あの日の恐怖と、鉄の怪物の圧倒的な背中を見て以来、新人ハンターの胸に灯った炎は消えるどころか、激しく燃え盛っていた。
「くそっ……! まだだ、もっと動け……!」
古代林のうす暗い夕闇の中、新人は泥まみれになりながらも大剣を力強く振り抜いていた。かつてはドスジャギィに怯え、ゲネルセルタスに踏み潰されかけていた青臭い少年は、数々の死線をくぐり抜け、確かな「実力」と「胆力」を手に入れていた。ボロボロだった防具は、自らの手で素材を集めて作り上げた実戦的な装備へと変わっている。
そして今、彼の眼前にいるのは、古代林の闇に溶け込む夜の捕食者――迅竜ナルガクルガだった。
赤く光る残像を残すほどの超高速の跳躍。暗闇から突如として繰り出される鋭い尻尾の叩きつけが、新人の足元を容赦なくえぐる。
「ぐっ……! 見切るしかなかったんだよ、お前の軌道は……!」
新人は冷や汗を拭い、ナルガクルガの動きの癖――跳躍の前のわずかな重心移動、尻尾を叩きつける瞬間のタメを、全身の神経を研ぎ澄ませて観察した。
恐怖に飲まれていた過去の自分はもういない。
――今だ!
ナルガクルガが空中から鋭い翼刃を突き立てようと襲いかかってきたその瞬間、新人は紙一重で身をかわし、渾身の力を込めた大剣をその赤黒い頭部へと叩き込んだ。
「ドゴォッ!!」
これまでの彼なら到底届かなかったであろう絶妙のタイミングと確実な一撃。
激しい衝撃に、ナルガクルガがたまらず体勢を崩して地面に転がり伏せる。さらに新人は休む間もなく連続で斬り込み、ついに致命的な一撃を浴びせた。
「ハァッ……ハァッ……、やった……のか?」
数秒の静寂の後、巨体の迅竜が力なく地面に伏し、動かなくなった。
「やったのニャ!ハンターさん!クエスト完了ニャ!」
周囲の木々を揺らす風の音が聞こえる。新人は大剣を地面に突き立て、その場に膝をついた。全身傷だらけだったが、その顔にはかつての情けない怯えはなく、一人の「一人前のハンター」としての誇らしい笑みが浮かんでいた。
遠くからの眼差し
その戦いの様子は、数百メートル離れた高い木の枝の上から、静かに見下ろされていた。
私の頭脳中枢は、新人の戦闘データを冷徹にトレースしていた。
『対象:人間(新人)。戦闘能力の向上を確認。成長速度、想定値を大幅に超過』
かつてはゴミ屑のように怯えていた個体が、自らの知性と肉体を鍛え上げ、この世界の過酷な生態系の猛者(ナルガクルガ)を自らの力で討伐に至った。
それは、私が住んでいた惑星Ziの過酷な戦場を生き抜く兵士たちの姿に、どこか重なるものがあった。
『エネルギー残量:99.8%。異常なし』
私の機関は相変わらず無限のエネルギーを保ち、補給も修理も必要としていない。人間のように汗を流すことも、成長という名の進化を必要とすることもない、完成された破壊兵器。
だが――。
私は背部のロングレンジ・パルスレーザーライフルを微かに傾け、震えながらも立ち上がり、倒した獲物を背負って意気揚々と森を抜けていく新人の背中をセンサーに捉えた。
「……フン」
電子音まじりの低い唸りが、誰にも聞かれることなく夜の樹海に溶けていく。
彼らがどこまで這い上がり、この世界をどう変えていくのか。
ふと、私のプロセスの隅で、その結末を少しだけ観測してみたいという、奇妙な例外処理が生成されたのだった。