火山の深部、溶岩が川のように脈打つ大空洞エリア。
私たちの前に広がっていたのは、まさに「地獄の釜」のような光景だった。
『前方、熱源反応を二つ検知。交戦状態を確認』
轟音とともに激突していたのは、赤熱した巨大な尾を剣のように研ぎ澄ます斬竜ディノバルドと、全身を鉄塊の如き爆鎚甲殻で固めたウラガンキンだった。
縄張りを巡る激しい衝突の最中、私たちの気配を察知した二頭の猛獣は、突如として動きを止めた。そして、ギラリと血走った双眸をこちら――ジェノザウラーへと向けた。
『分析:対象二頭の敵対行動を検知。「縄張りを荒らす異物」としての一時的な利害一致を確認』
「おいおい、嘘だろ……? あのディノバルドとウラガンキンが、こっちを睨んでやがる!」
コクピットの中から、新人が冷や汗を流しながら叫ぶ。
言葉の通り、本来なら激しく争っているはずの二頭が、暗黙の了解のもとで獲物を私に定めた。
ディノバルドが巨大な赤熱の尾を地面に叩きつけて凄まじい熱風を巻き起こし、同時にウラガンキンが巨体を車輪の如く丸めて、弾丸のような転がり突進を仕掛けてきた。
二対一の挟撃
「くそっ、挟み撃ちだ……! 相棒、左を避けて!」
新人の叫びと同時に、私は逆関節の脚部で跳躍し、ウラガンキンの突進を紙一重でかわした。
――ドゴォォンッ!!
ウラガンキンが激突した岩肌が砕け散り、周囲に高温の可燃性ガスと爆破石がばら撒かれる。
だが、隙をつく間もなく、頭上からディノバルドの必殺の居合斬りが襲いかかった。
「ガキィィンッ!!」
超高熱を帯びた尾の一撃が私のチタン装甲を激しく打ち据え、強烈な摩擦熱と衝撃波が機体を揺るがす。
ディノバルドの圧倒的な斬撃と、ウラガンキンの重装甲による質量攻撃。野生の本能が導き出した「2対1のコンビネーション」は、いかに強靭なジェノザウラーといえども無視できない致命的な脅威となっていた。
『警告:右側頭部および背部フレームに過負荷。さらに、足場の崩落を検知』
ウラガンキンの尾から発せられた爆破石が私の足元で次々と起爆し、ただでさえ高温で脆くなっていた溶岩の縁の足場が、耐えきれずにメキメキと崩れ落ちた。
「わっ……足場が崩れる……! おい、踏ん張れ、相棒……っ!!」
私の巨体は支えを失い、ぐらりとバランスを崩した。
そして――。
ディノバルドの渾身の薙ぎ払いが決定打となり、私たちは文字通り、足元の煮えたぎるマグマの海へと真っ逆さまに叩き落とされたのだった。
ゴボボボ……ッ!
周囲のすべてを融解させる超高温のマグマが、私の機体を完全に飲み込んだ。
『警報:機体温度、限界値を超過。メインシステム、熱暴走の危険性』
『――だが』
その瞬間、私の内部プロセスの奥底で、かつて火山地帯で予期した「進化の可能性」のデータが鮮烈な閃光を放った。
この世界の火山が持つ、惑星Ziのマグマをも凌駕する濃厚な地熱エネルギー、そして鉱物プラズマの粒子。それらが私の自給自足のエネルギーコアへと一気に逆流し、機体全体の構造再構築(メタモルフォーゼ)を強制起動させた。
「ぐっ……あ……! なんだこれ、機体が……熱い……! いや、力がみなぎってくるぞ……!!」
コクピットの中で、新人ハンターが激しい光の奔流に包まれながら叫ぶ。
私の全身の装甲が熱を帯びて赤く変色し、より攻撃的で洗練されたシルエットへと再設計されていく。
背部に備わっていたロングレンジ・パルスレーザーライフルは、より巨大かつ凶悪なエネルギー収束兵装へと拡張され、機体全体の出力は、かつての限界値を遥かに超越した領域へと到達した。
『進化プロセス完了』
『機体名称、再定義――「ジェノブレイカー」起動』
圧倒的な返報
マグマの海が激しく波立ち、そこから深紅の装甲を纏った新しい巨体が、激しく飛び上がった。
溶岩の縁で待ち構えていたディノバルドとウラガンキンが、本能的な恐怖に気息を呑み、思わず後じさる。
そこにいたのは、先ほどまで叩き落としたはずの「獲物」ではない。火山そのものの怒りをその身に宿した、完全なる破壊の神だった。
『演算完了。排除する』
私の背部に備わった進化したエネルギー翼と重武装が、深紅に、そして禍々しい紅の光を放つ。
反撃の時は満ちた。私たちは、その圧倒的な進化の力をもって、二頭の猛獣を地の底へと沈めるべく牙を剥いたのだった。