スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
27話 ミシャ王女、強すぎぃ!
静まり返っている、ロス本陣。
大将のロスは、ゆっくりと、息を吸う。
そして、吐いてから、
「なんと情けない!!」
抑えきれなかった声が、本陣に響き渡った。
「相手は1000人しかいない、セファイラなのですよ! 30万で1000を殺しきれないなど、出来の悪い道化の小話でもありえない!」
参謀も、周囲の将校たちも、誰一人、顔を上げられなかった。
ロスは、額に手を当て、しばらく黙り込んだ。
やがて、顔を上げた時には、いつもの、感情の薄い声に戻っていた。
「……仕方ありません」
ロスは、本陣の後方に控える一団へ、視線を向けた。
「ゼブル隊、前へ」
「ようやく、お呼びがかかりましたか」
野太い声とともに、一人の男が、前へ進み出た。
ゼブル。
代々デカールの将軍職を務めてきた、由緒ある貴族。
レベル120を超え、帝国でも指折りの猛将として知られている。
その背後に従うのは、ゼブルが自ら鍛え上げた精鋭部隊。
ロスは、平民上がりのルットを、最後まで好きになれなかった。
だが、ゼブルは違う。
高貴な血。
確かな実力。
皇族に対する、正しい忠誠。
ロスが、心から信頼を置く、数少ない将の一人だった。
「ゼブル。あの城、あなたなら抜けますね?」
「お任せを、皇子」
ゼブルは、分厚い胸を叩いて笑った。
「正面から当たっても、兵をすり潰すだけでしょう。……ご覧ください。城の南に、小さな砦が張り出しております。あそこなら、本城からの援護も届きにくい。まずは、あれを落とし、そこを足がかりに城へ切り込みます」
ゼブルが指さしたのは、城の南側に突き出すように築かれた、小さな出城――真田丸だった。
「よろしい。行きなさい」
★
ゼブル隊は、強かった。
出城に取りついた瞬間、降りそそぐ手裏剣を、剣の一振りでまとめて叩き落とす。
遁術で湧き出てくる忍者兵を、姿を現しきる前に、槍で壁ごと貫く。
分身が群がってきても、構わずなぎ払い、煙ごと吹き散らしていく。
「ははははっ! この程度か、セファイラ! やはり小国の兵! 気合が足りんわ!」
ゼブルの大剣が振るわれるたびに、忍者兵が、分身が、次々と吹き飛ばされていった。
木の柵が砕け、出城の門が、ぎしぎしと悲鳴をあげる。
「おお……!」
「押している! 押しているぞ!」
「さすが、ゼブル将軍だ!」
本陣から、どよめきが上がる。
ロスも、わずかに口元をゆるめた。
「そう……これが、本来の力量差です」
出城の門が、轟音とともに、内側へと倒れた。
ゼブル隊が、なだれ込もうとする。
――その先頭に、一人の少女が、立ちはだかった。
小柄な体。
金髪のツインテール。
血と土煙にまみれた戦場には、あまりにも不似合いな、澄んだ瞳。
ゼブルが、大剣を肩にかつぎ、にやりと笑う。
「これはこれは、姫君自らお出ましとは。……ご安心を。その首、きれいに落としてさしあげる」
ミシャは、答えなかった。
ただ、一歩だけ踏み込む。
ゼブルの目には、その踏み込みが、見えていなかった。
「龍毒クナイランク9」
紫の瘴気が、ゼブルの喉元で、ぶわりと咲いた。
「……が……?」
ゼブルの手から、大剣が落ちる。
喉を押さえた指の間から、どす黒い紫が、みるみる広がっていく。
ランク7だった時より、はるかに濃く、はるかに速い毒。
レベル120を超えるゼブルの肉体が、抵抗する間もなく、内側から侵されていく。
ゼブルは、膝をつき、
そのまま、前のめりに倒れる。
そして……二度と、動かなくなった。
出城の中に、一瞬の静けさが落ちる。
次の瞬間、
「しょ、将軍が……ゼブル将軍が、一撃でやられたぁああ!」
「ひ、ひぃいい! 引け、引けぇ!」
ゼブル隊の兵たちが、悲鳴をあげて、逃げ出した。
その背中に、忍者兵たちの手裏剣が、容赦なく突き刺さっていく。
本陣では、誰一人、声を出せずにいた。
ロスは、ただ、出城の上に立つ小柄な影を見つめていた。
まばたきすら忘れるほどの衝撃……
(……なぜだ……)
つい先日まで、レベル90程度だったはず。
それが、帝国屈指の猛将を、たった一撃で。
「意味が……わからん……ミシャごときが、ゼブルに勝てるわけがない……」
ちなみに、ここ数日の連戦と、頭がおかしいとしか思えない鍛錬によって、
ミシャのレベルは『125』にまで上昇していた。
王族である彼女は、本来なら、それなりのものを食べられる立場にあった。
だが、ミシャは、『民が飢えているのに、自分だけ腹いっぱい食べるなどありえない』と、自ら食事を切り詰めていた。
つまり、彼女は、飢えというデバフを背負ったまま、レベルを90まで上げていたのだ。
そんな本物の天才が、牛丼屋によって、デバフから解き放たれた。
いや、それどころか、十分な栄養というバフを得た状態で、死に物狂いの鍛錬を積んだ。
その結果が、このレベルの爆上がりである。