ロングレンジ・パルスレーザーライフルの調整を終え古代林の岩礁地帯を抜けていると、突如として大気が震えた。
『前方、約八十メートル。極めて高い熱源と、激しい疾走音を検知』
岩陰から飛び出してきたのは、黄色と黒の鮮やかな縞模様、そして発達した前脚と鋭い牙を持つ圧倒的な――轟竜ティガレックスだった。
縄張りを荒らされた怒りか、あるいは本能的な闘争心か。ティガレックスは赤い目をギラギラと輝かせ、狂ったように吠え猛りながら、地すべりを起こす勢いでこちらへ突進してきた。
「グルァァァァッ!!」
時速数百キロに達する突進が、巨岩を粉々に砕きながら迫る。
私は背部のパルスレーザーライフルを向けることなく、あえてそれをロックしたまま、前傾姿勢をとった。
『性能テスト:近接格闘能力の検証。遠隔兵装の使用を一時制限』
鉄の爪と、血肉の牙
ティガレックスの代名詞である凄まじい突進が、私の正面へと直撃する。
――ドゴォッ!
大地が揺れ、衝撃波が周囲の小石を弾き飛ばした。
だが、高密度チタン合金と逆関節の強靭なフレームで構成されたジェノザウラーの巨体は、一歩も引かなかった。ティガレックスの鋼鉄の如き前脚が私の装甲を激しく打ち据えたが、装甲表面にかすかな摩擦熱と火花が散るだけで、構造体は微動だにしない。
「キシャァァッ!?」
ティガレックスは、自分の突進が文字通り「鉄壁」に阻まれたことに困惑したかのように、鋭い牙で私の側面に噛みつこうと首を振った。
しかし、こちらも負けてはいない。私は生体コンピュータの演算能力をフル回転させ、その巨体をしなやかに躍らせた。
しゅるり、と唸りを上げてしなる漆黒の尾。
「ガインッ!!」
金属の質量を乗せた強烈なテール・スワイプが、ティガレックスの側面に完璧に叩き込まれた。
「ガウッ……!?」
巨体の轟竜がたまらずバランスを崩し、ゴロゴロと地面を転がって数メートル先まで吹き飛ぶ。
近接戦の果て
ティガレックスはすぐに起き上がり、怒り狂って強烈な咆哮(大咆哮)を放った。周囲の空気が音の波によって目に見えて歪み、凄まじい衝撃波が私のセンサーを直撃する。
『警報:音響衝撃波を検知。センサー保護シャッターを一時閉鎖』
だが、それだけだ。生物の耳や鼓膜を破壊するほどの轟音も、機械仕掛けの破壊兵器である私にとっては、ただの「風圧」と大差ない。
私はシャッターを開き、低く重い電子音を唸らせながら、ティガレックスへと一歩踏み出した。
恐怖という感情を持たない鉄の怪物が、圧倒的な質量と格闘のプログラムを以て迫る。
ティガレックスの背筋に、数多のモンスターを屠ってきた歴戦の猛者すら味わったことのない、絶対的な「絶望」の冷気が走った。
「グルル……ッ……!」
これ以上挑み続ければ死ぬ。本能の限界まで危険信号を点滅させた轟竜は、プライドを捨てて大きく後退すると、キャンキャンと情けない唸り声を漏らしながら、岩陰の向こうへと一目散に逃げ出していった。
私は逃げる獲物を追いかけることなく、その場で静かに立ち止まる。
背部のパルスレーザーライフルを使うまでもない。近接格闘だけでも、この世界の頂点に君臨する強者どもを完全に圧倒できる。
『近接戦闘試験:完了。機体バランス、および装甲耐久度に異常なし』
私は再び静かな歩調に戻り、未開の世界の奥底へと、その足を進めていくのだった。