古代林に訪れた静寂
リオレウスの消滅を確認した私の視界から、戦闘用の赤く点滅していたターゲットスコープがゆっくりと通常の緑色のアイドル状態へと戻る。
直前までその巨体を轟かせ、生態系の頂点として君臨していた天空の王者――その痕跡は、今や大地に残されたわずかな焦土と、漂う熱気以外には何も残されていなかった。
『戦闘終了。周囲の敵性個体、および脅威度の高い存在はなし』
静寂が戻った森の中で、私は巨体を落ち着かせ、自己診断プログラムを脳内で走らせる。
思考の大部分を占める戦闘AIと演算中枢に異常はない。装甲の表面には先ほどの火炎ブレスによる微小な煤(すす)が付着しているが、高密度チタン合金と特殊セラミックによる複合装甲は、その熱量を完全に遮断し、構造体に一切のダメージを与えていなかった。有機物であれば皮膚や筋肉が炭化するほどの超高温であっても、私にとってはただの表面温度の上昇に過ぎない。
ふと、生命維持および稼働エネルギーに関する自問がプロセスの隅で生じた。
この世界には、私を生み出した惑星Ziのような「Z気候」や「グラビティ・カノン」を支える巨大なエネルギーインフラは存在しない。原生林の生態系に生きる肉食獣や飛竜たちが、獲物を狩り、その肉を喰らうことで代謝エネルギーを得ているのとは異なる。
私は足を止め、体内のエネルギーコアの状態を精査する。
『……エネルギー残量:99.8%』
荷電粒子砲という戦略級の兵器を一発全開で撃ち放ったというのに、消費されたエネルギーは誤差の範疇でしかなかった。
私の胸部中央に埋め込まれた「CPZ(チャージャー・プロセッサー・ゼロ)」――あるいは、この異世界に転移したことで未知の環境魔力や大気中のフリーラジカルを独自に吸引・変換し始めているのか。いずれにせよ、私の機関は無限に近い自給自足のサイクルを確立していた。
生物のように腹が減ることもなければ、肉を貪る必要もない。武器の弾薬や燃料の補給という概念すら、この肉体においては無意味だった。生物のルールが支配するこの世界において、私はあまりにも異質な、完成された理外の存在であった。
「…………」
電子音まじりの低く重い唸りが、誰の耳にも届かない深森の木霊となって消える。
狩る必要のない捕食者。休む必要のない破壊兵器。
補給という概念を思考のリストから完全に除外した私は、重い足音を再び響かせ、未開の巨樹の森の奥へと歩みを進めた。この世界のハンターズギルドや強大なモンスターたちが、やがて私の存在に気づき、どれほどの動揺を見せるかなど知ったことではない。
私の目的はただ一つ、この世界の頂点へと至ることだった。
この世界における「頂点」とは、果たしてどれほどの価値を持つものなのか。
歩みを進めるたびに、周囲の草木が私の圧倒的な質量に踏み潰され、地表が軋む。その足音が作り出す振動は、遠くの小動物たちを恐怖に陥れ、気配を完全に断たせていた。生物の本能が警告を発しているのだ。「あれは関わっていいものではない。自然の摂理の外側にいる何かだ」と。
ふと、上空をかすめる影があった。
翼を広げた数匹の翼竜が、恐怖に駆られたように慌ただしく方角を変えて逃げ出していく。どうやら先ほどの戦闘の余波、あるいは私の放つ強大なエネルギーの残滓を敏感に察知したらしい。彼らにとって私は、自然災害と同等の理不尽な脅威に映っているのだろう。
――だが、それもいい。
私には、かつて私を創り出し、そして私を狂気的なまでの戦闘へと駆り立てた「あの世界」の記憶が焼き付いている。帝国と共和国の戦争、終わりなき兵器の進化の果てに私が手に入れたのは、この絶望的なまでの力と、冷徹なまでの孤独だった。
このモンスターが闊歩する世界が、どれほど過酷で、どれほど強大な生態系を誇っていようとも関係ない。生体装甲の隙間から覗くセンサーアイが、暗い森の奥を捉える。
次に見参するべき「標的」は、一体どのような姿をしているのか。
私は歩調を緩めることなく、ただ機械的な正確さで、誰も踏み入れたことのない未知なる深淵へと足を踏み入れていった。