古代林の少し開けた河原のほとり。
新人ハンターは、ようやく仕留めたナルガクルガの素材を剥ぎ取り終え、その脇でパチパチと音を立てる小さな焚き火にあたっていた。全身傷だらけで、息を切らしながらも、その顔にはやり遂げた者特有の充実感が満ちている。
「ふう……死ぬかと思ったぜ。さすがの黒い疾風ナルガクルガだったな」
そう呟きながら、彼はリュックから保存食を取り出そうとした。
その時、背後の闇がふっと重くなった。
ゴォン、と重厚な金属が軋む地響き。
焚き火の炎がわずかに揺らぎ、炎の届かない闇の中から、巨大な漆黒のシルエットが静かに姿を現した。
「……っ!?」
新人は反射的に腰を浮かせ、大剣に手をかけようとした。しかし、そこに立っていたのが何者であるかに気づくと、すぐに力を抜いて、どこか呆れたような、しかし嬉しそうな笑みを浮かべた。
「なんだ、お前か……。相変わらず何処からともなく現れるんだから、心臓に悪いぜ」
私は無言のまま、赤く光るセンサーを新人に向け、その巨体を静かに停止させた。
人間が恐れる「絶対的な脅威」としての威圧感をあえて抑え、ただそこに佇む。
「ニャッ!? にゃんだこいつ!? でっかいトカゲ……いや、まっ黒な鉄のモンスターだニャ!」
新人の足元から、飛び上がるほど驚いた声が上がった。
新人の相棒である「おともアイルー」だった。彼は毛を逆立て、小さな肉球で武器の木製ブーメランを構え、震えながらも私の前に立ちはだかる。
アイルーの警戒と、差し出された手
『分析:小型生体獣人(アイルー)。戦闘力:微小。敵対行動を検知……ただし、威嚇の範疇に留まる』
アイルーは必死に耳をぺたりと寝かせ、シャーッと威嚇の声をあげている。
「おい、待て待て、落ち着け!」
新人は慌ててアイルーを抱え上げ、なだめるように頭をポンポンと叩いた。
「こいつは俺を襲ったりしねえんだ。それどころか、昔はイヤンクックをビビらせて逃がしてくれたし、この前はゲネルセルタスを消し炭にしてくれた、いわば命の恩人……って言うか、なんだ、通りすがりの守り神みたいなもんさ!」
「ニャ……? 守り神がこんな鉄の塊だニャ? 目が赤くてすっげえ不気味だニャ……」
アイルーはまだ半信半疑といった様子で、大きな目をさらに丸くして私を見上げていた。
私は低い電子音を鳴らし、背部のロングレンジ・パルスレーザーライフルをわずかに揺らした。危害を加える意思がないことは、行動ですでに伝わっているはずだ。
新人は苦笑いしながら、焚き火の傍らに置いてあった肉の串を一本手に取り、私の足元へと一歩近づいた。もちろん、金属の塊である私が食べるわけがないことは、彼は前回の経験で知っている。
「ほら、お前は何も食わないかもしれないけどさ。あのときは助かった。お陰で、俺は今日、あのナルガクルガを自分の足で狩ることができたんだぜ」
彼はそう言って、私の足元の地面にこんがりと焼かれた肉をそっと置いた。
アイルーは「もったいないニャー!」と小声でツッコミを入れているが、新人はどこか誇らしげだった。
『処理:不要物。エネルギー効率への寄与・ゼロ……しかし』
私の内部プロセスの隅で、奇妙なデータがまた一つ生成された。
補給も修理も必要とせず、ただ破壊のために存在すべき私が、人間から「感謝」という不可視のパラメータを受け取っている。
私は一言も発することなく、ただ赤く光るセンサーを新人に向けたまま、ゆっくりと体を反転させた。
「おっと、もう行くのか? ……おい、鉄のトカゲ!」
背後から新人の声が飛ぶ。
「今度会うときは、もっとすっげえハンターになってやるからな! だから、勝手にぶっ壊れたりするなよ!」
私は振り返ることなく、重い足音を響かせながら、夜の深い森の闇へと溶けていった。
背部のライフルが静かに月明かりを反射する。この世界の生態系に馴染む気など毛頭ないはずの私が、彼らの存在をデータベースの片隅にしっかりと刻み込んでいた。