スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
6話 『ロス皇子』VS『ゼロ戦』。
ガタゴトと揺れる馬車の中。
ロスは、窓の外を流れる平原を眺めながら、ゆったりと足を組んでいた。
外からは、規則正しい軍靴《ぐんか》の音が絶え間なく響いてくる。
総勢2万。
街道を埋め尽くす大軍勢の行進は、地面そのものを震わせていた。
「国境の砦までは、あと数分です」
向かいに座る副官が、地図を広げながら淡々と報告する。
「戦力差を考えますと、3時間ほどで制圧できるかと」
それに対しロスは、丁寧な口調で、
「仮に、ミシャ王女のレベルが100……いや、120程度にまで上昇していた場合はどうですか?」
「制圧する時間が5分ほど増えるだけかと」
「まあ、でしょうねぇ」
ロスは、窓の外に目を向けたまま、興味なさげに応じた。
そして、まるで明日の献立《こんだて》でも決めるかのような口調で、
「セファイラ人は全員、戦奴《せんど》として、ドーンとの戦争で使い潰しなさい。有能な者は戦力として登用してかまいませんが、使えないゴミは、人間爆弾か肉壁。見た目のいい女は性奴隷になさい」
「承知しました」
副官は、表情一つ変えずに一礼した。
ロスにとって、セファイラの制圧は、戦争ですらない。
ただの人狩り。
奴隷を回収する収穫作業。
(問題は、ドーンとの戦争……どこまで長引くか……)
ロスは、指先で肘掛けを軽く叩きながら、思考を巡らせる。
(できれば、この戦争で兄二人には死んでほしいが……さすがに、それは難しいでしょうねぇ……)
ロスは王位継承権第三位。
兄二人が消えれば、玉座は自然とロスのもとへ転がり込んでくる。
今回の戦争では難しいかもしれないが、いずれは消す予定。
ロスが、薄く唇を歪めた、その時だった。
――馬車の外で、兵士の一人が、
「……ん? なんだ、あれは」
声をあげた。
それに続いて、ほかの兵士たちも、次々と、
「空に……何かいるぞ」
「鳥か?」
「いや……でかい何かが……近づいてくる!」
ざわめきが、波紋のように行軍の列へと広がっていく。
ロスは眉をひそめ、窓から身を乗り出した。
東の空。
太陽を背にして、一つの影が、こちらへまっすぐに向かってくる。
鳥ではない。
翼は、一度たりとも羽ばたいていない。
それなのに、信じられない速さで距離を詰めてくる。
そして、聞いたこともない、腹の底をかき回すような轟音。
「鉄の……龍? 見たことがないモンスターだ……」
ロスは眉間にしわを寄せて呟いた。
――その直後、鉄の龍の翼が火を噴く。
バババババババババッ!!
大地が、一直線に弾けた。
土煙の柱が、行軍の列に沿って、凄まじい速さで駆け抜けていく。
その線上にいた兵士たちは、悲鳴をあげる間もなく吹き飛んだ。
「ぐぁあああ!」
「な、なんだ、これはぁああ!」
「盾が! 盾ごと貫かれ――」
鎧も、盾も、まるで紙切れのように引き裂かれていく。
馬がいななき、暴れ、騎兵たちが次々と振り落とされる。
整然としていた隊列は、一瞬で、ただの肉の塊が転がる地獄へと変わった。
そして、土煙の線は、ロスの馬車へと到達した。
「皇子! 伏せてぇ!!」
「――っ!! な、なに……あれは……一体!?」
衝撃。
視界が回転する。
豪奢な馬車の屋根が、壁が、内側から弾けるように砕け散った。
気づけば、ロスは、
「う……ぐぅ……」
横倒しになった馬車の残骸の中に転がっていた。
耳鳴りがひどい。
何が起きたのか、理解が追いつかない。
起き上がろうと、右手を地面につこうとした。
――つけなかった。
「……え?」
肘から先が、なかった。
「うぁああああ! わ、私の腕がぁあああ!」
王族の気品など、かなぐり捨てた絶叫が、戦場に響き渡った。