彫師・淫紋師の家系。
歴史はあるそうだが、歴史がある店が儲かっている店なわけではない。
父は普通にやってられるかと相続を放棄し、俺はそれなりに興味があったので引き継いだ。
祖父からは「手に職をつければ、将来くいっぱぐれることなんてねぇよ」と言われて、結構その言葉には納得していたのだが、普通にくいっぱぐれている。
なんだったら、祖父もくいっぱぐれていたので、あの言葉はなんだったのかと今度実家に帰った時には問い詰めてやりたいと密かに思っている。
「なるほどな。わかった。ただ、俺も聖紋については詳しくないし、見るのだって初めてだ。過度な期待はしないでほしい」
「……ありがとうございます!」
「じゃあ早速
ぱっと隣のメルクを見るが、目に見える部分――顔や腕、足などそれらしいものは見当たらない。
「あ、聖紋はみんな胸のあたりに刻まれます」
「あ、胸に……」
ま、まぁそういうものか。と俺は一つ頷く。
「じゃあ、その。脱いでもらえる?
メルクに尋ねる。
改めてみると肩くらいまでで切りそろえられた淡いローズシルバーの髪。肌は真っ白で目は翡翠のような緑色。瞬きすらせず、尋ねても微動だにしない。
本当に人形に語り掛けているような錯覚すらした。
「すみません。最近メルク、なんか知り合い以外の人見えてないんじゃないかって気もしてて……メル。お医者さん来たから服あげて」
アンブラが耳元でそう囁くと、メルクは一瞬ぴくっと反応した後、立ち上がる。
立つとよく分かるが本当に小さい。その状態で座った俺と同じくらいの目線だ。
メルクは言われるがまま、ワンピースの
空間に浮かび上がるような白い肢体。A級の剣士らしいのでもっと引き締まっているかと思っていたが、思ったよりほどよい肉付きもあり、年相応の女の子の体格だった。
確かに胸元に黒い刻印のようなものはある。
しかし、俺はそれより気になることが一つあった。
彼女が身に着けているもの。
秘部と胸元を隠す白と黒のストライプ模様の肌着。
もちろん下着かと思ったが、よく見るとこれ違う。
ビキニだこれ。
???
な、なぜ?
何ゆえ?
どんな理由があったら普段着の下にビキニを着ることになるのか。しかも結構きわどい。
「あの……彼女は何ゆえ水着を?」
あ、今日俺に診察されるためか。と少しあたりをつけながらも慎重にアンブラに聞く。
「あ、冒険で急に水中に入ることもあるから。冒険者である限り下は常に水着を着るんだ、っていってました」
冒険者の鑑すぎるだろ。
知らないけどアルクスくんとオランくんの判断については全然同情できないんだけど……!
俺もついてけないんだけど!
「あ、それも最近のこと?」
「それは、小さいころからです」
それは聖紋が原因じゃないのかよ。
ま、まぁそれは今日の本題ではない。
俺は意識を切り換えて診察することにした。
それに俺は少しだけ興味はあったのだ。
俺は生まれてから自分や祖父の描く刻印魔法以外見たことがなかった。
彼女のそれは聖紋と呼ばれるもの。
俺は懐から愛用の刻印杖を取り出すとその先端を胸元の模様に宛がう。
模様は十字架。
聖紋は刻印によって何の加護を受け取ったか判断されるらしくおそらくこれが勇者の加護なのだろう。
正直、勇者って実績によって得られる称号なのではないかと思わなくもないが、普段からビキニを纏っているあたり、生まれながらに勇者であることは間違いはない。
刻印魔法というのは、端的に言えば神経や魔力の流れを刻印を介して無理やり書き換える構築魔法である。少なくとも俺の魔術には、見た目の模様はそこまで重要ではなく何層にも重ねた複合術式をその模様に刻み込んでいくだけ。
俺は杖の先端を通して、聖紋の中を解析していく。
正直、俺は少し感動していた。
それは
そして俺が人間の快楽や神経につなげる回路を人間の身体能力、そして重要なのが思考を司る
むろん、俺も脳に作用する技術は持っていた。
だが、少なくとも俺の持つ技術とは異なるアプローチで、異なる技術。
しゅ、しゅげぇ……。
俺は久しぶりに興奮していた。
ふんすふんすと未知なる理論に胸が高まるが、いったんその気持ちは胸に仕舞っておき、彼女がこうなった原因を探る。
あー、ここがこーなって。あれがあーなって。
と解析していると原因は理解した。
聖紋とは、みなし子が将来自立して生活できるようにサポートするために、自身の才能に近い加護を与えることが目的らしい。
おそらく本来であれば、多少思考に影響はでることはあれど、日常生活には困らず、むしろ生活をサポートするものなのかもしれない。
しかし、勇者の加護という強い力に。
生まれ持った天性の剣士の才能と人間性。
それらがかみ合ったとき、目的達成のため不要な感情を排除していく仕組みがこの聖紋には刻まれていた。
