新世界生物(?)ゴア・マガラ 作:ゴマちゃん
──喰らっても喰らっても、まるで満たされることはなかった。
どす黒く、それでいて崇高である
だから、わたしは。それを喰らって、また喰らって、喰らい尽くして──そんなことを繰り返しているうちに、また、お腹が空いてくる。
だから、黒いもやを喰らう。
だから、黒い血肉を喰らう。
だから、黒い意志を喰らう。
でも。それでも、
どれだけ狩っても足りない。どれだけ喰らっても足りない。足りない、足りない、まだ足りない。
食料にはこと欠かない。この脚と羽があれば、美味しそうな匂いに辿り着くことは苦じゃなかった。だから追いかけて、狩って、喰らって──でも。ああ、
そんなことを繰り返して、途方もない時間を浪費した。わたしの飢えは留まるところを知らず、むしろ悪化する一方だった。
足りない。全然足りない。だから補わなければ、喰らわなければ、
わたしは、出逢ったのだ。
未だかつてない、
喰いたい。
喰わなきゃ!
わたしは生まれて初めて、
そんな思いに
鱗粉を撒き散らしながら、空へと飛び立ち。
両爪と両翼を思い切り広げ、大口を開けて。
この幸運に感謝しながら、全力で襲いかかって──。
⬛︎ ⬛︎
「いただきま──……? あれ?」
「お。目が覚めたみたいだ、よかったよかった!」
「あれ、あれ……? わた、わたしの
──気付くとわたしは、何やらゴツい大男におぶられて、夜もふけた荒野の道を進んでいた。ど、どういう状況だ。まるでなにも分からないぞ。
周囲を見渡すと、なんだかすばしっこそうな男もいる。どうやらわたしは、倒れていた所をこの男たちに拾われたらしい。
……というか。そもそもわたしは
視線を下の方に落としてみると、どうやらわたしは黒と紫のひらひら〜っとした衣服を身にまとっているらしいことが分かった。んー、こんな服着てたっけ……?
羽と尻尾は未だ健在。よかったよかった、これなら空を飛ぶことも可能だから。いやしかし、前に比べて小さくなってるけど、いけるかなぁ?
まあ、何でもいいや。
それよりも今は、折角の
「っう、うぅ……。ちくしょお、ちくしょおぉ……。あんな、あんな美味しそうな
「ははは、
「あったりめぇよ! そもそもこの神速のケンロス、足の速さは
「あのなぁ! おまえらには分かんないかもしれないけど、わたしはずっとああいう
……
うぅむ、まったく思い出せない。やたらおでこがヒリヒリするけど、もしかして頭でも打ったのかな……。
なにか、大切なことを忘れている気がする。ちくしょう、
そんな風に悲観的なことを考えてたら、涙がこぼれてきてしまった。情けない、頭痛い、おなかすいた……。
「うぅっ……、どうしてこんな目に……」
「あーあ、ケンロスが女の子を泣かせたぁ」
「えっ、これ俺のせい!? いやマジか、すまん!」
「ちがう……」
「なーんだ、違うってよ!」
「泣いてない……、おなかすいて、目からよだれが出てるだけ……」
「あ、違うってそっち?」
「うーん。そういうことなら、この辺りは大地の毒も薄いみたいだし、そろそろキャンプにしよう。俺もお腹が空いてきてしまった!」
筋骨隆々のムキムキマンはそう言うと、顔面がぐずぐずになっているわたしを地面に優しく降ろしてから、顔をぼろ布で
……なんで優しい匂いがするんだ、このぼろ布。
「俺とケンロスはキャンプの準備をするから……、キミは少しの間、ここで待っていてくれ」
「……ん」
「よし、いい子だ」
いい笑顔を浮かべながら頭を撫でくりまわしてくるムキムキマン。ちくしょう、子ども扱いしやがって。わたしはこれでも結構長生き……、だった気がしてるんだぞ、これでも!
