新世界生物(?)ゴア・マガラ 作:ゴマちゃん
新魔王決定戦の予選が終了し、本日はついに本戦の1回戦。観客たちのボルテージはいつにも増して高まっていて、もはやこれが決勝なんじゃないかって思ってしまう。
どうやら本戦は今までとは違って、腕っぷしだけじゃどうにもならないんだって。まあヘルクのことだし、何が来ようとうまいことやるんじゃないかな。
……だから問題なのは、ヘルクの方ではなくて。むしろわたしの
なんてことはない。
新魔王決定戦の会場は、大勢押しかける観客たちをしっかり収容するために、かなり大きい作りになっている。それこそ迷子にでもなりかねない広さなのだ。
そう。
何度でも言おう。
だから、わたしは悪くないぞ。
途中まではうまいこと行ってたはずなんだ。
入口とか出口とか、あとお店とかがたくさんあるのがいけないんだからな。
「──まよった……」
……どうやらわたし、しっかり迷子らしい。
右に行けばいいのか左に行けばいいのか全然わかんないし、そもそもどこから来たのかも覚えてない。
周りを見渡してみても、歩いてる奴は全然いない。というか一人もいない。ど、どうして誰もいないんだ。さっきまであんなにいっぱいいたじゃんか。
多分みんな試合を見るために座席に向かったんだろうけど、わたしにはどうやってそこまで行けばいいのかも分からない。昨日まではあんなにするすると入れたのに。
……多分だけど、どこからか流れてきたいい匂いにつられたのが良くなかったんだと思う。くそぅ、ソフトクリームとホットドッグは買えたんだから、そこで終わりにしておけばよかった。
「とりあえず、なんとかして戻らないと……」
こんなに人いないってなると、流石に色々と察するものがあるぞ。ここ多分入っちゃいけないところだろ! そういえばヘルクが言ってたな、関係者専用の場所があるって。
……どうしよう、怒られるかな。怒られるよなぁ……。全面的にわたしが悪いから、もし怒られたら素直に謝ろう。
そんなことを考えつつ、とぼとぼ歩いていたわたし。すると遠くの方から、さっきも嗅いだ
匂いの正体は、どうやら食べ物じゃなくて人だったみたいだ──いや、もしかしたらなにか食べ物を持ってる人っていう線もあるか? まあどっちでも同じことか。
なんにせよ、こんなところにずっといたらヘルクの試合を見逃してしまう。怒られるかもしれないけど、匂いの主に助けを求めよう。そう考えたわたしは、早歩きで廊下を進んでいった。
歩けば歩くほどいい匂いの人も近づいてくる。この匂いは……、
……そういえばだけど。
みかん、この前はじめて喰べたのに、なんだかあんまりそんな気がしなかったんだよなぁ。前にどこかで喰べたことあったっけ?
そんなことを考えながら廊下を進んでいると──ちょうど廊下の曲がり角で、みかんの匂いがする人とぶつかってしまった。
「ぬゎぷ」
「おっと……、む? なぜこんなところにヘルクの……。立てるか?」
「あっ、うん……」
みかんの匂いがする人は、炎みたいな色の髪をした美人さんだった。気の強そうな顔立ちをしているけど、でも根っこの部分には
その人はわたしが立ち上がるために、手を差し伸べてくれて。だからわたしは、その手を取って立ち上がってから、しっかりお礼を言うことにした。
敬語なんて使ったことないけど、街の人たちが使っているのは聞いたことがある。まあ、なんとかなるでしょ。
「あっ、ありがとう……、ござま──うん? ありがとございま、ありがとうござり……」
「無理に敬語を使う必要はない。私は子供相手にいちいち目くじらを立てるタイプじゃないからな」
「……それじゃあ、その。ありがとう」
全然ダメだった。口が裂けても「惜しかったね」とか言えない。もうまるでダメだった。わたしってこんなにダメダメだったっけ?
ヘルクは戦闘レベル:99らしいが、わたしはこれだと敬語レベル:2とかがいいとこだろう。ちくしょう、いつまでおんぶにだっこのつもりなんだ、わたし。
そうして内心自分の不甲斐なさに落ち込んでいると、みかんの匂いがする人は、何やらわたしの顔を見て考え込んでいるみたいだった。どうしたんだろう?
