ナザリック地下大墳墓の5日間戦争。 内政改革と、とあるメイドが掴んだ至高の奇跡 作:バルカン39
アインズとシクススが転移したのは、ナザリック地下大墳墓の第十階層、宝物庫だった。
「う、ぐあぁっ……!」
転移の光が収まると同時に、アインズは激痛に顔を歪めて床に倒れ込んだ。
リングオブアインズウールゴウンを発動する直前、襲撃者が放った二の太刀が、アインズの脇腹を深く切り裂いていたのだ。
(痛い、痛い痛い! なんだこれは、こんな激痛、生まれて初めてだ……!)
鈴木悟としての人生でも、アンデッドとしての生活でも、経験したことのない生の「激痛」が脳を焼く。精神強制静謐のない人間の身体は、痛みへの耐性が皆無だった。過呼吸になりそうな呼吸を必死に止め、アインズは震える手で己の傷口を押さえた。
だが、それ以上に深刻なのは、アインズの腕の中にいるシクススだった。
彼女の背中からは今も止めどなく鮮血が溢れ、ナザリック特製のメイド服を赤黒く染め上げている。その傷は完全に致命傷であり、彼女の細い呼吸は今にも途切れそうだった。
「おい……しっかりしろ! 意識を保つんだ、シクスス!」
アインズは必死に声をかける。
人間になったことで、本来なら一目でわかるはずの「HPゲージ」が見えない。だが、彼女の画面から急速に血の気が引き、冷たくなっていく感覚が、死の接近を告げていた。
(クソッ、魔法だ! 回復魔法を……!)
アインズは脳内の魔法記憶(メモリー)を必死に検索する。しかし、彼は死霊魔術(ネクロマンシー)に特化した魔法職だ。アンデッドを癒やす負のエネルギー魔法は使えても、生きた人間やホムンクルスを癒やす正の回復魔法(ヒール等)は習得していない。
(アイテムは……私の無限の鞄(アイテム・ボックス)の中にあるか!? 高位の治療ポーション、あるいは蘇生短剣……!)
焦燥感から、傷口からさらに血が噴き出す。視界が自身の血とシクススの血で霞む。
その時、かすかにシクススの唇が動いた。
「アインズ……様……ご無事で……よか、った……」
戦闘レベル1。ナザリックでは最弱の、ただ家事をこなすためだけに創造された彼女が、至高の主を護れたことを心から喜ぶように、満足げに微笑んだ。その瞳の光が、急速に失われていく。
(私のせいだ……! 私がくだらない好奇心で人間になどなったから、この子が……!)
痛みが怒りへ、そして絶対者としての傲慢なまでの「支配欲」へと変貌する。鈴木悟の心は、至高の四十一人として、ナザリックの主としての誇りに塗りつぶされた。
「死なせはせん……! 命を賭して私を護ったナザリックの宝を、絶対に死なせはせんぞ!!」
アインズは痛む身体を無理やり引き起こし、血まみれの手でアイテム・ボックスの奥底へと手を伸ばした。