「くっ……風圧だけで、まともに立っていられない……!」
吹き荒れる暴風の中、新人は大剣を地面に突き立て、身体を低くして耐え忍んでいた。
空を覆う黒雲の中心で、鋼の古龍・クシャルダオラが翼を広げ、静かに私たちを見下ろしている。
その周囲は凄まじい竜巻の壁に守られ、近づくことすら許されない。
『警告:超高圧の風圧障壁により、物理接近および遠距離レーザーの弾道偏位を確認』
私はジェノブレイカーの機体出力を最大まで引き上げ、重い両脚でで大地をしっかりと掴んだ。
ウェポンバインダーの兵装が禍々しい紅の光を放ち、クシャルダオラの放つ暴風の壁を切り裂くべく、照準をピタリと合わせる。
「相棒、撃て……! あの野郎に、俺たちの力を思い知らせてやるんだ!」
新人の叫びと同時に、私は高出力のエネルギーパルスを解き放った。
シュウッ! と空間を引き裂く閃光が、嵐の壁を無理やりこじ開け、クシャルダオラの眼前へと肉薄する。
だが――。
ガィィンッ!!
クシャルダオラは微動だにせず、その気高い首をわずかに傾げただけだった。
纏った暴風のバリアが攻撃の軌道を綺麗に逸らし、私の圧倒的な一撃をいとも簡単に無効化してみせたのだ。流石は生態系の頂点に君臨する古龍。これまでのどのモンスターをも凌駕する、絶対的な「理(ことわり)」の壁。
見定める者
「なっ……今の攻撃を弾いたのか……!?」
新人が息を呑む。
クシャルダオラは、冷徹な黄金色の双眸で、私たち――正確には、深紅の装甲を纏ったジェノブレイカーの姿をじっと見据えていた。
その視線に敵意や怒りは感じられない。まるで、新しくこの世界の生態系に現れた「異物」の性能を、ただ冷静に値踏みしているかのような、底知れぬ知性を宿した眼差しだった。
『分析:対象の戦闘継続意志――低下。交戦によるリスクとリターンを計算し、撤退プロセスへ移行の兆候』
私たちが放った一撃が、ただの「外敵」ではなく、十分に脅威となり得る存在であることを証明したからだろうか。
クシャルダオラはそれ以上追撃を仕掛けてこなかった。代わりに、翼を大きく一振りする。
ゴオォォォン……ッ!
周囲の嵐がさらに激しく渦巻いたかと思うと、鋼の龍はその巨体を風に乗せ、音もなく上空の雲の切れ目へとすーっと溶けるように姿を消してい去了。
数秒後、渓流を覆っていた重い黒雲も嘘のように晴れわたり、再び穏やかな陽光が水面に降り注いだ。
去りゆく嵐の後に
「……行ったのか……?」
嵐が去った静寂の中で、新人は深呼吸をしながら大剣を肩に担ぎ、汗を拭った。
緊張の糸が切れたように地面に腰を下ろし、ふうっと大きく息を吐き出す。
「すげえプレッシャーだったな……。あれが、古龍……。今までの奴らとは、次元が違いすぎるぜ」
私は頭部センサーを静かに下げ、クシャルダオラが消え去った空の向こうをデータに記録した。
襲いかかってきたわけではない。あれは、いわば「挨拶」であり、あるいは「警告」だったのかもしれない。
人間と機械の共生によって生まれた私たちの進化は、ついにこの世界の真の頂点――古龍たちの認知領域へと確実に踏み込んでいた。
「ま、今回は向こうが引いてくれて助かったけどよ……。いつかあいつとも、本気でやり合う日が来るのかもな」
新人は立ち上がり、私の冷たい装甲をポンと叩いてニカッと笑った。
穏やかな渓流のせせらぎを聞きながら、私たちは採集の続きを再開する。
だが、その胸の奥には、いつか訪れるであろう「真の古龍との決戦」に向けた、静かで確かな熱が灯っていたのだった。