新世界生物(?)ゴア・マガラ 作:ゴマちゃん
1回戦のトランプタワー対決を無事に突破してからも、ヘルクは順調に駒を進めた。時にはチェスで相手を圧倒し、時には彫刻で審査員を圧倒し、時には料理で審査員を圧倒し、そしてレースで相手を圧倒……。ほんとなんでもできるのな、あいつって。
あまりにもヘルクがバカスカ勝ちまくる快進撃を繰り広げたもんだから、そのせいで(おかげで?)わたしまで名物みたいになってしまった。観客がやたらとごはんとかおやつとかを持ってくる。んむ、くるしゅうない。
朝はヘルクが作ってくれた美味しいごはん、昼はお弁当とみんながくれる食べ物、夜はヘルクが作ってくれたとんでもなく美味しいごはんを食べる生活を、わたしはここ一週間ちょっと続けている。
「……太ってないよね?」
気になっておなかをさすってみたけど、わたしはどうやら太りにくい体質らしかった。よかった、これで安心して暴飲暴食できる。
そうして自由気ままな生活を送っていたところで──ついにヘルクが新魔王決定戦の決勝へと駒を進めることが決定した。分かっちゃいたけど、それでも嬉しいもんは嬉しいぞ。
対戦相手は三人。青色の肌しためちゃツヨお姉さん、不死身のヒュラ。なんとヘルクよりデカい! 耐久力はピカイチ、鉄壁のドルーシ。あとアホのケンロス。以上。
んで、試合の内容は魔王ウルム城の奪還なんだって。ちょっと前に翼生やした兵士? みたいなのにウルムって魔王の人がやられて、お城を奪われちゃったらしい。
そこに居座ってる翼の兵士たちを倒して、お城を取り返したやつの勝ちなんだと。なんかリーダー的な奴がいることも分かってるらしい。
翼の兵士の数も判明していて、その数じつに103人。帝国の諜報部隊、優秀すぎるぞ。その調子でわたしの正体とかも明かしてくれないかな。時間あったらお願いします。
……で。
わたしがなんでそんなこと知ってるかと言うと。
「──と言う
らしいよ。びっくりしたよね、流石にさ。
いいのか、着いてって。確かにわたしはこんな見てくれの割には結構戦えちゃったりするけど、そもそも新魔王決定戦にエントリーすらしてないのに。
横を見てみると、そこには決勝戦に出場する面々が勢揃いしていた。うわぉ、わたしだけ場違いすぎるぞ。
疑問は無限にある。どうしてこの実況兼運営のお姉さん──ロココというらしい──は、起きたばっかりのわたしにそんな衝撃的事実を明かしているのか、とか。
あとはまあ、なんで先に言ってくれなかったの、とか。それからそれから、わたしが敵のリーダー最初に倒しちゃったら、わたし新魔王になっちゃうんじゃないの、とか。
「……そのあたり、どうなってるのさ」
「うーん、実のところ私もよく分かっていなくて。ただ、アズドラ様から直々に仰せつかったことですから──」
──
その名前が出た瞬間、ヒュラがわたしのことをものすごい目付きで見てきたのがはっきりと感じられた。なになに、どうしてそんな目で見られるの。
雰囲気から察するに……、『信じられない』とか『なぜ?』とか、そんな感じの視線だった。わたしもおんなじ気持ちだよ。わたしは目が悪いので、そのへんは敏感なのだった。前とか全然見えないからね。
それにしても、アズドラかあ。
どっかで聞いたことある名前なんだよなぁ。
ヘルクがどこかで話してたんだっけ? いまいち覚えてないや。
「──あっ。それかもしかしたら、眼を前髪で隠している私が同行できない代わりに、同じく眼を隠しているアマラちゃんを同行させようとしてるのかも?」
「……? わたし、眼を隠してなんかないけど。まあ確かに、視力は低いけどさ」
「えっ? いやいや、結構しっかりめに隠してるじゃないですかー!」
「えっ……、なにさ。わたしはなにも隠してなんかないから。やめてよね」
困っちゃうな、もう。頬を膨らませざるを得ないぞ、まったくもう。ロココは明らかに困惑していたけど、困惑したいのはわたしの方なんだからな。
ともかく。そう言いつつ、わたしはなにも隠していないという証明のために、両手を目の前に動かして、そのまま上まで持っていき──突如眼前に広がった光のせいで大ダメージを喰らった。
「ウワーーッ!!??」
「なっ、えっ。えーっと、ヘルクさん? アマラちゃんは一体どうしちゃったんでしょうか?」
「多分だけど、今の今まで自分に前髪があることを知らなかったんじゃないかなぁ」
「そういやこの街来るまでもずーっと『わたしは目が悪いから』って言ってたよな〜」
「なるほど。まあアマラは見るからに子供ですから、そういったこともあるでしょうね」
「いや、ないでしょ普通。野郎どもが揃いも揃って適当こいてんじゃないわよ」
なんだこれ、なんだこれ!? これあれか、前髪ってやつか!?
