ハンターズギルド本部の作戦会議室。
重厚な木製の円卓の周りに、数名のギルドマスターと高位のハンターたちが集まっていた。室内の空気が鉛のように重いのは、先ほど報告を終えたあの「ベテランハンター」の証言のせいだった。
「――間違いない。あれは既存のいかなるモンスターとも一線を画する。血肉の匂いが一切せず、ただ冷徹な鉄と高圧のエネルギーだけで構成された『歩く災厄』だ」
ベテランハンターは腕を組み、冷や汗を拭いもせずにそう言い放った。
「俺が遭遇した時、あいつはこちらの戦闘意欲を測るように赤く光る目を向けたが……仕掛けてくる気配はなかった。だが、こちらが少しでも武器を抜いていれば、あの場で消し炭にされていたのは俺の方だっただろうな」
その言葉に、会議室の空気がさらにピリついた。
数々のモンスターを狩猟してきた熟練の猛者たちが、一様に顔色を曇らせている。リオレウスを光線の一撃で消滅させたという観測気球の記録と合わせれば、その危険性はテオ・テスカトルやクシャルダオラといった古龍すら凌駕しかねない。
一人の古参ギルドマスターが、深くしわの刻まれた眉間を押さえながら口を開いた。
「……討伐隊を組織すべきか、それとも――」
その意見に対し、別の幹部が即座に首を横に振った。
「待て、無謀だ。リオレウスを一瞬で消し去り、古龍のような気配すら纏わない未知の存在を相手に、下手に手を出して全滅でもすれば、それこそ生態系のバランスどころかギルドの威信が崩壊する」
議論が紛糾する中、最後に決裁権を持つ総長が静かに手を挙げ、場を鎮めた。
下された決定
総長は目の前に置かれた報告書に目を落とし、重々しい口調で告げた。
「ギルドの総意として、本件に対する方針を決定する」
会議室の全員が、総長の口元に注目した。
「――当該個体『魔装竜』に対し、当面のあいだ討伐および攻撃を一切禁止する。全ハンターは、発見次第これを刺激せず、速やかに退避せよ」
「なっ……総長、しかし放置すれば危険では――」
反論しようとした若いハンターを、総長は鋭い視線で制した。
「危険だからこそ、だ。あいつは自ら人間を襲うわけでもなく、ただ森の奥へ向かって歩みを進めている。今のところ、我々に対して敵意を見せていない。下手に刺激して怒りを買い、古代林や周辺の街を消し炭にされるリスクを冒すわけにはいかんのよ」
総長はパイプの煙を燻らせ、窓の外に広がる空を遠く見つめた。
「自然の猛威――台風や地殻変動と同じだ。牙を剥かないうちは、ただやり過ごすのが最善の防衛策よ。観測を続けつつ、あれがどこに向かうのか、静観する」
こうして、ハンターズギルドの最高決定により、人類は最強の異世界からの侵略者に対して「不可侵」のスタンスを取らざるを得なくなったのだった。