スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
21話 本気の宣戦布告。
デカールから、皇帝直々の宣戦布告が届いたのは、ゼイたちがセファイラを発ってから、5日後の昼。
軍議の間の机の上に、デカールの印が記された書状が広げられている。
上質な厚手の紙に、金箔で縁取りが施されていた。
それを囲む重臣たちの顔は、一様に青ざめている。
「我々が、ゼイ皇子を毒殺した……だから、皆殺しにする……だと?」
老いた重臣が、書状の文面を指でなぞりながら、うめくように言った。
「意味がわからん……なんだ、これは……」
「――『セファイラで供《きょう》された食事に毒が盛られており、動けなくなったところを、剣で串刺しにされた。護衛もろとも。ロス皇子はなんとか逃げ帰った。帝国の慈悲を踏みにじる、卑劣極まりない所業である』……」
宰相が、震える声で続きを読み上げる。
「牛丼で腹でも壊したのか?」
「バカみたいに食べていたからな。12杯だぞ、12杯」
「仮に、そうだとしてもだ。誰も刺してなどおらん!」
声が重なり合い、軍議の間は、ほとんど怒号のような騒ぎになっていた。
その中で、センは、黙って、腕を組んでいた。
(……牛丼屋ができてから、セファイラの人間は、ほぼ毎日、あの店で食べている。……だが、食中毒になった者など、ただの一人もいない。食いすぎで腹を下す者は、たまにいるが……)
となると、考えられる筋書きは、一つ。
(ロスが、兄貴を殺して……その罪を、俺たちに擦りつけた)
ロスの、あの目を思い出す。
兄に子供扱いされるたびに浮かべていた、あの、どす黒い目。
あれは、いつか兄を殺す人間の目だった。
(……ただ、ゼイは、ロスよりはるかに強い。護衛の三人も、それぞれが、ルット以上の戦士だった。それに、謁見の間で見たロスの指は、まだ、ぎこちなくしか動いていなかった……)
あの状態で、四人まとめて殺せるものだろうか。
(……無理だ。となると、ゼイたちは、何らかの理由で、弱っていたことになる)
そこまで考えて、センは、ふと、思い当たる。
(……まさか、あの牛丼屋……セファイラの国民以外が食ったら、動けないぐらい腹を壊す……とか、そういう裏の効果があるんじゃねぇか……?)
日本刀千本桜には、刀を1000本出すだけではなく、戦死した者を蘇らせるという、隠された力があった。
平成の牛丼屋に、そういった隠された力があっても、おかしくはない。
(帰り道、ゼイたちは、牛丼にあたって動けなくなった。そこへ、ただ一人、牛丼を口にしなかったロスが、とどめを刺した。そして、兄の死を、セファイラのせいにした。……つじつまは、合う)
センは、奥歯をかみしめた。
(まあ、正直、経緯はどうでもいい。実際に、ゼイが死んでいるのなら……セファイラがどう反論したところで、デカールは聞く耳を持たないだろう。皇帝は、ゼイを溺愛していたって噂だし。……戦争を回避する術はない)
そこで、ミシャが、
「……30万」
かすれた声で、騒ぎを割った。
書状の最後の一文を見つめたまま、その指先が、小刻みに震えている。
「30万の兵を、差し向ける……と、書いてある」
軍議の間が、しんと静まり返った。
「……ドーンとの戦は、どうなっているのだ。そんな数をこちらに差し向けて……持ちこたえられるものなのか? かなり拮抗しているという話だっただろう」
「そもそも、兵が足りんから、我らの国にまで人狩りに来たのだからな……」
そこで宰相が、懐から、もう一通の文を取り出した。
今朝、国境の商人から届いたばかりの、密書だった。
「……デカールの皇帝は、精霊都市フーマルに頭を下げ、仲介役を頼んだそうです。それによって、ドーン共和国との間に、ひと月の休戦を成立させた、と」
「皇帝が……フーマルに、頭を……?」
「あの、誇り高いデカールの皇帝が……我々を潰すためだけに……」
「よほど、ゼイ皇子を殺されたのが頭にきたらしい」
「いや、殺しておらんのだがな……」
センは、頭を抱えた。
(……セファイラを殲滅するためなら、手段は問わないってか……本気も本気じゃねぇか……)
机の上の書状を見下ろす。
金色の縁取りが、窓から差し込む昼の光を受けて、にぶく光っていた。