目の痛みをこらえながら、わたしはなんとか立ち上がった。ち、ちくしょう、まだ目がひりひりするぞ。涙が出てきちゃいそうだ。
……じゃあつまり、あれか。
わたしは前髪の存在に今の今まで気づいていなかったから、自分の目が悪いんだと思い込んでたってわけか。ぬおぉ、アホすぎる。ケンロスのことなんか言えないぞ、今のわたし。
とりあえず、しばらくは今まで通りの髪型にしておこう。光が眩しすぎて、まったく眼を開くつもりになれないから。
「アマラ、落ち着いた?」
「うん。みんな、騒いでごめんなさい」
「ううん、気にしてないでーす!」
何はともあれ、まずは謝罪。幸いなことにみんな受け入れてくれた。他のみんなはともかくとして、ヒュラも即許してくれたのは意外だったかも。ありがとね。
……めちゃんこ話が脱線してしまった。主にわたしのせいで。このままだとわたしがまた醜態を晒しそうだから、さっさと本題に移ってもらおう。
「この少人数で奪還を? と思うかもしれませんが、しかしそこはご安心ください! とても頼もしい助っ人が同行することになっておりまーす」
「うおーい! それを先に言ってくれよ、安心したぜ!」
「同感ですねぇ。ウルム様の弔い合戦、万が一があってはいけませんから」
「万が一なんて起こしてるようじゃ、新魔王は務まらないでしょ。助っ人には申し訳ないけど、出番ないと思うわよ」
うぅむ。反応は三者三様だったけど、しかしわたしはヒュラの意見に同感かなぁ。こちらにはヘルクより足速いケンロス、ヘルクより身体デカいドルーシ、それからシンプルにめっちゃ強いヒュラがいるわけだし。
それに加えて、そもそもヘルクがいる。あとはまあ、一応わたしも。こんなメンツが揃ってれば、むしろ負ける方が難しいんじゃないかな。慢心とかじゃなくて、考え抜いた上でそう思う。
だから、まあ。わざわざ助っ人を寄越すってことは、
そんなわたしの疑問は、直後に呆気なく解決することとなる。それはなぜか? 理由は単純、
「それではご紹介しまーす! 今回同行するアンさんでーす!」
「……えっ」
「……運営のアンだ。よろしく頼む」
「…………」
「……敵は魔王ウルムを倒した程の強者。厳しい戦いになると思うが、皆の実力なら決して負けるような相手ではない。新魔王を目指し頑張ってほしい」
──アンという人は、
ていうか、どっからどう見たってヴァミリオだった。
この前会った時に比べて髪が短いから、多分切ったんだと思う。似合っててかわいい。いずれはわたしもああいう髪型にしてみたいな。今やったら目が潰れるから、しばらくは無理だけど。
……ヴァミリオがついてくるの、多分なんか事情があるんだろうな。そしてそれはおそらく、
とりあえず自己紹介も終わったみたいだし、拍手でもしておこうかな。ぱちぱちぱち。わたしに続いてみんなも拍手していた。わたしってば、盛り上げ上手かもしれない。
「……拍手ありがとう」
「へぇ〜、めっちゃ頼もしい助っ人……、見た目じゃわかんないもんだな。とりあえずよろしく、アンさん」
「あまり面と向かってそのようなことを言うものではありませんよ──私はドルーシです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。それから、私はその程度のことは気にしないから気楽に接してくれ。ただの運営のアンだからな、私は」
「この人、どこかで見たような……」
……と、まあ。言葉の上ではよどみない自己紹介だったわけだけど。でも、実際はこれに加えてヴァミリオはわたしに向けて複数回の目配せしてるってことを忘れちゃいけない。
ヴァミリオ、演技下手!!
