「――くっ、なんだこの電撃は……!?」
古代林のうす暗い樹間を抜けた先、苔むした渓流エリアに足を踏み入れた瞬間、私たちの周囲を取り巻く空気がバリバリと青白い静電気を帯びてスパークした。
『警告:高電圧の電磁パルスおよびプラズマ熱源を検知』
目の前に現れたのは、霊峰や渓流に君臨する牙獣種――雷狼竜ジンオウガだった。
その強靭な四肢と蒼白い蓄電毛は、周囲の無数の「超雷光虫」を引き寄せ、全身からバチバチと激しい稲妻を放ちながら威嚇の低音を響かせている。帯電状態に移行したジンオウガの速度と攻撃力は、これまでのどのモンスターの機動力をもしのぐ。
「グルァァァァッ!!」
ジンオウガが地面を蹴った瞬間、その姿がかき消えた。
――速い!
『回避行動』
私の背部に組み込まれたドボルベルク複合フレームがうなりを上げ、凄まじい加速で側面に身をかわす。しかし、ジンオウガの纏う高圧の電撃は空間を伝い、私のチタン装甲の継ぎ目へと容赦なく流れ込んできた。
「ぐああっ……! 電気が装甲を伝って、コクピットの中にまで……!」
新人ハンターの苦悶の声が、リンクを通じて私の頭脳中枢に直接響く。
ジンオウガの放つ電撃は、機械仕掛けである私の回路だけでなく、搭乗している人間の神経系すらも痺れさせる厄介な性質を持っていた。物理的な耐久力だけでは防げない、「エネルギー干渉」による苦戦。
雷を喰らう牙
『解析完了。敵の帯電プロセスは周囲の雷光虫との共生関係に依存』
『対策:高周波パルスによる電磁阻害、および近接クローの全出力展開』
私は後退するのではなく、あえてジンオウガの懐へと踏み込んだ。
「よし!吹っ飛ばせ!!」
新人の気合の入った絶叫と同時に、私の機体出力が跳ね上がる。
ジンオウガが跳躍し、全身の稲妻を収束させた渾身の「お手(プレス攻撃)」を頭上から叩きつけてきた。
――ドゴォォンッ!!
凄まじい閃光と爆音が周囲の木々を吹き飛ばす。
放電の衝撃で私の視界が一時的に白く染まったが、ドボルベルクの頑強な甲殻と新人の予測回避が完璧に噛み合い、直撃のダメージは最小限に抑え込まれていた。
「今だぁっ!!」
ジンオウガが攻撃の反動でわずかに硬直したその瞬間、私は両腕の鋭利なクローを全開で振るい、その蒼白い蓄電毛を強引に引き裂いた。さらに、背部のロングレンジ・パルスレーザーライフルから放たれた極小の高周波パルスが、ジンオウガの周囲の雷光虫たちのネットワークを正確に焼き切る。
「キィィィ……ッ!!」
蓄電を維持できなくなったジンオウガの全身から、激しい青白い光が急速に失われていく。
帯電状態を解除された雷狼竜は、バランスを崩して地面に大きく膝をついた。
追撃の隙を逃さず、私たちは至近距離から圧倒的な質量を乗せたクローを叩き込み、ついにジンオウガを完全に沈黙させた。
試運転の果て
『戦闘終了。機体各部に軽度の電磁ショック……しかし、戦闘遂行能力に影響なし』
プシューと冷却蒸気を吐き出しながら、私は動きを止めたジンオウガの傍らに静かに佇んだ。
コクピットのハッチが開き、新人はゼーゼーと荒い息をつきながら、全身にじんわりと残る痺れを抑えるように膝をついた。
「はぁ……はぁ……すげえ野郎だったな……。痺れで一時はどうなるかと思ったぜ」
新人は汗だくになりながらも、爽快な笑みを浮かべて私の装甲を軽く叩いた。
電撃という新たな脅威に直面しながらも、私たちはそれを完全に乗り越え、機体のポテンシャルをさらに証明してみせた。
この世界の頂点に君臨する者たちを相手に、人間と異世界の兵器はもはや「切り離せない一つの意思」として、確かな勝利を積み重ね続けていた。