スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
11話 日本刀千本桜。
センの右手に、ずしりとした重みが生まれた。
視線を落とす。
握っていたのは、一振りの刀だった。
ゆるやかに反《そ》った、細身の刀身。
鏡のように澄んだ刃に、桜の花びらのような刃紋が、淡く浮かんでいる。
(日本刀……千本桜……)
柄《つか》を握った手のひらから、じんわりと熱が流れ込んでくる。
動かなかったはずの足に、力が戻っていく。
センは、刀を構えながら、ゆっくりと立ち上がった。
「待て、こらぁ……」
その声に、ロスは足を止め、ギロリと背後をにらんだ。
そして、気づく。
「……ん? 短刀だけではなく、その妙な細い剣も召喚できるのか? 器用じゃないか」
センは、答えない。
両手で、しっかり刀を握り直す。
深く息を吸う。
(昔はヒーローにあこがれた……)
人生で一番、深く息を吐く。
(アンパ〇マンからはじまって……ウルト〇マン……仮面ラ〇ダー……)
周りの音が遠ざかっていく。
(ピンチになったら現れて、敵を倒してハッピーエンドにしてくれる……そんな夢に焦《こ》がれた……)
見えているのは、ロスだけ。
(俺はヒーローじゃない……だがぁ!!)
狂気じみた集中の中で、センは、地面を蹴った。
「チェストォオオ!!」
ロスは、『はん』と鼻で笑い、
「遅いな……貴様は雑魚ではないが、強くもない。私がその気になって体にオーラを充満させれば、貴様程度の剣では傷一つ――」
あえて、よけもしない。
魔力は尽きた。
だが、オーラはまだ残っている。
魔力とは別の、肉体を強化するための生命エネルギーの一つ。
レベル150のロスが、全身をオーラで包み込めば、
レベル100前後の剣の達人でさえ、かすり傷一つつけられない。
――はずだった……が、
ザンッ!!
センの袈裟斬《けさぎ》りが、
ロスの左腕を、
――肩口から斬り飛ばした。
「ぎゃあああああ!!」
宙を舞った左腕が、どさりと地面に落ちる。
「ば、ばかなぁああ! はぁああああ?!」
ロスは、よろめきながら、とっさに傷口へオーラを集めた。
噴き出す血が、オーラに押し固められて、どうにか止まる。
血走った目が、センをにらみつけた。
「ありえるかぁああ! なんで、貴様ごときが、私の腕を斬れるぅ!!」
「俺の剣技が、お前の想像以上に華麗だったからに決まってんだろ」
「その妙に細い剣の仕業かぁ!」
ロスの目が、センの手元に吸い寄せられる。
「よく見れば……異常に研ぎ澄まされた刃……ど、どこで、そんな神器を手に入れた……」
「拾ったんだよ……その辺に落ちてた」
「ふざけるなぁあああ!!」
ロスは、叫びながら、センを思いきり蹴り飛ばした。
「ぐっ……!」
蹴ったロスの方も、両腕を失った体では勢いを支えきれない。
ロスは、大きくバランスを崩し、そのまま、無様に地面へ倒れ込みながら、
「ちくしょぉおお! なんで私がこんな目にぃいい! なんなんだ、貴様らぁああ!」
手をつくことすらできない。
泥にまみれ、肩と膝で地面をかきながら、ロスは、どうにか立ち上がり、
「わ、私が両腕を失ったからといって、終わりだと思うなよ……その剣が異常なのは、もうわかった。二度とくらわん」
そして、一気にセンとの距離を詰めた。
その軌道めがけて、センは、
「チェストラァアア!」
再度、刀を思いきり振り回す。
だが、
「ふん! そんな遅い一刀が、この私に当たるかぁ!」
ロスは、紙一重で刃をかわした。
かわした勢いのまま、ロスの蹴りが、
「おらぁあ!!」
センの顔面をとらえた。
「ぐぁあ!」
センの体が、吹っ飛ぶ。
地面を転がるが、
「ぎぃ……」
日本刀を杖にして、すぐに立ち上がる。
それを見て、ロスは、渋い顔で、
「ちっ……なんて丈夫な野郎だ。殺すつもりで蹴ったんだがな……」
言いながら、ゆっくりとセンに歩み寄る。
「しかし、もう終わりだ。頭が吹っ飛ぶまで、蹴り飛ばして――」
その時、背後から、
「――ああああああああああああ!!」
ミシャの叫び声が響くと同時、
ロスの背中に、焼けるような痛みが走った。
「な……ぁ」
ロスが振り返る。
そこに立っていたのは、日本刀を振り抜いたミシャだった。
ボロボロの体。
震える足。
それでも、その手には、センと同じ、桜の刃紋が浮かぶ刀が握られていた。
殺気に満ちた目が、まっすぐにロスを射抜いている。
「そ、そんな神器を……二本も……どうして……」
ロスは、斬られた背中の痛みに耐えながら、どうにかミシャから距離をとろうとする。
そこで、センが、口元の血をぬぐって笑い、
「いつから……二本しかないと錯覚していた?」
「あぁ?」
その時。
焼け野原のあちこちで、動く影があった。
隕石のくぼみの陰から。
倒れた仲間の陰から。
隕石に押しつぶされたセファイラの兵たちが、一人、また一人と、起き上がってくる。
その数、およそ1000。
全員の手に、桜の刃紋が浮かぶ日本刀が握られていた。
なぜか致命傷がふさがって、目には十分な殺気が宿っている。
焼け野原に、千本の刃がきらめいた。
刃紋の桜が、一斉に咲き誇るように。