多分わたしの方がよっぽど上手いよ、演技。
どうしたものか。どう反応すればいいのか──わたしはそうした疑問をなるべく表情に出さないよう努めていたわけだけど。
どうやらヴァミリオの方は、わたしが何か
しかしご安心を。わたしは恩には恩で報いるタイプだ。ヴァミリオにはこの前迷子になったとき助けてもらったから、その意は汲み取ってみせましょう。
とりあえず、怪しまれる前に先手打っとこっかな。
こういうのは自然にやるに限る。擬態は得意なのだ。
「……アン、この前はありがとね。アンのおかげで、ちゃんとあの後ヘルクの試合、見れたよ」
「あーっ、もしかしてキミ、アマラのことを助けてくれたって人かな? 料理対決の時は審査員をやっていたよね」
「ああ、そうだ。どちらも私で間違いない。……アマラ。ヘルクには私の名前、伝えていなかったのか?」
「うん。困るかと思って」
「そうか──少しだけ耳を貸してくれるか?」
ヴァミ……、じゃなくてアンがそう言ってきたので、わたしたちは少しだけみんなから離れた位置に移動してから、ひそひそと話し始めた。
内容は多分、
「……先程の会話で確信したが、こちらの目的については何となく分かっているんだろう?」
「うん。思いっきり偽名使ってたし、多分付き添いっていうよりかは監視なんだろうな〜って思って。ヘルク、人間なのに魔王なろうとしてるもんな」
「そうだ。これから向かうウルム城には人間の兵士がいるからな──
「だよねぇ。この前わたしとヘルクの関係について色々聞いてたし、そーなんじゃないかなーって思ってたんだよ」
「……気付いていた上で、それでも話したと?」
「ん。わたし、ヘルクのこと信じてるからなぁ。ヴァ……、アンたちにも信用してもらいたいと思って」
そこまで言うと、アンはちょっと苦いものを噛んだみたいな顔をしたあと、わたしの頭にぽんっと手を置いてから元の場所に戻った。……分かりやすく誤魔化されたぞ。ちくしょう。
ひとまず今わたしにできることはやった。アンの演技力は心配だったけど、まあ正体がバレる線もたった今潰した。んむ、完璧と言って差し支えないだろう。グッドジョブってやつである。
とか、そうして自画自賛に自画自賛を重ねまくっている間に。どうやらアンはヘルクと直接相対することに決めたみたいだった。
ていうかむしろ、ヘルクの方から話しかけに行ってた。
「この前はアマラを助けてくれたみたいでありがとう。俺はヘルク、よろしく」
「…………」
「俺はヘルク、よろしく!」
あわ、あわわわ。ヘルク、気づけヘルク。アン、とんでもなく嫌そうな顔してるぞ! めちゃんこ警戒されてるぞ!
……とか言って、今までのわたしなら慌てふためいていたところだが。しかし今のわたしはいろんな人と関わったことで、一皮剥けているのだ。この程度で慌てはしない。
ヴァミ……、アンはこういう時、なんだかんだで優しいやつだから。表面上は嫌そうにしつつも、結局最後には──。
「……よろしく頼む」
「うん、よろしく!」
──こうやって手を取るに決まってる。
アンは昔から、性根が優しい子なのだ。
……ごめん、昔からってのは多分間違いだ。わたしはアンの過去なんて知らないし。知ってたら忘れないと思う。
ともかく。
なにが言いたいかっていうと。
わたしの周りには、優しい人がとにかく多いってことだ。
ゴア・マガラ要素は戦闘が増えれば自ずと増えてくると思います。
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