……とはいえ、情けない姿を見せているのもまた事実。素直に頷いてしまったわたしにも否はあるし、この程度の扱いは甘んじて受け入れるしかないか。
わたしはムキムキマンから受け取ったぼろ布で、顔をもう一度ごしごしと拭い、涙の跡が残っていないことを十分に確認してから目を開けた。
「おし、こんなもんだろ」
「うん、設営完了だ」
「はっやぁ!?」
「メシの準備もこんなもんでいいか!」
「うん、準備完了だ」
「はっやぁ!!」
⬛︎ ⬛︎
わたしの眼前には立派な料理が並べられていた。なんかふわふわのパン、つやっつやのサラダ、そしてジューシー極まりないお肉。飲み物は……、野菜ジュースか? とにかく見た目もいいし健康にも良さそうだった。
ぱちぱちと音を立てて燃え盛る焚き火もひと役買っている。初めて知ったことだけど、雰囲気がいいと食べ物も美味しそうに見えるみたい。
というか、手際が良すぎるだろう。わたしが顔を拭いてる間にどうしてこんなものが出来るんだ。……っと、いけないいけない。今度こそ本当によだれが垂れてしまった。
……でもこれ、結構奮発してくれている気がする。ちらっと荷物を覗いてみたけど、そこまで食料に余裕があるようには見えなかったから。
うーん。
わたしのため、だよなぁ……。
「……いいの?」
「ん? ああ、召し上がれ。俺たちのぶんもちゃんとあるから、気にしないでいいよ」
「いや、そうじゃなくて……」
「かーっ! 子供がそんなこと気にすんなって! とりあえず食いな、な!」
「……ねえ、ムキムキマン。ケンロス、お酒飲んでる?」
「麦茶なはずなんだけどなぁ」
「えぇ……?」
雰囲気か。雰囲気で酔うタイプなのか、ケンロス。いや、それともわたしに気を遣わせないために、あえてそんな感じを装っているのか?
そう思ってしばらく観察していたけど、ケンロスは終始アホっぽい雰囲気を醸し出していた。これ多分、アホっぽいんじゃなくてアホなんだ。よかった騙されなくて。
さて。空腹が限界でおなかが竜の咆哮みたいな音を出し始めてしまったし……、わたしも大人しくごはんをいただくことにしよう。
「……いただきます」
ムキムキマンのやけに優しい笑顔に見守られながら、わたしはおっかなびっくりアツアツのお肉をフォークで口に運んだ。
……ほほう、そんないいお肉でもないだろうに、甘噛みしただけでもじゅわぁっと香ばしい肉汁が広がるとは。獣臭さみたいなのもすっかり消え去っていて、予想していたような不快感はない。下処理とか焼き方がいいのかも。
味付けも見事なもので、スパイスがお肉本来の甘味と旨味をしっかり引き立てている。後味もくどくない上に
ふと思い立って、サラダも一緒に頬張ってみた。……予想通り、脂の甘味がみずみずしい野菜と程よく中和されて、しゃきしゃきした食感とともに重厚な──それでいて繊細な調和を醸し出してみせた。飲み込む瞬間まで、まったく飽きない味だ。
創意工夫が留まるところを知らないわたしは、すぐさまパンを片手で引っ掴んで。
即席のサンドイッチだが、果たしてそのお味は──完璧だ、文句のつけどころがない。あくまでもプレーンな味であるパンだが、お肉と野菜を挟んだことによって新たな顔をのぞかせている。
かぶり付くと溢れ出す肉汁がパンの生地に染み込んで、芳醇な小麦の香りと香ばしいお肉の味が混ぜ合わさり、わたしの食欲は増す一方だった。咀嚼を進めれば、これまた挟んだ野菜が食感を変え、何度噛んでも飽きがこない。
たまらずかぶり付き続けるわたし。噛めば噛むほどわたしの心が満たされていく。これは、まずい。こんな美味しいもの、もたもたしていたら誰かに盗られてしまうかもしれない。ダメだぞ、ムキムキマンの料理はわたしだけのものだ。
そうしてわたしは、食欲のままにほとんど一瞬でそれらを食べ切ってしまった。勢いそのままに野菜ジュースへと手を伸ばし、口に含むと──口の中に残っていた“こってり”が、一瞬にして“さっぱり”へと様変わりしてしまった。これならまだ、もっともっと食べられてしまう。
ここまで考えていたのか、ムキムキマン。わたしの胃袋をどうするつもりなんだ。こんなに美味しいものを食べさせられたら、その辺のごはんでは我慢できなくなってしまうだろが。
