HOUSE OF DEIKUN ハウス・オブ・ダイクン   作:GAME OF ZABYS

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15.少年兵は、ひた走る(Side:シャア)

1.孤立する城、カーストの逆流

 

 

「聞け!士官学校の諸君! ザビ家はもはや正気ではない!

 

ギレンとキシリアは、本日ズム・シティの祝宴の席で、我がカーラル家をはじめとするジオンの正統なる門閥貴族たちを無差別に、血の海に沈め、大粛清を敢行した!

 

我々は、ザビ家の独裁から我が祖国サイド3の正統なる不滅の自由を取り戻すために立ち上がった『ジオン正統派の義勇軍』である!!」

 

 

士官学校は門閥貴族の私兵に包囲され、外部から完全に孤立していた。

私たち学生は、教官の誘導で、武器庫であるシェルターに避難し、貴族たちの声明を黙って聞いていた。

 

様子を見に行った教官たちは、帰ってこない。

学生だけだ。

 

外から聞こえる貴族の声がより一層熱を帯びる。

 

 

「諸君らはジオンの未来の英才だ。我々は君たちと戦う気は毛頭ない! 命も親の安全も保証する!

だから、その校内に隠れている『独裁者の末息子(ガルマ・ザビ)』の身柄をこちらに引き渡し、無血開城しなさい!!」

 

 

ガルマの身体が大きく震えた。

目は充血して涙ぐみ、髪は乱れ、顔は蒼白だ。

 

門閥貴族の子女──アッパークラスの生徒たちから、不安や恐怖、動揺の溜息が漏れ始める。

 

 

「……おい、カーラル当主の言うことは本当か? ズム・シティでザビ家が大粛清をやったのか?」

 

 

「俺たちの親は無事なのか?……人質に取られているのか?」

 

 

「教官(せんせい)達がもどらない…………、俺たちを置いて、投降しちまったのか?」

 

 

私は思考をめぐらせていた。

 

ザビ家が門閥貴族を粛清した。

何故だ?理由もなくそんな暴挙にでるわけがない。

つまり、粛清するほどの理由があった。

 

──連邦に寝返った?

連邦の経済封鎖で利権の分配を失った貴族がザビ家を売った。

 

そして、粛清対象となったカーラル家は、ガルマを手土産に連邦に亡命しようとしている?

そんなところか?

 

 

私は、シェルターの小さな覗き窓から外の様子を伺った。

カーラル家の紋章の軍服を着た私兵や、黒い戦闘服(PMCs)を纏った傭兵たちが、外を包囲している。

 

 

私は、士官学校と遠くない連邦軍の駐屯地を見やった。

 

静かだ。

 

だが、このカーラル家が連邦と手を組んだなら、傭兵の中に連邦の正規軍が混じっている可能性は限りなく高いだろう。

 

 

 

 

 

ガルマがアッパークラスの生徒たちの騒ぎを一掃するように、立ち上がった。

 

 

「……僕一人の犠牲ですむというなら、僕はここを出ていくッ!

僕はザビ家の男だ。ここにいる皆を守る義務がある。

カーラルには、僕の身柄と引き換えに、君たちと、君たち家族の命を保証するよう交渉する!」

 

 

言葉とは裏腹に、ガルマの顔は真っ青だ。

膝が微かに震えている。

 

アッパークラスの生徒が意を決したように、便乗して言葉を放つ。

 

 

「そうだ、ガルマ……様が、外に出れば……」

 

 

「そうすれば、皆、助かるッ、助かるじゃないか!」

 

 

 

 

 

──うるさい。

 

 

私は思考を中断され、心の中で毒づいた。

 

たとえガルマが自らカーラル家の元にくだったとしても、それを黙認した士官学校の生徒たちは粛清対象になるだろう。

あのデギンが、ドズルが、溺愛するガルマ(こいつ)を敵に売った者たちを、野放図にしておくものか。

 

 

 

 

死んでたまるか。

 

私は生きて、情報局に潜り込み、父を売った下手人を見つけ出す。

復讐を果たし、サイド6に亡命する。

そう決めているのだ。

 

 

 

 

総括。

 

ガルマを守る。

下層クラスの仲間と協力し、ガルマ──

このザビ家の男を、絶対に生かしてこの場を切り抜ける。

 

 

 

 

それには大義が必要だ。

 

私はガルマを背に庇い、門閥貴族を睨みつけた。

 

「ガルマが行く必要はない。

君たちは、散々ザビ家から甘い汁を吸って、いざ情勢が傾いたらこの様か?

