ナザリック地下大墳墓の5日間戦争。 内政改革と、とあるメイドが掴んだ至高の奇跡 作:バルカン39
リ・エスティーゼ王国の王都が、粉飾決算の暴露から始まった凄絶な内戦の炎に包まれていた頃。戦場で無残に討ち死にを遂げた、と公式に記録されていた第一王子・バルブロは、実はまだ生きていた。
(クソッ、クソッ、なぜ私がこんな目に……! 私は王国の正当なる第一継承者だぞ……!)
激しい炎を上げる戦場。その中心で無残にバラバラに引き裂かれたのは、バルブロと全く同じ顔、同じ背格好をした『影武者』だった。本物のバルブロは、かつてない激戦の殺気に完全に心を折られ、王族としてのプライドをすべて投げ捨てて敵前逃亡を敢行していたのである。
彼は泥にまみれ、身分を証明する華美な外套を捨て、命からがら要塞都市エランテルへと逃げ込んだ。数日間、都市の最下層の安宿に隠れ潜み、息を潜めるバルブロ。彼はそこから、息を吹き返した王族派を率いて再び王位に返り咲くという、身の程知らずな復讐計画を練っていた。
しかし、その浅薄な希望は一瞬にして打ち砕かれることとなる。
「おい、そこのあんた。見慣れない顔だねぇ……」
逃亡から数日後。安宿の薄暗い一室の扉が、音もなく開いた。そこに立っていたのは、ナザリックの影の工作員……ではなく、エランテルの裏社会を牛耳る広域犯罪組織『八本指』の下っ端どもだった。
王都の内戦から逃れるためにラナーやデミウルゴスの手が伸びるより先に、エランテルの闇は、この不審な潜伏者を嗅ぎつけていたのだ。
「ま、待て! 私は第一王子バルブロだぞ! 控えおろう!」
バルブロは慌てて懐から王族の証たる宝飾品を突き出し、かつての傲慢さのままに怒鳴り散らした。しかし、それが致命的な引き金となる。
「へぇ、王子様ねぇ。……おい、こいつ護衛も連れてねえぞ」
「本当だ。ただの着飾っただけのボンボンじゃねえか。剣の腕もありゃしねえな」
八本指の男たちは、バルブロの剣の動きから、ろくに武器の扱いすら知らない「護衛もいない、剣の腕もないただのボンボン」であることを瞬時に見抜いた。
男たちは嘲笑いながら一斉にバルブロに殴りかかり、彼が隠し持っていた王族の隠し資産、宝飾品、すべての金品を文字通り身ぐるみ剥がすようにして強奪した。
「ぎゃああっ! 止めろ! 私の、私の財宝が……!」
「うるせえ! 命があっただけありがたく思いな、浮浪者! さっさと失せろ!」
全財産を奪われ、薄汚れた麻の服一枚にされたバルブロは、八本指の容赦のない暴力によってエランテルから文字通り叩き出され、無一文で追い出されてしまった。 彼の記憶や戸籍を消すまでもなく、裏社会の暴力によって、彼はただの「名もなき浮浪者」へと引きずりおろされたのである。
◇ 数日後・カルネ村の境界
着の身着のまま、一ギルすら持たない完全な無一文の極限状態で放浪を余儀なくされたバルブロ。かつての傲慢な体躯は見る影もなくやつれ、泥と垢にまみれた乞食同然の姿となった男が、数日間に及ぶ飢えと恐怖の地獄の果てに、ふらふらと行き着いた場所があった。
それは、アインズの直轄地として、ゴブリンの軍勢が平和に守りを固めている『カルネ村』の境界だった。
「あ、あう……飯を……私に、ひざまずいて、飯を寄こせ……」
かつて己が軍勢を率いて脅迫し、蹂躙しようとした因縁の村。その美しい柵の前に、バルブロは力尽きてドサリと倒れ込んだ。彼を見つけたのは、見張りをしていたエンリ・エモットと、がっしりとした体躯のゴブリン兵だった。かつて自分たちを恐怖に陥れた第一王子であることなど、あまりの変わり果てた姿にエンリたちは気づく由もない。しかし、ナザリックの絶対の監視下にあるこの村へ、無一文の元王子が漂着したというログは、即座にアインズの元へと送信されることとなる。