スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
12話 ロス無間地獄編、開幕!
千本の刀が、焼け野原に、桜の花が咲くように立ち並んでいた。
その光景を見て、ロスの顔から、みるみる血の気が引いていく。
「意味が……わからない……これは……夢か? そうだ……夢だ……現実なわけがない……」
センは、刀を強く握り直し、
「いい加減、死ねぇえええええ!」
叫びながら、斬りかかった。
それを合図に、
セファイラの兵たちが、一斉に、ロスへと殺到する。
「ひ、ひぃいい!!」
ロスは、背を向けて逃げ出した。
両腕のない体で、何度もつまずきながら、無様に。
「逃がすかぁあああ!!」
センが、地面を蹴る。
振りかぶった刃が、ロスの背中に迫る。
その寸前、
「ま、魔石よぉ!!」
ロスの叫びと同時に、イヤリングにはめ込まれた小さな石が、パキンと砕け散った。
あふれ出した光が、ロスの全身を包み込む。
あまりのまぶしさに、センは思わず目を細めた。
振り下ろした刀が、手応えなく、空を斬る。
光が消えた時には、
ロスの姿は、もう、どこにもなかった。
センは真っ青な顔で、
「ずぁあああ! 最悪だぁあ! 逃げられたぁあああ!!」
★
デカール大帝国の国境近く。
薄暗い森の中に、光と共に、ロスの体が投げ出された。
受け身も取れず、湿った落ち葉の上に叩きつけられる。
「はぁ……はぁ……」
ロスは、よろめきながら立ち上がり、太い木の幹に背中を預けた。
肩で、荒く息をする。
毒に侵された体が、まだ小刻みに震えていた。
腕のなくなった両肩に、視線を落とす。
「うぅう……うぃいい……」
ぎりぎりと、奥歯をかみしめる。
かみしめすぎた歯ぐきから血がにじみ、口の端から、たらりと垂れ落ちた。
「殺す、殺す、殺す……なにがなんでも殺すぅ……セファイラだけは絶対に許さないぃ……何をしてでも、絶対に滅ぼしてやるぅ……うぃいいい……」
薄暗い森の中に、呪いのような声だけが、いつまでも響いていた。
★
セファイラ王国に、勝利の余韻に浸る余裕はなかった。
戦場から城へ戻る道のりは、行軍というより、葬列《そうれつ》に近い。
焦げた肉と、土の匂いが、いつまでも鼻の奥に残っている。
なお、敵兵は、一人も生き残っていなかった。
ロスの王鬼流星《おうきりゅうせい》が、デカール兵をまとめて焼き払っていたから。
ミシャは、城に着くなり、自分の手当てもそこそこに、軍議の招集を命じる。
軍議が始まる前から、宰相《さいしょう》は、
「捕虜《ほりょ》が一人もいない、というのは痛いですな……敵の内情を聞き出す相手がおりません」
苦い顔でそう漏らした。
『軍議の間』には、重臣と、生き残った部隊長たちが集まっている。
誰もが、どこかしらに包帯を巻いていた。
センも、ロスに蹴られた顔がまだ腫れていて、口を開くたびに、奥歯がずきりと痛んだ。
上座についたミシャは、一人一人の顔を見渡してから、口を開いた。
「……まずは、よく戻ってくれた。正直に言えば、全滅も覚悟していた」
そこで、一度、言葉を切る。
「そして、戻れなかった者たちのことは……決して忘れない。弔《ともら》いは、必ず、国をあげて行う。……今は、それしか言えない。すまない」
深く、頭を下げる。
誰も、何も言わなかった。
しばらくして、白いひげを焦がした老兵が、ぽつりと言った。
「姫様……わしは、あの隕石の下敷《したじ》きになったはずなんです。背中から、骨の折れる音を聞きました。息もできんで、ああ、ここで終わりかと……」
老兵は、自分の手のひらを、不思議そうに見つめる。
「それが、気づいたら、あの細い剣を握って、目を覚ましとった。背中は……今も痛みますが、動けないほどじゃない……」
「私もです」
若い兵が、自分の胸に手を当てた。
「岩の破片が心臓を貫いたんです。確かに見て……意識を失って……なのに……目が覚めたら、傷がふさがっていて……」
ぽつり、ぽつりと、同じような話が続く。
謎の日本刀は、ロスが逃げ去った直後、すべて、煙のように消えてしまった。
みな、首をかしげてはいるが、深く追及しようとはしなかった。
鉄龍、忍者学園、そして謎の剣。
ここ数日、意味のわからないことが続きすぎて、感覚がマヒしている。
それに、話し合って解決することじゃないと理解もしている。
センは、腕を組んだまま、黙って話を聞いていた。
(日本刀千本桜には、戦死者を呼び戻す力でもあるのか? 千本桜だから……戦死したヤツの中から1000人までは蘇生できる……みたいな? ……俺のスキルって『基本的な効果』は『覚醒した際に何となくわかる仕様』になってんだが……『隠し要素』みたいなのが結構あるんだよなぁ……詳細な説明書か、攻略ウィキ的なのが欲しいな……)