スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
24話 どこでも大阪城~! ぱっぱかぱっぱ、ぱっぱかぱっぱっぱ~!
街道を、黒い波が埋め尽くしていた。
デカール大帝国軍、総勢30万。
地平の果てまで続く槍の穂先が、朝日を受けて、ぎらぎらと光っている。
軍靴《ぐんか》の音は、もはや足音ではなく、地鳴りだった。
その先頭近くを、ロスは、馬に揺られて進んでいた。
「いい風が吹いていますね。空も晴れている。……心が躍る、と言っては不謹慎でしょうか」
隣にいる参謀に声をかけると、
「いえ……ゼイ殿下の無念を晴らす戦にございます。天も味方しておるのでしょう」
「ええ。愛する兄上を奪った卑劣な者どもに、ようやく報いを受けさせられる」
前回のように、馬車には乗っていない。
あの鉄の龍に、馬車ごと吹き飛ばされた記憶は、まだ新しい。
周囲には、空を見張るための兵を、何十人も配置してある。
ロスは、手綱を握る自分の指に、目を落とした。
宮廷魔導士の治癒魔法を、毎日受け続けている。
それでも、指は、まだ思うように動かない。
手綱を握ることはできる。
剣を握ることもできる。
だが、細かい動きになると、途端に、ぎこちなくこわばる。
(……まあ、いい。魔法を撃つのに、指の細かい動きなど要らない)
ロスの口元には、笑みが浮かんでいた。
(すべて、うまくいった……ふ、ふふ……)
ゼイは死んだ。
罪は、すべてセファイラに着せた。
ゼイの死を知らされた時の、父の顔。
玉座から立ち上がり、震える声で、『セファイラを焦土にせよ』と命じた、あの顔。
あれほど取り乱した父を見たのは、生まれて初めてだった。
そして、父は、この30万の総指揮を、ロスに預けた。
ゼイの仇を討て、と。
(兄上の仇、ねぇ……ふふ……父はいつも私を笑わせてくれる。いい道化ぶりだ)
笑いをかみ殺すのに、苦労した。
(さて……次は、『ルキ』だ)
デカールの第一皇子。
皇位継承権、第一位。
父に溺愛されていたゼイとは違い、ルキは、そこまで父に好かれているわけではない。
力も、ゼイには劣る。
それでも、うっとうしい目の上のたんこぶであることに変わりはない。
(このまま、どうにかして、ルキも殺したいところ……)
ロスは、そこで牛丼屋のことを思い出した。
ガラス張りの、平たい箱のような建物。
(セファイラを攻め落としたあとで、あの牛丼屋なる店に、ルキを連れていって、食べさせるか……)
ゼイほどの豪傑を、あそこまで弱らせた毒だ。
ルキなら、なおさら、ひとたまりもない。
あとは、ゼイの時と同じように、弱ったところを刺し殺せばいい。
(なんだったら、父にも食べさせたいな。あのバカジジイが腹を抱えてうずくまる様子……ぜひ鑑賞させていただきたい。……そうなると……あの店だけは、残しておかないとな……)
ロスは、くつくつと、喉の奥で笑った。
「皇子。前衛が、まもなく国境の石柱に差しかかります」
隣を行く参謀が、声をかけてきた。
「そうですか」
ロスは、いつもの、感情の薄い丁寧な声で応じた。
「予定どおり、越えたら騎兵を先行させなさい。城下町を三方から囲み、逃げ道を塞ぐ。分身を使おうが、相手は数千……囲んでしまえば――」
そこで、ロスの言葉が止まった。
国境を示す、古びた石柱を越えた、その先。
平原の真ん中に、巨大な城が、そびえ立っていた。
「……ん?」
ロスは、思わず手綱を引いた。
馬が、いなないて足を止める。
後続の兵たちも、次々と立ち止まり、ざわめきが、波のように広がっていった。
「おい……なんだ、あの城……」
「セファイラに、あんなもんあったか?」
「聞いてねぇぞ……」