スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
14話 和食の底力をナメんなよ。
ガラスの扉は、前に立っただけで、ひとりでに左右へ開いた。
「ひっ……!」
先頭にいた重臣が、腰を抜かしそうになってのけぞる。
センは、その横をすり抜けて、さっさと中へ入った。
白く明るい天井の灯り。
甘辛いタレの匂いと、立ちのぼる湯気。
コの字に並んだカウンターの内側では、橙色《だいだいいろ》の制服を着た店員が、手際よく丼を並べている。
店の中は、センの記憶にある日本の牛丼屋、そのままだった。
ただ、店員の輪郭は、忍者教師と同じように、わずかに揺らいでいた。
人間ではなく、スキルが生み出した精霊なのだろう。
「いらっしゃいませー」
間延びした声が、店内に響く。
セファイラの面々は、入り口で固まったまま、『なにがなんだか……』という顔で、互いに目を見合わせていた。
センは、慣れた様子でカウンター席に腰を下ろし、
「大盛りつゆだくで。あと、たまごとサラダも」
「かしこまりましたー」
注文から、ほんの数十秒。
センの前に、湯気の立つ丼が置かれた。
センは、たまごを割り入れ、ざっくりとかき混ぜると、ためらいなくかき込み始める。
「……17年ぶりだと……やっぱ泣けるねぇ……」
思わず、声が漏れた。
うまさと懐かしさが相まって、胸の奥が熱くなる。
それを見て、ほかの面々も、おそるおそるカウンターに腰を下ろしていく。
壁の品書きは、この世界の文字で書かれていた。
みな、見よう見まねで注文すると、次々に丼が運ばれてくる。
本当に作っているのかと疑うほどの、異常なはやさ。
支払いは、この世界の共通通貨『フーマ』で済んだ。
精霊の店員は、差し出された硬貨を、当たり前のように受け取った。
「……な、なんだ、このうまさは……!」
「これで、280フーマだと? どういう計算だ?!」
「どこへ行っても、こんなものは食べられんぞ!」
「うまいだけじゃない……腹の底から、力が湧いてくる……!」
一食280フーマは、この世界でも破格の安さだった。
市場に並ぶ、すかすかのイモですら、500フーマはする。
デカールの定食屋で並の食事を頼めば、2000フーマはざら。
そして、セファイラの民は、ほぼ全員が、慢性的な栄養失調だった。
貧しい小国で、満足に食べられる者など、ほとんどいない。
そんな体に、日本産の牛丼が一気に流れ込んできたのだ。
牛肉の良質なたんぱく質と、鉄分、亜鉛。
必須アミノ酸をすべてそろえた卵。
体を動かす燃料となる、白米の炭水化物。
不足しがちなビタミンを補う、新鮮な野菜。
これまで、イモと薄い麦がゆで、どうにか命をつないできた体。
筋肉を作る材料も、血を作る材料も、常に足りていなかった。
そこへ、欠けていた部品が、一度にまとめて届けられたようなものだった。
飢えていた細胞の一つ一つが、むさぼるように、膨大な栄養を吸い上げていく。
「力が……あふれてくる……」
栄養の不足は、体の成長そのものを縛る。
この世界で『一般人のレベルが低く、王族のレベルが高い』のは、血筋や才能だけが理由ではない。
王族であれば、どれほどの小国でも、それなりの物を食べられる。
その差も、実は大きかった。
「なんてことだ……食べただけで……レベルが……」
生まれた時から背負わされてきた、『飢え』という超重量のデバフ。
漫画などで、『重い服を着て、あえて力を抑える』という演出がよくあるが、栄養失調の肉体は、まさにそれに近い。
その枷《かせ》が外れたことで、全員のレベルが、ぐわっと底上げされた。
平均して10以上。
センも、例外ではなかった。
ロス軍との戦いで、ゼロ戦が1000人近い敵兵を倒したことで、レベルは32から38に上がっていた。
そこに、今回の爆食い。
レベルは、一気に50まで跳ね上がった。
センは、空になった丼を見下ろしながら、ぐっと拳を握る。
(レベルが上がって、ステータスが伸びただけじゃない……単純に、いつもより体が動く。力が入る。気力がみなぎる。……牛丼がすごいってか、栄養失調がこえぇなぁ……)
そこで、センは、店の奥をのぞき込み、
(しかし……これ、どうやって、仕入れとかしてんだ? 日本から転送でもしてんのかね……)