なるほど。
と俺はそこで少し考える。
ただ、問題なのは、基本的に他人の描いた刻印というのは他の人が操作や除去できないものだということである。
それは考えてみれば当然のもので、少なくとも淫紋商売をしている俺が赤の他人に
繊細に体のあちこちとつながる刻印は基本的には刻んだ本人にしか除去できないし、暗号化させてできないようにさせている。
もちろん聖紋もそのような仕組みとなっていた。
だが、やろうと思えばできなくはない。
安全ではない。
もちろん完全に機能不全にさせることはできないし、おそらく彼女たちもそれは望んでいないだろう。
大事なのは思考制限を解除すること。
思考制限だけじゃない、彼女には人間として生きるとして必要な感覚、それは例えばおいしいであったり、痛いであったり、そして、気持ちいいといった肉体の感じる感覚も著しく制限されている。
おそらく、腕一本失っても痛みなんか感じないんじゃないかと思う強力な感情制限。
今回の一回だけですべてを書き換えることは無理だろう。
だが、今回できることもある。
刻印から脳へと繋がる二本の魔力線。
ちょうど心臓から首を伝って伸びている。
これの魔力線を別の神経回路に中継させてその導線を伝わる魔力を減衰させる。
中間地点にある俺が接続を得意とする神経回路――
そう。乳首である。
やるしかない。
背に腹は代えられない。
俺は人が幸せになる仕事をしたいんだ。
このまま放っておけば彼女は魔物を殺し続けるだけの存在となり果てる。
俺は誰一人だってそんな少女が存在してほしくなかった。
うおおおおお!
再構築。再構築。再構築!
幸せになれ、幸せになれ、幸せになれえええ!!
「はぁ、はぁ、はぁ……」
なんとか術式の再構成が終わった頃には俺はそれほど暑くもない室内で滝のような汗を流していた。
ふーっと大きく息を一つ吐く。
目の前の小さな白い女の子は、先ほどまでの虚ろな目ではなく、確かに意思を感じる目で俺のことを見つめていた。
それだけでうまくいったことがわかる。
あまりに疲れたのでソファの背もたれにどっと体重を預ける。
「……め、める」
ほんの少し変わったメルクの様子にアンブラも確かに気付いているようだった。
「アンブラ」
「メル。メル。私のことわかるの? 私のこと呼んでくれたの?」
「うん」
「ううう。うわああぁぁん!!」
そうしてアンブラはぎゅーっとメルクのことを抱きしめる。
その様子を俺は感慨深く眺めていた。
いいことをした。我ながら。
疲れはしたが、とても気分のいい心地だった。
「シグナさん、いえ、シグナ様。ありがとうございます!」
礼をいうアンブラに気にする必要はないと手を横に振る。
本当に気にする必要はない。
むしろ、聖紋という領域を見せてくれた、こちらの方が礼を言いたいくらいだった。
ただ、流石に代償がゼロというわけにはいかない。
俺がしてしまったことを少なくともメルクには話しておかなければならないだろう。
「悪い、アンブラ。少しメルクと二人で話したいことがあるから席を外してくれるか?」
「あ、はい」
「何、そこまで大したことじゃない。後でメルクから聞くなら別にそれはかまわない」
少し心配そうだったが、アンブラは素直に従って部屋を出て行ってくれた。
部屋には俺とメルクの二人きり。
「気分はどうだ?」
「……すごくすっきりしてる。ありがとう、えっと、シグナ」
端的な口調だが、それはたぶんもともとだろう。
「礼は言わなくていい。メルク、正直に話してほしい。体に変化があるだろう?」
メルクは少しだけ黙った後、こくりと頷いた。
「胸のさきっぽが、じんじんする」
俺は頷いた。
「いいか? 俺は君の呪いを少し直したが、代償なく直せたわけじゃない。刻印から流れる魔力と設定を少しほかにずらしただけなんだ」
「設定……?」
ちょっと難しかったのか、メルクは首を傾げる。
たぶん無意識だと思うが、彼女の両手が胸を触ろうと持ち上がり。
「待て!」
俺は急いでそれを静止させた。
びっくりしたのかメルクの動きが止まる。
「触っちゃだめだ。いいか? まだ神経をつなげたばかりで安定してないし、急ごしらえでやった仕事でそれはたぶんしばらく安定しないだろう」
「じゃあ、ずっとこのまま?」
その問いに俺は首を横に振った。
「いや、よくすることはできる。ただ、時間はかかるんだ。週に一回だ。必ず俺のところへ来て診察を受けてくれ。そもそもまだ完全じゃないし、直したい部分も多い。そして、もし本当に我慢できなくったら俺の店に来てくれ。触ってすぐに見る分にはたぶん問題ない」
「わかった。頑張る」
「あと、水着でもたぶん
そうして俺は二枚の絆創膏(低刺激タイプ)をメルクへ差し出すのだった。
