スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
6話 ルキが死にました。あ、そう。
デカール大帝国、帝都。
夜明け前の玉座の間は、まだ、ひやりとした闇に沈んでいた。
人払いをされた広間に、いるのは二人だけ。
玉座に座る皇帝と、その前に立つ、白い改造神官服の女。
「……まことか」
皇帝の声は、かすれていた。
ジョカは、にやにやと笑いながら、
「わちは、嘘なんてつきませんよぉ。……まあ、たまにはつきますけどぉ、今回のご報告に関しては、一切嘘偽りなしですねぇ」
「ルキが……何ゆえだ」
「それはわかりませんねぇ。わちは死体を見ただけですのでぇ」
「……そもそも、なぜ神格殿が、ルキの亡骸を?」
「たまたま通りがかりましてぇ。わち、夜のお散歩が趣味なんですよぉ」
ジョカは、悪びれる様子もなく、ひらひらと手を振った。
皇帝は、それ以上、問い詰めなかった。
フーマルの神格が『たまたま』と言うのなら、それ以上を聞き出す術など、どこの国の王にもない。
「……セファイラの手によるもの、ということか」
「おそらく、としか言えませんねぇ」
「30万を率《ひき》いたロスを退《しりぞ》けた国だ。わずかな供回りしか連れておらぬルキを討つなど、造作もあるまい」
「ですねぇ」
「そうか……死んだか……残念だ……」
皇帝は、黙り込んだ。
ほおづえをついた手で、こめかみを押さえる。
ルキが死んだ。
第一皇子が。
自分の血を分けた息子が。
悲しむべきなのだろう。
涙を流すべきなのだろう。
だが――
(……ここまで何も感じないとは……さすがに思わなかったな……)
ルキを使者に立てたのは、皇帝自身だった。
ゼイが静養中だから、などというのは、表向きの理由にすぎない。
次の皇帝は、ゼイ。
それは、もう、皇帝の中で決まっていた。
だが、第一皇子のルキが生きている限り、宮廷は二つに割れる。
だから、セファイラへ送った。
あの傲慢《ごうまん》なバカが、謝罪の使者として向かえば、どうなるか。
まず間違いなく、相手の逆鱗《げきりん》に触れる。
問題は、その先。
怒りに任せて、セファイラがルキを討つかどうかは、五分五分だった。
あの夢見がちな平和主義の王女が、最後まで耐え忍ぶ可能性もある。
討てば、最善。
討たなければ、その時は、その時。
もし、ルキが生きて戻れば、使者としての無礼を罪に問い、その首をゼイに持たせて、謝罪の証としてセファイラへ送ればいい。
どちらに転んでも、ゼイの前から、邪魔者は消える。
そして、ルキがセファイラに討たれたのであれば――
(……『謝罪に訪れた皇子を、無残に殺した蛮族《ばんぞく》』……和平の使者すら手にかける、話の通じぬ化け物ども。そう触《ふ》れ回れば、周辺国の目は、デカールではなく、セファイラへと向く……一石二鳥)
ジョカは、首をかしげて、皇帝の顔をのぞき込んだ。
「ちなみになんですけどぉ……ゼイ様の時のように、生き返らせて差し上げましょうかぁ?」
玉座の間に、沈黙が落ちた。
皇帝は、すぐには答えなかった。
数秒、悩んでから、
「…………不要だ……ここまで散々世話になっておきながら、まだ手を借りるなど、矜持《きょうじ》が許さぬ」
「いえいえ、別にお気になさらずぅ。皇帝陛下には、こちらもお世話になっておりますのでぇ、今すぐにでも――」
「結構」
「くくぅ」
ジョカは、目を細めて、にっこりと笑い、
「おやおや、そうですかぁ」
「……亡骸《なきがら》は、いかがした?」
「街道沿《かいどうぞ》いの森に、そのままにしてありますぅ」
「……そうか。では、あとで配下に回収に行かせよう」
皇帝は、しばらく、玉座の肘掛けを指で叩いていた。
やがて、重い口を開く。
「……ルキは、使者としての務《つと》めを果たしておらぬやもしれん。確かめる意味でも、改めて使者を立てるべきか……」
セファイラには、まだ、何も気取らせてはならない。
他国を巻き込む準備が整うまでは、友好的な顔をしておく必要がある。
「それ、わちがやりましょうかぁ?」
「なに? いや……フーマルの神格殿に、使い走りのような真似をさせるわけには――」
「いえいえ、いいですよぉ。ちょうど、セファイラにご挨拶しておきたいと思っていたところですしぃ。わちなら、使者としての格も十分ですしねぇ」
「……」
皇帝は、しばし考えてから、
「……ならば、お任せしよう」
「了解でぇす」
ジョカは、くるりと背を向けた。
玉座の間の窓から、白み始めた空がのぞいている。
ジョカの口元が、やわらかく、ゆるんだ。
「ふふ……楽しみですねぇ……」