「……どうかしたの? わたし、捕まる……?」
「いや、捕まりはしない。それに子供を捕まえるつもりもない。この後、しっかり観客席の前まで連れて行ってやろう。……ただ、そんなことより──」
「そんなことより?」
「うぅむ。気のせいかもしれないんだが……、お前、
みかんの匂いがする人は、突如としてそんなことを口走った。どこかで会ったこと……、会ったような気もするし、会ってないような気もするけど。
いや、しかしなぁ。こんなに覚えやすい人、会ったことあったら忘れないと思うんだよね。わたしは割と物覚えはいい方……、だと思うから。人見知りとかもしないし。
……というかこの人、
「うーん……、その黒と紫、絶対にどこかで──あっ、思い出したぞ。お前、ゴマちゃんじゃないか? 私が子供だった頃、よく一緒に遊んだろ」
「えっと、わたしの名前、アマラなんだけど……」
「ぬ……、そうか……」
ちょっと残念そうに肩を落とす、みかんの匂いがする人。少しだけこっちも申し訳ない気分になったけど、でも事実なんだからしょうがない。
……ずっと“みかんの匂いがする人”って呼び続けるの、疲れるな。ここで会ったが百年目──じゃなくて、袖すり合うも他生の縁。お姉さんの名前を聞いてみることにしよう。
「そういえば、みかんの匂いのお姉さん。お名前なんてーの?」
「……そんなにみかんの匂いさせてるのか? 私は」
「させてるさせてる。わたし、鼻がいいからそーゆーの分かるのさ」
「まあ実際、みかんは私の好物だしな──えーっと、名前だったな。私の名前はヴァミリオという」
その名を聞いた瞬間。
わたしはとあることを思い出した。
ヴァミリオ。その名はこの魔界──帝国の南を守護している、赤の四天王のことを指しているらしい。髪色は炎のよう、扱う魔法はもちろん火炎。大好物はみかんらしい。
間違いない。
目の前にいる人。
帝国で上から三番目に偉い人だ。
わたし、そんな人にぶつかった上、タメ口きいてるのか。うーん、これは燃やされても文句言えないかもしれない。わたしの身体はひとりでに震え始めた。
「ヴァッ、ヴァミ……、ヴァミ、リオ、様……? あのその、えっと、大変な失礼を──」
「子供がそう畏るな。言っておくがな、私は四天王いち懐が深いともっぱらの評判なんだぞ。だから気にするな、ゴマちゃ……、じゃなくてアマラ」
しゃがみ込んでわたしに目線を合わせながら、優しげにそう言ってくれた。どうしよう、ヴァミリオ様がいい人すぎる。帝国っていい人しかいないのか?
そんな風に人々の優しさへと思いを寄せていたところで、ヴァミリオ様はわたしの手を優しく握りながら立ち上がった。
「そろそろ第一試合が始まってしまう。お前は恐らくヘルクのことを応援しに来たんだろうし、特別に入口近くまで送ってやろう」
「ヴァミリオ様……、ありがとう!」
「なに、例には及ばない。それから、様も付けなくていい。お前にそう呼ばれるのは、なんかこう、なんとなく違うぞ」
「……じゃあ、ヴァミリオちゃん?」
「ちゃん付けはやめろちゃん付けは。普通にヴァミリオと呼べ。ああ、あとそうだ。ついでと言ってはなんだが──
「そんなこと? もちろん! わたしが荒野で行き倒れてたらしいんだけど、そこに通りかかったヘルクが──」
その後わたしは、これまでのヘルクの動向をヴァミリオに洗いざらい話した後。試合会場の入口近くに到着したので、彼女にお礼と別れを告げて、その場を後にした。
新魔王決定戦・第一試合。
試合内容はトランプタワー。
どうしてトランプタワーを作ることが勝敗につながるのかは分からなかったけど、でもなんかヘルクがものすごい速さで完成させてしまったことだけは、はっきりと分かった。二位はケンロスだった。
……あの二人。
あいもかわらず、はっやぁ。
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