古代林のうねるような獣道を歩いていた私のセンサーが、わずかな熱源と、耳障りな甲高い叫び声を捉えた。
『前方、約三百メートル。戦闘行為を検知』
木々の隙間を抜けて視界が開けた場所――そこでは、鮮やかなピンク色の奇妙な鳥竜種が、小さな人間を執拗に追い回していた。
モンスターハンターの世界における初心者ハンターの登竜門
『怪鳥』イヤンクックである。
「うわあああ! くそっ、なんだよこの火の玉連発は!」
その人間は、ボロボロのレザー装備に身を包んだ青臭い若造だった。手にはお世辞にも強そうとは言えない鉄の大剣が握られているが、恐怖で足がもつれ、転げ回るのが精一杯のようだ。
イヤンクックは大きな耳をパタパタと広げ、怒りで頭のフリルを真っ赤に怒張させながら、口元に炎を溜め込んでいた。いかにも、これから初心者ハンターを盛大に焼き払おうという瞬間だった。
私のプロセッサは、その光景を冷徹に分析する。
『対象A:人類(個体名・新人ハンター)。戦闘能力:極めて低。生存確率:5%未満』
『対象B:中型鳥竜種(イヤンクック)。戦闘能力:低。脅威度:無』
助ける義理などない。この世界の生態系において、弱肉強食は自然の摂理だ。
私はただ、無視して通り過ぎようと巨足を一歩踏み出した――その瞬間、私の巨体が発する重低音のギシギシという金属音が、静寂の森に響いた。
怪鳥のフリーズ
「……?」
人間を焼き払おうとしていたイヤンクックの動きが、ぴたりと止まった。
火の玉を飲み込み、パタパタと動かしていた耳をピンと立て、ゆっくりと首をこちらに向ける。
そこにいたのは、緑豊かな森には決して存在してはならない「おぞましい鉄の塊」。
漆黒の装甲は周囲の光を嫌らしく吸収し、背負った二門の砲身は冷たく不気味な光を湛えている。そして何より、顔面中央にぽつりと灯る、感情の一切感じられない赤いセンサーの光。
人間の生態系における「モンスター」とは次元の違う、完全な「兵器」としての威圧感が、周囲の空気を凍りつかせた。
イヤンクックの脳裏に刻まれた野生の直感が、こう叫んだはずだ。
――『狩る側』ではない。目の前にいるのは、自分を塵一つ残さず消し炭に変える、絶対的な『死』そのものだと。
『ギ……ギギャ……!?』
イヤンクックの喉から、先ほどまでの威勢が嘘のような裏返った悲鳴が漏れた。
フリルをパッと閉じ、羽をバタつかせて後ずさる鳥竜種。人間を食べるどころではない。命の危機を本能で察知した怪鳥は、大慌てで方向転換すると、自分の巣の方向とは全く違う真っ直ぐな道へ、ものすごい勢いでダッシュして逃げ出していった。ドスドスと地面を揺らしながら、一目散に森の奥へ消えていく。
呆然とする新人
静まり返ったその場には、尻もちをついたままの新人ハンターと、静かに佇む私だけが残された。
「……え……? い、いまの……イヤンクックが、逃げた……?」
ハンターは冷や汗をだらだらと流し、ガタガタと震えながら私を見上げる。
その瞳に宿るのは、恐怖というよりも、現実を受け止めきれない者特有の混濁した感情だった。彼にとっての強敵だったイヤンクックを、私は文字通り「威圧しただけ」で追い払ってしまったのだから無理もない。
私は新人に一瞥もくれず、ただ冷徹な赤いセンサーを前方に向けたまま、その場を通り過ぎて歩き出す。
『排除すべき障害、なし。進行を継続する』
背後から、新人の情けないうめき声と、「なんだあいつは……ギルドの極秘兵器か……?」という震えた呟きが聞こえてきたが、振り返る必要すらなかった。
この世界の人間たちが私をどう認識しようと、私の行く手を阻むものは、ただの「障害物」でしかないのだから。