ナザリック地下大墳墓の5日間戦争。 内政改革と、とあるメイドが掴んだ至高の奇跡   作:バルカン39

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外伝 最終話 カルネ村の男 バルブロ

◇ カルネ村・ブリタの家(それから数年後)

「ほら、お前たち! 暴れるんじゃない! 薬草の瓶を倒したら飯抜きだぞ!」

カルネ村の朝、かつて王国の第一王子であったバルブロは、泥にまみれた自警団の防具の上から、大きなエプロンを巻いて絶叫していた。

ブリタと結婚し、王族の名を捨ててカルネ村の一人の自警団員として生きる道を選んだバルブロ。そんな彼らには、驚くべきことに6人もの子どもが誕生していた。それも、最初に双子、その翌年に四つ子という、ナザリックのシステム対流すら驚愕するような凄絶な確率のハイペース出産であった。

 

「ううぅぅん、、、うわあああぁぁん!」

「よしよしいい子だね〜大丈夫大丈夫」と泣いた子ども達の背中をポンポンと叩いてなだめるバルブロ。

「あっ!仕事へ行く時間だ! すまないブリタ、子どもたちを見ていてくれ!」

「はいはい、いってらっしゃい、あんた。今日も稼いできておくれよ」

ベッドの上で6人の子どもたちに揉みくちゃにされながら、ブリタが快活に笑う。バルブロは子どもたちを器用に引き剥がすと、木槍を背負い、急ぎ足で家を飛び出した。

現在のバルブロは、村の守りを固める自警団の任務をきっちりとこなす傍ら、6人の我が子たちを食い扶持に困らせぬため、非番の時間にはバレアレ家の薬草加工場で「薬草瓶運び」のバイトに勤しむという、超過酷なワーキングプア状態のパパへと変貌を遂げていた。

 

◇ バレアレ家の薬草加工場

「よいしょ、っと……! よし、これで午前中の納品分はすべて倉庫へ入れたぞ!」

汗だくになりながら、太い腕で、何十箱もの薬草瓶が入った重い木箱を軽々と、しかし繊細に運び終えたバルブロ。その見事な働きぶりに、工場の奥から天才薬師ンフィーレア・バレアレと、彼を護衛するゴブリン兵たちが揃って顔を出した。

「……いやぁ、本当に助かるよ、バルブロさん。最初の頃は硝子瓶を落として泣いていたのに、今じゃうちの加工場で一番頼りになる薬草瓶運びのバイトだ。6人の子どもたちのために、非番の時間も返上でここまで働くなんて……」

ンフィーレアは、バルブロのその驚異的なまでの働きぶりと父親としての責任感に、心の底から感心していた。

「フン、全くだ。あの傲慢だった元浮浪者が、今や自警団で槍を振り、終わればここに駆けつけて汗を流す。かつての王族の虚飾を完全に捨て、硬い筋だらけの肉を美味いと食いながら、家族のために泥臭く生きるその姿……。おいバルブロ、お前は立派な『カルネ村の男』だ。俺たちゴブリンもお前を一人前と認めてやる!」

警備責任者のゴブリン兵も、腕を組んで深く感心したようにバルブロの背中を強烈に叩いた。かつての復讐心など微塵もなく、ただ家族の笑顔と、一日の終わりにブリタが作ってくれる特製の肉入りスープのために額に汗して働くバルブロの顔には、玉座では絶対に得られなかった、最高に泥臭く力強い「父親の誇り」が満ち溢れていた。

 

◇ ナザリック地下大墳墓・第九階層 内政管理局

 

リ・エスティーゼ王国のとある商会の粉飾決算発覚から始まった内戦から約4年。ナザリックのシステムコンソールに、無機質な『全軍通知』がポップアップした。

 

『全軍通知。カルネ村在住の自警団員(元第一王子・バルブロ)に対する4年間の【警戒監視フェーズ】は、忠誠心テストの完全合格、およびブリタ氏との婚姻・世帯定着ログを以て晴れて終了いたしました。これに伴い、対象のステータスを【要監視対象】から【完全白(クリーン)・一般領民】へと移行します』

 

「……フン、あの莫迦が。よもやナザリックの監視を潜り抜けて『ただの善良な父親』として生涯を終える道を選ぶとはな」

内政管理局のデスクで周辺諸国の資源目録を弾いていた第二王子――ザナックは、その通知画面を見て、呆れたような、しかしどこか救われたような複雑な苦笑を浮かべた。

兄を内戦の混乱で失い、妹のラナーの手引きでナザリックへと連行され、今や優秀な内政奴隷として書類の山に埋もれる日々を送るザナック。だが、実の兄が黄金の玉座を失った代わりに、硬い筋だらけの肉を美味いと食い、双子と四つ子の6人の我が子のために自警団と薬草瓶運びのバイトを掛け持ちする「カルネ村の立派な男」になったという事実は、彼にとって奇妙な安堵感をもたらしていた。