ガルマに何かあれば、ドズル校長もデギン党首も黙ってはいまいぞ」

 

 

ガルマが息を飲んだ。

 

アッパークラスの生徒たちは、目くばせをして、口元を歪ませて笑った。

 

「ははは……。下層クラスの虫けらが。ガルマ様を売るのは、俺たちじゃない。

お前たち下層クラスがザビ家憎さのあまり暴発して、そうしたと俺たち全員が証言してやる。

俺たちは貴族だぞ!下層クラスがどう粋がろうと、世間は俺たちを信じる」

 

 

「そうだ……。ザビ家が俺たちの家族を粛清したのなら、構うものか!

カーラル家に命の保証をしてもらう他ないッ!」

 

 

「おい、ガルマ様を外にお連れしろ!下層クラスは下がれ!皆、手を貸せ!」

 

 

 

 

 

 

Eat Shit. 実にシンプルだ。

 

 

下層クラスの仲間が、無言で門閥貴族の1人を殴りつけた。

その瞬間、仲間たちの拳があちこちで炸裂し、アッパークラスの生徒たちは難なく鎮圧された。

 

 

仲間の1人が私に尋ねる。

 

 

「シャア、これからどうする?」

 

 

「ガルマを守って脱出する」

 

 

仲間の何人かは不満そうだ。そのうちの1人が悔しそうに呟く。

 

 

「ザビ家と貴族どもの内乱に、なぜ俺たちが巻き込まれなきゃいけないんだ……」

 

 

ガルマは俯いてしまう。私は言葉を続けた。

 

 

「落ち着け!外の連中が『ジオン正統派の義勇軍』と言っている以上、私たち学生が殺されることはない!」

 

 

ガルマは顔を上げ、私に決然と告げた。

 

 

「シャア、ありがとう。……だが、これは僕のザビ家とカーラルの問題だ。君を……危険な目には合わせられないッ!」

 

 

 

──外交官ではなく、軍人になりたいんだ。強い軍人に。

 

──僕は、サイド3のジオン軍の最強の元帥になる!

 

 

 

……この男のいつかの誓いが、耳に響いた。

 

私は誓いの証人、だった。

 

 

 

「……勇敢な男だ。しかし、カーラルのバックには連邦がいる。……君を独りで行かせるわけにはいかない」

 

 

ガルマの瞳が微かに潤み、蒼白の顔が苦し気に歪んだ。

 

 

私は下層クラスの仲間に訴えかけた。

 

 

「皆、目を覚ませ!我々がここで学んだのは何のためだ?!

カーラル家のバックにいるのは連邦だ! 私たちの肉を奪い、パンを奪い、飢え殺そうとしているあの連邦に、ここで無様に屈するのか!?

 

ガルマを差し出してジオン党が抵抗をやめれば、私たちは永遠に地球の特権階級の奴隷のままだ!

 

ここを生き延びる道はただ一つ。ザビ家のガルマを私たちの手で守り抜き、この包囲網を内側からぶち破ることだけだッ!!」

 

 

 

仲間たちの目に光がともる。

 

 

「おうッ」

 

 

 

 

 

 

 

2.兵のナイフの血の味は

 

私はアッパークラスの生徒たちから、ザビ家の紋章がデカデカと入った軍服を剥ぎ取った。

それを、下層クラスのうち、ガルマと背格好が似ている生徒たちに着せた。髪をカモフラージュペイントで暗めにし、ガルマに変装させる。

 

そして、ガルマには下層クラスの軍服に着替えさせた。

 

シェルターに保管してあった、いつかの模擬戦で使用した低出力の滑走ユニット──簡易型ローラーダッシュを仕込んだブーツに全員が履き替える。

 

 

私はガルマに変装した生徒たちに指示を出した。

 

 

「ローラーダッシュで散らばって、カーラルの私兵を目くらまししてくれ。無理はするな。捕まったら、ザビ家に脅されて無理矢理やらされたと言えばいい」

 

 

銃はロックがかかっていて使えない。

 

私とガルマは、ロックされたままのライフルと、演習用ナイフを手に、包囲網を突破することとなった。

 

 

 

 

 

 

