「――っ! なんだ今の光景は……!」
上空数百メートルを漂うハンターズギルドの観測気球のゴンドラから、ベテラン観測員は双眼鏡を落としそうになりながら絶叫した。
いつも通り古代林の上空を周回し、リオレウスの飛行ルートやモンスターの生態を記録していただけの平和な任務のはずだった。しかし、視界の先で展開されたのは、ギルドの生態系データベースを根底から覆す悪夢のような光景だった。
空の王であるリオレウスが、圧倒的な火炎のブレスで謎の「漆黒の巨獣」を呑み込んだ――そこまでは、いつもの強者同士の縄張り争いの一つに見えた。
だが、炎が晴れたとき、そこにあったのは無残に焼き焦げた姿ではなく、無傷で佇む異形の鉄竜だった。
「馬鹿な……あんなモンスター、聞いたことがない。獣竜種でも古龍でもない、まるで『機械仕掛け』の……!」
ベテラン観測員の手が震える。双眼鏡のレンズの先で、ジェノザウラーがその異質な姿をさらに変形させていた。
両足を打ち付け尻尾を伸ばしそこから何か展開してる
まるで巨竜砲のような形態になると
開かれた口内が、不気味な青白い光を帯びていく。周囲の大気がまるで重石を乗せられたように歪み、気球の計器盤が警告音を激しく鳴らし始めた。
『警報:異常なエネルギー反応を検知。周囲の磁場が急激に低下中!』
「おい、冗談だろ……! あの竜、何をチャージしてるんだ!?」
若い助手が青い顔をして叫ぶ。
リオレウスもまた、本能的にただならぬ危機感を察知したのだろう。普段の誇り高い威嚇を捨て、全身の鱗を逆立てながら上空へと一気に羽ばたこうと翼を大きく広げた。
だが、遅すぎた。
閃光の審判
ジェノザウラーの口内にに凄まじい閃光が収束していく。
そして
次の瞬間、世界が音を失った。
轟音ではない。ただ空気が切り裂かれるような重低音とともに、青白い荷電粒子砲の直線的な光の奔流が放たれた。
それは光速に迫るエネルギーの暴力。リオレウスが逃れようと飛び立ったまさにその軌道へと、灼熱の閃光が直撃した。
「うわあああっ!」
光が通過した余波だけで、数百メートル離れた観測気球が激しく揺さぶられる。観測員達ははゴンドラの縁にしがみつくのがやっとだった。
光の奔流が過ぎ去った後、空に残っていたのは――文字通り、何もなかった。
リオレウスの姿は跡形もなく消え失せ、ただ上空の雲が綺麗に円状に吹き飛ばされ、ぽっかりと青空の穴が空いていた。
気球の静寂の中、ベテラン観測員は冷や汗を拭うことも忘れ、呆然と眼下の森を見下ろすしかなかった。
そこには、静かに砲身を収め、冷徹な赤いセンサーをこちらに向けるかのように佇む、漆黒の悪魔の姿があった。
「……至急、本部に連絡しろ。古代林に……『古龍』を超える、未知の災厄が現れた、と……」
震える手で通信機を握りしめながら、ベテラン観測員は確信した。この世界の生態系の頂点は、今日、完全に塗り替えられたのだと。