古代林のうねるような獣道をさらに奥へと進んでいた私のセンサーが、前方の樹上で異質な熱源と緊張感を捉えた。
『前方、約百メートル。高レベルの戦闘能力を持つ人間を確認』
木々の枝葉がガサリと音を立て、音もなく一人の影が舞い降りた。
纏っているのは、歴戦のモンスターの素材から丁寧に削り出された重厚な防具。手には、圧倒的な質量を誇る巨大な大剣が担がれている。先ほどの新人ハンターとは比較にならない、数々の死線をくぐり抜けてきた特有の「殺気」と「冷静さ」を纏ったベテランハンターだった。
ハンターは足を止め、十数メートル先にそびえ立つ私の巨体をじっと見据えた。
その瞳には、恐怖ではなく、未知の存在に対する強烈な警戒と、鋭い探究心が宿っている。
私は戦闘モードへの移行シグナルを脳内で走らせ、いつでも荷電粒子砲を展開できるようにシステムを待機させた。
『対象:人間(ベテラン)。戦闘力:中〜高。即座の排除は不要。相手の出方を観測』
静寂の対峙
森の風が木々を揺らし、葉擦れの音だけが響く。
お互いに数秒間、微動だにせず睨み合った。
ベテランハンターは慎重に一歩、足を踏み出した。彼の視線は、私の頭部中央で赤く妖しく光るセンサー、そして背中に背負った物々しい2門の砲身に釘付けになっていた。
(……なんだ、この圧倒的な気配は。獣竜種のそれとも違う。血の匂いもしない、血肉の温もりすら感じられない……まるで、鉄の塊そのものが意思を持っているだと?)
ハンターの脳裏で、ギルドから回覧されていた「未知の異形」に関する警告がフラッシュバックしていたのだろう。彼は冷や汗を一つ流しながらも、大剣の柄を握る手に力を込めた。
しかし、武器を抜くわけでも、威嚇の声をあげるわけでもない。彼は本能的に理解していた。ここで迂闊に手を出せば、自分の命がないということを。
私もまた、相手が明確な敵対行動――攻撃の予備動作や武器の抜刀など――を見せない限り、無駄なエネルギーや時間を消費する合理的な理由はないと判断していた。
『敵対意思、なしと判定。現状維持』
数秒の沈黙の後、ベテランハンターはゆっくりと後じさった。
そして、私から目を離さないまま、木々の陰へと静かに身を翻し、音もなくその場から姿を消していった。
喧嘩を売ることも、売られることもなく、ただすれ違っただけの邂逅。
私は低い電子音を鳴らしながら、再び巨体を動かし、未踏の領域へと歩みを進めるのだった。
やがて姿が見えなくなると緊張が溶け脱力するベテランハンター
「あれがギルドから報告されてた異形か……」
自分が勝てるビジョンが浮かばず、恐怖の息苦しさと共にギルドに帰還するのであった。