シェルターのハッチを開け、変装したガルマ──影武者たちが、暗闇の中をローラーダッシュの爆音とともに四方八方へ散会した。

 

 

包囲していたカーラル家の私兵やPMCs(傭兵)が、通信で大混乱を起こす。

 

 

「ザビ家の御曹司、出てきました!」

 

 

「…いや、複数います!複数が同時に逃走中!」

 

 

「全員を追え! 生け捕りにしろ!」

 

 

 

 

 

──狙い通りだ。

 

その隙に、私とガルマは、他の下層クラスの生徒たちと共に、慌てて逃げたふうを装って、シェルターから出て外に向かった。

 

 

 

 

 

 

私は本物のガルマと共に、静かに死角をローラーダッシュで滑走していた。

 

 

「おい!そこの学生!貴様ら、とまれ!」

 

 

PMCs──連邦の影がちらつくベテラン傭兵と遭遇してしまった。銃を構えている。

 

私はローラーダッシュを加速させて、銃の軌道に入らないように注意しながら『ロックされた演習用ライフル』を相手の顔面に力いっぱい投げつけた。

 

 

「うがぁあッ」

 

 

傭兵は衝撃で発砲し、私の頭を弾丸がかすめた。

Holy shit.

 

 

「シャアッーーー!!」

 

 

ガルマが叫びながら、傭兵にローラーダッシュで突進して間合いを詰め、演習用ナイフを傭兵の喉元に突き刺した。傷口から鮮血がほとばしる。

 

 

「う、わ、わわぁあッ!!!!」

 

 

ガルマは初めての『本物の殺し合い』に腰が引け、膝をついた。

ナイフを握る手が震え、動けなくなってしまった。

 

私は心の中で舌打ちした。

 

 

「ガルマ、しっかりしろ!君は兵士を殺したんじゃない、君自身を守ったのだ!

……君のおかげで、私も怪我をせずにすんだ」

 

 

何とか、こいつを走らせるしかない。

 

 

「生きて帰って、ジオン軍最高元帥になるのだろう?なら、今は迷うな!立て!」

 

 

ガルマは私の言葉にようやく落ち着きを取り戻し、息を整える。

私の手をつかみ、立ち上がった。

 

 

「あ、ありがとう、シャア……!」

 

 

 

 

 

 

3.イカサマの包囲網、狂言の天秤

 

私とガルマは、ようやく包囲網の最外郭へと辿り着いた。匍匐体制を取りながら、周囲を観察した。

 

そこで、思わず目を見張った。

 

 

──連邦軍の装甲車。

 

 

マークを隠してはいるが、反重力推進の排気口の形状、そして装甲の規格は間違いなく連邦軍の最新鋭のものだ。

カーラル家が連邦と手を組んでいる『動かぬ証拠』だ。

 

 

──だが、なぜマークを消している?

 

 

つまり、こいつらは自分の存在を隠したい。

 

ということは、地球連邦の本体は、まだザビ家とのホットウォー(全面戦争)を望んでいない。

カーラル家を裏から操り、ガルマを人質にサイド3の利権を毟り取ろうという、現地駐屯地の独断による『出処の知れない非公式の軍事介入』に過ぎない。

だからこそ、自分たちの足跡を必死に隠している。

 

 

 

──まともに突撃すれば、ハチの巣(即死)にされる。

 

だが、ここに留まれば、捕まるのは時間の問題だ。

一か八か、やるしかない。

 

 

 

私は、先ほど倒した傭兵から奪っておいた、通信機を取りだした。包囲網の『カーラル家私兵の通信網』に向けて、周波数を合わせる。

 

そして、通信機をガルマに放り投げた。

 

 

「ガルマ、私の言うとおりに怒鳴れ。──こちらガルマ・ザビである」

 

 

「あ?ああ、分かった──こちらガルマ・ザビである!!!」

 

 

「すでに我が『宇宙攻撃軍・ドズル中将』率いる第一特務艦隊が、連邦の駐屯地へ向けてズム・シティより総進撃を開始した」

 

 

「す、すでに我が『宇宙攻撃軍・ドズル中将』率いる第一特務艦隊が、連邦の駐屯地へ向けてズム・シティより総進撃を開始したッ!!!! 」

 

 

 

 

 

 

とんとん、と。

 

私は右手の人差し指で軽やかに頬を叩いた。

 

 

 

「あ~~、そうだな……カーラルの裏切り者ども、ザビ家の怒りに震えるがいい」

 

