ドボルベルクとの死闘の代償は小さくなかった
人竜一体の圧倒的な格闘戦と荷電粒子砲にて山のような巨竜を沈黙させたものの、その過程で私の機体フレーム――特に下半身のサスペンションと右の逆関節部には、許容量を超える過負荷が蓄積されていた。
『警告:右脚部フレームに亀裂を検知。駆動系オイル漏れおよび油圧低下』
『自己修復プロセス、稼働中……ただし、損傷の規模が標準ナノマシンの修復レートを大幅に超過』
ガタガタと重い金属音を立てながら、私は古代林のうす暗い獣道を進んでいた。
自給自足のエネルギーコア自体は99%を維持しているものの、物理的な「構造の歪み」は無視できないエラーを引き起こしていた。歩行するたびに、重厚なチタン装甲からキリキリと不気味な軋み音が響く。
その時、前方の木立からガサリと音がして、見慣れたボロボロの防具を纏った影が飛び出してきた。
新人ハンターだった。彼は先日ドボルベルクを共に打ち破って以来、私に対して奇妙な信頼と親近感を抱いている。
「お!居た居た……どうしたんだ……? 歩き方が変だぞ、鉄のトカゲ、いや…ジェノザウラーだったな」
新人は私の足元に駆け寄り、右脚の関節部から漏れ出している黒い冷却液と、装甲に走った深い亀裂を見つけて目を見開いた。
「うわ、すっげえ傷だ……あのドボルベルクとの戦いで、無理しすぎたのかよ」
『対象:人間。接近行動を検知。脅威度ゼロ』
私は頭部センサーをわずかに下げ、かすかに赤く明滅させることで現在の稼働不良を伝えた。
新人は腕を組み、真剣な表情でしばらく考え込んだ。そして、何かを決意したように私を見上げる。
「なあ……このままだと、お前、そのうち動けなくなっちまうだろ。この森にはお前を直せるような鍛冶屋も、パーツもない」
彼は私の胸部、かつて彼を飲み込んだコクピットのハッチをポンと叩いた。
「俺の村……ハンターズギルドの拠点まで来いよ。あそこには、数々のモンスターの素材から武器や防具を作り出す腕利きの職人たちが揃ってる。お前のその傷を直せるかどうかわかんねえけど、このまま森で野垂れ死ぬよりはマシだろ?」
共生への一歩
『解析:提案の妥当性を検証。現在の物理的損傷による稼働停止確率、34.5%上昇。外部メンテナンス施設の利用、生存確率の最適化に寄与』
私の生体コンピュータは、人間の村という「未知の敵性領域」への侵入リスクと、現在の致命的な損傷を修復するメリットを天秤にかけた。
結論――合理性は後者に傾いていた。
プシュー、と高圧の蒸気が噴き出し、胸部のハッチがガバリと大きく開いた。
新人は少し驚いた顔をしたあと、ニヤリと笑って大きく頷いた。
「よし、そういうことだな。またお邪魔するぜ、ジェノザウラー!」
彼は迷うことなくコクピットの内部へと飛び込み、シートに身を収めた。
ガチャリ、と重厚なロックが閉まり、再び私の生体コンピュータと彼の神経系がダイレクトにリンクする。
『同期率:安定。パイロットの指示に基づく移動ルートを統合』
私たちは、古代林の鬱蒼とした木々を抜け、人間たちの待つハンターズギルドの拠点へと、その重い足音を響かせながら舵を切った。
最強の破壊兵器と、一人の新人ハンター。奇妙な共生関係を結んだ「人竜一体の災厄」が、今、人間たちの文明圏へと足を踏み入れようとしていた。