ナザリック地下大墳墓の5日間戦争。 内政改革と、とあるメイドが掴んだ至高の奇跡 作:バルカン39
しかし、ナザリック随一の頭脳が、至高の主への「誓い」を胸に本気で内政の効率化に執念を燃やした時、世界の常識は容易に覆された。
デミウルゴスはプランテーションの品種改良を限界まで推し進め、守護者たちのMP回復効率を倍加させる鬼神の如きシフトローテーションを構築。さらに周辺諸国からの資源徴収ラインを完璧に統制した。パンドラズ・アクターの提示した「30年」という数字は、あくまで安全マージンを極限まで取った最低値に過ぎなかったのだ。
結果として、30年と算出された金貨補填計画は、わずか約4年という驚異的な速度で完済(補填完了)された。
あとつい先日崩壊した国の姫君が自国の資源や私財を投げ売ってデミウルゴスに協力していたことも短期間での完済を行えた要因の一つであるとかないとか。
◇玉座の間
5日間の壮絶な籠城戦を終え、コキュートスによる氷漬け及びオーレオールの空間凍結によって指一本動かせないまま捕らえられた襲撃者は、白目を剥いて泡を吹いていた。そしてその傍らでは、アインズの絶対命令の下、ペナルティによる消失を完璧に回避した高位蘇生によって傷が癒え、無事に復活を遂げたシクススが、涙を流しながら至高の主の前に跪いていた。
アインズは、命を賭して自身を護り抜き、ナザリックの消滅を防いだその偉大なる忠臣メイドを静かに見つめ、重厚な声を玉座の間に響かせた。
「我が肉体を盾とし、至高の主たる私を消失の危機から救い上げたその功績……よって……そのシクススを、我がウール・ゴウンの『第三夫人』に任命する」
「――な、何ですってぇぇぇーーーっ!?」
その瞬間、玉座の間に絶え間ない絶叫が響き渡った。アインズは内心で(危なかった……本当に危なかった……! これくらいの役職をあげないと釣り合わないよな……!)とシクススへの感謝を噛み締めていた。
「アルベドよ、焦るな。第一、および第二夫人の座は……、未だ未定である」
主のその言葉に、アルベドとシャルティアの脳内で、残された二つの『頂点の座』を巡る新たな、そして果てなき戦いのゴングが鳴り響くのだった。
◇防衛指揮所
金貨補填計画が軌道に乗った頃
「フ、フハハハハ……!!」
完済報告のコンソールを前に、デミウルゴスは狂おしいほどの歓喜の笑声をあげた。
解き明かされた数字の裏には、大まかな性能を解析し終えたあの凶悪な世界級アイテム(ワールドアイテム)
が浮かび上がっていた。
「……パンドラズ・アクター、見なさい。これがシステムアリアドネを嘲笑った遺物の性能の一部です。アイテムの名は『バタフライ・エフェクト(蝶の羽ばたき)』」
それは、敵対するギルドの資産やプレイヤーに壊滅的な損害を与える因果の兵器だった。
発動には【襲撃者】と、その因果の引き金を引く【使用者(サクリファイス)】の2名が必要となる。
システムアリアドネすら無視した直接転位の代償及び初撃した相手の役職に応じたギルド資産への損害の代償として、発動した瞬間に『使用者』は完全に消滅する。
その消滅は不可逆的であり、ユグドラシルの超位魔法や高額な課金アイテムを用いたとしても、二度とこの世界に復活することは叶わない絶対の消滅(デリート)である。
画面に映し出された最悪のシミュレーション数値を前に、デミウルゴスは冷や汗を流しながら呟いた。
「……もし。もしあの時、不敬なるネズミの初撃が、ギルド長であらせられるアインズ様に直接命中していたら……因果の嵐は最大出力で固定され、アインズ様は魂ごと『完全消失』し、それと同時にナザリックの総保有金貨の『40%』が跡形もなく吹き飛んでいた。あの用途不明だった0.3%の消失ログこそ、アインズ様の完全消失と金貨消失の因果を繋ごうとしたワールドアイテムの『触手』だったのです。もしアインズ様に当たれば大墳墓は一瞬で崩壊していたでしょう。アルベドが油断したのも当然、システムアリアドネすらを上書きする因果の兵器だったのですから!」
「なんと……! それほどまでに恐ろしい一撃だったのですか!」
パンドラズ・アクターの顔から、完全に余裕が消える。
「ええ。ですが、奴らの計画は、ただの一般メイドであり、戦闘レベルわずか『1』のシクススという存在によって完全に『不発』に終わった。
彼女の一般メイドとしての役職は決して高くはないこと、命を投げ出した捨て身の割り込みが、ワールドアイテムの因果律の計算を完全に狂わせ、
『ギルド長の消失・ユグドラシル金貨40%の消失』と言う『大嵐』を
『ユグドラシル金貨0.3%の消失』と言う『微風』へと変えたのです。
すべては、あのシクススの忠義のおかげ……。そして、それを見抜いて彼女を大墳墓の第三夫人へ引き上げられたアインズ様の神算です!」
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