 

「カーラルの裏切り者の豚どもおぉッ!!!ザビ家の正義の怒りに震え上がるがいいッ!!!!」

 

 

 

ガルマはだんだんノッてきていた。

 

 

「シャア、これで終わりか?」

 

「……そうだ。余計なこと言うなよ」

 

 

 

 

 

当然、狂言(ブラフ)だ。

 

だが、身元の露見を恐れる連邦の『腰の引けた隠密作戦』に対しては、これ以上ない打撃だ。

もしザビ家の正規軍と正面衝突し、自分たちの最新鋭装甲車が鹵獲(ろかく)でもされれば、それこそがホットウォー(全面戦争)の引き金になってしまう。

 

 

 

 

 

 

ガルマのノッてる宣戦布告を聞いた連邦軍の装甲車は、戦争へのエスカレーションを警戒して、即座に現場を見捨てて撤退するそぶりをみせた。

 

 

「ザビ家の本隊がこちらに向かっている!? カーラル家め、作戦が露見したのか!」

 

 

「この戦力では、あのドズルの宇宙攻撃軍と正面衝突すれば不利だ、 撤退だ!」」

 

 

通信の向こうで、彼らの狼狽する声が響く。後ろ盾である連邦の戦闘インフラを失ったカーラル家の私兵たちが一気に動揺し、鉄の包囲網が内側からガタガタと崩れ始める。

 

 

 

 

 

「シャアッ!やつら、撤退していくぞ!」

 

「行くぞ、ガルマ! 走れ!!」

 

 

私とガルマは二人で走った。

 

 

 

 

 

 

4.身代わりの友誼、最高元帥への約束

 

私とガルマは夜霧の林道を駆け抜け、ついに包囲網を完全に突破した。

 

このまま夜明けまで林道沿いを歩けば、ズム・シティのセントラル──

ガルマのザビ家邸に着くはずだった。夜道は暗いが、幸い今日は満月だ。

 

微かに星が瞬いている。

 

 

 

 

ガルマが呟いた。

 

 

「私の身代わりになってくれた仲間たちは……大丈夫だろうか?」

 

 

私は少し笑った。

 

 

「ああ、あいつらは強い。権力のいなし方を知ってるし、捕まっても上手くやる。

……君が生きて帰ったら、あいつらに報いてやってくれ。良い奴らなんだ」

 

 

「そうか……。なぁ、彼らは何を喜ぶ?」

 

 

私は少し驚いた。

……もっと自己中心的な男かと思っていた。

 

ビーフシチューの2杯目。

私がショパンで怒りを表現する必要は、ひとまずなさそうだ。

 

 

「そうだな……。食事の時間を少し長くしてやるといい。今の制限時間45分は不評だ。

アッパークラスのように2時間とは言わないが、せめて味わう時間をな」

 

 

ガルマは真剣に聞いていた。

 

 

「分かった。善処する」

 

 

 

 

 

 

しばらくして、ガルマは笑い始めた。

……Holy shit. 狂ったか?

 

 

 

「何を笑ってやがる」

 

 

「いや……不謹慎だ!不謹慎だとは分かってる。

でも、楽しかったんだ!君と大冒険したみたいだった!」

 

 

私も笑った。

 

 

「……不謹慎だな」

 

 

「ドズル兄上には言うなよ?……なぁ、シャア、君はやっぱり情報局に行くのか?」

 

 

「そうだ。ついてくるなよ」

 

 

「なぜだ?……情報は大事だと、あれだけ熱弁してたくせに」

 

 

以前、私が軽く喋ったことを、こいつはしっかり覚えていた。

 

 

「……元帥になるんだろ、君は。情報局あがりの元帥など聞いたことがないぞ。

ドズル校長の宇宙攻撃軍のMS部隊(エリート部隊)、一択だろ」

 

 

ガルマは前を見たまま、話し続けた。

 

 

「……君と、君と一緒に、MS部隊に行けたらいい、そう思ってる」

 

 

 

 

 

──私の目の前で君に死なれたら、私の復讐はそこで途絶えるんだよ。

 

 

「……困る。今回分かったが、君はホット(刺激的)すぎる。命がいくつあっても足りない」

 

 

「えええええ?!何だよ、それ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

──私は復讐を果たす。

 

──だから、その私のため、君は死んでも生き残れ。Fuckin' prince.

 

 

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