観測員の絶望と、想定外の結末
「――ああっ! 今の、丸呑みにされたぞ……!!」
雲上の気球ゴンドラで、助手が頭を抱えて絶叫した。
ベテラン観測員も、双眼鏡を落とさないようにするのがやっとだった。彼らの視界の先――ドボルベルクの猛攻にさらされていた新人ハンターが、ジェノザウラーの胸部に開いたハッチに押し込まれ、そのままガッチリと閉ざされる瞬間をハッキリと目撃していたからだ。
「馬鹿な……! あの鉄の怪物は人間をも標的とするのか!? いや、それ以前に、あんな狭いところに放り込まれて、潰されたのか、それとも……!」
エリックの手が冷や汗で震える。魔装竜だけでも生態系の常識を覆す災厄だったのに、人間を捕食(あるいは取り込み)したとなれば、それはもはや「自然の脅威」を越えた、人類の存亡に関わる悪夢の始まりを意味していた。
「本部に……至急、増援と最高警戒レベルの発令を……!」
エリックが無線機に手を伸ばしたその時、盆地の戦場で信じられない現象が起きた。
魔装竜の反撃
ドボルベルクが、その山のような巨体を利して再び強烈な尾撃を叩き込もうと跳ね上がった。
だが、直前の苦戦が嘘のように、ジェノザウラーの動きが劇的に変わっていた。
機械の冷徹な計算能力に、人間の泥臭い狩猟本能――予測不能のタイミングと鋭い嗅覚が完全に噛み合っている。
『機体出力:限界突破。同期率、完全安定』
私はコクピットの新人ハンターとの完全なリンクのもと、逆関節の強靭な脚部で大地を抉るように踏み込んだ。
ドボルベルクの尾撃を紙一重でかわし、その巨大な質量と回転の死角へと滑り込む。
「喰らえぇぇッ!!」
新人の叫びと私の駆動音が重なる。
私は腕部の鋭利なクローを振り上げ、ドボルベルクの背中にそびえ立つ頑強な岩山のようなコブ――その構造の弱点である基部を、正確無比な一撃で深くえぐり抜いた。
「グルォォォ……ッ!?」
圧倒的な質量とタフネスを誇っていたドボルベルクが、初めて致命的なバランスを崩し、その巨体を轟音とともに地面へ盛大にひっくり返した。
さらに、背部のロングレンジ・パルスレーザーライフルが、逃れる隙を与えずに高速の連射光線を浴びせ、山のような獣竜の動きを完全に封じ込めた。
「今だ!!」
新人ハンターが叫ぶと同時に両足のアンカーを地面に打ち込み荷電粒子砲を放つ
着弾の爆発と粉塵が盆地を支配した。
粉塵が晴れるとドボルベルクの巨体が横たわっていた
ドボルベルクの巨体はピクリとも動かない。文字通り、完全な討伐が完了した瞬間だった。
ハッチの開放
「……はぁっ……はぁっ……」
ジェノザウラーの胸部中央、重厚な装甲のハッチがプシューと音を立てて再び左右に割れ、盛大な冷却蒸気が噴き出した。
そこから、煤まみれになりながらも、両手でしっかりと大剣を握りしめた新人ハンターが、ふらり、と這い出るようにして外へ降り立った。彼は自分の手足を確認し、生きて地上に立っていることに安堵の息を漏らす。
「い、生きてる……俺、生きてるぞ……!」
上空の気球からその光景を一部始終見守っていたベテラン観測員と助手は、言葉を失って固まっていた。
丸呑みにされたどころか、あの「鉄の怪物」と一体化し、自らの手でドボルベルクを文字通り討伐してしまったのだ。人間が、未知の超文明の兵器を乗りこなし、生態系の頂点を制圧した――。
ベテラン観測員は震える手で双眼鏡を下ろし、ゴンドラの通信機を強く握りしめた。
「……こちら観測班。古代林の盆地にて緊急報告……!」
通信機の向こうのオペレーターに、彼はうわずった声を叩きつけた。
「該当の異形『魔装竜』に対し……新たな分類を追加せよ! あれはもはや単なる脅威ではない……人類と融合し、古龍ををも凌駕する『人竜一体の災厄』かもしれない!」
新人が地上で大きく息を整え、ふと振り返ってジェノザウラーの赤く光るセンサーを見上げる。
私はその小さな背中を静かに見下ろし、背部のライフルを収めながら、再び深い森の奥へと一歩を踏み出すのだった。