スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
26話 大阪城を落とす難しさを思い知れ。
ロスは、城をにらみつけたまま、しばらく動かなかった。
目を閉じ、ゆっくりと、息を吐く。
熱くなりかけた頭を、無理やり冷ましていく。
そして、ふと、空を見上げた。
雲ひとつない青空。
あの鉄の龍の姿は、まだ見えない。
ロスの周囲には、盾を構えた重装兵と、防御魔法を得意とする魔導兵が、分厚い輪を作っている。
前回のように、空から不意を打たれても、今度は防ぎきれる布陣だった。
(どうせまた来るのだろう……いつでも来るがいい。……今度は、指一本たりともくれてやるつもりはない)
鉄龍を警戒しつつ、ロスは、視線を城へ戻した。
そこで、参謀が、
「皇子、いかがいたしますか?」
「……そうですね……では、あの城を、こちらの拠点として使わせていただきましょう」
「拠点……ですか」
「隕石すら防ぐ城です。奪ってしまえば、これほど頼もしい砦もない」
「なるほど……まさしく」
「攻め入って、中にいる者を皆殺しにしなさい。そして、デカールの旗をかかげるのです」
「ははっ!」
★
最初に動いたのは、魔導兵団だった。
「爆炎弾ランク5!」
「雷槍ランク6!」
数百の魔法が、一斉に城へと放たれる。
炎が、雷が、光の矢が、空を埋め尽くすように飛んでいく。
だが、そのすべてが、堀の上で弾けて消えた。
城を包む光の膜が、ゆらりと揺れる。
ただ、それだけ。
石垣には、焦げ跡ひとつ増えなかった。
「だめです! やはり魔法は、ほぼ通りません!」
「何度撃っても、膜の手前で散らされます!」
「流星にのみ耐性があるというわけではなさそうです!」
魔導兵の悲鳴のような報告が、次々と本陣に届く。
そこへ、別の伝令が駆け込んできた。
「ロス皇子! 障壁の件でご報告が! 先行した斥候《せっこう》が堀の手前まで近づいたところ、何の抵抗もなく、あの膜をくぐり抜けられたとのこと!」
ロスの目が、細くなる。
「……魔法は通さないが、人は通す、ということですか」
「そのようです」
「ならば、話は簡単です」
ロスは、城を指さした。
「第一から第五大隊は正門へ。丸太で門を破りなさい。残りは、はしごを持って石垣に取りつかせなさい。数で押しつぶせばいい」
★
角笛の音が、平原に鳴り響いた。
デカールの歩兵たちが、雄叫びをあげて、城へと殺到していく。
何千、何万という兵が、黒い波となって、堀へと押し寄せる。
橋に群がる者。
門に丸太を打ちつける者。
堀に飛び込み、泳いで渡ろうとする者。
石垣に、はしごを次々とかけていく者。
ロスは、本陣から、その様子を眺めていた。
(相手は、たかだか1000。分身を使っても、数千。この数で押せば、1時間もかからずに――)
その時だった。
石垣の上。
白い壁に並んだ、小さな四角い穴から、何かが一斉に飛び出した。
無数の手裏剣とクナイ。
炎をまとい、雷をまとい、氷をまとった刃が、雨のように降りそそぐ。
「ぎゃあああ!」
「上だ! 上から撃ってくるぞぉ!」
「盾を! 盾を上に――がはっ!」
はしごを登っていた兵たちが、次々と転げ落ちていく。
堀を泳いでいた兵たちの脳天に、容赦なく刃が突き刺さる。
水面が、みるみる赤く染まっていった。
はしごを登りきった兵もいた。
石垣のてっぺんに手をかけ、身を乗り出した、その瞬間。
石垣そのものが、ぐにゃりと歪んだ。
岩肌から、セファイラ兵が、にじみ出るように姿を現す。
土遁の術。
石垣と同化して、ずっと、そこに潜んでいたのだ。
「ひっ――」
悲鳴は、最後まで続かなかった。
首をはねられた兵の体が、はしごごと、堀へと落ちていく。
「な……なんだ、あれは……石垣の中から、人が……」
参謀が、震える声でつぶやいた。
ロスは、苛立ちを隠さずに、
「今さら驚いてどうするのです! 報告には上げたはずですよ。やつらは、なぜか、妙に高度な魔法を使うと!」
と、そこで、
「……ん」
石垣の上の兵の中に、一人、見覚えのある姿を見つけた。
蒼く燃えるような、奇妙な羽織。
バチバチと電流を走らせたクナイを、はしごの兵へ、次々と投げ下ろしている。
(あの男……)
ロスの左腕を斬り飛ばした男――名前は確か、センエース。
奥歯が、ぎり、と鳴った。
★
戦況は、時間を追うごとに悪くなっていった。
「皇子! 正門、突破いたしました!」
一度は、そんな報告も届いた。
だが、その後が続かない。
「門から入った第三大隊、連絡が途絶えました……」
「第五大隊も同様です……中の様子が、まったくわかりません……」
「なんとか生還した者の話では、城の中は迷路のようになっており、ワナだらけ……」
「床が抜けたと思えば、底には槍が並び……通路の奥からは大岩が転がってきて、壁からは毒矢、天井からは酸の雨……」
「扉を開ければ、回転するノコギリ刃が飛び出してくる、と……」
「その上、壁から、床から、天井から、敵が湧いて出てくると……」
伝令の報告が、ひとつ届くたびに、本陣の空気が重くなっていく。
入っていった兵は、ほとんど戻ってこない。
石垣からは、次々と兵が落ちてくる。
堀には、浮かんだまま動かない体が、刻一刻と増えていく。
「……被害は」
ロスが、低く問う。
参謀は、手元の紙に目を落とし、言いよどんだ。
「開戦から、まだ2時間ほどですが……すでに、8000を超えております」
「……ぐっ」
「敵の被害は……確認できておりません。ゼロではないでしょうが……そう多くもないものと……思われます」