ふと顔を上げると、そこにはムキムキマンのにこやかな表情。……うぅ、なんだよ。なにが言いたい。
「どうかな?」
「……んまい」
「よかった!」
くそっ……、美味しいものに嘘はつけない。屈辱のあまりにわたしの顔は間違いなく紅潮していただろうけど、焚き火の明るさで誤魔化されているはずだから、バレてないはず。きっと、多分。
それから野菜ジュースをちびちびと飲みつつ、油断すれば上がってしまいそうな口角をもにょもにょと誤魔化していると。またしても眼前のムキムキマンが何か言いたそうな雰囲気を醸し出していた。
……なんだ、その顔は。どうしてそんな困ったような顔をするんだ、ムキムキマン。
「ところで……、キミが言うムキムキマンというのは俺のことかな?」
「ん? うん。ケンロスの名前は成り行きで判明したけど、おまえは分からなかったからな。それで、ムキムキだからムキムキマンと呼ぶことにした」
「それなら俺、自己紹介してもいいかな……?」
「まあ、うん。ところでおまえ、どうしてそんなに小動物みたいな雰囲気出せるんだ? 別にいいけど……」
「そっか! それなら遠慮なく」
先ほどまでの小動物みたいな雰囲気を引っ込めた──いや、全然引っ込んでないなこれ。なんというかこう、周囲にふわふわしたのが浮いてるように見えるぞ。
……とにかく、ムキムキマンはゆる〜い感じを維持したまま。極めてスムーズに自己紹介へと入った。
「俺はヘルクという! 短い間かもしれないがよろしく……、えーっと、うーん……」
「…………」
ヘルク。
こいつ、ヘルクというのか。
……一つ言っていいか? こいつ勢いで話し始めたからわたしの名前分からなくて困ってるよな?
なんというかこう、締まらないやつだな、ヘルク。その図体は飾りなのか──いやでもこいつ、あんまし図体と得意分野被ってないかも。料理とかめちゃんこ美味しかったし。
はあ。しょうがない、美味しいごはんの恩も返さなければいけないだろうし、ちゃんと自己紹介してやるか。
「──ゴア・マガラ。わたしの名前はゴア・マガラだ……った、ような……? ぶっちゃけ色々忘れてるけど、流石に間違ってないはずだ」
「ゴア・マガラ……。うん、分かった。えっと、ちなみにあだ名とかで呼んでも平気なタイプ?」
「ああもうっ! なんでもいいから好きに呼べ、ヘルク! ああ……、あとケンロスもな!」
「ケンロスはもう食べ終わって寝てるみたいだ」
「はっやぁ!!」
なんなんだこいつ! 何もかもが早すぎるだろ、ていうか日常生活まで早い必要はあるのか!? ないだろ!
あぁもう、調子狂うなぁ……。おでこの痛みで色々忘れているけど、元々のわたしがこんなキャラじゃなかったことくらいは分かるぞ、流石に!
という風に、自身や周囲のあれこれにぷんすこと憤慨していたタイミングで──ヘルクが、すっとその右手を差し出してきた。
「それなら、俺はキミをアマラちゃんと呼ぼう!」
「なっ……、アマラちゃん? さっき言ってたあだ名ってそれか?」
「あれ、嫌だった?」
「……べつに。好きに呼べって言ったの、わたしだからな」
やはりここでも、ヘルクはにこにこ笑顔を浮かべていやがる。本当になんというか、毒気の抜かれるやつだな。
……手、差し出されているし。
わたしも応じるくらいはしてやるか。
「…………」
「よろしく、アマラちゃん!」
「なんでもいいけど、ちゃん付けはやめて。子どもっぽいから」
「分かった。よろしく、アマラ!」
「ん。……よろしく、ヘルク」
ヘルクとわたしは、そうして出逢った。
わたしが、生まれた意味を知る旅は。
こんなにありふれた始まり方だった。
「……ところで、ヘルク。ひとつ聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「何かな? 俺にできそうなことなら何でも!」
「その。お肉って、まだ余ってたりする……?」
「そう言うと思って、ちょうど今焼き上げたんだ」
「はっやぁ!!」
……今思えば、自分を知る旅の始まりにしては、ちょっと腑抜けすぎだったかも。
そんなこんなで、はじまりはじまり。
独自解釈・独自設定まみれになるかと思いますが、よろしくお願いします。
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