**
――Side メルク
「おい! マリスバード、そっち行ったぞ」
「……まかせて」
空を蹴って、刀を一閃。
首を落とした魔鳥はドサリと力なく地面へと墜落する。
じん、じん。
「やったなぁ、今日は焼き鳥だ」
「焼き鳥、楽しみ」
シグナと出会ったその日のうちに、パーティメンバーのアルクスとオランには事情を説明して……といってもほとんどアンブラが話してくれたけど、二人とも話を聞いてくれて仲直りすることができた。
シグナに出会うまでのことを忘れてしまったわけではない。
小さいころから夢見ていた冒険者。
ただ魔王を倒すためだけに目指していたわけではない。
「もー、メルたち早いよー」
「全く、前衛が二人そろって先に行くなんてなっていませんよ」
「あはは、わりーわりー」
魔物を追いかけているうちに少し距離が離れてしまったアンブラと賢者オランがゆっくり追いついてくる。
やっぱりこのメンバーで旅をするのは楽しい。
*
「はぁー。お腹いっぱい。魔物肉って意外とおいしいの多いんだよなー」
「うん。おいしい」
じん、じん、じん。
「ぅ……」
「メル。どうかした?」
「ん。なんでもない。ちょっとトイレ」
「あ、はーい。気を付けてね」
そういって食後にパーティから少し離れて茂みの奥。
私はどうしても抑えきれない焦燥感とかゆみと快楽のちょうど中間のような感覚がどくんどくんと胸の突起から触れ触れと思考を揺さぶってくる。
触りたい。
触りたい。触りたい。
けど、触ってはいけない。しかし、両手の人差し指をすぐ近くまで持っていってしまう。
明日はシグナとの診察の日。
我慢できなかったら、シグナの店で触る?
冷静に考えたらそれはどういうことなのだろうか?
ほとんど命の恩人ともいえるシグナ。
何も見えない霧の中から手を伸ばしてくれたような人。
どくん、どくん、どくん。
そんな人の前で、触る? 自分の乳首を?
ぞくぞくと寒気にも見た感覚が背筋を撫でる。
上手にできるか観察されながら。
だめだったら叱られながら。
そして、また自分の体を弄られてしまうのだ。
「……もどらなきゃ」
今一人でいてもどうせ触ることはできない。
まだ仲間と一緒に話していたら気がまぎれるかもしれない。
明日。明日。
自然と熱くなる体をから流れる汗をぬぐいながら、私は待っている仲間のもとと戻っていった。
――Side Out
**
メルクとの診察の日。
初回ということで先週すでに約束は交わしていた。
場所は前回と同じ商業ギルドの一室。
特に用事もなかったので早めに来て待っていると、彼女も時間より早い十分ほど前にやってきた。
「どうだった?」
診察ということできっちり状況は聞いておく。
「……結構、つらい」
まあそうだろうな。と一つ頷く。
「ただね。先に言っておくけど、まだメルクの体は色んな機能が制限されてな。それらを直せば直すほど、メルクは
「……耐えられる?」
メルクが尋ねるが、それは俺には分からない。
それは彼女の意思の強さの問題だ。
「俺は今日、メルクに一つだけ聞きたいことがあってな」
「何?」
「俺はね。頑張ってる女の子が好きなんだ。病気だったら早く直そうとしっかり休んだり、ダイエットしてたら甘いものを控えたりね」
「…………ぇ?」
メルクは白い肌を少し赤く染めてふるふると震えていた。
その表情は無表情ながら少し泣きそうといった様子だ。
俺とていじめたい訳ではないのだ。
与えることは簡単だ。しかし、俺自身、メルクが
「でも、俺も鬼じゃないんだ。今週だけだ。それに、練習だけなら、見ていてあげよう」
「……練習?」
「うん。ほら、準備して」
誇り高き淫紋屋さんとしていう。
これは正当な医療行為である。
かわいそう、最悪、ごみ人間。
それらの罵声は見当違いの言葉だと先に言っておこう。
メルクは前回と同じように服をたくし上げるとずり落ちないように肩にひっかけ、露出した先にのぞかせる謎ビキニ。
今日も白と黒のストライプだった。一種類しかもっていないのだろうか。
「ほら、声に出しながら」
そういうとメルクは白い肌をほんのり赤く染めて、悲しそうな、けれど少し嬉しそうな雰囲気のあるいつも通りの無表情で。
「こし、こし」
両手の人差し指を絶対に当たらないようにくいくいと動かし始めるのだった。
勇者:メルク(13歳):聖紋の影響で肉体、精神ともに成長がかなり遅れている。鬼のように強い。
魔法使い:アンブラ(14歳):影の魔法使い。実は孤児院では一番モテている。
槍使い:アルクス(16歳):もともとは弓使いだった。
賢者:オラン(17歳):賢者の卵。
受付嬢:ミア(24歳):真面目で頭がいいうえに優しい。
みんな孤児院出身の幼馴染。まだ恋を知らない少年少女のパーティ