スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
10話 ここからが本当の地獄だ……っ
センの背後で、ずるり、と何かが動く音がした。
「……え?」
振り返る。
ロスが、起き上がっていた。
顔も、首も、左手も、毒で紫に腫れ上がっている。
全身を、びくびくとけいれんさせながら、
それでも、確かに、自分の足で立っていた。
「ごぼっ……」
口から、紫の混じった血を吐き出す。
体を巡る毒に、魔力だけで無理やり抵抗しているのだ。
センは、あきれ交じりの、うんざり顔で、
「……こ、根性ありますね……さ、さすが、腐っても皇子を名乗るだけのことはある……」
ロスは、答えない。
血走った目が、戦場全体を、ぎろりと見渡した。
敵も、味方も、区別なく。
そこにいる全てを、憎しみだけで塗りつぶすような目で。
残った左手を、天へと突き上げ、
「ゴミどもがぁああ! みんな、死ねぇえ!! 王鬼流星《おうきりゅうせい》ランク9!!」
――空が、赤く裂けた。
見上げた先。
雲を突き破り、燃えさかる巨大な岩の塊が、いくつも、いくつも、降ってくる。
「い、隕石……!?」
「逃げろぉおおお!!」
悲鳴が上がった時には、もう遅かった。
無数の隕石が、大地に突き刺さる。
爆音と熱風。
地面ごと、周囲の兵士たちが消し飛んだ。
デカール兵も、セファイラ兵も、関係ない。
ついさっきまで勝利に沸いていた戦場に、炎の雨が降り注ぐ。
「ミシャぁ!!」
センは、反射的にミシャのもとへかけよった。
彼女の頭を胸に抱きこみ、覆いかぶさるようにして地面に伏せる。
自分の背中を、空に向けて。
降りそそぐ隕石から、ミシャを守る盾になるように。
背中に、熱風と土くれが叩きつけられる。
耳が割れそうな轟音が、何度も、何度も、体を揺さぶった。
――やがて、音がやむ。
戦場は、穴だらけになっていた。
あちこちに、赤く焼けた巨大なくぼみ。
その周りに、もう動かない兵士たちが、数えきれないほど転がっている。
隕石は、ロスの周りにだけは、一つも落ちていなかった。
術者を巻き込まないためだろう。
センとミシャは、ロスのすぐ近くにいたため、直撃をまぬがれていた。
センは、起き上がりながら、ロスをにらみ、
(無茶しやがって……てか、あのバカ皇子、自分のところの兵隊を、ほぼ一人で全滅させてんだが……頭おかしい……)
あきれ返っていると、
ロスが、
「はぁ……はぁ……くそがぁ……」
荒い息を吐きながら、膝を、がくがくと震わせている。
さっきまで全身からあふれ出ていた、あの息苦しいほどの魔力が、まったく感じられない。
「……さすがに……魔力を使いすぎたな……」
ロスは、からっぽの体にムチを打つように、ゆっくりと背筋を伸ばした。
震える左手で、額の汗をぬぐう。
その顔に、もう、あの冷たい笑みはなかった。
皇族の気品も、紳士の仮面も、どこにもない。
残っているのは、むき出しの憎しみだけ。
ロスは、足を引きずるようにして、センの前に立った。
「死ね、カス!」
裏拳が、センの頬を撃ち抜いた。
骨がきしむ、にぶい音。
センの体が、紙切れのように宙を舞う。
二度、三度と地面を跳ね、焼けこげた土の上を転がって、ようやく止まった。
ロスは、それを見届けることもしない。
ゆっくりと振り向き、倒れているミシャをにらみつける。
「この……ゴミ女ぁ!」
ミシャは、震えるヒザに力をこめ、どうにか身を起こそうとした。
が、そこで、ロスの左拳が、彼女の顔面にめりこむ。
「ぁあっ!」
短い悲鳴。
ミシャの体が横殴りに吹き飛び、土煙を上げながら地面を転がっていく。
手をつこうとする。
けれど、腕に力が入らない。
さっきの分身総攻撃で、最後の力を全て使い切ってしまった。
「デカールの皇子である私を……いずれ、世界の頂点に立つ偉大な私を……よくも、こんな目に……あ、あア……ああ! イライラ……させやがってぇええ!!」
ロスは、左手で髪をかきむしりながら、天に向かって吠えた。
これまでにたまっていたうっぷんを、全て吐き出すように。
「全員殺ぉおおす! 魔力は尽きたが、体力はまだまだ残っているぞ! 一人残らず、ひねりつぶしてやるからなぁ!」
ロスが、一歩、また一歩と、ミシャのほうへ歩いていく。
センは、その背中を見つめながら、ぎりっと奥歯をかみしめた。
(このままだと……ミシャが殺される……どうにかしねぇと……)
立ち上がろうとする。
だが、足に力が入らない。
(ゼロ戦……もう一回、来てくれ……!)
必死に、心の中で呼びかける。
――だが、何も、起きない。
(ダメだ……こねぇ……くそ……どうすればいい!)
ロスが、ミシャの前で足を止め、
ゆっくりと、左の拳を振り上げる。
(どうすれば……どうすればぁああ!! 考えろ! 考えろぉおお!! くそっ! なんで俺はこんなに頭が悪いんだ!!)
――と、そこで、
世界の声が聞こえた。
――固有スキル『日本』が進化。
――超スキル『日本刀千本桜《にほんとうせんぼんざくら》』を獲得!!!