スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
22話 戦争準備。
開戦2日前。
その日も、朝から、セファイラの忍者兵たちは、死に物狂いで鍛錬を続けていた。
一日5回、牛丼屋で腹をパンパンにしてから、忍者学園で魂を削る。
それを、全員が、延々と繰り返す。
牛丼屋のメニューは、牛丼だけではない。
豚丼、チーズ牛丼、カツ丼、うな丼、カレー。
焼鮭定食、生姜焼き定食、ハンバーグ定食、豚汁定食……
他にも無数。
栄養が偏《かたよ》ることもなく、セファイラ兵の肉体は、日に日に磨き上げられていく。
こけていた頬には肉がつき、枯れ枝のようだった腕には、みるみる筋肉が盛り上がっていった。
センは、カウンターでカレーをかきこみながら、
(……平成の牛丼屋に、こんな山のようなラインナップはなかったはずだけどなぁ……値段だけ平成ってこと? なんて都合のいい能力なんだ……)
★
腹がいっぱいの状態だと、レベルも上がりやすい。
そのことに気づいた兵たちは、鍛錬のかたわら、近隣の森や海に湧くモンスターを、片っ端から狩り始めた。
「今更、オークごとき、わしの敵ではないわ!」
「魚型の魔獣も、雷属性のクナイで一撃ですなぁ!」
「翼龍ももはや敵ではない! あの鉄龍と比べたら、なんと、かよわい事か!」
モンスターは、この世界では特殊な概念として存在している。
殺しても、殺しても、しばらくすれば、一定数がまた湧いて出てくる。
これまでは、手を出すことすらできなかった、
『海の主(巨大なサメ型のモンスター)』や、
『山の王(巨大なイノシシ型のモンスター)』も、
今なら問題なく狩れる。
海岸線では、
「くらえぇえ! 暗黒手裏剣ランク8!!」
「やったぁ! 海の主を仕留めたぞぉお!」
「ふはははは! 人間様をなめるなよ!」
山の奥では、
「さすが山の王……すさまじい突進だった」
「昔はビビって逃げ回ることしかできなかったが……」
「いまや、爆裂クナイを投げ続けるだけで倒せるんだからなぁ……」
「成長したなぁ、わしら」
レベルがどんどん上がる。
全員のレベルが、このたった数日で、5~10ほど上昇した。
ルット将軍に襲われる前まで、
セファイラ兵の平均レベルは20前後だったのだが、
今となっては、大半の者が50前後にまで跳ね上がっている。
忍術のランクも、どんどん上がる。
全体的に+1~2といったところ。
「我々には、鉄龍の加護がついている! 今度の戦でも、必ず、セファイラの守護神が助けてくれる!」
「絶対に姫様を守るのだ!」
「セファイラ魂を見せつけてやる!」
「30万がなんだ! 皆殺しにしてやる!」
精神論をむき出しにして、忍者兵たちは、ひたすら自分を追い込み続けた。
大半が、寝ないで修業を続けている。
みな、血走った目で、狂気じみた鍛錬を続けていた。
見かねたミシャが、
「みな、さすがに限界だろう。もう50時間ぐらい、ぶっ通しじゃないか。いいかげん休め」
と言っても、誰も休まない。
「まだいけます!」
「姫様こそお休みください!」
戦が近いから、というだけでは片づけられないほどの執念だった。
その様子を、忍者学園の門の前から眺めながら、老齢の宰相が、しみじみとつぶやいた。
「昔は、こんなに勤勉な者ばかりではなかったのですがのう……」
「そうなのか?」
ミシャが首をかしげる。
「ええ。姫様がお生まれになったころからですかな。みな、人が変わったように勤勉になりましてのう。やはり、姫様は特別なお人なのでしょう」
「……私は、何もしていないが」
「何もせずとも、そこにおられるだけで、皆の心の支えとなり、魂のよりどころとなる。それが、まことの指導者の器なのでしょうなぁ」
「……いや、それは……どうなのだろうか……私がどうこうというのは、さすがに違うような気がするが……」
困ったように眉を寄せるミシャの横で、センは、黙って腕を組んでいた。
(ミシャが生まれたころ……つまり、『俺が生まれたころ』から『国民全員が勤勉になった』……ってことは……)
ミシャとセンは、ほぼ同じ時期に生まれた幼馴染。
そのことから、ひとつの仮説が頭に浮かぶ。
(俺のスキル『日本』の最初の効果……『勤勉になる』。あれって、俺ひとりが勤勉になるってだけじゃなく……俺が所属するコミュニティ全体に波及《はきゅう》していくものだったりするのか?)
大国に囲まれながら、この17年、セファイラがどうにか国として存続してきたこと。
それも、無関係ではないのかもしれない。
(……ゴミスキルだと思ってたんだが……実は最初から、すでにチートだったのかもしれない……)
センは、狂ったように印を結び続ける兵たちを見つめながら、小さく息を吐いた。