スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
33話 フーマルの神格。
「ば……ばかな……こんな……」
ロスは、夜空を見上げたまま、動けなかった。
月を背にして、宙に浮かぶ男。
その腕には、ミシャ王女が抱えられている。
そして、その背後から、桜の刃紋を浮かべた刃が、途切れることなく降りそそいでくる。
障壁は、もうない。
魔導兵も、将軍も、もういない。
「ひぃい!」
膝が、がくがくと震えた。
後ずさろうとして、足がもつれ、尻もちをつく。
魔力は、一滴も残っていない。
指も、まだ思うように動かない。
数え切れない刃が、自分めがけて、まっすぐに迫ってくる。
(死ぬ)
はっきりと、わかった。
(私は、ここで、死ぬ)
股の間に、生温かいものが、じわりと広がっていく。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
極度の恐怖による、失禁と発狂。
刃が、目の前に迫る。
ロスの全身を切り刻もうとした……
――その寸前。
ロスの視界が、真っ白になった。
―――
――
――気づいた時、ロスは、赤い絨毯の上に座り込んでいた。
薄暗い広間。
ひやりとした空気。
見覚えのある場所だった。
デカール大帝国、帝都。
宮殿の最奥にある、謁見の間。
そして、絨毯の先の玉座には、皇帝が座り、ロスを見下ろしていた。
「は?」
ロスの口から、間の抜けた声が漏れた。
ついさっきまで、戦場にいた。
夜空から、無数の刃が降ってきていた。
死を、覚悟した。
それが、なぜ、ここにいる。
転移の魔石は、持っていなかった。
前回使ったものは、帝国にも数えるほどしかない秘宝。
絶対に勝てる戦いでの二度目の持ち出しは、許されなかった。
「な……なぜ……何が起きた……」
呆然とつぶやく、その背後から、
「いやぁ、大変でしたねぇ、皇子ぃ」
甘ったるい声がした。
ロスは、弾かれたように振り返った。
一人の女が、ゆったりとした足取りで、こちらへ歩いてくる。
白い神官の改造衣《かいぞうい》。
面積の少ない布地の上からくっきりわかる、豊満な体つき。
口元には、柔らかな笑み。
だが、その目だけが、獲物をなめ回すように、ロスの全身をじっとりと眺めていた。
女は、ロスの前でかがみ込むと、その肩に、ぽん、と手を置いた。
その瞬間、ロスの全身の毛が、逆立った。
触れられた肩から、底の見えない何かが、じわりと流れ込んでくる。
父よりも。
ゼイよりも。
ついさっき、千本の刃を前にした時よりも、はるかに深く、重く。
(……し……使徒《しと》ジョカ……なぜ、ここに……)
レベル150の自分が、まるで、赤子のように感じられた。
ロスは、震える唇で、
「……ふ、フーマルの神格……殿……」
「はぁい、そうでぇす。フーマル十大天使《じゅうだいてんし》の一人、使徒ジョカでぇす。こんばんわぁ」
精霊都市フーマル。
この世界でもっとも古い、神を祀《まつ》る宗教国家。
その頂点に立つ十人の神官――『十大天使』。
他国からは、畏《おそ》れをこめて『フーマルの神格』と呼ばれている。
十人全員が、人の域を超えた存在。
レベル150のロスですら、足元にも及ばない。
デカールの皇族が束になっても、一人にすら届かない。
そんな十大天使の一人……使徒『ジョカ』が、今、自分の肩に手を置いている。
ロスはつばを飲み込みながら、
「……ぁ、あなたが……私を、助けてくださったのですか?」
「助けたか……と言われますとぉ、微妙なところではありますけどねぇ」
「……どういう、意味でしょうか?」
ジョカは、ロスの肩から手を離し、ゆっくりと立ち上がった。
「反魂《はんこん》の神聖式《しんせいしき》ってご存知ぃ?」
「……おとぎ話の……死者蘇生術……」
「ただのおとぎ話じゃなく、実際にあるんですよぉ」
ジョカは、人差し指を立てて、くるくると回した。
「相当レベルの高い相手じゃないと蘇生できないんですけどねぇ。蘇生後にはレベルも下がってしまいますしぃ。そもそも、わちレベルの天才にしか使えない禁術中の禁術ですしぃ。なので、デカールの30万の兵を生き返らせてくれ、なんて頼まないでくださいねぇ。それは、わちでも無理なのでぇ」
「……」
ロスの背中を、冷たい汗が伝った。
死者蘇生。
高レベルの相手なら、生き返らせられる。
高レベルの……死者。
(……まさか)
「というわけで、ご登場いただきましょうかぁ」
ジョカが、芝居がかった仕草で、広間の奥へと手を差し伸べた。
「第二皇子の、ゼイ様ですぅ」
柱の陰から、一人の男が、歩み出てきた。
ロスより、頭一つ分は高い背丈。
父によく似た、彫りの深い顔。