ハンターズギルド拠点――その巨大な正門前は、かつてないほどの緊張と混乱の渦に包まれていた。
「おい、冗談だろ……!? なんだあれは!」
「門を開けるな! 迎撃態勢を取れ!」
見張りのハンターたちが次々と武器を構え、集会所から飛び出してきたベテランハンターたちも、目の前の光景に息を呑んで立ち尽くしていた。
地鳴りを立てて石畳の広場へと歩み寄ってきたのは、ギルドが「不可侵の災厄」として警戒を呼びかけていた漆黒の異形、魔装竜だった。右脚の関節部からは黒い冷却液が漏れ、装甲の随所に激しい戦闘の痕跡と亀裂が走っている。明らかに、致命的なダメージを負った状態だった。
だが、それ以上に周囲の度肝を抜いたのは、その巨体の胸部中央――本来であれば絶対に開くはずのない装甲ハッチがガバリと開き、そこから一人の人間がひょっこりと顔を出したことだった。
「おーい! みんな、そんなにビビるなって!」
泥まみれの防具を着た新人ハンターが、大きく手を振りながら堂々とそう叫んだ。
広場に集まっていたハンターや受付嬢たちは、言葉を失って固まった。あのリオレウスを光線の一撃で消し去り、金冠級のドボルベルクを沈黙させた「歩く災厄」の内部から、あの新人ハンターが現れたのだから無理もない。
「なっ……、何を考えているんですか、新人ハンターさん……!」
ギルドマスターの側近であるベテラン受付嬢は、青ざめた顔で震え声を絞り出した。
「あんな危険な化け物の腹の中に自ら飛び込むなんて、正気か!? 丸呑みにされたわけじゃないのか!?」
「丸呑みって……おいおい、失礼だな」
新人ハンターはふっと笑い、ジェノザウラーの冷たく光る黒い装甲をポンと叩いてみせた。
「こいつは俺を食ったりしねえよ。見てくれよ、この傷を。こいつ、この前のドボルベルクとの戦いで無理をしすぎて、足がぶっ壊れちまったんだ。だから、ここに直してもらいに来たんだよ」
「それとこいつの名前はジェノザウラーっていうんだ!この前中に乗ったときに教えてくれたんだ」
「ジェノザウラー……?」
ベテランハンターや受付嬢達が呟く
「しかし直す……って、誰がこんな未知の鉄の塊を直せるっていうんだ!」
周囲のベテランハンターたちが頭を抱える中、ガサリと広場の特等席、鍛冶屋の炉の傍らから、白髪交じりの老うねりのような巨漢がゆっくりと歩み出てきた。
長年、数々の素材から伝説の武器を打ち出してきた、この拠点の誇る名工――名工鍛冶師だった。
名工の好奇心
名工鍛冶師は巨大な片手ハンマーを肩に担いだまま、ぎこちなき足取りでジェノザウラーの目の前まで歩み寄った。
その老練な瞳は、恐れの色を微塵も浮かべていなかった。代わりに、未知の素材と構造を前にした職人特有の、狂気的なまでの熱狂と探究心でギラギラと輝いていた。
「ほう……こいつが、噂の『魔装竜』か」
名工鍛冶師は足元にしゃがみ込み、ギシギシと軋むジェノザウラーの右脚の亀裂にそっと触れた。
「ふむ……! この重厚な密度、この未知の硬度……マカライトでも、ユニオンでもねえ。聞いたこともない合金だ。どうやって鋳造したんだ、この流線型のフレームは……!」
私の頭脳中枢は、目の前の老いた人間を冷徹にスキャンする。
『対象:人間(名工鍛冶師)。脅威度ゼロ。修復プロセスに対する技術的寄与の可能性、高』
横に立つ新人ハンターが少し得意げな顔をして言った。
「どうだ、鍛冶師! こいつの足、直せそうか?」
名工鍛冶師はしばらく唸り声をあげて考え込んだあと、ハッと顔を上げ、豪快な笑い声を響かせた。
「ハッハァー! 面白い! ギルドの連中が何と言おうと関係ねえ! 職人として、こんな極上の鉄の塊を見せられて、修理しねえわけがねぇだろうが!」
その一言で、広場を覆っていた恐怖の空気は一気に吹き飛び、周囲のハンターたちはただただ呆然と、人間と「災厄」の奇妙な共同戦線が成立する瞬間を見守るしかなかった。
最強の破壊兵器は、人間たちの拠点の真ん中で、最高の職人の手による「オーバーホール」を受けることになったのだった。