スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
35話 翼を授ける。
刃の嵐が、ようやく静まった。
ロスの本陣があった場所に、立っている者は、もう一人もいない。
切り裂かれた天幕。
砕けた盾。
折り重なる将軍たちの亡骸《なきがら》。
だが、その中心に、ロスの姿はなかった。
(……ロスのやつが消えやがった……また転移の魔石か? ……くそっ、しぶといにもほどがあるだろ……)
センは、小さく舌打ちをしてから、ゆっくりと高度を下げていった。
腕の中のミシャは、まだ、センの首にしがみついたまま。
つま先が、焼け焦げた土に触れる。
その瞬間、
背後の剣翼が、光の粒になって、ほどけた。
一本、また一本と、白銀の刃が、夜の闇に溶けていく。
最後の一枚が消えると同時に、体の奥からあふれていた力も、すうっと引いていった。
「っ……」
膝が、かくんと折れかける。
センは、どうにか踏ん張って、ミシャを地面におろした。
ミシャは、センの腕から離れても、しばらく、センの背中を見つめていた。
さっきまで翼があった、何もない空間を。
「セン……あの剣の翼は、いったい……なんなんだ?」
「まったくわかりません」
センは、肩をすくめた。
「レッド〇ルを飲んだ記憶はないんですがねぇ」
「れっど……?」
「お気になさらず。……おそらく、セファイラの守護神が、俺に翼を授けてくれたのでしょう」
ミシャは、答えなかった。
ただ、じっと、センの顔を見つめている。
月明かりの中で、その瞳が、かすかに揺れていた。
「……セン」
「はい?」
「あなたなの?」
「はい?」
「あなたが……守護神なの?」
センは、ほんの一瞬だけ、言葉に詰まった。
(……言うべきか?)
本当のことを言うメリットとデメリットを、頭の中で天秤にかける。
その結果、
(……重荷を背負うのは、俺一人でいい)
センはそう判断して、軽く笑った。
「違いますよ。俺みたいなのが守護神って、なんかイヤでしょ」
その言葉に、ミシャは黙った。
センの軽口の奥にあるものを、ひそかに感じ取っている様子。
17年、一緒に育ってきた。
だから、センが一度決めたら、てこでも動かないことくらい、わかっている。
ミシャは、きゅっと唇をかんだ。
問い詰めたい言葉が、喉元までせり上がってくる。
それを、奥歯で、ぎりっとかみ殺した。
(私は……なんて無力……っ)
★
しばらく、二人とも、何も言わなかった。
夜風が、焼け野原を吹き抜けていく。
焦げた土と、血の匂い。
見渡す限り、動くものは、何もない。
ミシャが、ぽつりと口を開いた。
「……多くが、死んだ」
その視線の先には、セファイラの兵たちの亡骸が、点々と転がっていた。
もちろん、デカール兵の亡骸も。
「もう、セファイラに兵はいない……戦争には勝った。でも……国としては……」
その先は、言葉にならなかった。
センは、ミシャの隣に、どかっと腰を下ろした。
「まだいけますよ」
「……」
「俺と姫がいるんですから」
ミシャは、しばらく、センの横顔を見つめていた。
やがて、ふっと、小さく息を漏らす。
「……ふっ……子供でもつくるか? 1000人ぐらい」
「毎年、おそ松さん家《ち》くらい産んでも、100年以上かかりますけどねぇ」
「オソマツさん……?」
「世界一有名な六つ子です」
「有名なの? 聞いたことないけれど」
「不勉強ですね」
「あなたよりは勉強していると思うけれど?」
ミシャが、くすりと笑った。
センも、つられて笑った。
どちらも、無理をしているのは、わかっていた。
笑っていなければ、立っていられそうになかったから。
ひとしきり笑ったあと、センは、立ち上がって、平原を見渡した。
月明かりの下に、デカール兵の死体が、地平の果てまで続いている。
「……さて、こいつらをどうするかな……」
センは、頭をかいた。
「このままだと、疫病《えきびょう》がわいちまう……」
ミシャも、平原に目を向けて、顔をしかめた。
死体は、放っておけば、腐る。
戦争で死ぬ人間より、戦争のあとの疫病で死ぬ人間のほうが多かった――なんて話は、珍しくもない。
30万の死体を、埋めきれる人手はない。
焼ききれるだけの薪もない。
今、ここにいるのは、センとミシャの二人だけ。
(……マジで、これからどうするか……たぶん、ロスはまた来る……死体に、ロスに……問題ばっかり山積みになって、頭おかしくなりそうだぜ……)
この先を思い、頭痛がする。
(今回の戦いで、大量の経験値を獲得できたが……それでも、俺のレベルは72……何十万人も殺して、17ちょっとしか上がってねぇ……俺の才能のなさにはあきれ返るばかり……)
センが、
「どうすればいい……これからどうすれば……」
眉間にしわを寄せた、その時。
世界の声が聞こえた。
――固有スキル『日本』が進化。
――究極超スキル2『十六夜《いざよい》・百鬼夜行《ひゃっきやこう》』を獲得!!!
センの脳内に、スキルの情報が流れ込んでくる。
『十六夜《いざよい》・百鬼夜行《ひゃっきやこう》』
:殺した敵兵を、妖怪として使役することが可能。
:戦いで倒されても、毎月、満月の翌晩に復活する。