 

「素晴らしいことですわ、ザナックお兄様。お父様譲りの慈悲深さが、ここで完全に証明されましたもの」

隣のデスクで、恐るべき神域の頭脳をフル回転させて周辺諸国の自動徴収ラインを統制していたラナーが、うっとりと微笑んだ。そして、手元のコンソールを流れるログを見つめながら、その歪んだ美貌の裏でくくく、と楽しげに喉を鳴らした。

「それにしても、ルプスレギナは相変わらず悪趣味なテストを仕掛けるのね。お兄様を襲撃した『不審な男たち』――あれが王派閥の使いの者などではなく、お兄様の忠誠心を測るためにルプスレギナがナザリックの手引きで用意した囮(シャドウ・デーモン)だったなんて、現場の誰も気づいていないのでしょう?」

ラナーはその神域の頭脳を以て、システムログの僅かな魔力残滓から、実はナザリックによる完全な自作自演の罠であったことを瞬時に看破していたのだ。

「お兄様がそこで色欲や権力欲を出して『仲間になる』と答えれば、その瞬間にルプスレギナの爪でお肉のミンチに変えられていたところでしたわ。それを『玉座など臭いわ!』と啖呵を切って撥ね退けるなんて……本当に、人は環境で変わるものね。

 

・・・いいなー。お兄様ったら、双子と四つ子で、子どもを6人も産んでもらって毎日あんなに幸せそうに暮らしているなんて……。本当に、本当に羨ましいわ。――ええ、アインズ様の許可が降りたら、私もすぐクライムと励もうっと。あの子との可愛い子どもを、それこそ6人でも10人でも、ベッドの上で毎日死ぬほど愛し合って産み落としてあげるんだから……!」

ラナーは顔を上気させ、書類を握る細い指先を恍惚に震わせながら、狂気的な瞳をぎらつかせていた。彼女にとって王国の滅亡も、兄の生存も、すべては愛しい「犬」であるクライムと永久の愛(子だくさんの営み)を貪るための、前座の舞台装置に過ぎなかった。

 

「……全くだ。アインズ様の深謀遠慮の前には、我ら人間の営みなど、すべて手の平の上の茶番に過ぎん」

同じ部屋で、王国滅亡のプロセスを受け入れて働くこととなったレエブン侯が、ラナーの脳内の狂った誓いや、ルプスレギナの仕掛けた裏のテストの真相など知る由もなく、深くため息をつきながら書類に判を捺した。彼らは至高の主の財政を右肩上がりに爆増させるための、極めて都合の良い内政歯車として、感心しながら今日も奔走させられていた。

 

 

◇ 一方その頃・アインズの執務室

(ええええええええーーーっ!? 双子と四つ子で子どもが6人ぃぃぃ!? しかも自警団と薬草瓶運びのバイトを掛け持ちする100点満点のイクメンパパになってるぅぅぅ!!!しかも バルブロの警戒監視終了通知のせいで、またアルベドとシャルティアが『アインズ様の神算に狂いなし!!』って執務室に突入してきそうなんですけどぉぉぉ!?)

人間の姿のまま定時執務に就いていたアインズ――鈴木悟は、全軍通知のログを見つめながら、内心で盛大に血の涙を流していた。

(バルブロが、6人のイクメンパパになって監視終了とか、完全に想定外のハッピーエンドだよ! ラナーもザナックもレエブン侯も『さすがアインズ様!』って書類の処理速度を1.5倍に跳ね上げて金貨を爆増させてるけど、私はただアルベドたちの『第一夫人選定合戦』の修羅場から逃げ回ってるだけだからね!! 諦めてラナー王女が書類を睨みながら『クライムと子ども6人……うふふ……』ってメッセージログに残してるんだけど、あいつの性欲の方向性、相変わらず怖すぎるからぁぁぁ!!!)

人間の肉体であるがゆえに、あまりの恐怖と気恥ずかしさでアインズの胃はキリキリと痛み、顔は真っ赤に染まっていた。その傍らで、第三夫人となったシクススが「アインズ様、お顔が赤いです。またスープをあーん、しましょうか?」と、薬指の結婚指輪をキラキラと輝かせながら、天使のような微笑みでさらにアインズを照れ倒すのだった

 

(完)

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