スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
31話 ヒーロー。
英傑たちは、とんでもない強さだった。
それは間違いない……が、
「くそがぁああ! 守れ! 私を守れぇえ!」
敵本陣から、ロスの絶叫が響いた。
戦場に散っていた魔導兵たちが、次々と本陣へ呼び戻されていく。
生き残った者すべてが、ロスを中心に、防御魔法を何重にも重ね張りしていく。
光の障壁が、ドームのように、本陣を覆った。
武蔵の刃が、障壁に叩きつけられる。
忠勝の槍が、障壁をえぐる。
障壁は、ひび割れる。
だが、割れた端から、魔導兵たちが、血を吐きながら張り直していく。
英傑たちは、魔法が使えない。
刃と槍だけで、何十枚もの障壁を、張り直される速さを上回って砕ききるのは、さすがに無理があった。
障壁の前には、将軍たちが、壁のように立ちはだかっている。
その顔は、恐怖で引きつっていた。
英傑への恐怖だけではない。
――ロスを守れなかった者が、どうなるか。
ルットの妻たちが、屋敷ごと焼き払われた光景を、将軍たちは、ロス自身の命令で、見せつけられていた。
ここでロスを守りきれなければ、自分の家族が、同じ目に遭うかもしれない。
たとえ、ロスとともに死んだとしても、皇子を守れなかった将の家族を、皇帝が許すとは思えない。
誰にだって、命をかけてでも守りたいものはある。
――だから、将軍たちは、死にもの狂いで、その身を盾にした。
一人が斬られれば、次の一人が前に出る。
その一人が斬られれば、また次の一人が。
日本の英傑たちに、必死に抗うデカール兵。
その様子を遠目に見ながら、センは、
(くそ……あと少し……あと少しなのに……! 頑張れよ! お前ら、日本最強のアベンジャーズだろ! 日本が誇るヒーローの中のヒーローなんだろ! 異世界の軍隊ぐらい、何十万いようと、サクッと殺しきってくれよ!!)
拳を握りしめた。
頭の中で、ずっと、数えていた。
英傑たちが現れてから、どれだけの時間が経ったか。
(……もうすぐ、3分だ……頼む……間に合ってくれ……!)
その時。
英傑の一人の体が、ふっと、淡い光に包まれた。
「……っ」
続いて、もう一人。
また、もう一人。
百人の英傑たちが、次々と、光の粒になってほどけていく。
3分。
活動時間が、尽きた。
最後に残った武蔵の分身が、ロスの障壁に刃を突き立てたまま、静かに消えていった。
★
戦場に、静けさが戻った。
あれほど地平を埋め尽くしていたデカールの軍勢は、見る影もない。
月明かりに照らされた平原を覆っているのは、動かなくなった兵たちの体ばかり。
だが、本陣の周りには、まだ、数千の兵が残っていた。
英傑が消えたのを見て、彼らは、おそるおそる、再び武器を構え始めている。
20万を、わずか3分で数千まで減らした。
英傑たちの力は、間違いなく常軌を逸している。
だが、殺しきれなかったという事実は、あまりにも痛すぎた。
障壁の奥には、ロスが立っていた。
顔は真っ青で、肩で荒く息をしている……が、生きていた。
腕の一本すら、失っていない。
「はぁ……はぁ……ふ、ふふ……ふははは……! 消えた! 耐えたぞ! はははぁあ! 何人死のうと関係ない! 私さえ生きていれば、どうとでもなるのだぁあ!」
ロスの笑い声が、夜の平原に響く。
センは、奥歯をかみしめた。
(くそ……最後まで殺しきってくれよ! くそ……くそ……どうする……あの怪物どもでも押し切れなかった相手に、俺とミシャだけで勝てるわけねぇだろ……)
足に、力が入らない。
隣で、ミシャが、ゆっくりと膝をついた。
刀を地面に突き立て、それにすがるようにして、どうにか体を支えている。
肩の傷から流れた血が、袖を、赤黒く染めていた。
ミシャは、残った敵兵たちと、その奥のロスを見つめ、
それから、静かに、センを見上げた。
その顔には、不思議なほど、穏やかな笑みが浮かんでいた。
「私たちは、ここまで、よく頑張った……」
月明かりが、ミシャの金色の髪を、淡く照らしている。
「セン、一緒に死のう」
センは、ミシャを見下ろした。
国のために、朝から晩まで働き続けてきた姫。
民のために、自分の食事さえ削ってきたバカ。
ゴブリンの群れが出たと聞けば、真っ先に一人で飛び出していく、愚かで気高く美しい、理想の女。
そんなミシャの言葉に、センは、
「なめんな……まだだ」
芯の通った声で、
「まだ、俺がここに立っている」
センは、刀を握り直した。
「終わってやらねぇ……絶対に……」
ロスを睨《にら》んだまま、
(俺はヒーローじゃない……それでも、叫び続ける勇気を……)
魂を研ぎ澄ませて、
(ぶっ壊れて、ゆがんで、腐って……それでもなくさなかった全てを……集めて……最後の最後まで抗ってやる……)
心が、ちぎれそうだった。
それでも……
「……ヒーロー見参《けんざん》……」
夜の平原に、センの宣言が溶けていく。
ヒーロー。
ピンチになったら現れて、敵を倒して、ハッピーエンドにしてくれる存在。
敵がどれだけ強大でも必ず勝ってくれる理想の主人公。
子供のころ、テレビの前で、誰もが一度は信じた夢想。
そんなものは、いない。
前世でも、この世界でも、そんな都合のいい存在が、助けに来てくれたことなど一度もない。
日本最強の英傑たちも、ヒーローの役割を果たしきってはくれなかった。
だから――自分がなる。
『ヒーローなんていない』と斜に構えるのはもう飽きた。
誰よりもヒーローに焦《こ》がれているセンにとって、
『ヒーローを騙《かた》る』のは、途方もない覚悟。
ミシャが、目を見開いて、センを見上げていた。
――その時。
世界の声が聞こえた。
――スキル『日本』の武勲《ぶくん》システム発動。
――10万人以上の敵兵を倒した功績をたたえ、
――『毘沙門天《びしゃもんてん》の剣翼《けんよく》』を進呈!!
センエースの背中に……
――後光のような剣の翼が顕現《けんげん》する!!!